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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第三章弐

■ロボサムライ駆ける■SF「ロボサムライ駆ける」第3章2
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
     (6)
 そこにはものものしい雰囲気があった。検問所である。
 検問ゲートには装甲車、戦車など重装備の機材がおかれている。誰も通さないぞという意気込みがあたりには、感じられた。
 加えて、クラルテという八足型ロボットに乗った、武士姿の西日本の境界警備員がいた。 遠くからクラルテを見て、主水は尋ねる。「なぜ、あの歩行ロボットをクラルテというのだ」
「昔の話だけど、あのロボットのプロトタイプには人間用の席がなかったんだって」
 小さい声で知恵はささやく。
「ほう、それで」
「いやー、これは鞍がいるでと製作担当者がいったらしいんだ」
「それから、鞍がいるで、↓鞍いるで、↓くらるてと変化した訳か。なるほど」
 という、たわいもないシャレを口にする主水に、
「まて、あやしい。異形のロボット。この関所を通すことは相成らぬ」
 関ヶ原の関所で、武士から主水と知恵は止められる。
 ふとこらから、主水は書類をだした。
「この証明書を見ていただきたい。拙者、早乙女主水。徳川公国直参旗本ロボット。天下御免のロボザムライでござる」
「東日本ではロボザムライとして認めていようとも、この西日本エリアではロボットなど奴隷よ。この天下の公道、ましてやこの関所を通行することは相成らぬ」
 役人は強気である。
 判でおしたような役人の答えだった。いつの時代でも役人は変わらぬのである。
「無体な。拙者はこの証明書にもあるとおり、東日本市民連合に所属する東京エリア霊能師落合レイモン殿の供者として、この西日本エリアにまかりこした」
「レイモン殿は先刻お通りになった。護衛ロボットだと、よけいにこの関所、とおすわけにはいかぬ。貴様武器を所持しておろう」
 役人の表情が余計に険しくなる。
「あたりまえでござろう。刀は侍ロボの命でござる」
「それじゃ。それがよけいに困り申す。通すわけにはいかん。西日本エリアでロボットに武器を持たすなど気違いざたじゃ」
 もめている関所の役人と主水のところへ、具合よく落合レイモンの籠が戻って来た。
 先行していたレイモンは、もめる音声を聞き、後戻りしてきたのだ。籠から顔を出す。「どうしたのじゃ、主水」
「これはレイモンさま。今、この役人より、護衛ロボットは入国できないと申されて、困っております」
 レイモンが助け舟をだす。
「お役人、それではどうであろう、このロボザムライの武器は、私の使い番、夜叉丸が預かるということでお許しくださらぬか」
「ははあ、レイモン様がそうおっしゃいますならば」
 その役人は納得しかけたが、騒ぎを聞き付けた上役がやってきた。この男がもっと煩い。「落合レイモンさまとて、規定外のことは、できもうさん。この護衛ロボットの剣、我が役所にてあずからさせていただきます」
「サムライの命の刀ですぞ」
「主水、しかたあるまい。ここはおれてくれい」
「しかし……落合様」
「まあ……まあ……」
 主水は刀を腰にせず、西日本に入ることになった。
「何か、腰のものがなくなりますと変でございますなあ」
 刀のないサムライロボットは言った。関所を過ぎてしばらくして、原野の国境線にある、ロボットのさらし首の群れにきづく。
「これは一体……」
「こちら側では普通の光景さ-」
 知恵が悲しそうに言う。
「むっー」
 考え混む主水であった。
 一体このような事が許されてよいものであろうか。恐らくこれは足毛布博士もからんでいるのに違いない。ロボットはこの西日本では人間ではなく奴隷なのだ。

    (7)
「レイモン様、ようやく峠を越えましたぞ」 関所から同道している主水は、最初に駆け上がり、近畿新平野を見渡した。
 ここは暗がり峠であった。霊戦争でわずかに残っていた台地である。 
「なんと」
 思わず主水は叫ぶ。壮観である。
 近畿新平野は霊戦争により、様変わりしていた。大阪・京都・奈良・和歌山の山脈は消滅し、フラットな平野となっている。
 ボルテックスによるレザー攻撃でここにあった全日本軍の要塞が潰滅していた。
 が、主水は驚いたのはそのことではない。大阪湾に異様な物を発見したからだ。
 主水の眼が二十倍ズームの態になり、大阪湾上をアップにしていた。ロセンデールの空母ライオンから周囲十キロメートルにわたって電磁バイヤーが張り巡らされている。まるで大阪湾に張り巡らされた『蜘蛛の巣』のようにみえた。
「ロセンデールめ。すでに大阪湾を支配下においたとみえる」
 レイモンが主水のそばにきて、主水の見たる光景を霊力で盗み見していた。
「レイモン様、いったいあやつは……何を狙っているのでありましょうや」
「ロセンデールめ、あせっているものとみえる。ライオンの艦橋部分が霊波を送る中心塔なのだ。その霊波探査能力を倍増するために、大阪湾岸の高い建物のすべてに網を張り巡らせたのだ」
「西日本都市連合会議も市政庁も、何もクレームをつけないのでしょうか」
「恐らくロセンデールのことだ。巧妙な語り口で市政庁をあざむいておるのであろう」
「しかし、それでは、我々は飛んで火にいる夏の虫ではありますまいか」
「主水よ、それに対する古いことわざがあろうが」
「はっ、それは」
「わからぬのか、虎穴にいらずんば虎子をえずという奴じゃ。しかしながら、この虎子は大きいぞ。世界の歴史をひっくりかえすほどにな。ほっほっほ」
 レイモンはゆったりと笑い飛ばしている。
    (8)
 主水たちは宿泊所である新京都ホテルへ入った。
 この新京都ホテルは、鯱をかたちどった五十階建ての建物になっている。
 レイモンの許可を得て、主水は京都市内へ出た。使い番ロボとして知恵を連れている。主水の誕生登録場所は、京都なのであった。 レイモンについてきた主水の目的の一つが、自分の生みの親、足毛布博士に会うことであった。誰も気づいていないのだが、時折主水は病気が出ることがある。この治療について、ぜひとも相談する必要があるのだ。
 突然意識が空白になるのだ。足毛布博士なら、この理由を知っているだろう。
 この主水の病気は、マリアもびゅんびゅんの鉄も、きずいてはいない。
 博士にどのように挨拶してよいものやら、主水は迷っていた。
 実はすでに十分以上も、広大な足毛布博士宅前にたたずんでいるのだ。
「こんちわー」でもなく、「いやーどうもおひさしぶりですー」てなわけにもいかず。そう軽く言う訳にはいかない。
 ともかく、博士が、主水を裏切り者と思っていることはまちがいないのだ。博士の保護から逃げたことは事実だ。
 主水自体のメインボディは、実はアメリカNASA製である。対惑星探査用ヒューマノイドであった。
 NASA特別ロボイド工学研究所で制作中、足毛布博士が主水をつれて逃げたのだ。ちょうどそのおり、あの霊戦争が始まって、地球上のすべての観念が少しばかりシフトした。 足毛布博士は、NASAのロボットに日本精神を吹き込んでいた。それゆえ、サムライロボットとして。主水が再生され、誕生したわけである。
 徳川公国、旗本ロボットに迎え入れられたのにも一悶着があった。
 現在でも、足毛布博士は、主水を自分の手にとりもどそうとしている。
 主水としては、今、自分の身に起こっている体の不調調整がどうしても必要であった。それも誰にも知られないうちに。どうしても足毛布博士に会う必要がある。意識を高揚するいわゆる強化剤が、あるはずなのだ。
 意を決して門の呼鈴を押した。
 門にあるポールのモニターがついた。『どちらさまで』
 コンピュターグラフックスでかかれたキャラクター顔がロボボイスで答える。
「足毛布博士にお取り次ぎいただきたい。拙者早乙女主水と申す者でござる。そういっていただければわかるもうす」
『博士はご在宅ではありません』CG顔は愛想なくそう答える。もっともCG顔に愛想を求めても無理な話だ。
 おかしい。
 主水の第六感がそう告げている。
 生物体の反応がないことに主水は気付く。加えて、恐るべき悪気が屋敷に残っている。この悪気は、何だろう。主水と知恵は、屋敷内へ忍び込むことにした。
「いくぞ、知恵」
「がってんだ-い」
 二人は裏手の壁からジャンプした。瞬時、二人の体を電光が包んだ。泥棒避けの機構が作動したのだ。
「あいたっ-たー」知恵が叫ぶ。
「あいたいのは、わしじゃ、知恵」
「違う、違う。か…、体が…あいてて」
「そうじゃ、わしはててごにあいたい」
「痛い、痛い……。そのシャレに腹もいたい」 何とか着地する。が一難去って……
 突然、声がする。ロボットドーべルマン犬だった。
 主水は、飛び込んで来る犬をつかまえる。そして犬のある所を強く押した。瞬時、倒れるドーベルマン。
 犬の首にある生命点を圧し、眠らしたのだった。
 邸内に入った。
 博士の研究屋は荒らされていない。が、何かの想念が残っている。どうやら、足毛布博士は、いずこかにつれさられたらしい。ロセンデールだろうか。が、なぜだ。主水は何かの手掛かりをさがそうとする。
「主水のおじさん、何かが落ちてる」
「拾い物はお前もだ」
「何を言ってるの」
 知恵が拾ったものを手に取ってみる。
「これは一体、何なの」
 知恵が尋ねる。それは六角形のペンタグラムだった。
「これはユダヤ教の印だが」
 主水は首をひねる。
「足毛布博士って、ユダヤ教徒だったの」
 知恵が、主水にも思いがけない質問をした。「いや、そんなことはないはずだ。博士は、由緒正しき仏教徒だったはずだ。なみあむだぶつ」
 といいながら、片手拝み。が、はたしてという恐れが主水の心の中に芽生えている。
 今一番の主水の恐れは、足毛布博士がいないことだ。博士がいなけければ、意識をはつきりさせる強化剤の調合法がわからないのだ。家に来た意味がない。
 一体どうすればいいのだ。主水は悩んだ。「この人は誰」
 机の上に飾られていた立体写真を知恵は持って来ていた。
「お前、泥棒なれしておるのう」
「そんなにほめられたら、てれちょうよー」 知恵は頭をかいた。
「写真の人は、主水のおじさんじゃないの。そっくりじゃない」
 が、主水のはずはない。違っている。服装が霊戦争以前のものだ。その男は、主水と同じ顔をしているが、ロボットではなく、正真証明の人間だった。
 主水には写真を撮られた記憶はない。
 もし、この男が死人でいないとするならば、足毛布博士の法則に触れる。

 足毛布博士の法則『現在生存している人間の顔をコピーしてはいけない』

 写真をよくみる。主水の生まれる前の日付が写真に焼きこまれている。が、その写真を主水は見た記憶がないのだ。足毛布博士には、主水と同じ顔をした息子がいたことになる。が、そんな話は聞いていなかった。
 早乙女主水の顔は、息子に似せて作られたのだろうか。はたして博士に息子が……。考え込む主水であった。
 ロボットの顔は、作り手の好みによって作られているのだ。ある者は自分の昔そっくりに。ある者は死んだ恋人に。
 二人は行方をしる手掛かりなく、博士の邸を辞した。

    (9)
 それは巨大なガラス箱に見える。
 西日本都市連合の議場は、京都郊外にある新京都ドーム都市の中に造られていた。
 この議場全体は透明強化プラスチックフレビレンガラスのドームで覆われている。中から近畿の外界がよく見えた。西日本の各市を代表する代議員が、--各市の場合、市長が多いのだが、--その一人一人がこの議場に送り込まれていた。
 近畿新平野がフラットだけに、ドームからはすべての町々がよく見える。レザー光線がよく届くのだ。
 各議員は、丁髷の上にヘッドベルトを巻いている。その後半分にレザー光線集約装置がついている。レザー光線は各都市の市議会との連絡ができる。直接アクセスができるので、嘘の発言はできない。
 各都市の市章が、各々の羽織りに鮮やかに描かれている。
 各々武士階級の出身者が多い。がしかし、腰の大小は議会場内の持ち込みはご法度となっていた。
 いよいよ、全国都市会議が開催されたのだ。 が、いかんせん意見の一致するところは少ない。
 二十年前に起こった「霊戦争」の影響で、日本は東西に大きくわかれていた。ロボット奴隷制の西日本と、ロボット自由主義の東日本である。
 霊戦争のおり、東日本では人間が数多く亡くなり、社会のシステムとして、ロボットに人権を与えなければ立ち行かないエリアとなっていた。それゆえ、統一国家としての日本の態をとるのは非常に難しい。それは「霊戦争」以後、どの国も同じであった。
 落合レイモンは、東日本を代表してこの会議に出席している。
 東日本側の立場としては、統一を望んでいるのが事実だ。現在の関が原関所により人的交流、ロボット的交流が阻害している現在では、日本国家としての発達は望めなかった。加えて、レイモン、あるいは、徳川公国の徳川公廣にとって、心を曇らせているのは、ロセンデールの動きである。
 ロセンデールは神聖ゲルマン帝国の後援を受けて、日本へ来ている。
 神聖ゲルマン帝国は、日本が再び統一国家として国力を充実するのを望んでいない。極東の分裂国家として存在してもらう方が、有り難かった。つまり、支配しやすいと言う訳だ。

 落合レイモンは、議場で訴えていた。
「日本は、心柱(しんばしら)によって統一されるべきです」
「その心柱というのは、実際どこに存在するのだ」
 議場のあちこちから罵声が飛んでいた。レイモンは声をおとした。
「西日本の方々、真実を申し上げましょう。その場所はすでに発見されておるはずです」 レイモンの顔は自信に満ちている。レイモンのこの発言の後、会場は一瞬無言となり、それから蜂をつついた騒ぎとなった。人の頭があちこちしている。熱気がドームを包む。「どういうことだ」
「説明しろ」
 がなり声がつづいた。
 続けてレイモンは、指で指し示しながら
「西日本都市連合の議長、水野栄四郎殿がすべて、ご存じのはずだ」
 『議長団席』の一角に占める水野の方に、人々の眼が集まる。議員の一人が言った。
「本当ですか、水野様」
 水野は二メートルもある長身を急に立ち上がらせた。場内は水を打った静けさとなる。皆聞き耳をたてているのだ。
「諸君、落合レイモン殿の諌言に惑わされてはなりませぬ。レイモン殿は、我々西日本の纏まりを壊すためにこの会議に派遣されてきたのだ。我々が、その心柱を探すために何年かけてきたと思う。ここで説明しておこう。ロセンデール卿に心柱を探すことをお手伝いしていただいておるのは、卿が優れた霊能力者であり、かつて各国の心柱の幾つかを発見なさっておるからだ」
 水野は断固とした口調で、すべてを締めくくった。会場が落ち着く。が、再び、
「まて、水野殿。ロセンデール卿は各国の心柱を発見することによって、その国を神聖ゲルマン帝国の支配地にされなかったか。ロセンデール卿こそ、新しい帝国主義のまわしものであるこに、諸君は気がつかれぬのか」
 レイモンは言い切った。再び、爆弾発言である。
「誹謗だ。誹謗だ」
 議席のあちこちから声が上がり、レイモンに向かって人々がこぶしを振り上げ殺到してくる。議会はパニック状態になる。
「いかん、主水。レイモン様をお助けしろ」 夜叉丸は立ち上がった。議場の控室にいた主水の耳のレシバーから、レイモンの付け人夜叉丸の叫びが響いた。
「レイモン様を無事に議場から脱出させよ」「が、夜叉丸殿。議場警備員たちに任せた方がよいのではないか」
「馬鹿者。あの議場の暴徒の中に、ロボ忍が交じっておったらどうする。あやつら、レイモン様を誘拐し、心柱の利用にレイモン様の力を使うつもりだ。わたしの後に続け」
「道を開けろ」
 主水は叫んで、飛び出して行った。
「こやつは」議場の警備員が罵声をあげる。 議会は混乱状態だ。そこに主水が飛び込む。「ロボザムライだ」
「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」
 ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。「むっ、しまった」
(しまったのは、西日本の役人だが…)
 むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。
 主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。
 但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。
 すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。
 数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。
「レイモン様、ともかくこの場をお離れください」
「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」
 レイモンは我と落ち着いている。
「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」
「夜叉丸どのは……」
「私は、後ずめじゃ」
「こころえもうした」
「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」
「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」
 一言付け加えるレイモン。
 主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。
「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。
「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。
「何物じゃ、お前は……」
「こおいうものじゃ……」
 数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。
 その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。
 いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。
 ようやく議場外の回廊に出た。が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。
「レイモン、まて、売国奴め」
 男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が……
「いかん」
 主水はナイフの前に自らの身を投げた。
 が、その一瞬主水の持病が出た。その時精神が空白となる。主水の体は倒れる。主水の体重は並の重さではない。人間の三倍はあるのだ。
 ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。
「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。
「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」
 まわりの人々が走り寄る。
 警備員がようやく気付き走ってくる。
「何だと」
 人々は殺気立っている。
「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」
 再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」
 口々に人は糾弾する。
「この男がナイフを…」
 が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。
「レイモン様、ご助言を」
 振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。
 呆然とする主水。
「これは、一体……」
「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」「何をいうのじゃ」
 主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。
「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」
「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」
 議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。
 廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。
 ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。
「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」
 声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。
 そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。
「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」
 冷たい声音であった。
 恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。
 死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。
「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」
「そうだといえばどうする」
 ニヤリと笑う死二三郎。
「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」
 主水に武器がないことに気付く。
「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」
 そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。
「かたじけない」
 主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。
 そう言った瞬間、相手は動く。
「ぐっ」
 ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。
「ひきょうなり」
 主水の左腕が見事に切り離されていた。習練の早業である。痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。
「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」
 この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。
「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」
 護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。
 死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。
「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」
「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」
 護衛は呼ばわった。
「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。
「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」
「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」
「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」
「死二三郎、待て」
 護衛全員が叫ぶ。切りかかろうとする死二三郎。
 その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。魚のかわりに、ロボットだ。死二三郎は黒焦げになって倒れる。議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。「こやつは狂犬か」
 護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。
「いいや、狂犬より始末に悪い」
「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」
 護衛同志の会話である。
 左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。
「ええい、このロボットもからめとれい」
 電磁網が天井から降りてくる。
 電撃が主水の体を走る。
「いかん、わしも魚か」
 主水の意識がフェイドアウトした。

    (10)
 新京都ホテルのレイモンの部屋をノックするものがある。
 レイモンは何とか夜叉丸に助けられ、ホテルまでたどり着いていた。主水の行方は連絡が入っていなかった。
「レイモン様でございますか」
 裃を着た見知らぬロボットが、レイモンの部屋の前に立っていた。
「どちら様かな」
 夜叉丸が尋ねた。
「我々は西日本都市連合の使い番でござる。レイモン様の今昼の会議での発言は波紋を呼び起こし、レイモン様を狙う者多しと聞き及びます。どうぞ速やかに、我々の保護下にお付きくださいませ」
「西日本都市連合の使い番じゃとすると、水野殿よりの使いか」
 レイモンが尋ねた。
「さようでございます」
「どうするかのう、夜叉丸」
 レイモンは背後に控える夜叉丸に尋ねた。「せっかくのお召しでございます。お断りになられては角が立ちましょう」
 夜叉丸は少し考えて答えた。
「そういうことじゃな。それではその方々とまいろうか。のう、夜叉丸」
 が、使い番ロボットは異をとなえた。
「お待ちください。その夜叉丸殿の保護、我々は聞いておりませぬ」
 その物言いにレイモンは、顔を曇らせる。不快なのだ。
「それは困った。この夜叉丸は俺の体の一部でのう。手や足と一緒なのじゃ。切り離されては俺が動けのうなる」
 使い番ロボットはしばらく考えていたが、「わかりました。夜叉丸殿のこと、我々は聞いてはおりませぬが、とりあえず一緒にお越しくださいませ」
 レイモンと夜叉丸は、政庁のまわした、かご型小型バンに乗り込んだ。
「お上、いよいよ我々の思いどおりに」
 夜叉丸が言う。
「そうじゃ、そのように進んでおる」
 レイモンは薬タンクからのコードをジャリといわせた。
 バンがたどり着いたところは、政庁である。会議室に入る。
「お待ち申しておりましたぞ、レイモン様」 水野が議長席に座っている。
「こちらも待ち兼ねたぞ、水野殿。早く我々にいつ心柱を見せて欲しいのう」
 レイモンはにやりと笑いながら落ち着いていった。が、その言葉はの先制攻撃はかなり効いたらしい。
「……」
 絶句する水野。
「わからぬと思うたか。どうせ今おまえたち西日本の霊能師が困っておるのは、化野の存在であろう。そのようなこととっくにお見通しだわ」
 レイモンは続けた。
 突然、背後から新たに声が飛んできた。
「それでは、いよいよ、私たちを助けていただけますか。かっての打ち合わせのとおり」 見目美しい男が、パーテーションの背後から現れて言う。ロセンデールだった。
「これはロセンデール卿か、おひさしゅうござる」
 レイモンが頭をたれた。
水野は、目を白黒させている。

     (11)
「サイ魚法師、なぜしくじったのですか」
 ロセンデールが、空母「ライオン」の士官部屋で詰問していた。サイ魚法師は、ロセンデールの怒りの前でただただ恐縮しているばかりであった。
「いかんせん、主水の方が強すぎました」
 ぼそりと言う。まるで先生に起こられている生徒である。
「強すぎたとですと、それは聞けませんねえ。あなたが、私たちに最初売り込んだ言葉を、お忘れですか。あなたは主水の弱みを握っていると言ったでしょう」ロセンデールの言葉がチクチクとサイ魚法師の体をさす。
「そのとおりです」
「ですが、あなたは主水の始末を東京湾でしくじってしまった。おまけに潜水艦を一隻なくしまった。さらには潜水艦をもう一隻貸せとおっしゃる。何を考えておられるですか」 ロセンデールは、美しい顔に怒りの表情を表していた。急にロセンデールの顔は醜くなる。冷たい暗い表情である。
「もうよろしいです。契約は終了です。すでに、主水は我々の手にありますからね」
「何ですと、主水が……」
 絶句する法師。顔色が変わっている。
「おや、どうかされましたか」
「いえ、何でもありません。が今どこに」
 法師としては自分の手で主水と戦いたかったのである。
「そんなことは、あなたには関係ないでしょう。あなたはもう、おはらい箱です。もうあうこともないでしょう」
 ケープを翻してロセンデールは、法師の前から去った。ロセンデールの部屋から出て、「こなくそ、今にみておれ、ほえずらかかせてやるわ」
 つぶやくサイ魚法師だった。
「が、主水め、一体どこに」
 首を傾げるサイ魚法師だった。サイ魚法師は、本日の都市会議での騒ぎを知らなかったのである。

(続く)
■ロボサムライ駆ける■
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