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倫理の進化

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若樹

若樹

Headline News

2006.11.19
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カテゴリ:思想
私が初めて彼の事を知ったのは、リチャード・アッテンボローの映画、「ガンジー」からだった。

日本での公開に合わせ、映画はテレビコマーシャルを流していて、たまたま家族で夕食を

食べていた時、そのコマーシャルを、私は見た。 多分、10歳の頃だったと思う。


そのコマーシャルを見ていた時、不意に自分の魂が、違う次元に入り込んだ。

私は、ミルクの様に、白い色をした、川の前にいた。 

対岸で、一本の樹木を背にしながら、川辺に女性らしい仕草で座り、その川の水に、手を

浸している男性がいた。


一見すると、その人は僧侶に見えた。

褐色の肌に、白い布だけを身にまとい、頭は剃髪していた。

年の頃は、30代と言った所。

目を閉じて、ただ川の水に触れている・・・。


私はその男性を見て、この人が今、コマーシャルでやっていた、「ガンジー」本人なのだと、

悟った。

私は何故だか、その人のいる世界に、やって来ているのだ。


まるで眠っているかのようなその人を、私は畏敬を持って見守った。

ただ見ているだけで、その人の人間性は、手に取る様に分かった。


「至上の人間」幼いながらに、それを強く理解した。

欠点の無い人間。それが、私がその男性に対して出した、結論だった。


こんな、心の綺麗な人間がいるのだろうか?

目の前にいるのは、奇跡の存在。

この人を目指したい、この人に近づきたい、少しでも・・・。


それから私は、家族に呼びかけられたらしく、元の世界に戻って行った。


それが、ガンディー・ジーとの、初めての出会いだった・・・。



私が彼を詳しく知るのは、それから17年程後になる。

28歳を間近に控えた、北海道の晩夏、私は東京の親友と、電話で話しをしていた。


電話の相手は、私よりも、6歳程年上の男性。 兄妹の様に仲が良かった。

彼は、思想や哲学や、宗教に造詣が深く、この面では、大分私も勉強をさせてもらった。


宗教の中でも、彼は真言密教に傾倒していて、僧門に入る事も、度々検討していた。


私は当時、筋金入りの人間嫌いで、この世界とアニマの為に、人間は絶滅するべきだと、

強固に唱えていた。


友人はそうした私の意見に、異を唱え、私はもっと、偉大な智慧を持った人間の思想に、

触れるべきだと主張していた。


彼は、それに相応しい人間として、密教の僧侶、空海の名を挙げた。

自分が空海に心酔していた彼は、私も是非、空海に師事するべきだと、強要して来る。


しかし、私は空海には、何も感じる所は無かった。 興味は持てない、と断った。

それでも、友人は諦めない。

俺は君の後ろに、空海が見えるんだ。君は空海に守られている。

彼の教えを絶対に学ぶべきだと。


空海が、彼に興味を持たない人間の後ろに見えるとは、どうやら友人は、熱意で血迷って来た

らしい。  何とか無理強いを止めなければ。


心が焦った。 こうなったら、誰か他の人物の名前でも挙げなければ、彼は黙らないだろう。

しかし、全く思いつかない。

偉人と呼ばれる人間の名前は、次々浮かぶが、どの人間にも師事する気になれない。

そうやって、人が考えている間にも、友人は、空海が君を見ているんだ、君はそれに答える

義務がある筈だと、いささか理性を失って、電話越しにせっついて来る。


いい加減に、私も苛立って、頭に血が昇って来た。

そもそも、納得がいかない事を、他人に強制されるのが、何より嫌いな性格である。

友人に対して、暴言を吐く一歩手前の瞬間になって、私はカッとなって無意識に叫んだ。


私が師事するのは、ガンジーだ!! 空海じゃない!!


友人が、それを聞いて黙り込んだ。

私も自分の言葉に気付いて黙り込んだ。


ガンジーの事など、一度も考えてはいなかった。 誰がこれを言わせたのだ?

しかし、そう言った直後、子供の頃に見た、あの、ガンジーの姿が、脳裏にハッキリと甦った。


胸が高鳴り、体中の血が、沸き立つ様に感じられた。

電話の向こうで友人が、少し気落ちした声で、確かにガンジーは、素晴らしい人間だよね、

と、呟いていた。


もう、そんな言葉に、返事をする余裕はなかった。

一体何故だか私は、彼こそが、自分に唯一必要な存在なのだと、確信を持って感じていた。

私の頭と心は、一瞬で、ガンジーに洗脳されたいた。

他の事など、全く入る余地がなかった。

しかし、私は自分が、最も探し求めていた人に、とうとう出会ったのだと感じていた。

探していた事すら、意識出来ない魂の奥から。

体中の細胞の一つ、一つまでもが、狂った様に、ガンジーを求めて叫んでいた。


でも、私は、彼の事を何も知らない。 子供の頃に見た、川辺で座っていた彼と、

彼が非暴力で、インドを独立させたと言う事だけだ。


彼とは、どんな人生を生きた人間だったのか?

彼の思想や精神は?


その問いが生み出す渇望に、一時も耐える事は出来なかった。

今から、ガンジーを調べに行くと友人に言って、受話器をフックに叩きつけると、

車に飛び乗って、まず図書館に向けて、矢の様に走って行った。


田舎の小さな図書館であったが、私はそこで、カルヴィン・カイトルの、

「ガンジー 非暴力の兵士」(潮出出版社)を見つけた。

はやる心と必死に戦いながら、今度は車を、約50キロ離れた隣町に走らせる。

レンタルビデオは、そこまで行かなければ借りられないのだ。


頭の中には、アッテンボローの、「ガンジー」しかなかった。

ガンジーを川辺で見つける事になった、あの映画のコマーシャル。


何としても、あの映画を観なくては。


ビデオショップに駆け込むと、名作ビデオのコーナーに、私の望みの全てであった映画が、

鎮座なされていた。


それを借りて、帰路を急ぐ。

しかし、私の家にはビデオデッキがなかった。

どこで観させてもらおうかと、悩んだ挙句、北海道に移住する前、いつも泊まっていた、

同じ町にある、とほ宿(相部屋制の、旅人宿)で、観せて貰おうと思った。


オーナーに頼み込むと、快諾され、私はすぐにビデオをセットした。

宿泊客は結構いて、みな居間に集まって、旅の情報を、初対面の人間同士で交換している。


私がビデオを観始めると、若い男性が隣に来て、一緒にガンジーの映画を見始めた。


ガンジス河で、女性が洗濯をしているシーンから、映画は始まった。

場面は次に、ガンディー・ジーの、祈祷のシーンへと移る。


二人の少女に支えられて、歩く一人の老人がいた。

皆が、彼をもっとよく見ようと、身を乗り出している。


その中で、目に怪しい光を湛えた男が、彼に近づいて来る。

そしてその男は、ポケットから銃を取り出すと、ガンディー・ジーの胸に、3発の弾丸を

打ち込んだ・・・。


よろめきながら、彼は胸を抑え、神の名を呼んだ。 そしてその神が、彼を召された・・。


壮大な葬式を持って、彼は弔われた。

彼の葬儀を報道するジャーナリストが、彼を評価した人々の言葉を紹介した。


ガンディーは、「全人類の良心」と呼ばれていたと。

「偉大な魂ーマハトマー」


アインシュタインはこう言った。

「未来の人間達は、とても信じられないだろう。 この世に、こんな人物が本当に存在していた

などとは。」


それを聞きながら、私は体中に、、鳥肌が立つのを抑えられなかった。

私はこれから、どんな人物を知る事になるのだろうと・・。


                                   続く








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Last updated  2006.11.19 21:51:41



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