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今から半年ほど前のことになるが、知り合いのカメラマンの方が 口にした印象深いセリフがある。 その日、僕たち二人は、いつもの街頭取材を終え、「おつかれさま」と 言いながら、お茶でも飲もうと街中を歩いていた。 すると、いまどきの美容室や、センスのいい服屋が建ち並ぶオシャレな通りに、 「カラオケ○○○」 と、白地に真っ赤なゴシック体(その上下には太い青ライン)で、 デカデカと綴られた店の看板が、僕らの目に飛び込んできた。 その派手やかな色使いとドデカい文字は、これでもかというくらいに目立ち、 街の新たな目印にもなりそうなインパクトがある。 僕はこの巨大看板の出現に、今度から待ち合わせに使えそうだな、と ひとり考えていると、隣にいたカメラマンが、 「おいおい、なんだよアレッ。 街の景色のことを、ぜんっぜん考えてないじゃん!」 と、めずらしく語気を荒げながらこう言った。そして、 「最近、多いんだよね、 “自分さえ目立てばいい”っていう考え方……」 と、今度はあきれたようにタメ息をついている。僕は、 「ええそうですよね、たしかに。なんか最近多いですよね」 と慌てて同調しながら、さすがはカメラマンらしい視点だなと思ったが、 僕自身は、これっぽっちもそんな考えに至らなかったので、しょせんは 自分も非難される側の人間なのだと、しばらく落ち込んでしまった。 そう言われてみれば、たしかに最近、「本」「マンガ」「ビデオ」 「靴」などなど、取り扱い品目をそのままデカデカと看板に 掲げている店舗の存在が目立つ。 消費者にとってのわかりやすさを第一とすれば、◎のデザインなのだが、 じゃあ街の景観はどうなるんだ? と言われたときに、たしかに返答に 困ってしまう部分がある。 そのカメラマンは、東京に住み始めてから20年以上にもなるため、 自分の好きな街が味気ないものへ変わってしまうことに、余計に 腹立たしさを感じたのかもしれない。 * * 街の景観、という点で考えてみたのだが、日本の商店街にはそれぞれ、 その通りにしかない特有の雰囲気やにおいといったものがある。 実際に中を歩いてみると、どこかに超人気店があるというわけではなく、 店構えや店員さんの雰囲気など、ある種の「統一感」のもと、それぞれの 持ち味を生かしながら、上手に商売を成り立たせている。 その様態は、お互いが自らの領分を越えてしまわぬよう、 無言のうちに配慮された、美しい調和のあり方のようだ。 昨今、都市部では、フードテーマパークやファッションモールなどの 複合施設が流行しているが、これが一時的なブームで終わらないための 秘訣は、そうした昔ながらの商店街に隠されているのではないだろうか。 ちなみに、京都にあるマクドナルドの何店舗かは、看板の色が 赤ではなく茶色だったり、そのサイズがとても小さかったりして、 古い町並みや情趣ある建物が多い景観を損なわぬよう、 こまかい配慮がなされている。 重要なのはつまり、デザインの形態よりも、そうした意識の持ちようなのだ。 (※京都府の景観条例によるものということです。 失礼いたしました) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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