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3連休最終日の中央道の渋滞の中にいた。松本でジャージや大阪の連中と別れてから3時間近く経っていた。赤く灯るテールライトが長い列を作っている。東京に着くのはまだ先だろう。
胃のあたりが気持ち悪い。今朝温泉へ行く途中の山道では、運転していたにもかかわらず、急カーブの連続と安定しない速度感のため、クルマ酔いしてしまった。昨日おとといと、飲みすぎたことも原因だろう。今日は一日中、胸やけと胃酸過多に苦しんでいて今もまだ治らない。 「今日はみんなテンション低かったね。そば屋のときなんかシーンとしちゃってたし、どうしようかと思って」 助手席のミミがいった。確かにそば屋では皆、口数が少なかったようにも思う。 ガラス工芸の観光施設で、「思い出グラス」を作った。 紙に書いた絵をグラスに貼り付けて切り抜く。切り抜いたところに粉塵を照射すると、絵が刻み込まれる。世界にたった一つだけしかないグラスを作った記念。それが「思い出グラス」。 それぞれがまず日付と名前を書き込んだ。「アイラブ長野」のようなメッセージや、好きなイラストを描いた。各自のメッセージが込められた思い出グラスは、そば屋に入ったときに集められシャッフルされた。そしてランダムに配られた。 私のところには、フランスが描いたグラスが届いた。パンツを下ろしてチンコを出して飛ぶアンパンマンに、「半パンマン やっぱり座位が好き」と注釈されていた。使いようも、飾りようもないグラスだった。 胸やけや胃もたれに苦しんでいたものの、グラス交換では結構盛り上がったはずだった。 「でも昨日あんなに盛り上がってたのに、今日はみんなどうしちゃったのってかんじ」 ミミはいった。昨日は確かに異様な盛り上がり方をした。ただ毎日あれをやれといわれても困る。盛り下がりがあるから盛り上がりが際立つ。第一、毎日があんな調子だったら身体がもたない。 実際、わさび農園では緑色の「わさビール」の匂いをかいだだけで、胃液がこみあげてきそうになるほど私の内臓は疲労していた。 「わさび農園」はわさびの栽培場を観光客用に解放していた。わさびは、川に盛り土され水に浸かって植えられていた。幅50メートル、水深15センチの川は、全面を水温の上昇を抑えるための黒い幕で覆われていた。それが脈々と果てしなく続いてきていて、最上流を確認することができなかった。観光客用に川の水に足を浸せるスペースがあった。残暑厳しいこの時期でも、川の水は凍りそうなほど冷たくて、2分と浸かっていられなかった。 空気がきれいだからガラス工芸が盛んだとジャージが言っていた。わさびもきれいな水がなければ栽培できないのだろう。水も空気もきれいな安曇野に暮らすジャージは、見方によればかなり贅沢な暮らしをしている。 都市に自然は必要ない。自然がどんなものなのかを知ってるだけでいい。自然という「情報」だけがあればよくて、実体は必要ない。だから都市には自然はない。 ガラス工芸やわさびをつくるためとか、具体的な自然が持つ機能が暮らす人にとって必要だからこそ安曇野には、実体としての自然が存在していた。 みやげ物を少し買い、セルフのガソリンスタンドで給油した。3台のクルマから降りた7人は輪になって、会えたことの喜びをかみしめ、そして別れを惜しんだ。 「じゃあ次のオフはいつにする?」 幹事のカラコはもう先のことを考えていた。 「春やな、春。」 フランスが言った。 このオフも、実は春ごろから話が持ち上がっていたはずだった。ということは、またこのぐらいの時期にずれこむかもしれないと誰もが思った。 この旅はカラコによって「長野オフ」と名づけられていた。 ネットの回線上に電気信号が流れている状態が「オン」として、回線を切って生身の人同士が会うのが「オフ」。ネットで交わされる文字の「情報」だけでは絶対に伝わらないことは、考えてる以上にたくさんあった。それは「実体」としてこうして、会ってみなければわからないことでもあった。「長野オフ」には、都市と自然、オンとオフ、情報と実体、といったような二元的要素が多く詰め込まれていた。 高井戸料金所を通過して渋滞を抜けたキューブはスピードを上げた。増えてゆく街灯やネオンライトの光はただの電気信号にしか見えないし、月がどこにあるのかわからない。手や足や目や口から神経細胞をつたう信号として、脳内に戻ってきたような感覚になった。 また明日から、実体のない世界で、情報だけをたよりに暮らすことになる。 「オフレポ書くんやろ?どこに書こ?」 フランスが言った。 正直、これだけの自然や、実体としての友人らと過ごした体験を、「情報」に変換することはほとんど不可能だし面倒。 でもきっと書くことになるのだろう。 「おれのことはカッコよく書いとけよ!!がははははは!!」 フランスの命令だから仕方がない。 ~おしまい~ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.10.09 00:12:59
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