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イラクで人質となった、今井紀明さんが、外国人記者向けに行った記者会見のニュース映像を見る。こういう目にあっても、イラク人をうらんでいない。自分たちの置かれた悲惨な状況を世界的にアピールするために取った、荒っぽい手段だったと思うし、自分も相手の立場にいたのなら、同じことをしたかもしれない。そのようなことをコメントしていた。ああ、やはり、多くのひとは、彼のことを誤解していると思った。
自分が相手の立場を想像した上で、相手の行動や言動を判断する。これはかなり、高度なコミュニケーション能力だと思う。たかが、18歳の青年が、あんなに極限状況に置かれ、なおかつ、帰国してこんなにバッシングを受けてもなお、そう発言できたことに、頭が下がる思いだった。 わたしは、30歳直前になって漸く、この想像力を手に入れた。当時、児童虐待の事件が立て続けに起こって、加害者、被害者、医者、カウンセラーと多くのひとたちにインタビューした。時を同じくして、天童荒太の『永遠の仔』が出版されて、自分に自信が持てなくなり、1週間寝込んだ。 もし自分が、結婚して専業主婦になって、すぐに子どもが生まれたら。もし、夫の転勤で誰も友人のいない地方都市へ引っ越したら。もし、夫が残業続きで、ずっと、幼い子どもと狭いマンションに閉じ込められたら。もし、子どもが病気続きで満足に睡眠時間が取れなくなったら。そんな、加害者のひとたちと同じ環境に置かれた場合に、わたしは果たして、絶対に子どもを虐待しないとは言い切れるだろうか。この思いがわきあがったとき、背筋がぞっとした。同時に初めて、加害者のひとたちの苦しさを想像出来るようになった。 極限状態を経験したことのないひとはためらわずに、正論を主張できるし、相手を正面からずばずば批判できる。けれど、相手の心情を想像できるだけの心の幅を持った瞬間、それはひどく、難しくなる。人質となった方々が帰国して以来続く、日本の世論のバッシングを見ると、わたしたちはいつから、こんなに心の幅が狭くなってしまったのだろうとがっかりする。 そんな中で、弱冠18歳の青年が、この逆境の中でなお、イラク人の心情を思い遣る発言をした。そういう若者がこの日本にも存在するということは、わたしたち日本人が、世界に胸を張って良いことだと、強く思う。各国のマスコミの東京特派員の記者たちに直接、それが伝わる機会があって、本当に良かった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年05月01日 01時13分57秒
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