2019/02/07(木)11:39
若草読書会・万葉集から聞こえて来る音
昨日(3日)は若草読書会の新年会でした。
11時若草ホール集合。
参加者は智麻呂・恒郎女ご夫妻、凡鬼・景郎女ご夫妻、小万知さん、謙麻呂さん、祥麻呂さん、偐山頭火さん、槇麻呂さん、和郎女さん、リチ女さん、特別参加の敦郎女さんと和田郎女さん、そして偐家持と当初欠席の予定だったひろみの郎女さんが第1部のみ参加ということで、全15名の多数になりました。
第1部は、偐家持による「万葉集から聞こえて来る音」と題しての講話。
万葉集から選んだ100首を書き出したものを資料として、偐家持が思いつくままに、適宜の歌を取り上げて、とりとめもないお話をするというのが、その内容。
取り上げた歌は下記の38首。
朝(あさ)床(とこ)に聞けば遥(はる)けし射水川(いみづかは)朝漕ぎしつつ唱(うた)ふ船人 (大伴家持 巻19-4150)(朝の床で聞くとはるか遠くから聞こえて来る、射水川を朝漕ぎしながら歌う船人の声が。)みどり子の這ひたもとほり朝夕(あさよひ)に音(ね)のみそ我(あ)が泣く君なしにして
(余明軍(よのみやうぐん) 巻3-458)(赤子のように這い回って、朝も晩も声をあげて私は泣く、我が君がいないので。)(注)余明軍=大伴旅人の従者。旅人の死を悲しんで詠んだ歌。あかねさす昼は物思(ものも)ひぬばたまの夜(よる)はすがらに音(ね)のみし泣かゆ
(中臣宅守 巻15-3732)(<あかねさす>昼は物思いし、<ぬばたまの>夜は夜通し声に出して泣けてくるのです。)このころは君を思ふとすべもなき恋のみしつつ音(ね)のみしそ泣く
(狭野弟上娘子(さののおとがみのをとめ) 巻15-3768)(この頃は貴方のことを思うとどうしようもなく恋しくて声をあげて泣いてばかりいます。)古(いにしへ)に恋ふる鳥かもゆづるはの御井(みゐ)の上より鳴き渡り行く (弓削皇子 巻2-111)(昔のことを恋い慕う鳥なんだろうか、ユズリハの樹のある御井の上を鳴きながら飛んで行く。)古(いにしへ)に恋ふらむ鳥はほととぎすけだしや鳴きし我(あ)が思(も)へるごと (額田王 巻2-112)(昔のことを恋い慕っているだろう鳥はホトトギス。きっとその鳥が鳴いたのでしょう。私が昔を恋い慕っているように。)(注)けだし=多分、おそらく。み吉野の象山(きさやま)のまの木末(こぬれ)にはここだも騒く鳥の声かも (山部赤人 巻6-924)(み吉野の象山の山あいの梢にはこんなにも沢山に鳴き騒ぐ鳥の声がしているよ。)ぬばたまの夜のふけゆけば久木(ひさぎ)生(お)ふる清き川原に千鳥しば鳴く (山部赤人 巻6-925)(<ぬばたまの>夜がふけてゆくと久木の生える清い川原に千鳥がしきりに鳴いている。)(注)久木=アカメガシワ。キササゲ説もある。烏(からす)とふ大をそ鳥の真実(まさで)にも来まさぬ君をころくとそ鳴く (東歌 巻14-3521)(烏という大馬鹿鳥が本当はお出でにならないのに「コロク(自分から来る・自<ころ>来<く>)」と鳴く。)巨椋(おほくら)の入江とよむなり射目人(いめひと)の伏見が田居(たゐ)に雁渡るらし (巻9-1699)(巨椋の池の入江が鳴り響いている。<射目人の>伏見の田居に雁の群れが渡って行くらしい。)(注)巨椋=巨椋池 射目=獲物を待ち受け狙い射るため身を隠す設備、草木や柴で作る。 射目人=射目に隠れて射る人。妻恋に鹿(か)鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎ行く (石川広成 巻8-1600)(妻が恋しいと鹿が鳴く山辺の秋萩は露霜が冷たいので盛りが過ぎて行く。)このころの朝明(あさけ)に聞けばあしひきの山呼びとよめさ雄鹿(をしか)鳴くも (大伴家持 巻8-1603)(このところ夜明けに聞くと、<あしひきの>山を響かせて牡鹿が妻を呼んでいる。)隠(こも)りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
(大伴家持 巻8-1479)(屋内に引きこもってばかりいると鬱陶しいので、気を晴らそうと外に出て立って聞いていると、来て鳴くヒグラシの声よ。)黙(もだ)もあらむ時も鳴かなむひぐらしの物思(も)ふ時に鳴きつつもとな (巻10-1964)(何の物思いもない時にでも鳴いてもらいたい。ヒグラシが物思いしている時にやたら鳴いてしようがない。)(注)黙もあらむ=何も言わず安心していること。今日(けふ)もかも明日香の川の夕(ゆふ)去らずかはづ鳴く瀬のさやけくあるらむ
(上古麻呂(かみのこまろ) 巻3-356)(今日もまた飛鳥川は宵ごとに蛙が鳴く瀬の清らかなことであろう。)夕さらずかはづ鳴くなる三輪川の清き瀬の音を聞かくし良しも (巻10-2222)(夕方ごとに蛙が鳴く三輪川の清い瀬の音を聞くのは快いものだ。)(注)三輪川=初瀬川の三輪山周辺での呼称。夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも (湯原王 巻7-1552)(夕月が空にかかる夜、心がしみじみと切なくなるほどに、白露の置くこの庭にコオロギが鳴いている。)(注)こほろぎ(蟋蟀)=コオロギなど秋に鳴く虫の総称。平安時代からは「きりぎりす」と訓むようになるが、江戸時代中期・18世紀頃から次第に、再び「こほろぎ」と訓まれるようになる。影草の生ひたるやどの夕影に鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも (巻10-2159)(影草の生えている庭の夕方の光の中に鳴くコオロギの声は、いくら聞いても飽きない。)(注)影草=物陰に生えている草。笹の葉はみ山もさやにさやげども我は妹思ふ別れ来ぬれば (柿本人麻呂 巻2-133)(笹の葉は、山全体にさやさやと風にそよいでいるが、私はひたすら妻のことを思う、別れて来たので。)君待つと我(あ)が恋ひをれば我(わ)が宿の簾(すだれ)動かし秋の風吹く
(額田王 巻4-488、巻8-1606)(あなたのおいでをお待ちして恋しい思いでいるとわが家の簾を動かして、秋の風が吹きます。)一つ松幾代か経ぬる吹く風の音(おと)の清(きよ)きは年深みかも (市原王 巻6-1042)(一本松よ。お前は幾代を経たのか。吹く松風の音が清らかなのは経た年が長いからか。)(注)天平16年正月11日、活道の岡(和束説、湾漂山説など諸説あり)に登り一本松の下で大伴家持らと宴した時の歌我がやどのいささ群竹(むらたけ)吹く風の音のかそけきこの夕(ゆふへ)かも (大伴家持 巻19-4291)(わが家のささやかな竹林を吹く風の音がかすかに聞こえるこの夕べであることだ。)あしひきの山川(やまがは)の瀬の鳴るなへに弓(ゆ)月(つき)が岳(たけ)に雲立ちわたる
(柿本人麻呂歌集 巻7-1088)(<あしひきの>山川の瀬音が高くなるとともに、弓月が岳に雲が一面に立ち渡る。)(注)弓月が岳=三輪山の東北側の山々のどれか。未詳。ぬばたまの夜(よる)さり来れば巻(まき)向(むく)の川音(かはと)高しもあらしかも疾(と)き
(柿本人麻呂歌集 巻7-1101)(<ぬばたまの>夜になって巻向川の瀬音が高い。山からの吹きおろしが激しいのだろうか。)(注)巻向川=三輪山の北側を流れる川。穴師川、痛足川とも言う。伊勢の海の磯もとどろに寄する波畏(かしこ)き人に恋ひわたるかも (笠女郎 巻4-600)(伊勢の海の磯もとどろくほどに寄せる波のようにおそろしく貴いお方に恋い続けています。)かからむとかねて知りせば越(こし)の海の荒磯(ありそ)の波も見せましものを
(大伴家持 巻17-3959)(こうなるとあらかじめ知っていたら、越の海の荒磯の波も見せてやったものを。)ますらをの鞆(とも)の音すなりもののふの大臣(おほまへつきみ)楯立つらしも (元明天皇 巻1-76)(武人たちの鞆の音が聞こえる。将軍たちが楯を立てて威儀を正しているようだ。)(注)鞆=左手の肱に付ける革製の防具。梓弓爪引(つまび)く夜音(よおと)の遠音(とほおと)にも君が御幸(みゆき)を聞かくし良しも (海上王(うなかみのおほきみ) 巻4-531)(梓弓を爪弾く夜中の弦音が遠く響いて来るように、遠くからでも大君のお出ましのお噂をお聞きするのは喜ばしいことです。)(注)爪引く夜音=禁中警護の衛士が弓に張った弦を爪音高くし、穢れ、邪気、悪霊などを退散させる「鳴弦の呪法」による弦音 海上王=志貴皇子の女。皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寝(い)ねかてぬかも (笠女郎 巻4-607)(皆の者寝よという鐘は打つようですが、貴方を恋しく思っているので、眠れません。)(注)寝よとの鐘=亥の刻(午後10時頃)の鐘か。陰陽寮所属の時守(ときもり)が鐘で時刻を知らせた。海人娘子(あまをとめ)棚なし小舟(をぶね)漕ぎ出(づ)らし旅の宿りに梶の音聞こゆ (笠金村 巻6-930)(海人おとめが棚なし小舟を漕ぎ出すらしい。旅の宿りに楫の音が聞こえる。)春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ (河辺東人 巻8-1440)(春雨がしとしと降り続いているが、高円山の桜はどんな様子だろうか。)沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも (大伴旅人 巻8-1639)(泡のような雪がはらはらと降り続くと奈良の都のことが思い出される。)
(大伴旅人歌碑)
あられ降り板屋(いたや)風吹き寒き夜(よ)や旗野に今夜(こよひ)我(あ)がひとり寝む (巻10-2338)(霰が降り、板屋に風が吹いて寒い夜、旗野に今夜私はひとりで寝よう。)(注)板屋=板葺きの家。 旗野=大和国高市郡波多郷馬の音のとどともすれば松陰(まつかげ)に出でてそ見つるけだし君かと (巻11-2653)(馬の足音がどどどと聞こえて来るので、松の陰に出て見ました。もしかしてあなたではないかと。)君に恋ひ寝(い)ねぬ朝明(あさけ)に誰が乗れる馬の足の音そ我に聞かする (巻11-2654)(君を恋い慕い眠れなかった夜明け方に、誰が乗った馬の音なのか、私に聞かせるのは。)左夫流児(さぶるこ)が斎(いつ)きし殿に鈴掛けぬ駅馬(はゆま)下れり里もとどろに (大伴家持 巻18-4110)(左夫流児という女が大事に守って来た家に、鈴を掛けない駅馬が着いた。里に響き渡らせて。)初春の初子の今日の玉箒手に取るからにゆらく玉の緒 (大伴家持 巻20-4493)(初春の初子の今日の玉箒は、手に取るだけで揺らいで音がする玉飾りの緒だ。)(注)正月、年の初めの子の日、天皇は「子日手辛鋤(ねのひのてからすき)」を、皇后は「子日目利箒(ねのひのめとぎぼうき)」を飾り、宴を催すことになっている。箒の枝には色とりどりのガラス玉が嵌め込まれている(正倉院御物の鋤の柄には「東大寺子日献 天平宝字二年正月」とあり、当万葉歌が詠まれた天平宝字二年正月と一致する)。 玉箒=玉で飾った箒。題詞から、宴出席者に天皇から玉箒が下賜されたことが分かる。大伴家持も出席の予定で、この歌を用意していたようだが、左注に「大蔵の政に依りてこれを奏するに堪へざるなり」とあり、仕事の都合で宴には参列できなかったようである。 講話の後は、出前の寿司(と言っても店まで取りに行くのだから、出前ではなくテイクアウトと言うべきか)と恒郎女さんがご用意下さったお雑煮で昼食。ひろみの郎女さんには昼食の寿司を店に取りに行くために車を運転して下さるというお世話をお掛けけしましたが、彼女は所用ありで昼食前に、退席、帰途に。
14名で、飲んだり、食ったりしながら歓談。そして、珈琲タイム。
第2部は恒例の和郎女さんの押し絵などの作品の参加者へのプレゼント・セレモニー。皆さんそれぞれ気に入った作品をゲットされたようです。偐家持も4点頂戴しました。
和郎女さんのこれらの作品は、追って「和郎女作品展」にて紹介させていただきます。
第2部に入る前に、偐山頭火さんが帰途につき、第3部の歌留多会の前に、謙麻呂さんと和田郎女さんが退席、帰途に。
残りの者らで歌留多会。偐家持が詠み手、智麻呂さんは観戦で、残り8名が二組・4人ずつに分かれて競技。
優勝者は断トツで景郎女さん。
<追記:2019.2.7.>
景郎女さんから優勝賞品を撮った写真がメールで送られて参りましたので、参考までに下に掲載させていただきます。
(優勝賞品)
偐家持賞は敦郎女さんが獲得。残念賞が祥麻呂さんとなりました。その後、坊主めくりを皆で楽しみ、5時半頃に散会となりました。
次回の読書会は、お花見で、4月7日(日)と決まりました。
<追記:2019.2.5.>
若草読書会メンバーである、偐山頭火さん、ひろみの郎女さんもこの新年会についての記事をアップされていますので、下記にそのリンクを貼って置きます。
〇偐山頭火さんの記事
〇ひろみの郎女さんの記事