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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ロボサムライ■第七章血闘場

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■第七章 血闘場

   (1)
「だんな大丈夫ですかい」
 なつかしい声が主水の耳元に響いた
 びゅんびゅんの鉄が急に現れていた。
「ありゃ、殿様もおられる。これりゃ、殿様誘拐されたんじゃなかったんですかい」
「今、解放されたのじゃ」
「じゃ、あっしは、今から殿様を介抱しますってね」
 笑いをとろうとした鉄だったが、まわりの白い目に気付く。そういう雰囲気ではない。「おまえ、どうやってここへ」
「へへぇ、だんな、上空をご覧なさいよ」
 飛行船が、主水の視界を占めていた。地下空洞の天上部が抜けて、空が見える。
「おおっ、心強い」
 徳川公国空軍「飛天」及び「高千穂」号が降下してきていた。
「この殿様がね、心配して後からこれで追えっておっしゃったんで。おまけにロボット旗本組も乗せてきやしたぜ。いやっ、殿様って先見の明がおありだ。が、敵に誘拐されちまってのがどうもね」
「もう、鉄さんたら、いいかげんにしなさい。ああっ、主水、大丈夫なの」
 マリアも続いて降りてきた。主水の腕の中に飛び込んで来る。
 大きな空洞がこの地下古代都市のうえにうがかれていた。
「おお、あんな大きな穴がいつできたのじゃ」 主水が抱き着くマリアに尋ねた。
「私達の方もびっくりしたわよ。急に近畿新平野の中心が陥没するのですもの」
「この飛行船のレーダーが、とらえやしてね。早速に駆け付けてきたってわけでさあ」
「ところで、ロセンデールはどこなのですか」 マリアが尋ねた。彼女の緑の瞳は復讐に燃えていた。
「先刻、逃げ出しおったのじゃ」
 そういう二人の前に、上空に、神聖ゲルマン帝国のバイオコプターが現れている。背後には聖騎士団が続々と現れていた。
「主水、逃げた訳ではありませんよ。古代都市が現れるのを待っていたのですよ」
 バイオコプターから、ロセンデールの顔が見えた。
「ロセンデール、ひきょうだぞ。一対一の勝負だ。降りて来い」
「ふふん、日本のロボット風情に卑怯物と呼ばれるのも豪気ですね。その挑戦にのりましょう」
「よろしいですか。他の方は手出ししないでください」
 ロセンデールは同じバイオコプターにいるクルトフらに告げる。
「しかし、殿下」
 クルトフが難色を示す。
「よろしいのです。私のいうようにしてください」
「もしか、お負けになれば……」
「クルトフ、そんなわけがないでしょう、私が日本のロボットに負けるなんて」
「主水どの、大丈夫ですか」
 反乱ロボットの長、山本一貫が心配そうにいう。
「まかされよ、主水一世一代の見せ場でござる」
 ロセンデールが、バイオコプターから降りて来た。
 が、シュトルフが率いる後続のバイオコプター部隊は攻撃の間をはかっている。
「クルトフ様、念には念を」
 シュトルフの声がクルトフに聞こえる。
「シュトルフ君、心強い言葉ですねえ。後詰めは頼みましたよ」
「お任せあれ。クルトフ様」
「主水よ、神殿の中に隠れている剣を取るのだ」
 足毛布博士が叫んでいた。足毛布博士の表情が急変していた。
「よいか、主水。お前のICチップは特別に選ばれたロボットにしか使われないチップだ」『そうか、足毛布博士。あやつが、早乙女主水が我々の探している運命の七柱の一人のロボットなのか』
 急に心柱が足毛布博士に言葉を投げていた。「そうです。みはしら様。あの主水が古来から伝わる伝説の石を、心に使ったロボットの一人なのです」
 足毛布博士が丁寧に答えた。
『そうならば、私めも手助けせねばなるまい』心柱が言葉を続けた。
 神殿の床の真ん中から、棒のようなものが突出する。
「おおっ、あれは一体」
 人々が驚く。
「クサナギの剣じゃ。あれを持つ者は、この国の歴史を変革できると言われておる」
 落合レイモンが唸った。
「心柱があれを出現させよったか」
 レイモンはしきりに感心している。
「クサナギの剣をつかうのは、ロボットでも構わぬのでございますか」
 徳川公が、落合レイモンに心配そうに尋ねる。
「ロボット、人間の区別はない」
「主水、どうじゃ。あれを抜いて、ロセンデールと戦え」
 徳川公廣が言う。
「が、お上、もし拙者に抜けますでしょうか」「あの剣が出現せしこと、まさに、お主が選ばれし者という証拠よ」
 祭壇の剣を主水は触ろうとした。逆に剣の方から近づく感じがした。
「これは一体…」
 主水はその感覚に驚いてしまった。ひょっとして私のICチップには、秘密が。あの運命の七つの星とかいう、意味不明の言葉が何を意味しているのか。剣にもう一度触ることが恐かった。
「さあ、もう一度、早く、刀を引き抜いてみよ、主水」
 足毛布博士が呼びかけていた。
『俺からの心からの贈り物を、主水恐れることはない。そちが、『運命の七柱』の一人ならばな…』
 ゆっくりと主水はクサナギの剣に触る。手が剣に巻き込まれた。そんな気がした。剣と主水の手が一体化していた。
 ずぶりと、剣は祭壇から抜かれる。その瞬間、剣からまばゆい光が射した。
「おう…」
 ため息ともつかぬ声が見守る人々から漏れた。
 主水はクサナギの剣を高々と持ち上げた。主水の胸の真ん中がキラリと光った。
「早乙女主水、このクサナギの剣にて戦いもうす」
 同じ時、知恵の胸にも同じようにキラリと光った。
「こ、これは…」
知恵は回りを見渡す。誰も気付いていないようだ。
「俺も運命の七柱の一人なのか…」
「いや、旦那の晴すがた、かっこいいねえ、ねえさん」
 が、鉄がみたマリアの眼は異常になっている。マリアは黙ったままだった。鉄は何かそら恐ろしいものを見た気になって、目をそらした。このマリアの様子には、誰も気付いてはいない。

  (2)
「この古代の神殿祭壇の上が勝負どころぞ」 主水は叫んでいた。
「舞台にとって不足なしですね。わたしはこのゲルマンの剣で戦います。我が神に祝福あれ」
 ロセンデールの顔も晴れ舞台での戦いであり、上気している。青い目がキラリと光る。 大空洞の外から、急に稲光がひらめく。ガーンという言葉が後から響いて来た。
「主水、貴公をこの刀のさびにしてくれましょう。それはとても名誉なことですよ」
 ロセンデールは誇りを旨に、戦いに望んでいる。
 電磁サーベル、ゲルマンの剣を抜き放つ。 再び、稲光がひらめく。光が回りに満ちた。 剣からは、またクサナギの剣とはことなる威力がある。
「この戦い、望むところ。クサナギの剣の力、お見せする」
 主水も、剣を抜く。ぴしーん霊気が放たれた。
「だ、旦那は大丈夫ですかね、ねえさん」
 鉄は、びびって隣にいるマリアに尋ねる。マリアは普通に戻っていた。
「私にだってわかるものですか」
 ロセンデールはマリアの方を見てにこりとする。
「主水、お主が倒れれば、レイモンもマリアも刀のさびにしてあげましょう。心して打ちかかっていらっしゃい。私は、我が聖騎士団の者ほど、腕は甘くはありませんよ」
 サーベルがビュウと唸った。
 ロセンデールは、ヨーロッパの剣技大会でもトップレベルの腕だといわれている。
 サーベルは突きが基本といわれているが、ロセンデールの技は単調ではない。なぎ、払うもテクニック中に含まれている。
 おまけに手にするは、ゲルマンの剣。古来より伝わる名剣。神聖ゲルマン帝国の守り神である。
 戦いは思わぬ方向に進んでいる。主水は防御の構えに入っている。ロセンデールが攻勢なのだ。
 レイモンにしても、マリアにしても気が気ではない。
「えーい、主水ったら、肝心なときに剣技がさえないのですから、だらしがないですわねえ、どうしたのですか」
 味方のマリアがいらだち、罵声が飛んでいた。
「うるさい、マリア。サーベルに対しては、お前ほどではないんだ」
 そういった主水の頭がグラリと揺れる。視覚装置がおかしくなった。体のバランスが取れない。
「ウ、いかん…」
 どうしたことか、主水の持病が肝心なときに出てしまった。
「いかん、この大切な時に」
 足毛布博士が額に手をあてる。主水の様子に足毛布博士が気付く。
「主水の様子いかがいたしました」
 徳川公廣が尋ねる。
「例の病気がでよった」
「えっ、こんなときに……」
 徳川公が唸る。
 主水に、意識の空白が襲ってくる。
「どうした、主水君」
 ロセンデールがニヤリと笑っている。
「私の腕に恐れを感じたのかね」
 主水はふらふらし、ゆっくりと右腕が止まってしまう。
 意識がフェイドアウト。
 その姿のままで、主水はぎこちなくバッタリと神殿の床に倒れた。が、クサナギの剣は、手に握られたままである。
「ほほっ、口ほどにもない人ですね。主水君」「主水、危ないわ」
 後ろからマリアがすくっと立って、自分の愛刀サーベル「ジャンヌ」を手にしていた。「いい、ロセンデール。ヨーロッパの恨みをこの日本で晴らします」
 マリアの顔はキッと厳しくなっている。
「おやおや、麗人マリア。美しい愛の世界の姿ですねえ。が、所詮君は女ロボットです。現在のヨーロッパチャンピオンの私を倒せるとお思いですか。おまけにこれは、ゲルマンの剣ですよ」
「それは勝負してみてからいってほしいですわね」
 ロセンデールはあることに気付く。
「そうだ、マリア、私の目をよく見てごらんなさい」
 ロセンデールが声高かに叫んでいた。悪魔の表情である。
「いかん、マリア。ロセンデールの目を見るな」
 主水はロセンデールの狙いに気付く。ころがり、のたうつ主水は、マリアに叫んでいるつもりだ。が、いかんせん、その声は今マリアには届いていない。
「まずいのう。マリアの別の人格が浮上するかもしれん」
 徳川公がポツリとつぶやいた。
 マリアは別人になりつつあるのだ。観戦している人々からどよめきが起こる。
「別の人格ですと」
 今度は足毛布が尋ねる。
「そうなのです。マリア=リキュール=リヒテンシュタインは二つの心を持つロボットなのです。もう一つの心はリキュール。マリアの肉体にあるもう一人の人格」
 徳川公はボソボソとしゃべる。
「こんな時に…」
 ロセンデールの剣が、あっという間にジャンヌの剣をたたきわり、続いてマリアの胸を貫く。
「うっ」
 と叫ぶ。
「マ・リ・ア」
 主水も叫んでいる。
 ロセンデールは、ゲルマンの剣を、瞬間抜き取る。
 どっと祭壇上に倒れるマリア。剣はマリアの中枢をついていた。
「ふふん、マリアも口ほどにもありませんねえ。手応えがありませんねえ。こんな晴れ舞台なのにねえ」
 ロセンデールはゲルマンの剣をビュウと振った。

   (3)
「マ、マリア」
 主水は倒れて身動きできない。
「ああ…、マリア…」
「ねえさん」
 思わず、鉄が倒れたマリアの方に走っていく。マリアの体に触る。その時、鉄の脇腹に何かが突き刺さった。電磁ナイフである。そのナイフは、マリアの手から鉄の腹に深々と突き刺されたのだった。
「うっ、ま、まさか、ねえさん」
 信じられないものを見たような鉄。
「そうです、今頃気がついたのですか」
 マリア、いやリキュールは、ゆっくりと起き上がる。
「今までのすべての情報はそれじゃ…」
 つぶやく鉄。膝をつき、苦しげに鉄はマリアを見る。
「そうです、私リキュールがロセンデールに伝えてたのです」
「そ、それじゃ、あんまり主水のだんながかわいそうだ」
「黄色いロボット風情から、そんな言葉は聞きたくないですね」
 リキュールは、
「それから、私を姐さんと呼ぶのも気に食わないのです。私の嫌いな黄色いロボットからねえ」
 と言い置いて、握っている電磁ナイフのつかをぐっと押した。電磁波が鉄の体を貫く。ビクッビクッと鉄の体が動く。恨めしげに鉄がマリアの顔を見上げる。
「ねえさん、そいつはあんましだ…」
 鉄の下半身が吹き飛んで転がる。
「鉄…」
 主水が唸る。
「夜叉丸、マリア=リキュールを倒せ」
 観客の中から声が上がる。
 レイモンが夜叉丸に命令していた。
「御前、わかり申した」
 夜叉丸が、背中から「鉾」を引き抜いて、祭壇に立っていた。
「異国の女ばら、私が退治してくれよう」
「ほほう、魔道師風情が何をおっしゃる。私の腕をとくとごろうじろ」
「マリア」
  倒れた主水が、とぎれとぎれにしゃべる。「ふふん、気安くお呼びでないですわ、このアジアの黄色いロボット」
「お前…」
 冷や汗がしきりと主水の顔を流れ落ちる。「ふふ、そのとおり。彼女リキュールは、昔から我々聖騎士の一員だったのですよ、主水くん」
 後ろから、リキュールの肩を抱き、ロセンデールが勝ち誇って続ける。
「貴様、先刻…。くそっ、背後で糸を引くのは、やはり、ルドルフ大王か」
「陛下を、呼び捨てにしないでください!」 ロセンデールのハンサムな顔は赤くなる。「そうよ。ルドルフ大王は、ユダヤの血と黄色い血が一緒になって、白色帝国を脅かされるのを嫌っておいでなのよ」
 リキュールは吐き捨てるように言った。
「夜叉丸、薬を投げろ」
 レイモンが夜叉丸に、自分の薬タンクを示した。
「ですが、御前」
「よい、このさいじゃ。後は何とかなろう。心柱をあやつらヨーロッパ勢に取られては後の祭りじゃ。まず、わしの体をより、あやつらを倒すことじゃ」
 レイモンも青い顔をしていた。
「それでは、御前、許されよ」
夜叉丸は、そう叫び、レイモンの背中に張り付いている薬タンクを掴み、最上段から投げ降ろす。
「やーっ」
 夜叉丸が、落合レイモンの薬をばらまいた。祭壇は薬のほこりでまいあがっている。
「ロセンデール、ここは私にまかせて。この夜叉丸とかと、勝負します」
「OK、リキュール、君にまかせよう」
 ロセンデールはしりぞいた。
 夜叉丸とマリア・リキュールが対決していた。
「マリアとやら、私の鉾は特別なのだ」
 夜叉丸は無表情に告げる。
「ほう、どこが特別なの。聞かせてほしいわね」
「それはこうだ」
 夜叉丸が、力を込めて鉾を投げる。意外な展開だった。
「何よ、これは」
 目の前の出来事をマリアは信じられぬ表情で見る。鉾は、十倍に膨らみ突き抜ける。一瞬マリアの体をばらばらに吹き飛ばしていた。「ま、まさか」
 ロセンデールが一瞬青ざめた。
「日本古来の鉾。この古代都市では、古来から、皆様方の霊気を集めて膨張する」
 冷徹に夜叉丸が言う。
「そうじゃ、今回はわしの薬で膨張させたのじゃ」
「くそ、マリア=リキュールの敵、私が貴様を倒してやる」
 主水は祭壇の所で倒れたままだ。
 主水は無視され、最壇上はタッグマッチの様相を呈している。
「夜叉丸よ、お前の本当の力をお見せしろ」「よろしいので、レイモン様」
「よいよい、少しは皆を驚かせてやれ」
 レイモンは甲高い声で言った。
「それではお相手申す。ロセンデール殿」
 夜叉丸の姿が急に大きくなったような気がした。
「あやつは、霊人間、このおはしら様より預かった人じゃ」
 レイモンが小さく呟く。
「ロセンデール、もう後がないぞ」
 夜叉丸が呻いた。
「まだまだよな、私はまけぬよ。夜叉丸くん」「夜叉丸くん、レイモンを見たまえ」
 レイモンをシュトルフがつかまえていた。「君の泣きどころは、レイモンでしょう」
「くそっ、ひきょうだぞ。ロセンデール」
 ロセンデールが主水の方へ走り込み、主水の首にサーベルの切っ先をつける。
「夜叉丸くん、君のような、化け物は私が相手にするより、他の人間に相手させます。わたしの柄じゃない。その前に、主水君、君の生命の流れを止めてあげましょう。私一人が死ぬ訳にはいきませんからねえ」
「やめろ」
 観戦していた群衆の中から飛び出して来る男がいる。足毛布博士だった。見る間に主水の体に取り付いている。
「そいつは私の息子だ」
 先刻とは顔色が変わっている。
「助けてくれ、お願いだ。変わりに私を殺せ」 主水の上に覆いかぶさり庇う。ロセンデールに対して睨みをきかす。
「おやおや美しい愛情ですねえ。だが、足毛布博士、主水君一人を助けたところで流れは変わりませんよ」
 ロセンデールは二人をコバカにしている。足毛布博士は、ロセンデールのしゃべりを聞きながら、気付かれぬように、主水の胸のある一点を、指で押していた。
 嘘のように、主水の意識が回復する。渾身の力がみなぎって来る。どうやら、どさくさに紛れて、足毛布博士は主水の体にある、足毛布博士しか知らぬ回復点を押したようだ。「足毛布博士、おどきください。あなたを殺す訳にはいきません。あなたはこれからのヨーロッパ奴隷ロボット制確立にかかせない方ですからね。主水君をやれば、後の反乱ロボットは烏合の衆です」
「できるかな、ロセンデール卿」
 足毛布博士がにやりと笑い、主水の体から撥ね跳んだ。
 主水が、クサナギの剣を力強く掴み、すっくと立ち上がっていた。
「主水くん、き、君は」
 あまりのことに驚くロセンデール。瞬間、ロセンデールに隙が生じる。
「と…っ」
 渾身の力を込めて、主水はクサナギの剣を振り下ろす。クサナギの剣が、ロセンデールの首と胴をみごと切り離していた。
 鮮血が飛び散る。ロセンデールの赤い血が、祭壇に花のように咲いたのだ。
 そんなばかなという顔を、ロセンデールはしてよろけた。ゲルマンの剣は手からゆっくり離れ、床に突き刺さる。
「ロセンデール、仕留めたり」
 主水が叫ぶ。右手高くクサナギの剣が差し上げられている。
 が、ロセンデールの首が床に落ちる一瞬、拾いあげた者がいる。マリアだった。
「う…」
 人々の間からどよめきが上がる。皆が知らない間にリキュールが復活していた。
「マリア=リキュール、お前、流体ロボットか」
 主水が信じられないものを見るように言う。
   (4)
「今頃気がついたのですか。そうよ、私はルドルフ大帝の秘密兵器。三人の流体ロボットの一人です」
「ロセンデールの頭脳さえあれば、私たちのグループは再建できる。油断大敵よ、主水」「くっ、マリア=リキュール、最後の最後まで私に逆らうのか」
「流体ロボットめ、もう一度これを食らえ」 側で見ていた夜叉丸の鉾が、再びリキュールに投げ付けられる。
 が、今度は鉾はマリア=リキュールの体を突き抜ける。空気のようにマリア=リキュールは立っている。
「これはどうした」
 夜叉丸がうめいた。
「誰も私を傷つけられないのよ。私の体は特別製なんだからね」
「博士、あのロボットは」
 横で徳川公廣が足毛布博士に聞く。
「ヨーロッパには三体あると聞いておる。異星の生体金属でできたロボットなのじゃ。ルドルフの特殊兵器」
 はロセンデールの首を取り上げ、髪の部分をつかみ、祭壇から古代大和湖へダイブした。大きな水音が響き、水面を波打つ。
「マリア=リキュール、待て」
 古代祭壇の上から叫ぶ主水だった。
 マリア=リキュールが消えた大和湖を見つめ続ける主水。膝をつき、うなだれている。「主水、どうする。我々の潜水艦があれば追いかけられるぞ」
 側で見ていたサイ魚法師が、呼びかけた。「やめてくれ、サイ魚法師。マリア=リキュールを逃がしてやってくれ」
 呆然とした顔で主水が言う。理屈に合わぬことを、主水は口走っていた。
「が、ロセンデールが復活するかもしれんぞ」 なおも、執拗にサイ魚法師は言う。
「もういい、サイ魚、申し出は有り難いが彼女のことは忘れたい。今はこの目の前のことを収めたいのだ」
 主水の目はうつろだ。
「すまぬが、ここではお前のいうことはきけん。さらばじゃ、主水」
 サイ魚法師は、マリア=リキュールを追って、潜水艦に戻り、湖に潜行する。サイ魚はマリア=リキュールを追うつもりだ。ロセンデールに対する恨みがあるのだ。
「頭、いずこへ」
 乗組員は、戦いの様子を観戦していたのだが、急に法師が戻ってきたのでびっくりしている。
「あの女ロボットを追え」
「ラジャー」
 潜水艦「水鏡」は急速に潜水する。
『まて!まて!マリアいやリキュールか。いい、どちらでもよい。なかなかよい女ではないか』
 法師は心の中で考えていた。
『無駄ですよ。サイ魚法師』
 どこからか、声が聞こえてきた。
「そ、その声は…」
『私は流体ロボット。この水中では、あなたがたの潜水艦よりももっと早く走れますからね』
「ふふっ、物事はやってみなければ気が済まないたちでな、我輩は」
『では、勝手にしなさい』
「そう、勝手にさせてもらう」

    (5)
 主水は過去を思い出していた。三年前、主水は大帝の前に膝を屈していた。
「そちが早乙女主水か。日本からの留学ロボットか」
 ルドルフが尋ねた。
「さようでございます」
 側には心配そうな顔をした、マリアが佇んでいた。
「本来ならば、黄色いロボットなど会いたくはないのだがのう」
 ルドルフ大帝は主水を見下すようにしゃべった。ルドルフは黄金のいすに座っている。ここはベルリン、ルドルフの宮殿、謁見の間である。
 霊戦争後、ヨーロッパの大国となったのは、ルドルフ大帝率いる神聖ゲルマン帝国である。このルドルフの宮殿は、ヨーロッパ各国から贈られた美術工芸品で一杯だという。美的センスにおいてはヨーロッパ一だと思われていて、本人にもそう思っている耽美王である。財宝には眼がないのだ。
「おまけに、そちはこのリヒテンシュタイン卿の娘マリア=リヒテンシュタインを嫁に迎えたいというのか」
 黙って膝を曲げているだけの主水である。「これ主水とやら、返事をせぬか」
 宮殿の誰かが声を掛けた。
「さようでございます、殿下。ぜひともマリア=リヒテンシュタイン嬢を我が嫁に」
「が、貴公知っておろう。マリアはビスマルク公の息子ザムザと婚約しておるのだぞ」
 主水はルドルフを見上げた。
「それも充分承知しております」
 主水はキッとして答える。
「ほほう、充分だと。どれくらい充分なのかな。では、マリアを掛けて、ザムザ=ビスマルクと対決するかな」
 ルドルフは主水の胸を内を探るように尋ねた。
「……」
「どうじゃ。返事をせい」
 その時、宮殿に急ぎ走り込んできたロボットがある。
「大帝、こやつが何と言おうと決闘させて下さい」
 金髪で、力強い顎、冷徹な青い眼、鷲鼻、おまけに二メートル二〇はある巨身。ザムザ=ビスマルクである。
「この東洋の黄色い猿ロボットに、むざむざ婚約者を盗まれたとあっては我が家の名誉にかかわります。大帝、どうか決闘をお許し下さい」
 息せききって言うザムザであった。
「どうじゃな、主水。もし、この決闘の申し出を受けなければ、東洋の卑怯者として貴公の名は長く残るであろうよ」
 ルドルフはひじ掛けに手を当て、足を組み、ゆっくりと言った。主水をけしかけているのだ。
「主水、決闘だ」
「主水、どうか、私のために決闘しないで。卑怯者と言われてもいいではないの。あなたがいなくなることが恐い」
 側にたたずんているマリアが嘆いていた。「決闘しないというならば、私がマリアを殺すぞ」
 ザムザがマリアを抱き抱えていた。ゆっくりと剣を抜く。
「これ、ザムザ。大帝の前であるぞ。何をしでかすザムザ。恋の嫉妬に目が眩んだか」
「いえ大帝、失礼をお許し下さい。ヨーロッパロボットが、この東洋ロボットに辱めを受けたこと、許しがたいのです」
「決闘せざるをえないな、ザムザ」
 主水がザムザの方をキッとにらみつけ、ゆっくり言った。

 決闘場所は、ベルリンから離れた田舎の都市、ハイデルベルグである。決闘の町として有名であった。
 決闘場には、多数の観客が詰め掛けていた。スタジアムの真ん中で二人は対峙しているのである。正式な決闘のため、ルドルフ大帝が役人を遣わしていた。
 東洋のロボットを見ようと、人々は詰め掛けていたのである。二人の一挙一動にスタジアムから歓声が上がっている。空は決闘日和に、雲ひとつなく晴れ上がり、マイン川からの澄み切った風が二人の体をなでていた。
 二人は長い間睨み合っている。
「主水、容赦はしないぞ」
「ご同様だ。ザムザ」
 叫ぶやいなや両者は中央に躍り出た。
 最初のひとたちが、主水の額を切った。
「おおっ…」
 という叫び声が観客から上がる。
「ふん、口ほどにもないのう、主水」
「あっ」
 マリアが眼をつぶってしまった。
「マリア、眼をつぶるな、お前の愛しい主水が我輩の手で倒れるのを見ろ」
 勝ち誇るザムザ。瞬間、ザムザにすきが生じる。それを見逃す主水ではない。
「と-つ」
 その慢心の笑みの顔真ん中を主水のムラマサは突き抜いていた。
「うわっ…」
 観客のさざめきが主水の耳にも届いた。スタジアムは総立ちである。その時、スタジアムに何かが侵入してきた。
「ザムザ君」
 大きな悲鳴が、主水の後から聞こえた。
「この黄色いロボットめが、私の愛しいザムザを…」
 主水は、剣を、ザムザの顔から引き抜き、声の主の方へ振り返った。
 白馬に乗ったやさ男が、にくしみの青い目で、主水を睨んでいる。怒りのオーラがそのあたりに満ち満ちていた。男はゆっくりと馬から降り、ザムザの体を抱き上げ、ほおずりした。
「ザムザ、さぞつらかったろう」
 そして、再び、主水の方を向いた。
「主水とやら、今度は私が相手だ」
 まわりの観衆から、宮廷人々が止めに入った。
「お止めください、ロセンデール様。これは正式の決闘なのです」
「いや、ならん。この黄色いロボットに一太刀打ち付けねば…」
「存分にされよ。受けて立ちましょう」
「何をほざく」
 それが初めての出会いであった。
    ◆
「リキュール、何をしておるのじゃ」
 怒りの声が女に飛んでいる。
 リヒテンシュタイン博士は、自分の実験室で資料をまさぐっている我が娘を発見していた。リヒテンシュタイン研究所は、博士がロボットでありながら、新しいタイプのロボットを研究していることで、世界でも有名であった。
「ま、まさか、お前、私の発見をロセンデールに…」
 少し考えていたリヒテンシュタイン博士だが言う。
「わかったぞ、今までロセンデールに情報を流しておったのは、お前だったのか。我が娘だとは気付かなかった」
「今頃、気が付いたのですか、お父様。まあ頭の古いタイプのロボットのお父様としては仕方がないですわね」
「何を言う…」
 階下での二人の大声の、ののしりあいを聞き付けて、登場するのはリキュールと双子ロボットであるマリアであった。
「いったい何があったの」
 研究室で睨み合っている二人のロボットに気付く。
「お父様。まあ、リキュールお姉様もどういうことなの」
「マリア、このお前の姉は裏切り者なんじゃ。ロセンデールに秘密を漏らしておったのじゃ」 博士は怒りにまかせて、リキュールを非難する。
「どうして、お姉様」
 マリアはリキュールに目を向けた。
「どうしてですかって、マリア、お前はあの主水とかいう東洋のロボットにううつを抜かしてしまって目が見えなくなってしまったのですか。今の世界をご覧なさい。早く世界を統一しなきゃあ、大変なことになってしまうのですよ」
 妹のマリアの方を向いてリキュールは毒ついた。
「それとロセンデールに秘密をしゃべることは関係があるのですか」
「この娘はロセンデールにたぶらかされおって。よし、今からロセンデールの家に行こう、お前は留守番だ、マリア」
「でも、私もいったほうが…」
「いい」
 それが、マリアが生きている二人を見た最後だった。二人は邸から出て行く。悲劇はこの後おこった。

 二人の遺体がロセンデール家から送り返されてきた。
 『当家に侵入しょうとして殺された』との添え書きつきで。

 ロセンデールが、リキュールとリヒテンシュタイン博士を殺したのか。それははっきりとはわからない。

 マリアは博士とリキュールの遺体を前に復讐を誓う。
「お姉様。いい、あなたの記憶を私の電子頭脳の一部に移植するわ。だから、私は今日からマリア=リキュール=リヒテンシュタインとなるわ。ロセンデール卿、覚えてらっしゃい。きっと父の恨み晴らして見せるわ」
「マリアどうした。なぜそんなに嘆き悲しんでいるんだ」
 主水がリヒテンシュタイン博士の屋敷を訪れていた。
「主水…、もっと早くきてくれれば……」
 主水の胸元で泣き崩れるマリアでった。
「お父様とお姉様が…、ロセンデールに滅ぼされたの」
「が、リキュール殿はロセンデール卿の…」「そう、姉はロセンデールの愛人ロボットだった。でもこの状態よ」
「ルドルフ殿下に訴えれば…」
「だめよ。証拠がない。それに、ロセンデールはルドルフ殿下のお気に入りだもの」
「おのれ、ロセンデールめ、この恨みはらさいでか」
「復讐は、ロセンデールが他の国にいるときでないと…」
 が、主水とマリアは、とうとうロセンデールの屋敷まできてしまっていた。ロセンデールの館は中世の城を模して作られている。回りに堀が巡らされている。
「ロセンデール、姿を見せろ」
 主水は長い間叫んでいた。やがて、ロセンデールが城壁の上から姿を見せた。
「おや、これはこれは私の愛しいザムザを滅ぼした黄色いロボットではありませんか。それに黄色いロボットにくっついた裏切り者では…」
 ロセンデールの嘲りの言葉に、急にマリアが珍しく、癇癪を爆発させていた。
「ロセンデール、降りてらっしゃい。父と姉の敵…」
「おやおや、麗人マリア、どうかしたのですか。そんな怒りは体によくありませんよ。私があなたの博士と姉を殺したですと…。間違ってもらっては困ります。二人は、私のこの屋敷に不法侵入しようとしたのです。それ故、自動装置が働き、二人を焼き殺してしまったのです。事故ですよ。事故」
「ロセンデール、覚えていなさい。この敵、必ず打って見せます」
「おやおや、マリア。恐ろしい表情ですね。あなたの姉リキュールはいくら怒ったって、このようなお顔は見せませんでしたよ」
「止めなさい。私の姉を嘲るのは」
「主水よろしいですか。愛しい者を失ったものの痛みがわかったでしょう」
 ロセンデールの青い目に冷たい光が宿っていた。騒ぎを聞き付けてルドルフの親衛隊が駆けつけ、とりあえず収まったのであるが。ロセンデールは次々と刺客を二人の身を襲わせた。それ故、二人は神聖ゲルマン帝国より逃れたのである。

     (5)
地下大空洞に声が響き渡っている。
「皆、剣を下げよ。これ以上の戦いは無用だ。シュトルフ、全員に命じろ」意外なことにクルトフが命令していた。
「しかし、クルトフ様」
 シュトルフが抗弁しようとする。
「だまれ、シュトルフ。ロセンデール様がなくなった今、これ以上は無用だ。我々はもう空母も機械城もないのだぞ」
「そうです。公式には日本と神聖ゲルマン帝国は交戦していないのです」徳川公が言葉を継いだ。
「我々としては心柱が目覚められた現在、わざわざことを荒立てる必要はない」
 斎藤も一言加える。
「それゆえ、我々は武装を解除します。よろしいな、シュタイフくん」
「はっ。クルトフさま」
シュタイフは渋々命令に従う。聖騎士団は、武器を下げた。
シュタイフの胸の内にはにがいものが込み上げてきた。
『ロセンデール殿下、お許しください。私はあなたをお守りできませんでした。このクルトフめは、一三人の諸公のうちの誰かから、ロセンデール殿下を滅ぼすために遣わされたに違いないのです。その証拠を握ることはできませんでした。殿下、この敵は必ず…』

     (6)
「反乱ロボットの諸君も鉾を納めていただきたい」
 反乱ロボットの方へ向き直り、徳川公は語り掛ける。
「なぜだ」
「君たちの目的は自らの身分制度打破であろう。ゲルマン帝国との戦いが目的ではないはずだ。今のままではゲルマン帝国との戦いになってしまう」
 徳川公はじゅんじゅんと諭した。
「それでは足毛布博士を我々に渡していただこう」
「何と」
「足毛布博士を血祭りに上げる」
 反乱ロボットたちは言った。
「そうだ。そうしなければ我々の憤りは吐けぬ。何のために多くの仲間が死んでいったことか」
 足毛布博士が、他の人々の群れから押し出されてきた。
「足毛布博士に手を出すこと、拙者が許さぬ」 主水は叫んでいる。
「主水殿、どうなされた」
 皆が驚いている。
「貴公、我々を裏切るおつもりか」
「お許し下され、皆々様。やはり、足毛布博士は父でございます」
 悲しげに主水は言う。
「が、主水殿。我々反乱ロボットの目的の一つは、足毛布博士の処刑ですぞ」
「そうだよ、主水のおじさん。おいらたち子供ロボットが偉い目にあったのもみんなこの男のせいなんだよー」
 知恵が言う。
「もうよい、主水。私をおとなしく反乱ロボットたちに渡せ。そうしないとお前の命も危ない」
 足毛布博士は言う。
 その様子を見ているレイモンは隣にいる夜叉丸に小声でささやく。
『博士も役者よのう。夜叉丸、まあ様子を見ておれい。面白いことが起こるぞ』
「それは、一体」
 主水が反乱ロボットに押さえられている。足毛布博士を跪かせ、数人のロボットが刀を元上げる。
 足毛布博士は頭を項垂れている。
 刀を降り下げようとする。が、一瞬後、体が動かなくなる。
「これはどうしたことだ」
「どけ、私が変わる」
 何人ものロボットが、続々と足毛布博士の首を撥ねようとするが、それができない。
 体が固定してしまう。
 足毛布博士がゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと反乱ロボットに向かう。慢心の笑みが浮かんでいる。それも皮肉な笑みだ。
「よいかロボットの諸君。私は君たちの父なのだ。父は子供のICチップに最終指令をコマンドしてあるのだ。私を殺さぬようにな。このコマンドは君らの心の奥深くに埋め込まれている。誰も気付かぬ。またいかなるロボット工学博士でも、そのコマンドは解除することができぬのだ」
「足毛布博士、流石よのう」
 水野が叫んでいた。西日本都市連合のロボット軍隊がいつのまにか、古代都市の大空洞に結集していた。

     (7)
「よいか、反乱ロボットの諸君。今回は大目に見よう。首謀者を出せば全員を許そう」水野が言った。
「そうだ、その通りだ」斎藤が続けた。
「貴様たちも我々人間がいなければどうにもならんのだぞ」
 斎藤は憎々しげに言う。
 主水は反乱ロボットたちを助けようと
「いかん、ロボット旗本の方々、存分にお味方くだされい」
 主水は、飛行船で到着して傍観していた徳川空軍・旗本に言った。
「主水、止めるのじゃ」
 徳川公があわてて制した。
「なぜでございます。お上」
「よいか、我々は西日本を征服するのが目的ではない。我々東日本と西日本は政治体制が異なる。この制度、壊すこと、相成らぬ」
 徳川公のきつい怒りの言葉であった。
「さようでございます。さすがは徳川公」
 水野が喜んで言う。
「主水殿、お恨みもうす」
 山本が言った。
「主水のおじさん、肝心のとき、役にたたないねー」
 知恵がいう。首をうなだれる主水。
 反乱ロボットは、西日本都市連合政府軍によって収容されそうとなる。反乱ロボットは、軍に収容されるため動きはじめる。

    (8)
『それは、私が解決しよう』
 空洞にいる人々の心に心柱の声が響き渡った。
「おお、心柱さまがしゃべられるぞ」
 居並ぶ人々は、古代都市にいる全員が耳を傾ける。
 クルトフ、シュタイフの聖騎士団。
 山本の率いる反乱ロボット。
 水野、斎藤の率いる西日本都市連合軍。
 徳川空軍、徳川旗本ロボット、早乙女主水。 徳川公、落合レイモン、夜叉丸、足毛布博士等である。
『水野、斎藤、反乱ロボットを接収すること相成らぬ。
 また反乱ロボットの皆、よく聞いてくれ。足毛布一族、われらをこの千年にもわたって守ってくれたのじゃ。それゆえ、憎むこと合いならん。また、夜叉丸はわしがレイモンつかわせた霊人間なのじゃ。
 足毛布博士、落合レイモンは、このわしとともにこの古代都市を再開発、研究せよ。
 徳川公は、早乙女主水と東京へもどり、東日本の内政を改めよ。
 それから、クルトフ、シュタイフ、二人はルドルフとロセンデールに告げよ。私が解放された以上、日本への神聖ゲルマン帝国の侵入は、たやすくないぞとな。以上だ』
「おおーっ、さすがは心柱、みはしら様じゃ」 喚起の声と、失望の声があがっていた。が、いまや、みはしらさまにしたがう他はないのだ。
 足毛布博士の屋敷で、最初にしゃべっていたのは、霊人間 夜叉丸であった。
「主水、わしの手元に戻ってきてくれるか」 足毛布博士が頼むように、主水に言う。
「が、博士、幾ら生みの親とはいえ、拙者は義に生きとうございます」
 思わぬ答えに足毛布はたじろぐ。
「義とは?」
 足毛布は不思議なものを見るような目をした。
「徳川公のおつかえして、日本につくすことです」
 キッパリと言った。
「おお、よういうた。主水。足毛布博士、主水をお預かり申す」
 徳川公廣が、博士に礼をした。そうそうにここから主水を連れ出すつもりだ。
 が、博士は主水にたいして罵詈雑言をはく。「主水よ、私を裏切る気か。お前を作り、ここまで育てた私をな」
「博士、それは…」
「よいか、誰がお前、主水をあのNASAの空軍基地から助け出してやったと思うのだ。よいか、お前のために私は防御レーザーにより傷を負ったのだ、わかるか主水。自らの息子よりもお前のことを愛していたのだぞ。それをお前は裏切り、あまつさえ、この西日本から出ていこうとするのか。これをこれを裏切りと呼ばずして何と呼ぶのだ」
 足毛布博士の怒りは治まりそうになかった。「主水、これを見よ」
 足毛布はふところから、たばこを出して大地へ捨てた。
「…」
「今、捨てたのはお前のロボットストレス対処用の薬が入ったタバコじゃ。よいかもう二度と手には入らぬ。材料はアメリカ製じゃからな。これが親である私に対する裏切りに対する復讐の一つだ。これからも油断するなよ。生みの親を捨てたお前に災難が降りかかろうぞ」
「主水、気にするな」
 徳川公がやさしく声をかける。
「お前は正しいのだ」
『主水よ…』
 みはしらさまが、主水に話しかけた。
『忘れものじゃ。返してくれぬか』
「はっ…」
 主水はどきまぎする。
『そのクサナギの剣どじゃ、しばらくは用はなかろう』
 主水はまだその剣を握り締めたままだった。「しばらくですと」
『そうじゃ、その剣を再び使うときは、運命の七つ星すべてそろった時じゃ』
「運命の七つ星。それは一体…」
『主水、それは…、お前の運命じゃ。いずれわかるときがあろう』
 恨めしげに眺める足毛布を背にしながら、主水は徳川空軍の飛行船に乗った。
「だんな、だんな…」
 話しかけるものがある。鉄だった。下半身は吹き飛び、担架に乗せられている。
「あっしは、もうだめでさ。手も足もでませんや」
「鉄、お前…」
「えっ、だんな、どういたしました」
「そんなシャレを言ったから大丈夫だろう。 手ぐらいでようよ。足がないぐらいでな」「だんなも人が悪いや」
 それを受けて
「これ、鉄、俺は人ではない。ロボザムライ早乙女主水じゃ」
「決まったね、ダンナ」
 少しは元気を取り戻した主水である。
 飛行船は、地下空洞から上空へ飛び上がって行く。

   (9)
 マリア=リキュールはロセンデールの首をくわえて逃亡後、行方不明となる。
 ヨーロッパのいずこかに住んでいるといわれている。
 びゅんびゅんの鉄は、マリア=リキュールから受けた傷がもとで現在療養中である。
 知恵は、外国のロボット奴隷解放運動で活躍しているらしい。
 サイ魚法師は、太平洋岸を現在荒らし回っていると風の便りに聞いている。
 足毛布博士は、京都の研究所で、侍ロボット改良版を製作中と聞く。早乙女主水にそっくりで、主水2というネーミングらしい。
 落合レイモンと夜叉丸は、まだ西日本エリアに残って、古代都市研究を行っている。
 現在でも古代都市のことは日本国内では秘密となっている。
 水野と斎藤は、みはしらさまの指示にしたがい、ロボット奴隷制をいやいやながら廃止した。
 生き残った、クルトフとシュトルフ率いる聖騎士団は、飛行船「飛天」「高千穂」に乗せられ、インド洋上でヨーロッパ連合の船に乗り移り、帰っていった。
 ロセンデールは、みはしらさまが言ったたように復活したと風のうわさに聞く。
 徳川公国のお主(かみ)と早乙女主水は、東京エリアの徳川公国にまだ住んでいる。
 主水は自分の病気を直そうと必死である。
      (完)

■ロボサムライ駆ける■
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