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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第四章弐

■ロボサムライ駆ける■第4章2
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
   (4)
 主水が、ぼんやり地上リクライニングゾーンで休んでいると、あるものが目に飛び込んできた。土煙が上がっている。一体あれは……。
 八足歩行タイプロボットのクラルテが疾駆してくる。乗り手はいない。それが途方もないスピードで走っている。文字どうり爆走であった。
「危ないぞう」
「みんな、逃げろう」
 人々は口々に叫んでいた。
 主水の目は何かに気付く。
 進行方向に逃げ遅れた人間の子供がいる。体を強張らせている。その子の姿に主水は気付く。その子は道の真ん中で立ちすくんでいる。
「あれは…」
 高い階級に属しているらしく金のかかった服装をしている。日よけ傘がそばに落ちている。それを持っていた子供のお供のものどもは、我先に逃げてしまっている。
「ううん、何て奴らじゃ。主人をほおって逃げてしまうとは」
 主水は助けようと決意する。助けるにはリクライニングゾーンの結界である電磁ビームの中を突き切らねばなかぬ。
 主水の疑似皮膚がバチバチと音を立てていた。いままで経験したことのない痛みの感覚が、主水を襲った。
「待て、こやつ逃げるでない」
 見張りロボットが飛んで来る。主水はそのロボットを殴る。
「むぐう、何のこれしき」
 主水は意識を失いながら、電磁バリアを突き切っていた。
 痛みより、その子供を救おうとする意志のほうが強かったのだ。主水は子供のほうに走り出していた。
 背後から警備ロボットのレイガンの光条が追いかけて来る。
 目の前に子供が見えた。主水の体が飛び出す。眼前にクラルテの足が見えていた。主水は「クラルテ」の走る一瞬前に、体を投げ出し子供をかかえ横に転がる。
 クラルテは主水はの上を走り抜ける。地響きがした。クラルテの八足のうち二足が主水の体の上を走り抜ける。
 瞬間、火花が散る。
「くくう」
 数トンの重みが一瞬主水の上を通り過ぎたのだ。さすがの主水もこれは効いた。
「指圧よりすごいのう」
 負けず嫌いの性格である。子供は気をうしなっている。
 クラルテは主水を一度はねた後、急に止まっていた。後ろを振り返る。再び主水はと子供の方に探査アイを向けた。何かと間違えたのだろう。
 すでに狂っている頭脳は、主水を敵と勘違いしたようだ。
「わしはロボットじゃ、気付かぬか、このクラルテめ」
 が、クラルテはそんな主水の言葉を無視して、反動をつけて主水の方へまっすぐ向かってくる。
 主水は、立ち上がり、右手を握り締めて身構えた。勢いづいたクラルテの一足が、主水の方に蹴りかかろうとする。
 その一瞬、主水の握りこぶしがその一足を殴る。接合足の一番脆い部分だった。パワーとパワーがぶつかった。グキッといやな音がした。
 主水の体は右横に投げ飛ばされる。主水の右肩の蝶番が半分ねじまがった。が、クラルテの一足も折り曲がる。バランスを失ったクラルテは、ドウと地響きをあげて、そばに倒れる。
 主水は投げ飛ばされたところから、子供を目がけ走った。主水は左手で子供を抱え、その場から逃げ去る。クラルテの残り七足が跳ね回っている。
 警備のロボが刀でクラルテの頭脳部分を切っていた。
「大丈夫か」
 倒れている主水の方にやってきた男が言う。「お手柄だな」
 主水は安堵のため息をつく。
主水は、休息所に連れて行かれた。

 その夜休息所で寝ていた主水は、たたき起こされる。顔見知りの看守だった。
「おい、ここからでるのじゃ」
 看守が言った。
「一体、どこへ」
「しっ、お前をここから出してやろうというんだ」
 長い通路を看守に連れられて歩く。機械城から出た主水を、ロボ馬車が待っていた。看守は、きびすを返してすぐに消える。
「いかりの長介さんだね」
 立ち尽くす主水に、馬車のドアが開いた。中にいる男がいった。四十からみのにがりばしったいい男である。
「いえいえ、私はけっして怪しいものじゃありません。大黒屋昭八と申します。どうぞ内へお入りください」
「その大黒屋どのが」
「いえ、昼間のお礼でございます。いいですか、『いかりの』さんは死なれた。そう全ロボットデーターベースには打ち込まれているはずです。今夜から、手前どもの剣闘士、松前さんになつていただきます」
「剣闘士ですと」
「おいやなのでございますか」
 が、主水はうれしくはない。剣闘士の試合は人間に見せるためのロボットの潰しあいだ。「その件について検討したいといっても、許すあなたではありますまい」
「そういうことですな」
 大黒屋は主水のシャレに真面に答えた。
 馬車は、御用商人大黒屋の家にたどりつく。かなりの家作である。大黒屋富のほどが知れた。主水が昼間クラルテから助けたのは、御用商人大黒屋の子供だった。この商人大黒屋は、政府に顔がきくらしく、お陰でこの商人直属の剣闘士の身分にとりあげられたのだ。「松前さん、都市連合主催の剣闘士大会に出てみないか」
 ある日、大黒屋は急に話を投げかけてきた。大切な話を事もなげにである。
「長介、僕も応援するからね。がんばってね」 側に擦り寄ってきた、息子竜之介が頼もしげに言う。主水が助けた子供である。主水に懐いていた。
「竜之介もこう言っているんですよ。主水さん、ひとつお頼み申し上げます」
「大黒屋さん、その戦いによってあなたも利を得るわけですか」
「えっ、と申しますと…」
「賭けか何かあるんだろう」
「だんな、慧眼ですね。そのとおりです。だからお願いしたいのです」

   (5)
「姐さん、よい眺めですぜ。さすが徳川様の空軍飛行船てわけだ」
 鉄が飛行船の窓から眺めている。
「まあ、鉄、いい年をした大人ロボットが、それほどよくはしゃげるものですねえ。飛行船に乗ったというくらいでねえ」
「だって、姐さん、私しゃこう見えても、空を飛んだのは初めてなんですよ」
「さようですか、よく高所恐怖症じゃなかったことですね。それに私たちは、これから物見遊山に行く訳じゃないのですよ。西日本のロボットと、ひょっとしたら戦わなきゃいけないんですからねえ」
「戦いですって。ああ、胸が高鳴りまさあ。おまけに姐さんの前で、いい格好ができるなんて、最高じゃありませんか」
「鉄さん、あなた、ひょっとして、私に惚れてる訳じゃないでしょうね」
「ね、姐さん。何を言い出すんですか。姐さんがだんなの内儀だってのはよくわかっていまさあ。ははあっ」
 と笑いでごまかす鉄。
「そうですか。それならいいんですけれど。あなたのはしゃぎの一因は、私と旅行できるからではないかと考えましてね」
「そりゃないですぜ、姐さん」
 内心ドキッとする鉄。といいながらも、顔を赤らめる鉄であった。
「大変です」
 ドアをノックして、徳川空軍の佐久間大尉が入って来る。
 空軍の軍服は空色のモンペ服の上に陣羽織を羽織っている。肩章には階級が示されている。また、背中には三つ葉葵が白で染め抜かれていた。
 佐久間は面長で彫りの深い顔をしていた。どうやら徳川公廣の親戚筋らしい。
「どうかいたしましたか、佐久間大尉」
「現在、本船は西日本と東日本の境界近くまで飛行してきておりますが、敵が現れました」 佐久間は顔を高潮させていた。
「敵だって、そいつはいけねえや」
 鉄が起き上がり、片腕をまくりあげた。
「気の早い人ですね。空のうえで殴り合う訳じゃないんだから、なんですか、その腕まくりは」
「すみません、つい、地の上の戦いと間違いまして」
 鉄はぼりぼりと頭をかいていた。
「ともかく、お二人とも操縦室のモニターをご覧ください。どうぞこちらへ」
 佐久間は二人を案内する。二人は佐久間に従い、通路を歩む。
「鉄さん、うれしいでしょう。コックピットを見せてくれるんですからね」
「そりゃ、うれしいでさ。願ったり叶ったりとはこのことだ」
「鉄さん…」
 いいながら、急にマリアは立ち止まり、鉄の顔を見た。
「何ですか、姐さん」
 何事かと期待してマリアを見返す。
「では戦いが始まったら、あなたの男っぷりてものを見せていただけるのでしょうね」
「がってんしょうちのすけでえ」
 佐久間大尉は鉄の様子を見て首を竦めた。こいつはだいじょうぶかという顔付きである。「どうぞ、こちらです」
 ドアを明けた。コックピットに入る。たくさんの徳川軍の空軍兵士が働いている。
「うわっ、思っていた以上に広いや。ねえ、姐さん」
 鉄が突拍子もない声を張り上げて、片手で額を打った。
「うるさいですわねえ、私はヨーロッパから日本へ来たとき、小型気球に乗ったり、飛行船に乗ったりして、うんざりしているのです」「どうぞ、あれが敵の姿です」
 佐久間大尉が操作卓の上にあるモニターテレビを指し示した。
「何だ、ありゃ」
「どうやらタコのようです」
 佐久間の間の抜けた返事である。
「タコだって、タコってのは海の底にいりゃいいものおよ」
 鉄は強がっていた。軽量で張力のある高密度繊維で編み上げられたタコが、境界線上にずらっと揚げられていた。西日本都市連合があげているタコだ。上空からの侵入を防ぐためらしい。
「姐さん、何かタコの下に見えますぜ」
「何かの重しでしょうね。見せていただけますか、佐久間大尉」
 その物体に飛行船の監視カメラがズームした。
「これはひどいですねえ…」
 思わず顔の表情が強張るマリアだった。
「こいつはあんまりだ」
 鉄も表情が変わった。
 国境から逃げようとしたロボットの首が、各々のタコの飾りにつけられているのだった。「数枚のタコには、どうやらロボットが乗っているようです。しかもロボ忍です」
 佐久間大尉が告げた。
「おもしろいじゃないですか」
「たぶん、あやつらは、この飛行船の気球部分に爆発物を飛ばすつもりでしょう」
 佐久間が述べた。
「それじゃ、あやつらに、火器じゃなく、火気厳禁と言ってやらなきゃなりませんねえ」「鉄さん、あなた…何を。私の怒りが爆発しますわよ」
 たしなめるマリア。が、しゃれを言った鉄に、コックピットの全員から、冷たい視線が投げ付けられた。
「へい、どうもすみません」
 縮こまる鉄。
「さあ、ここが正念場ですよ、鉄さん。あなたに働いて貰いましょう」
 鉄にとっては目が覚めるような言葉だった。「ええ、姐さん、私が何を」
「こちらもタコを飛ばすのですよ」
 にっこりしながら言うマリア。
「それで、まさか…」
 悪い予感が鉄の頭をかすめる。眼を白黒させる。
「そうです、その通りです。あやつらのタコを叩き落としてほしいのです。何、すべてを落とせと言うわけではありません。この飛行船の通る範囲内でいいってことです」
 当たり前のように簡単に、マリアは言う
「無茶だよ、私しゃ、高所恐怖症なんですよ」 鉄は冷汗をかいていた。
「さっきはそうは言わなかったでしょう。ほら、落ち着くために特別の機械茶を飲ましてあげるますから、がんばって」
「もし、私の乗ってるタコが切られたら」
 鉄は、タコの落ちる姿を想像し、がたがた震えている。
「そりゃ、あなたごと落ちるでしょうね」
「ね、姐さん。本当にわたしに戦えっていうんですかい」
「当たり前じゃないですか。いいですか、鉄さん。あまり動くんじゃないですよ。縛れないじゃないですか」
 鉄の体はタコに縛り付けられていた。
「いいですか、空軍のだんな方。絶対タコの糸を切り離さないでくださいよ」
「おお、心得ておる」
 鉄と対照的に、話の経緯に、にこにこしながら答える兵士たち。
「で、お助けをしてくださらないんで」
 鉄は足をがくがく痙攣させながら、マリアや空軍兵を一通り見渡した。皆知らぬ顔である。
「貴公、一人で充分だろう」
 佐久間空軍大尉が言う。
「鉄さん、震えているんじゃないでしょうね」「え、姐さん、こいつは武者奮いって奴で」「それじゃ、いいかですか。そうれ。外ですよ」
 鉄の乗ったタコは飛行船から押し出される。「ま、まってくだせえ。まだ心の準備があ…」 言葉を言い終わる前に、鉄はタコごと空中に浮遊していた。
 真下は関が原らしい。雲の間から復旧しつつある東海道がぼんやり見えた。
「いっ一体、どうやって動かしゃいいんだ、これは」
 鉄は独りごちた。
『鉄さん、早く敵の方へ行きなさい』
 耳のレシーバーから、マリアの声が入って来た。
「あっ、姐さん。姐さんの声を聞けるだけでも、たくましい限りだ」
『いいから。ほら、奴らの方が、もうやって来ていますよ』
 そういっているうちに、鉄のタコのまわりを、ロボ忍のタコが囲んでいた。
「や、やい。俺を誰だと思っていやがるんだい。東京じゃ、ちょっと知られたお兄さんだぞ」
 ひびりながらしゃべる鉄。相手のロボ忍が笑いながら言う。
「ほほう、威勢だけはよいのう」
「あ、あっしの頭を聞いて驚くな。早乙女主水のだんなだぞ」
「何、早乙女主水だと」
 ロボ忍の数人が、あきらかに顔色が変わっていた。
「どうだい、驚いたかい」
 鉄はいばるが、逆効果だった。相手の様子が険しい。
「早乙女の使い番とあらば、尚のこと、生かしてはおけぬ」
 逆にロボ忍の殺意をたぎらせてしまった。「旦那は評判悪いねえ。いや、その、あの、生かしてはおけぬなんて。もちょっと…」
 慌てて、何とかごまかそうとする鉄。
「各々方かかれい」
 ロボ忍の一人が命令する。
「助けてくれ」
 鉄はとうとう悲鳴を上げていた。悲鳴にもかかわらずタコが近づいて来る。刀を動かす音が数秒続く。鉄は思わず、目を瞑った。
「うっ、ややられた。おいらもここで終わりか…。早乙女のだんな、許しておくんなさい。鉄は役に立ちませんでした」
「本当に役立たずですよ。鉄さん、目を開けてご覧なさい」
 マリアの声だった。目を開く。まわりのロボ忍は、すべて倒され、タコの上でぶらぶら動いている。目の前にマリアが浮いている。「こりゃ、一体、マリアのお姐さんが」
「当たり前ですよ。私のサーベル『ジャンヌ』の錆になっていただいたのです」
 マリアは小型のジェット推進機を背中に背負っている。愛用のサーベル「ジャンヌ」を手に持っていた。
「あ、あっしは餌って訳ですかい」
 鉄は気づいた。
「そういう訳ですよ」
「そいつは姐さん、あんまりだ」
「何いってるのですか。お陰でロボ忍を片付けられたのですよ」
 徳川空軍・飛行船は、西日本都市連合の領土に入っていた。
    ◆
「さて、さて、松前さん。あなたはどの試合に出るつもりですか」
 御用商人大黒屋は、主水相手にどんどん話を広げていく。大乗り気なのである。
「いやいや剣闘士といっても、日本武道のことです。いろいろなコースがある。相撲、弓道、剣道、槍術、薙刀、鎖鎌など。なんでもござれだ。それにこの特殊技術を練習する道場があるのですよ。道場の経営は西日本都市連合が当たっておるから、心配はしなくてもよろしいですよ。そこらの偽者の「ロボット道場」とは違いますからね。さあ、どれを選びなさる。ロボット空手か、あるいはロボット柔道か。またはロボットレス(ロボットレスリング)か」
 大黒屋は顔を真っ赤に興奮している。
「大黒屋どの、やはり私は…」
 冷たく断ろうとする主水だが、
「何を選びなさる、思うとおりおっしゃってくださいな」
 とうとう大黒屋に押し切られる形となった。
     ◆
 新平野にある大阪市の中央に、その建物『ロボット道場』は設けられていた。まるで円盤が着陸したように思える。大きい。西日本都市連合議場と同じ広さ、あるいはもっと広いかもしれない。
 剣闘士道場の中に入った主水は、驚いた。これは東日本以上だと思った。巨大なアスレチックジムが数十個ある感じなのだ。
 ジムといっても人間のように筋力をトレーニングによって増強するわけではない。反応速度、ジョイント部分の潤滑、電子頭脳のシノプス反応、計算速度、試合の分析・解釈、試合例を、電子頭脳に読み込んで行くのだ。 廊下にはずっーと、剣闘士大会の優勝者の立体写真が並んでいた。
「これは…」
 ゆっくりと、主水はその顔を見ていく。
 松前の名前で登録されている主水はトレーナーに尋ねた。
「思われるとおり、優勝者だ」
 トレーナーはにこりともせず答えた。
「今、彼らはどうして…」
「それは…」
 案内するトレーナー・ロボットは言葉を濁した。
「残念ながら、ロボット廃棄処分になったとか」
 しゃれを言い、事実を知ろうとした。
「そういう訳ではござらん。皆データバンクに生きてござる」
「データバンクに生きてだと」
 主水は悲しくなった。つまりは優勝者はだれも生きてはいないのだ。
     ◆
「戦いとは、対戦相手の息の根を止めることじゃ」
 主水の前にいる老剣闘士トレーナー『吉野工作』が言った。
 怜悧な、あるいは無表情とも言える顔付きで、白髪である。作務衣を着ていた。体にむだな動きがない。流れるようである。
「吉野様、ではいかなるときも、対戦相手を殺せとおっしゃる訳ですな」
 主水は勢い込んで尋ねた。
「そういうことじゃ」
「トレーナー吉野殿、何のために相手を殺すのですか。同じロボットなのに」
「ほほう、松前殿は、そのような基本的なこともおわかりにならぬのか」
「さようでございます。私め、主人の大黒屋様から剣闘士になれと指示されただけで…」「ロボットの戦いは、持ち主の自分の名誉のためじゃ」
「名誉ですと、人間の名誉のためだけですか」「さようじゃ、松前殿、我々が存在できるのはそのため。人間のために死ぬことは当たり前じゃろう」
「それは足毛布博士の公理でございますな」 足毛布博士の法則『ロボットは、人間の利益のために死ぬべきである』
「そうじゃ。どうやら、合点がいかぬようじゃな」
「吉野殿。我々は、人間に作られたとはいえ、生命体でござる。つまり新しい個性でござる」 主水は力み、主張する。
「いやはや、危険思想じゃのう。足毛布博士が聞かれたら、どう思われることか」
 吉野は頭を振りながら暗い顔をする。吉野は考えていた。
『このロボットは危険思想の持ち主じゃ。試合中に潰してしまわねばならぬ。後で競技委員会に連絡しておくべきじゃ』
 実際、同じような質問をしたことのある主水であった。
 主水が足毛布博士の元から逃亡したのも、その議論が原因なのだ。
 主水は、深い記憶の層から、何かが浮かび上がって来るのを感じている。
 霊戦争以前ロボリンピックという競技大会があり、ロボット同志がおのが技量を競ったことを。そのメモリーはすべてのロボットの基本フォーマットの中に残っていた。それはそれはすばらしいロボット同士の競技会であった。ロボットはロボット自身の名誉のために戦ったのだ。
 力士ロボットの一人が、主水の側まで近づいてきた。
 剣闘士トレーニングセンターの一室にいた。 大きい。二メートルくらいだが、体重は四百キロはあるだろう。
「俺は大樹山よ。主水、覚えているか」
 急にそいつは話しかける。この力士は、主水の本名をしっていた。
「大樹山殿、申し訳ないが、とんと」
 主水は首を振った。
「貴様は俺の舎弟を殺したのよ」
 主水の記憶メモリーバンクの中で、何かがくるくるまわっていた。
「そうか、あのとき、貴公が…」
 主水は、徳川公が臨席される天覧大相撲大会に付き添いとして参加したことがある。
 そのおりのこと、ロボレスの唐海が、大相撲場所に殴り込みをかけてきたのである。
 唐海はロボ相撲の昇進試験に問題ありとして、ロボ相撲を去り、ロボットプロレスであるロボレス協会に所属を変わったものであったが、意趣返しのためこの天覧相撲大会を混乱に陥れようとして、ロボット相撲ホールに暴れ混んできたようだった。
 そのとき、主水は徳川公を守るため、唐海を切り殺していた。
「それでは大樹山殿は、唐海関の兄弟子であられるか」
「そうじゃ、剣闘士大会のおり、楽しみにしておるぞ、主水」
 どすの効いた声でしゃべり、大樹山は、どすどすと足音もはでに、去っていった。
「この大樹山とは戦わねばならぬのか」
 主水は思った。何という因縁の中に生きているのじゃ。
もう一つ心配なことがある。この試合を見れば、足毛布博士が気付くかも知れぬ。さらに、ロセンデールがいればもっと悪いことになろう。

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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