偐万葉田舎家持歌集

2021/08/17(火)15:27

雨間も置かず

万葉(82)

​​​ 今日も雨。  甲子園の球児たちも雨に泣かされているようです。  銀輪家持も蟄居を余儀なくされての雨障(あまつつみ)にて、脚力が衰えて行くに任せるのほかなしであります。  先日(13日)の墓参は雨間を利用してのものでしたが、この「雨間」というのは、雨と雨との間、雨の合間という意味。  万葉の頃から使われている言葉であるが、万葉の頃は「雨の降っている間」という意味で、現在のような意味で使われるのは平安時代以降ということらしい。 卯の花の 過ぎば惜しみか ほととぎす       雨間(あまま)も置かず こゆ鳴き渡る (大伴家持 万葉集巻8-1491) (卯の花が散ってしまうのを惜しんでか、ホトトギスは雨の降る間も休みなくこちらあたりから鳴き渡ってゆく。)ひさかたの 雨間(あまま)も置かず 雲隠(くもがく)り      鳴きそ行くなる 早稲田(わさだ)雁(かり)がね (大伴家持 万葉集巻8-1566) (<ひさかたの>雨の降っている間も休みなく、雲に隠れて鳴いて行く声がする、早稲田の雁が。)雨間(あまま)明けて 国見もせむを 故郷(ふるさと)の         花橘は 散りにけむかも (万葉集巻10-1971) (雨が止んで国見もしたいのに、故郷の橘の花は散ってしまったことだろうか。)十月(かみなづき) 雨間(あまま)も置かず 降りにせば       いづれの里の 宿か借らまし (万葉集巻12-3214) (十月の雨が止む時もなく降り続くとしたら、どのあたりの家に雨宿りをしたらいいのだろうか。)​​ 雨間の訓は「​あまま」とか「あまあい(あまあひ)」であるが、​「あまあい」の方は「雨の合間」という平安時代以降の意味になってからの訓であろう。  以下は閑人家持の「イマジン」ヒマ論であるが、ヒマ(暇・隙)というのは「合間・あひま」の「あ」が脱落して「ひま」となったものなんだろう。  物事と物事との時間的な間が「暇」で、空間的な間が「隙」である。  ヒマとは仕事(なすべきこと)と仕事の間の何もすることのない時間、何をしてもよい時間だとすると、閑人家持のように、そもそも仕事・なすべきことが何とてもない365日連休の人間にとっては「合間」としての時間という意味でのヒマとはちょっと意味が違って来るから、別の言葉で表現する方がいいように思うが、そんな奴のために新語を考えるほど世間はヒマではないから、ヒマでよかろうと言うことなんだろう。  ヒマがマ(間)に由来するとして、日本人は「間」というものを大切にする民族である。  あやまち(過ち)、あやまり(誤り)を「間違い」とも言い、「間」を間違うと「間抜け」と馬鹿にされることでも、それが分かるというもの。  「間」とは、人と人との距離感或いは物事と人との距離感のようなものと言っていいだろうか。  この距離感に応じて、言葉表現も使い分けなければならない。  丁寧語、尊敬語、謙譲語などと複雑な敬語表現のある日本語の由縁もここにあるのだろう。  伝達すべき内容の正しさもさることながら、この距離感に相応した言葉表現がそれ以上に大切にされるのである。  そして、もう一つは「和」。  聖徳太子が「和を以て貴しとなす」と言って以来、日本を大和(大いなる和)と表現して以来、「和す」ことを第一と考えて来た日本人。  それは、「行間を読む」とか「言外を知る」とか、相手の意を先んじて汲み取り、それに相応しい行動をとる「忖度」という美風ともなった。  しかし、一方では、それは、近時の官僚の「忖度」によって、忖度の意味も堕落したものとなったように、また「空気を読めない奴」という蔑視的表現が成立する同調圧力の強い社会という負の側面を持つことでもあった。  まあ、何であれ、この「間」というのは、何とも微妙で曖昧なもので、論理性とか正確性とかとは対極のもの。  「和」も同様にて、「間」によって保たれているに過ぎない「和」というものは危ういものである。  雨間の話から脱線して、だんだんと「間」の抜けた方向に話が進んでいるようですから、雨間に戻ることにします。  外の雨脚がひと際強くなりました。  昨日、鳴いていたツクツクボウシも、さすがにこの雨では鳴かず、泣いていることでしょう。  雨間も置かず鳴いているというホトトギスはもちろん、カラスもハトもスズメも皆、どこかで雨宿り。  雨間を縫っての13日の墓参の折に見かけた蛾の夫婦は今頃はどうしているものやら。 ​​ (ノメイガの一種 ホシオビホソノメイガかも知れない。)  墓参の折に、木の葉が散ったのかと足元を見たら、小さな蛾の夫婦でありました。  ツトガ科ノメイガ亜科に属する蛾も色々ですが、これはそのうちの一種、ホシオビホソノメイガだろうと思われます。  今日は、雨間のお話でした。

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