カテゴリ:読書の記録
あたらしい戦略の教科書 はじめての課長の教科書に続く酒井穣氏の著作。 はじめての課長の教科書は、ある種センセーショナルなデビュー作となったわけだが、同書の読者から寄せられた様々な意見、感想から日本の中堅ビジネスマンには「戦略が不在」していると感じられたという。 戦略に関する本も数多く発売されている中でなぜこのような現象が起こるのか? ビジネスの形態、仕組みは破壊的に複雑化している現代では、現場の専門知識に乏しい組織のトップが、戦略のすべてを管理することのリスクが極端に高まっている。 そうなると、現代における戦略とは、現場に近い各分野の専門家がボトムアップ的な方法で、その立案以前の段階から積極的に関わるべきだと強調する。 逆に言うと、メールすら満足に使えない人にIT戦略を語る資格はなく、立てられたらたまらないというわけだ。 酒井氏は、「戦略の実行」という現場の観点から、"逆算"して構築された戦略の実務書が求められているという結論に達し、本書を上梓したのだ。 我国は、島国という特性からか、歴史的に地震、台風、津波などの天災地変を不可避なものとして経験してきた。 自然をコントロールすることが如何に難しいか歴史的に体感しているのだ。 したがって、環境をコントロールしようとすることではなく、環境に自らを合わせていく方法を無意識に身につけてきた。 未来を自らの手で変えていこうとするのでなく、都度発生するイベントに合わせて自らを変える、つまり「あえて戦略を持たない」というのは、実は日本人らしい戦略なのだ。 オランダ在中で、海外から日本を見ている酒井氏ならではの視点だろう。 本書は、ビジネスにおける戦略を「現場寄りの責任者」として立案し、実行プロジェクトを式する人の視点を想定して書かれている。 まず最初に、「戦略」について定義づけている。 「戦略」とは、現在地と目的地を結ぶルート、であるとしている。 戦略とは旅行の計画のうようなもので、 ステップ1「現在地」を明らかにする ステップ2「目的地」を明らかにする ステップ 3現在地と目的地を「結びつける方法(=戦略)を考える そこで最適ルートを探ることになるのだが、酒井氏は「なるほど」と思わず唸ってしまった比喩で説明する。 戦略立案のステップは。カーナビを想像すると明確になる。 カーナビは、まず現在地を確認、目的地を入力し、最適ルートを検索する。カーナビが戦略の立案をしているのだ。 しばらく運転すると工事中だったり、新しい道路ができていたりと異なったルートを進むことがあるが、カーナビは直ちに補正する。 この比喩から見えてくる戦略を理解するポイントは3つ。 (1)「現在地」は常に変化している (2)「目的地」は、現在地ほど頻繁には変化しない (3)「戦略(ルート)」は、基本的に現在地の変化に応じて変化する ということだ。 こうして戦略という概念を、誰でも共通的に理解できるレベルで定義付けると、話の展開もス進めやすい。 とても参考になった点だ。 さらに「議論」について少し書きたい。 何かを決めるときに「議論を尽くす」べきと言われることが多くある。 議論を尽くす、とは注意に注意を重ねて判断に必要な情報をより多く集め、それぞれについて更に議論するという意味がある。 つまり決断を先送りし、追加される議論に多くの時間、労力を費やすという弊害がある。 尽くす、という言葉には完璧主義的な意味がある。戦略にはこうした完璧主義に逃げ込まないだけの「決断力」が求められるのだ。 「議論を尽くしたい」という人は多い。しかしこれを読み、振り返ってみると、ただ単に一人では決断できず、先送りにしている、又は一人で決断できないという人なのだと理解できた。 本書は「教科書」と書かれているように、戦略に関して、戦略の定義、立案方法、成功に向けた戦略の実行法といった内容が、とても分かりやすく実践的に書かれている。 多くのビジネスリーダーのみならず、次代を担う若手ビジネスマンにも一読をお薦めしたい一冊だ。 あたらしい戦略の教科書 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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