000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第三章霊能師壱

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■第三章 霊能師

   (1)
 落合レイモン、現存する霊能師の中では、最高クラスといわれている。彼の霊治療をうけるための人々で、屋敷の前に列ができていた。
 彼の屋敷、いや御殿と言った方がいいだろう。そこには桂離宮をまねた豪奢な造りの日本家屋と、古来の神宮建築をベースにしたあたらしい神宮建築である。
 その二つの建物を左右に配した山水画を思わせる日本庭園が広がっていた。この建物及び敷地は、すべて東日本の政財界の大物からの寄付金によってなりたっているといわれている。
 下手をすると、徳川公の東京城よりも金がかかっているのではないかと、噂されていた。その門前に主水は立っていた。
 特別な出入り口から、主水は座敷に通される。
「お待ちください、主水殿。レイモン様は薬浴の時間なのじゃ。しばらくお待ちいただきたい」
 レイモンの使い番のものが答えた。
「薬浴と申しますと」
「わからぬか。レイモン様は、種々の薬を混ぜた、プールの中で泳いでおられるのじゃ。そうすれば体の節々から薬が体に回り、気持ちがよいと申されてのう」
「それは毎日でござりますか」
「いや、毎日三回じゃ」
 やがて、主水の前に、くずれかけた巨体を揺さぶるように、四十才くらいの男が現れる。ブヨブヨの体からは湯気が上がっていた。強烈な薬の匂いが主水の鼻に届いていた。成分は主水に分析できないくらいに多い。薄い浴衣着に羽織りを着ていて、体がすいてみえる。目や鼻はあるかないかくらいだ。未熟児だったといううわさもある落合レイモンだった。そのため、顔の表情がとても読み取りにくい。 背後には敏捷そうな若い男が一人。その男は二〇才くらいで、総髪できれいな錦羽織りをきていた。こちらは書き上げたように目鼻だちがはつきりしている。少し暗いが美男子の類いに入るだろう。一九〇センチはあるだろう。
「ロボザムライ、早乙女主水めにございます。今度、徳川公より、落合レイモン様上京の旅に随行せよと命があり、ご挨拶にあがりました。以後お見知りおきを」
 主水は丁寧に挨拶をする。
「ほほう、貴公が、今東京エリアで噂のロボザムライ主水か。力強い味方を、公もつけてくれたものじゃ。おお、そうじゃ、紹介しておこう。これは俺の小姓、夜叉丸じゃ。以後よろしく頼むぞ」
 落合レイモンはその体に拘わらず甲高い女性のような声だった。
 レイモンは体を動かすたび、じゃりじゃりと音がする。主水がよく見ると、何十本ものコードがレイモンの背中に張り付いている。
「レイモン様、失礼とは存じますが、そのコードは一体」
「ああ、これかの」
 レイモンは気軽にその質問に答えようとした。
「無礼者め。レイモンさまを何と心得おる」
 夜叉丸が表情を激変して怒り、背中の鉾を抜こうとする。
「よいよい、夜叉丸。わざわざ徳川公が遣わしてくれた護衛ロボットじゃ。すべてをお教えしておかねばのう、主水」
 ゆったりとレイモンは言う。
「ははっ、できますれば」
「私の体は、常時薬を注入しておかねばならぬのよ。大義じゃがのう」
 言いながら、レイモンは薄い羽織りを脱ぐ。何と二人分の大きさと思っていたレイモンの体は、半分にも満たぬ。残りはいろいろな液胞が組合わされた水槽が幾重にも重なって、レイモンの背中に張り付いていた。
「さて、主水」
 レイモンは、霊能師の特徴である頭の真ん中のこぶを、主水の方に近づけ、右手を差し出していた。
「手を貸してたもれ」
 レイモンはくぐもって言った。
「何をおっしゃいます。おそれおおうございます」
 こいつは、ホモかと主水は思った。いやなこったと思った。
「手を貸せともうしておるのじゃ、はようせい」
 レイモンはいらだっていた。
 レイモンの方に、主水の右手が勝手に動いていく。
「うわっ、どうしたことだ。手が…」
レイモンの手に主水の右手がくっついてはなれない。
「何をなさいます、レイモン様」
 恐るべき力が主水の腕に加わってくる。電流が二人の間に流れている。
「さすがロボザムライ、記憶が電磁処理だけに読み取りやすいわ。ふふん」主水の持つ電脳情報が手を通じて流れていく。
「お、おやめください」
 あがらう主水。が、手を離すことはできない。
 主水の体にレイモンの体から発せられた電流が走っていた。微弱ではあるが、主水の体のメインコンピューターが出力低下を起こしている。自らの命令のまま、動かないのだ。 ロボザムライの頭脳記憶の中に、レイモンの何かが侵入してきた。ロボの記憶データは膨大過ぎる。レイモンのそれは必要な情報を、主水の記憶の森から奪い取るようであった。「くくっ、徳川公もくせ者よな」
 一瞬、空白が主水の頭を襲う。レイモンの前に倒れている主水に、
「気を失いよったか、この機械人形。やくたいもない。わしの護衛としては、どのようなものかのう、夜叉丸」
「レイモン様、こやつはやはり力仕事に」
 夜叉丸が尋ねた。
「そうじゃな、へんに情報を与えると我々の仕事の邪魔をするやもしれん」
「ところで、御前、また、お薬の時間でござる」
 夜叉丸がいった。夜叉丸はレイモンの薬飲のタイムテーブルを持っているのだ。後ろには薬品が詰まった収納庫が控えている。前の主水より、薬の方が大事だった。
「うーむ、この時間はどの薬じゃったかの」 
金庫の棚の薬をかき回すレイモンであった。ふと、夜叉丸の方を振り返り、
「よいか、夜叉丸。やつがれの薬、忘れず西日本に持って行くのだぞ。薬は生命の源じゃからのう」
 レイモンの最大の関心事は、薬である。
「承知しております。で、御前。この主水なるロボットの処置は」
「主に任せる。とりあえず帰してやれ。気を失ったことなど、忘れておるであろう。そう電脳の処理はしてある」
「ふっふっふっ」
 軽く含み笑いをするレイモンであった。

    ◆
 何とか旗本公国マンションにたどり着いた主水は、確かに、落合レイモンの家での事を忘れていた。
「旦那、どうでしたい。お上の御用は」
 家にはすでに、鉄が上がりこんでいた。
「うむ、ご壮健であられた。しかし、鉄、おまえも良く宅にくるのう。まったく」
「よろしいじゃござんせんか。姐さんもよろこんでいることですし」
「どなたが喜んでいるんですか、鉄さん、あなた……」
「へい、何でござんしょ」
「感情のラインが、いかれているのじゃないのかしら。一度ドクターにチェックしてもらいなさいませ」
「そりゃ、姐さん。ないですよ。私がいるおかげで、早乙女家にいつも笑顔がたえないってものでしょ。ねえ旦那」
「旦那じゃねえや。用がすんだら早く帰れ」「そう、邪険にしちゃ、いけあせんぜ。そいでお上の御用向は」
「しばらく、東京を留守にいたす」
「どこかにご出張ですか」
「西日本に下向いたす」
「西日本ですって、そりゃ大変だ。旦那、まさかロボット奴隷になりにいくんじゃ」
「ばかもの、なぜわざわざ私が奴隷にならねばならんのだ」
「いや、どれいでもすきにしてとか」
「鉄。ばかもの。貴様が奴隷になれい」
「でも、あなた、京都では、足毛布博士にお会いになるのでございましょう」マリアが話しの話題を変えた。
「その足毛布博士よな……」
 いいながらマンションから東京の風景をみる主水であった。どうしょうかなと思い悩んでいるのである。生みの親である足毛布博士の顔が夜空に浮かんだ。
「ちちうえ……」思わず叫んでいた。なぜちちうえという言葉が口から飛びだしたのか。主水は自分でも不思議に思った。

   (2)
 出発日がやって来た。
 主水は落合レイモンの屋敷に旅装で出向く。予備の品をいれた旅装バックパックである。門前が騒がしい。
「何だ、この行列は」
「おお、よいところへ来られた、主水殿。我が行列に加わられい」
 ざわめく人々の群から夜叉丸が現れ、挨拶する。
「夜叉丸様、この行列は」
「我がレイモン様の御行列じゃ。このまま復旧しつつある東海道高速道路をくだる」
「が、この行列、まるで大名行列ではござらぬか」
 というよりもチンドンヤかと、思いが頭をかすめた。
「よいか主水殿。今度のこの落合レイモンの西下りは、東日本都市連合の力を見せることにもあるのじゃ。またまた落合レイモンの霊能師としての力を見せつけなければならぬ。その威光を見せつける行列でじゃ。装飾の一部と思ってくれ」
 金属でできた機械籠が四つ。加えてそれを抱えて進むカーゴ型送行ロボットが数機。先触れを伝えるスピーカーロボットが四機。レイモンの旗持ちロボット十機。東日本都市連合の各市の旗を持つ旗ロボット二百機。生命液、潤滑油、洗浄液などを運ぶタンク型ロボット二十台。警備隊ロボット三百機などなど。 おまけは振袖チアガールズだった。振袖でありながら、下位置はミニスカートになつている和洋折衷のコスチュームをきた妙齢の三十名の女性群。まるで色物の世界である。
 主水はくらくらと、倒れそうだった。さすがにロボットなので倒れはしなかったが。
「これでは、私など必要ないのではございませんか」
 嫌みを言う。
「そうはいかぬ。よいか、主水殿は護衛ロボットとはいえ、徳川公の使い番でもあらせられる。従って、カゴ形バンを用意しておる。どうぞお使い下されい」
 夜叉丸は行列の後ろにある、行列よりもっと悪趣味なバンを示した。ゴテゴテした装飾がバンのスタイルをくずしている。
「うむ…」
 主水は逃げ腰になった。ひらめいた。よーしこれでいこう。断りの文句は。
「夜叉丸どの、私はこの籠の回りを警戒いたしましょう」
「といわれると」
「遊軍でござる……」
「主水どの、まさか、我が行列をあざ笑っているのではあるまいな」
「いえさようなこと……」
 おぬしよく分かってるのじゃないと思う主水。

    (3)
 復旧しつつある東海道は中世世界のようになっていてとても静なのだ。
 特に早朝は、鳥たちの歌声がハーモニーを奏で、道いく人々の気持ちを和ませるのだが。 今、この東海道は、『いろは組』によって復旧工事が急がれていた。
 静寂の中ににぎやかな音がだんだんと近づいてくる。工事中のロボットたちが手を休めた。
「あの騒がしい、恥ずかしいご一行は」
 工事中の東海道を下る一行を見ていたロボットの一人が尋ねた。
「おお、あの昔、騒音条例があったころなら絶対つかまっておる団体か」
 わざとらしい説明を付け加えるロボットだった。
「知らないのか、霊能師落合レイモン様のご一行じゃ」
 もう一人が答える。
 いろは組にしきられたはぐれロボットの一群が、道路復興の建築工事を行い、そのエリアの霊写真をとらされていた。霊戦争のおり、なくなった人々の過去の霊をなぐさめるのである。
 このあたりは、空中衛星ボルテックスによって滅びた全日本連邦軍の残滓がいまだに発見される所である。にぎやかに打ち騒ぐ一団が通っているのはもとの高速道路である。
 近くに森林地帯が広がっていた。霊戦争後の生やした比較的新しい森林である。
 この東海道から遠く離れたバイオ林の中から、この一行をのぞきみる四つの眼。突然、うめき声を上げて、その一人が倒れた。
「うっ、何ごと」
 もう一人が相棒を介抱する。が、事切れている。咄嗟に自分たちが仕掛けた罠が返されたことを知る。
「恐るべきよ、レイモン」
 残った一人は独りごちた。
 二人は西日本都市連合が派遣したロボ忍であった。レイモンの霊力を調べるために、ここまで遣わされていた。
 霊写真を盗み取ることで、実力のほどを調べようとしていたが、逆にレイモンの『お霊返し』の術でロボ忍の一人が倒れたのだ。
 『霊返し』とは、霊写真への霊力を、送った本人に何倍もの霊力に倍増して返すものである。「おじさんたち、何しているんだい」
 その時、背後から、子供ロボットが急に現れていた。作業ロボットらしく、蓬髪で、汚れた小袖姿である。賢そうな顔をしている。というかやんちゃな顔である。靴みがき少年の顔である。ジャリンコちえの顔である。『いろは組』のはんてんを着ている。
「何でもない、あっちへいけ」
「おじさんが倒れているじゃない、大変だ」 といいつつ、子供はそのおじさんの顔を踏んでいた。
「大丈夫ぶーい」
 と叫んでいる。
「こやつ、騒ぐとためにならぬぞ」
「ははっ、わかったぞ。おじさんたち、忍びのロボットだね」
「なぜ、わかった」
「だ-って、忍者スーツをきているんだもん」 どーっとすべりそうになるロボ忍者。
「小僧、我々の姿を見たからには生かしてはおかぬ」
「うわっ、やめておくれよ、くれよ」
 そのジャリンコちえじゃない、子供ロボットは逃げようとした
「まて、まて」
 続いて旅装姿の侍ロボットが急に現れ、子供を庇う。
「貴様、何やつ」
 叫び、身構える忍者ロボット。
「待ってました」
 子供は叫ぶ。
 深編み笠が空中に、まるでフリスビーのように勢いよく飛んでくる。すんでのところでこのロボ忍は、深編み笠から逃れた。それは近くのバイオ樹木に深く突き刺さる。
 (こやつできる)
 そうロボット忍者は読んだ。このフリスビー野郎には、助成を頼んだ方が得策だろう。 後詰めの連中が別にいるのである。
「くそっ、皆出て来い」
 まわりに急に黒い影が現れる。
 西日本都市連合の使い忍び十名。
「ただでは帰してくれぬようだな」
 フリスビー野郎が言う。
「さよう、お代を払ってほしい。じゃない。貴様とそのこわっぱ、証拠が残らぬよう分解し、粉々にしてくれるわ」
「それはどうかな。粉々になるのはどちらかなあ」
 その男はにっこりとほほ笑んでいる。
 一瞬後、侍と子供ロボットのまわりをとりかこむロボ忍。
 続いてロボ忍の手から何かが次々と投げられた。手裏剣である。
 が、侍ロボットは瞬時刀を抜き、自在に振り回す。手裏剣はすべて足元に落ちていた。刀を動かす速度は目にも止まらなかった。
「くっ、我らが頭脳手裏剣を落とすとはただ者ではないのお、お主」
 頭脳手裏剣は、小型の電子頭脳を持ち、軌道を計算するいわば小型ロボットである。
「今度はこの刀じゃ…」
 黒い影が一つ、その男に切りかかる。
「まて…」
 ロボ忍者のリーダーが止めようとしたが。一瞬遅く、
「ぐわっ」
 そのロボ忍の体が三つにおろされている。機械油や生命液が噴き出ている。その動きはロボ忍群たちにも見えないのだ。
「見たか、聞いたか、さんまい降ろしの剣」「やったね。ピース」
「いかん、引け。覚えていろよ。お主、名前を聞いておこう」
「名乗るほどではない。が、覚えておくため答えてやろう。拙者、早乙女主水。徳川公国直参旗本ロボット」
「貴様が主水か。いずれ会おうぞ」
 ロボ忍は、名前を聞いて少し驚いていた。 彼らは一塊になり、姿を消す。
「主水のおじさん、助けてくれてありがとう」 子供ロボが擦り寄る。
「まあ、よい。危ないことには近づかぬ方がよい。特にこの御時世ではな」
「おじさん、お願いがあるんだ。俺をおじさんの使い番にしてくんな」
 急に顔を変え擦り寄る子供。
「といっても、お前の体は誰かに所属しているだろう」
「いや、所属していないーよ」
 子供は軽々しく喋る。
「みてごらん。その証拠さ」
 子供は自分の右肩を見せた。右肩にあるはずの登録番号が削り取られている。
「登録番号がないのか。お前、はぐれロボットか」
「ああそうさ、土木建設専用事業団『いろは組』に捕まって、この有り様さ。今この東海道復旧工事に使われているのさ。どうせ、俺が消えたって、わかりゃしないさ」
「そういうことなら、人助け。いやロボット助けかもしれんのお。ついてくるがよい。小僧」
 かねてから、いろは組のやり方には不満を持っていた主水である。
「俺は、小僧ではない。細工師の知恵ってんだい」
「よしよし、わかった、知恵。こちらへ」
 レイモンの一行から少し離れて歩いているいわゆる遊軍の主水だった。主水はゆっくりと木陰から騒がしい一群を、のぞき見た。
「ははん、おじさん、あの行列と一緒にいたくなかったね」
 図星である。
「いや、その、ちょっと、不都合があってな」「不都合って何なのさ」するどく尋ねる知恵。 どぎまぎする主水
「まあ、よいではないか」
「ふーん、まあよいことにしておこう」
 知恵にかるくいなされている。

     (4)
 急ぎ逃げ帰るロボ忍者の一団の前に。
 黒い影が立っていた。
「お頭」一団の誰かが叫んでいた。
 逃げ来るロボ忍の前に一人の男が立ち塞がっるように。怒っているのた。
 全員がおぞけを奮う。
 その男の前に立ち止まり、膝を屈する。
 やがて、その男がゆっきりと口を開く。
「お前たち、早乙女主水とかいう侍ロボットに負けて、しっぽを巻いて逃げてきよったか」 怒りを含んだ声が、彼らの聴覚器に響く。「お頭、申し訳ございません。あやつ思ったより、強く」
 先刻のリーダー格の男がしぶしぶしゃべった。かぶせるように、
「ええい、聞きとうない。主水など、たかが東京城の護衛ロボット。それに比して、我々はロボ忍、伝統ある特殊技能ロボットぞ。よいか、あやつ、今度会いし時、必ずや、血祭りにあげい」
 覆面で見えぬが頭と呼ばれた男の怒りは相当のものらしい。
「わかり申した」
 全員が口を揃える。
「それでじゃ、ロッカン」
 先頭の男に言う。
「はい、お頭」
「おまえは、負けた責任を取れい、死ねや」「おまちください、今一度の機会をあたえてください。今度は……」
「ええい、くだらぬ言い訳など聞きとうないわい」
 その男が光りに包まれる。
「ぐえーっ」
 ロッカンは倒れていた。
「よいか、みせしめじゃ」
「わ…わかりもうした」
 ロボ忍の体が、小刻みに震えている。
 残りの全員が恐れていた。声は小さいが、唱和していた。
「ところで、お頭はどちらへ」
 ようやく、一人が尋ねた。
「水野さまよりの密命じゃ。依頼されて東京城へな」
「東京城でございますか」
 奇異な感じがした。
「そうじゃ、まあ、見ておれ、わしの腕をな。お前たちは、落合レイモンの一行を見張りながら、西日本にかえれ」
 ロボ忍者群は、花村とロッカンの死体を残して走り去った。
(頭もむごいのう)
 これが、彼らの思いであった。

   (5)
 東日本と西日本を分けている部分は、関ヶ原である。
 霊戦争後、東日本も西日本も地形が変化したが、昔の関ヶ原あたりに電磁ベルトが十メートル幅で、日本を分断していた。
 国境ラインに張り巡らされている電磁バリアに加えて、西日本側の前には球形の飾りが数万飾られていた。それが陽光を浴びてにぶく光っている。
 その光の元は、東日本へ逃亡をはかったロボットの頭であった。
 その霧のかかる国境線に、三人のロボットがこっそりと蠢いていた。
 あたりを見回す。
「あんた、大丈夫かい」
 幼い子供ロボットを抱いている母親が、父親のロボットに尋ねた。
 三人ともぼろぼろの風体である。逃亡ロボットである。
「ここまで、無事にこられたのだ。問題はない」
 皆を安心させようと父親は言う。
「でもさ、あのみせしめのロボットの頭ぞろえが不気味だよ」
 母親は、死のあぎとである国境境界線を、首を見た。
「何言ってるんだ。いいかい、何度も話し合ったじゃないか。東日本へ入れば、専門職ロボットには、いくらだって仕事があるんだ。いい暮らしができる」
 希望の気持ちを込めて、父親は励まそうとした。せっかくここまで来たのだ。これまでの苦労が、彼の頭の中で、目覚ましく思い出されて来る。
「本当だね。そうなれば、この子供も人権を認められるという訳だね」
 母親が付け加えて言った。気分を変えようとした。が、
「そうはいかぬが花よ」
 上空から、誰かの言葉が聞こえて来る。
「誰だい」
 二人はゆっくりと回りを見渡す。声が変わっていた。
「ここは地獄の一丁目よ。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう」
 三人の前にロボ忍が数名飛び降りて来る。回りを取り囲んでいた。
「逃がしておくれよ。あんたらもロボットじゃないか」
 哀れをもよおす言葉である。
「くくっ、同じロボットだから、逃がすことかなわぬ夢としれい」
「お金なら差し上げますよ」
 父親は卑屈になっている。
「金なんぞ、何の役に立とう」
「よいか。ロボットの法律。足毛布博士の法則を知っておろう」
「へん、何をいってるんだ。その足毛布だって自分の作ったロボットに逃げられたじゃないか。私ら庶民だって真相を知っているんだよ」
 強気になつて母親が言い返した。
「ふふっ、それを知っているなら、なおのこと生かしてはおけないのう」
「止めてくれ」
 父親がしゃがみこむ。
「せ、せめて、この子供だけでも……」
 母親が泣きをいれる。
「できぬ相談。ロボットの電磁記憶は永久に消えぬ事を知っておろうが」
「やれ」
「あなたら、人間じゃないよ」
 つい母親が、やけくそに叫び声をあげていた。生きる望みが断たれたのである。
「そうじゃ。それゆえロボ忍者じゃ」
 憎々しげにロボ忍は言い、殺戮の喜びに打ち震える。
 三人の回りに一陣のつむじ風が起こった。口をパクパクさせている首が三個残っている。離れたところに胴体がバタバタ動いている。「新しい首の組み合わせ、面白かろう」
「ロボットに対するよき教訓となろう」
「ふははは」
 ロボット忍者にとつてこのような事は朝飯前なのだ。
 笑い声を残し、ロボ忍たちは去って行った。首だけになったロボットには、まだ命の残滓が宿っている。
「あ……、あんた……、まだ意識があるかい……」
 母親のロボットがかすれた声で尋ねる。
「ああ……」
「こ……こんな世の中……、潰れればよいのに……」
「つ……潰れるよ……、絶対にな……」
 声がだんだん小さくなって行く。
 ロボットの生命液が頭部から少しずつ流れ出て行った。
 一陣の風が、彼らの生命を連れ去っていた。

(続く)
■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/


Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.