【屋久島2】虹の落ちる滝。
●【屋久島2】虹の落ちる滝。 ●【屋久島1続き】嵐の出立、屋久島上陸。~ツアラーがトラベラーになるとき~ ■中秋の名月は、あらし。飛行機に乗っていて、いつも好きだなあと思うのは、雲の上はいつも晴天で光にあふれ、澄み切った青い空が広がっていること。そして厚い大気層の向こうには、深い宇宙が広がっていることを実感できます。屋久島に到着した日は、ちょうど中秋の名月にあたる日。満月の光から浄化のチカラを受けようと、家から水晶を持参していましたが、折からの台風です。地上からは見えない満月を感じながらのお月見になりました。屋久島島内の道路はほとんど一本道です。旅行会社がキープしてくれた民宿は、道沿いに建っていたため、地図を見るまでもなく見つけることができました。これが広い食堂を擁する3階建ての建物で、民宿と呼ぶには申し訳ないくらい、立派な宿。それもそのはず。後からガイドブックで調べてみると、1泊2食付きで7000円が基本の宿だったのです。どうりで食事の島料理がおいしいわけです(笑)。屋久島には民宿がゴマンとあり、素泊まり2000円くらいで泊めてくれるところは無数にあります。自分たちでは予約しないであろう、グレードの高い民宿が選択されていました。私たちはふたりともほぼベジタリアンなので、旅の食事を宿で取ることはあまりありません。先日泊まった日光のペンションでは、アレルギー食対応と謳っていたので予約の際に申し出て、特別にメニューを配慮してもらいました。こうした心遣いはありがたいです。今回は、旅行会社通しだったこともあり、普通のお食事をいただくことになりました。この辺りは今後の要検討課題かな。せっかく用意していただいた食事を残すのは、やはり忍びないものですから。次に行くときは自炊という選択肢もアリですね。宿は、夜中じゅう出入り自由という、島らしい開放感がありました。私たちはひとまず8畳の部屋にチェックインし、夕食までの2時間ほどを宿の周辺を散策することにしました。空港から宿までは20分くらいのドライブでしたが、その間、すでに木々の力強さと海の美しさに圧倒されていました。「豊かだねえ」「美しいね…!」視界のどこを切り取っても絵になる。そんな豊かさが目の前にありました。島には、高い建物がほとんどありません。予想以上に、開発の手が入っていないという印象を受けました。わたしとホトケは、瀬戸内育ちです。夏は島に渡って泳ぐのが当たり前だった青春時代があり、島というものに慣れています。中途半端に人口の匂いが漂う、荒れた島にも(笑)。島に特別なノスタルジーがあるわけではありませんが、一見野放図に見える屋久島のいたるところに、人の手によって適度に整えられた美しさを感じました。それは、島ならではの美でした。宿の正面に、港に面した松林の公園があり、そこでひとしきり写真を撮り、おやつをつまみながら過ごしました。歩いていける距離に比較的大きなスーパーがあり、そこでお茶や夜食を買い込むことができます。とにかく、どこから見ても空が広いのです。海が、視界いっぱいに広がるのです。私たちははしゃいでいました。ころころと子犬のように笑っていました。ただうれしい、ただ楽しい。島に台風が近づいている証拠に、広い空にモクモクと巨大な暗雲が立ち込めてきても、私たちはいつまでもいつまでも港から海と空を眺めていました。●【屋久島2】虹の落ちる滝。■モノクロームの海島に着いて初めての朝を迎えました。いつのまにか深く寝入っていたようです。食事時間ぎりぎりになって食堂に着くと、ほとんどのお客さんが出発した後らしく、私たちの膳だけが残っていました。寝ている間に台風の最も激しい時間は去ってしまったのでしょう。木の葉を揺らす風とぱらつく雨も、昼頃には止むだろうとのこと。私たちは大急ぎで支度を済ませ、島内一周の旅に繰り出しました。借りたレンタカーは、低排出ガスの禁煙車両。アクセル全開でもなかなか坂道を登ってくれない、そんな非力さが屋久島にぴったりです。人も車もこんなに少ないのだもの。法定速度50kmのこの道で、スピードを出す必要なんてどこにある?そう思っていたら、後方からおじいちゃんの運転する軽トラが恐ろしい速さで近づき、あっというまに視界から消えていきました。どこにでも、せっかちな人はいるようです(笑)。当てのないドライブが始まってすぐ、目に留まった海岸に車をつけました。昨日とは打って変わって、激しい波が海全体を覆っています。不思議な光景でした。海岸の岩に当たって砕ける波しぶきや、波の上方にけぶりたつ煙は、台風独特の激しさを伴うもの。なのに、なぜだか恐ろしく感じないのです。それどころか、ずっと見ていたい衝動が抑えられないのです。私たちはずいぶん長い間、荒れる海と空の境界線を眺めていました。気が付いたら、モノクロームの写真ばかりが大量に撮影されていました。白い波と、黒い岩と、灰色の海と空。この海の様子に恐ろしさを感じないということに驚きながら、私たちは海岸を後にしました。■虹の落ちる滝へ屋久島は、ぐるりと一周するだけなら約3時間ほどでまわることができる島です。でもそこは寄り道好きの私たち。気になるところに立ち寄ってはパシャパシャと写真を撮り、海岸沿いから林道へと入り込んでいきました。雨量の多い屋久島には、あちこちに個性的な滝があります。しかも雨が降った後は水かさが増し、滝の迫力も2倍増し。ガイドブックで紹介されていた滝の3箇所ほどに目星を付け、2つめに訪れた滝が「大川(おおと)の滝」でした。日本の滝百選にも選ばれている、それは見事な滝です。雨はさほど降らなかったとはいえ、昨夜の台風一過の後ですから、80mを超える高さから勢いよく滝つぼに落ちる流れは、まさに大迫力。水しぶきや、滝つぼから立ち上るもやで、滝に近づくほど視界が白く染まります。マイナスイオンも、滝の周囲半径50mくらいまでは軽く届いているだろうと思うくらい。カメラをシャツの中に隠して滝に近づき、しばらく眺めていると、髪も肌もしっとりと濡れ、誰もがお風呂上りのような艶を放つことになります。ああ、でもこの滝は本当にすばらしかった。あまりにも気持ちがよく、すがすがしいので、ぬれるのも構わずにしばらく滝を眺めていました。そのうち、「ありがとう」という思いが内から湧いてきて、何度も滝に向かって「ありがとう」と語り掛けました。滝の轟音のおかげで、誰にも気が付かれないのをいいことに、しまいには「ありがとーーーーーーっ」と大声で叫んでいる始末(笑)。その間、気のよいところではいつもそうなるように、涙があふれて、留まりませんでした。ありがたいばかり。ありがたいばかり。心は空っぽで、ただ空から降る感謝だけを全身に浴びているような感覚でした。目を閉じると、滝の流れそのままに、七色の光が流れる様子が目に浮かびました。きらきらと光る虹が、滝をすべり降りていました。ああ、ここは虹が落ちる滝なんだね。ホトケにそう告げると、黙ってうなずいていました。彼もよほどうれしかったらしく、誰もが近寄れずにいた滝つぼ近くの岩によじ登り、写真を撮って!とジェスチャーで催促。巨大な滝をバックにした小さな彼の姿が、ファインダー越しに見るとやんちゃな小猿のようでした。後で霊感のある方から、聞いた話によると、大川の滝がいつも気持ちのよい場所であるわけではないようです。でも私たちが訪れたときは、間違いなく最高のパワースポットでした。ほかにも美しい滝をいくつも見ましたが、ベストワン!と感じたのはこの滝。屋久島に行かれる際には、一度足を運んでいただきたいスポットの一つです。漂う気の清涼さに、すべて洗い流されるような感覚を、ぜひ体験していただけたらと思います。■台風の贈り物島巡りに熱中していたら、昼前にはすっかり雲が晴れ、頭上に青すぎるくらいの群青の空が広がりました。「空が高いね…!」「雲がひとつもないね…」遠くの山々があんまりくっきり見えるので、私たちは空気の透明感を感じて車を降りました。絵に描いたような台風一過。台風は屋久島に残っていた最後の夏を連れ去ってしまったようです。すでに上陸して息を潜めていた秋が、やっとわが物顔で空を占拠しているよう。空の高さも、風の冷たさも、草むらにゆれるたくさんのすすきも、すべてが秋の訪れを歓迎しているといった風情です。水平線がゆるい稜線を描いている海も、心なしか秋の色あい。一日のうちに、季節の移り変わりを体感してしまいました。空を見上げすぎて首が痛くなるころ、再び車を走らせていると、出ました。心待ちにしていた虹が!たった一瞬だけ地上に近いところに出現して、もう二度と目に映ることはありませんでしたが、淡いパステルカラーの祝福に、私たちの心はすっかり満たされたのでした。虹を見るのは、変化の前触れ。虹を見るのは、幸せの予兆。久しぶりに見せてもらった、うれしい天からのプレゼントでした。(続く)