偐万葉田舎家持歌集

2014/07/13(日)20:45

月見れば・・

和歌・俳句・詩(69)

 昨夜は満月であったのですな。ベランダに出て見ると月が空高く皓々と光を放っていました。今月20日が金環食とのことですが、これは太陽が主役、月は脇役、文字通りの黒子ですな。  しかし、和歌の世界にあっては、「雪月花」や「花鳥風月」にて月こそ主役、太陽はものの数ではないのでありますな。  「寄物陳思」、物に寄せて思ひを陳べる歌というのは、相聞、騎旅などと共に、歌集の部立ての一つにて、万葉集にても既に見られるものであります。古来、日本人は月に寄せて多くの歌を詠んで来ました。 月の歌あまたある中で、本日は万葉ではなく、西行の月の歌を書き出してみることと致します。桜と月の歌人、西行。西行一人に絞ってみても月の歌は数限りなくあります。拾い出しているだけで疲れてしまいますが、字数制限内で書き出せるだけ書き出してみることと致しましょう(笑)。 (2012年5月5日の月)ゆくへなく 月に心の すみすみて         果てはいかにか ならむとすらむなげけとて 月やはものを おもはする かこち顔なる わが涙かなこととなく 君恋ひわたる 橋の上(へ)に あらそふものは 月の影のみ弓張の 月に外れて 見し影の 優しかりしは いつか忘れむおもかげの 忘らるまじき 別れかな 名残りをひとの 月にとどめてしきわたす 月のこほりを 疑ひて ひびの手まはる あぢのむら雲影さえて まことに月の あかき夜は 心も空に 浮かれてぞすむ心をば 見る人ごとに 苦しめて 何かは月の とりどころなるさのみやは 袂に影を 宿すべき 弱し心よ 月な眺めそ月に恥ぢて さし出でられぬ 心かな 眺むる袖に 影の宿れる露けさは 憂き身の袖の 癖なるを 月見る咎に 負ふせつるかな月の夜や 友とをなりて いづくにも 人しらざらむ 住みか教へよひとりすむ 片山かげの 友なれや 嵐に晴るる 冬の夜の月月ならで さし入る影の なきままに 暮るるうれしき 秋の山里眺むるに 慰むことは なけれども 月を友にて 明かす頃かなひとりすむ 庵に月の さしこずは 何か山べの 友にならましあはれなる 心の奥を 尋(と)めゆけば 月ぞおもひの 根にはなりける憂き世いとふ 山の奥にも したひきて          月ぞ住みかの あはれをぞ知る憂き身こそ いとひながらも あはれなれ          月を眺めて 年の経ぬれば世の中の 憂きをも知らで すむ月の         影はわが身の 心地こそすれ隠れなく 藻にすむ虫は 見ゆれども われから曇る 秋の夜の月さらぬだに 浮かれてものを おもふ身の 心をさそふ 秋の夜の月真木の屋に しぐれの音を 聞く袖に 月の洩り来て 宿りぬるかないつかわれ この世の空を 隔たらむ         あはれあはれと 月をおもひていかでわれ 心の雲に 塵すゑで 見る甲斐ありて 月を眺めむ眺めをりて 月の影にぞ 世をば見る         すむもすまぬも さなりけりとは雲はれて 身に憂へなき 人のみぞ さやかに月の 影は見るべき来む世にも かかる月をし 見るべくは 命を惜しむ 人なからましこの世にて 眺め馴れぬる 月なれば 迷はむ闇も 照らさざらめや来む世には 心のうちに あらはさむ 飽かでやみぬる 月の光を鷲の山 おもひやるこそ 遠けれど 心にすむは 有明の月鷲の山 くもる心の なかりせば 誰も見るべき 有明の月鷲の山 月を入りぬと 見る人は 暗きに迷ふ 心なりけり鷲の山 誰かは月を 見ざるべき 心にかかる 雲しはれなば悟りえし 心の月の あらはれて 鷲の高嶺に すむにぞありける雲はるる 鷲のみ山の 月影を 心すみてや 君ながむらむ分け入りし 雪のみ山の つもりには いちじるかりし 有明の月見ればけに 心もそれに なりにけり 枯野のすすき 有明の月あらはさぬ わが心をぞ 怨むべき 月やはうとき をばすての山あま雲の 晴るるみ空の 月影に 恨みなぐさむ をばすての山くまもなき 月の光を 眺むれば まづをばすての 山ぞ恋ひしきをばすては 信濃ならねど いづくにも         月すむ峰の 名にこそありけれ花におく 露に宿りし 影よりも 枯野の月は あはれなりけり冬枯れの すさまじげなる 山里に 月のすむこそ あはれなりけれ霜さゆる 庭の木の葉を 踏み分けて 月は見るやと とふ人もがないづくとて あはれならずは なけれども          荒れたる宿ぞ 月はさびしき山おろしの 月に木の葉を 吹きかけて 光にまがふ 影を見るかな山深み まきの葉わくる 月影は はげしきものの すごきなりけり神路山(かみぢやま) 月さやかなる 誓ひありて 天(あめ)が下をば 照らすなりけりこれや見し 昔すみけむ 跡ならし 蓬が露に 月の宿れる月すみし 宿も昔の 宿ならで わが身もあらぬ わが身なりけり雲の上や ふるき都に なりにけり すむらむ月の 影は変らで何ごとも 変りのみゆく 世の中に 同じ影にて すめる月かな涙のみ かきくらさるる 旅なれや さやかに見よと 月は澄めども眺めつつ 月に心ぞ 老いにける 今いくたびか 春にあふべき山の端に かくるる月を 眺むれば われも心の 西に入るかな闇はれて 心の空に すむ月は 西の山べや 近くなるらむ(同上) ざっと57首列挙できました。さて、皆さまのお心に共鳴音を響かせた歌はどれでありましたでしょうか。 <参考>元永元年(1118年)佐藤義清誕生。     保延 6年(1140年)出家。法名円位、西行と号す。     保元元年(1156年)鳥羽院崩御、保元の乱。     治承 4年(1180年)6月福原遷都。8月頼朝挙兵。     建久元年(1190年)2月16日河内の弘川寺にて入寂。 

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