運命が見える瞬間

巣ごもりの月日が長くつづくようになると、
部屋の内部に目がいくようになる。

まず机の周りの本や原稿が変わっていく。
ここ10年くらい顧みなかったデータや書籍、
資料が、周りにぎっしり積まれるようになる。

さらに絵画や書を掛けかえたくなる。
新しいものにしようか、
古くからしまってある絵を引っ張り出そうか。

そういう目で家の中を見ていくと、
一時期、凝っていた壺の類にも目がいく。

もう少し家が広かったら、
これらの壺たちにも、
ホッとする場を与えられるのだが。

近頃は誰でも、人と会って会話する、
という楽しみが持てなくなった。
せいぜいZoomで会話するくらいだろう。

そんなとき、こういった一時期、
忘れていた家の中の小さな美術品と
話をしたくなる。

私は絵画や壺にかぎらず、
昔の原稿を見ても、会話したくなる。

他人が見たら、
何を１人でブツブツいっているのか、
と思うかもしれない。

しかし実際は、会話しているつもりなのだ。

「元気か？」
「寂しかったろう」
「やっぱりきみはすてきだ！」
などと。

私が持っている壺の中には、
白磁は入っていない。

なぜ白磁がないかというと、
昔から白磁は「女体」と
いわれているからだ。

実は秘蔵していた某大家の
白磁の壺があったのだが、
どうしてもそれを見ると、
そっと触ってしまうのだ。

このときある方から
「それに触れていたら、
女体に触れたくなくなり、
早くから老人になるよ」
と注意され、
思いきってお世話になっている
経営者に差し上げてしまった。

それがよかったのか、
いまの私はそれほど老化していない。

このとき私は、
趣味によっても若返るが、
反対に老人になってしまうことも知った。
以後、私の趣味はあまり老人くさくない。

実は90歳、卒寿の記念に、私の好きな画家に、
１枚描いていただいている絵があるのだが、
誕生日の３月４日きずな祭りの当日に、
披露しようと思っている。

恐らく観たら、誰でも元気が出るに違いない。 



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