堕落する高級ブランド by ダナ・トーマス
高級ブランドの変遷をファッションエディターである著者が鋭く考察した一冊。これまで高級ブランドはファッション誌、ビジネス経済誌などで様々な視点で取材分析されてきましたが、この著者は長期間にわたる取材活動を元にさらに深くブランドビジネスを表しています。戦前は200万人いたオートクチュールの顧客は現在は世界中で2千人。高級クチュールブランドは戦後中間大衆層にターゲットを変えて生き残りと拡大をしてきました。その主導的役割を担ってきたのは職人、デザイナー創業一族でなく、LVMH,PPRといった投資会社を経営するベルナールアルノーやフランソワピノーといった資本家たちです。彼らは創業一族を追い出し、デザイナーを、トムフォードにいわせると、設備機械か製品のように扱い、使えなくなるとどんどん切り捨てる、興味は直近の売上に貢献するデザインをつくれるかどうかだけ。。。高級ブランドは莫大な利益率をあげるおいしいビジネスだから、莫大な広告費をかけて、大衆を洗脳して大金を巻き上げることだけを目的として企業をコングロマリット化してきました。日本人はその主役的なターゲットで、上手い表現をしていたのですが、日本人は自分は中流階級と考え、他人と同じであることを重視する、だから、ブランド品を持つことは、社会経済用語でいう「アイデンティティの獲得」だけでなく、「社会集団の枠から外れていないことの証明」になるのだと。日本国内と海外あわせるとブランドものの50%は日本人が買っているから日本人の旅行先には大きな旗艦店舗をつくって、日本人好みの商品を並べて待ち受ける、世界中にそれをどんどんつくるから、ブランドは均質化しどこの街に行ってもおんなじかんじになる。世界のどこに行っても本店は別として、ブランドショップはみんな同じでおもしろくないと思っていたら、日本人のせいだったんか・・!それって、もう一般大衆のど真ん中ですね。オートクチュールのはじまりの貴族や大資産家階級とはまったく別次元。ブランド側はそれをわかって使い分けているんですね。アラブの王族やロシアや中国の振興成金はそんな買い物はしないそうです。専用ジェットで乗り付けて、他にはないドレスを10着とドレスにあった靴も10足フルオーダーしていく(1億円くらいかかるのかな?ドレスが1着1千万くらいだから)。。同じドレスをどこかの有名女優が着て授賞式やセレモニーに出ていたりしたらクレームで返品されるくらい、自分たちはまったく格が違うんだと思っている人たちです。ロゴがぺたぺた入ってるバッグなんて大衆が喜んで持つもので、私達はあんなものは絶対持たないわ、という人たち。そういう人たちは、高級ブランドはVIP専用の建物で家族のように迎えてくれて(実際スタッフも同じ上流階級で夜は一緒に社交場に出る友だちだったりする)自分のためだけに欲しいと思っているものを何でも揃えてくれるから絶対になくならないと思っている。一般大衆はこうもバカにされて搾取されているのかとちょっと悲しくなりますが、実際そのとおりです。強欲な資本家たちはコストダウンのため生産拠点をこっそり中国に移しほとんど中国でつくった後、仕上げをイタリアでつくって made in Italy とか書いて売ります。この事実はここ数年いろんな報道で暴露されていますよね。だから5千円でつくったバッグを5~6万円で売りつけられて、喜んで買っていくのを陰でバカにされたりするんですね。一生懸命働いてカップラーメン食べて貯めたお金でブランドバッグを買う、昔の農民がお米をせっせと作って自分たちは粟を食べてお米は年貢にとられてたのとまったく図式は同じです。違うのは夢を買っているから幸せになった気がすること。宝くじで9割巻き上げられるのと同じですね。悲しいことにバッグはその主役なんですよね。高級服なんて売れやしないから、香水とアクセサリーで釣ってバッグをどんどん買わせる戦略。アレキサンダーマックイーンやステラマッカートニーのような花形デザイナーたちも経営層から「すごく売れるバッグをつくれ」としつこくいわれていたそうです。ディオールのレディダイアナは王妃が持った瞬間からその年10万個売れたそうです、1個10万円として100億円。。。でも大衆向け高級品ビジネスはそれほど甘くない、アジアの通貨危機、911テロ、鳥インフルエンザ、今回のサブプライム大恐慌、そのたびに高級ブランドは大打撃を受け売り上げ激減、4、5年に1回は厳しい現実があるようです。安定したビジネスを確保するのは大変なんですね。プラダはもともと創業はブルジョワの一家だったのに、拡大で無駄遣いしすぎて2000億円くらい負債を抱えて、今は生計を立てるために納得できない仕事もやっているそうです。搾取した以上にハイリスク投資をしているのね。。それに、H&M、ZARA、TOPSHOP、ユニクロのようなファストファッションが一流デザイナーとのコラボイベントを毎年企画し大人気で、もう高級ブランドじゃなくても一流デザイナーの素敵なテイストが手にはいってしまう、これには高級ブランドもあせったようです。「高級」って一体なに?という問いかけがあちこちで出てきます。その答えの一つとして、高級ブランドビジネスの経営方法で著者も私も一番いい!と思ったのは、フランスの靴デザイナー、クリスチャン・ルブタンです。男性は知らないかもしれないけど、女性なら持ってなくても知ってはいる赤い靴底がなんともセクシーなトレードマークの高級靴のブランドです。ルブタンは人気ブランドなのに取材時点で創業15年で7店舗、スタッフ35名拡大志向はなし。年間販売数は10万足。ルブタンは高いですからね、1足小売りで7~12万として、卸値平均5万だとしても、売上50億円!?ルブタンの成功の秘訣は、工業製品と一点ものの絶妙なバランスにあると著者は見ています。独立最初の顧客はモナコ公妃だったとか。どうやったらモナコのお姫様が買いに来てくれるんだろうか。それが知りたいよね。全部は書ききれないけど、すごくおもしろいファッションビジネス本です☆