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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

「石狩の福次郎」第2章

「石狩の福次郎」第2章ロボザムライ第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」第2章レイガン島
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
第2章レイガン島

(1)
「お前さんが福次郎さんかえ。名前は聞いている。まあ、ここでは気楽にしなせえ」
 福次郎は、ロボット牢獄βベースNo.15へ連れてこられた。牢名主らしい男が、最初にこう口にした。
「それで、お前さん、どんな罪を犯したのだえ。言っておくが、娑婆の動きはここにいる 皆が知っている。ただ、お前さんの本当の考え方というものを知りたいのだ。と言うのは、この牢獄に、お上からスパイを送り込んでいるという噂が、かなりあるのだ。そういった意味で、お前の身の証しをしてもらわなくちゃならないのだ」
「身の証しといいやすと…」
「ロボット一人を殺してほしいのだ」
「ロ…、ロボットを。仲間ではございませんのか」
「いやいや、だからね、福次郎。このレイガン島に裏切り者がいるのだよ。西日本政府に通じているロボットがね。そいつを密かに殺してほしいのだよ」
「いやかね。いやならば、今度はお前を始末しなきゃならないのだ」「そうなのだよ、福次郎。このレイガン島にはね、一定の生命液しか供給されてはいない。だからね、住んでいるロボットの数は一定なのだよ。だから、口べらしをしているのだよ、我々でね」
「べらぼうな。そんなことを政府が許しているのか」
「ふふう、言っただろう。ここにはここのルールというものがあるのだよ」
 元締めはにやりと笑う。
「どうしてもお前が我々の命令を聞けぬとならば、お前さんを始末しなきゃならないからね」
 と、側の一人がにこりと笑う。それがまた凄みがあるのである。「わ、分かりました。それで、一体誰を」福次郎は諦め、そう答えた。
「そうと決まれば、話は早いや。お前も知っての通り、同じ獄にいた侍ロボットだよ。そいつを殺してもらいたいのだ」
「それ、福次郎、ここから覗いてごらん。あやつだよ」
 元締めが指し示す方を見ると、そのロボットはあの名刀空陣の侍ではないか。
「しかし、あの侍、かなり弱い、頼りにならぬ侍ロボットでございますよ」
「それはさ、いつわりの姿さ」
「樋口さん」福次郎はその侍ロボットに呼びかけていた。
「おお、これは福次郎殿ではないか。貴公も、この島に来られていたか」親しげに話しかけてくる樋口に福次郎の心は痛む。
「樋口さん、あんたには、何のうらみもないが……」
 樋口はようやく、福次郎のただならぬ様子にきずいた。「死んでもらいやす」
「待て、何ゆえに拙者を」
「いえね、あっしが生き残るためでさあ」
 その言葉を聞いて、樋口はにこりと笑う。
「しかたがないなあ。お互い生き延びなければならんしのう」
「どちらが勝っても恨みっこなしだ。よろしいですねえ、樋口さん」「承知」と叫びやいなや、樋口の体は跳躍している。どこからか、刀が手には握られている。その剣が福次郎の頭頂をねらっていた。先制攻撃である。
(いけねえ、やられる……)
 思った一瞬、また福次郎は気を失っていた。
『おいおい、頼りにならぬ奴』
 例のもう一人の福次郎の人格が、福次郎の意識をもどした。
「う…、いったい…、俺は死んだのでは」
 が、目の前には、樋口が倒れている。
「樋口さん…」福次郎は樋口の側に。
「福次郎殿、み…見事だ」
 何かが、樋口の体を貫いている。
「どうやって…」福次郎は自分で、自分がわからぬのだ。が、恐るべき殺しの技である。
 樋口が苦しい息のしたで福次郎を呼んでいる。
「福次郎殿、お前を男と見込んで頼みがござる」
「何ですかい。お前さんの最後の頼みなら、聞いてあげましょう」「このデータファイルを届けてくれぬか」あるCDを震えた片手で差し出すのである。
「じょ、冗談を言っちゃいけねえよ。俺はこの島で生き残っていたいのだよ」
「福次郎殿、甘いな。この島がどのような状態になっておるのか、分かっておらぬようだな」
「…」
「よいか、この島は犯罪者の島でありながら、今やロボット犯罪の巣窟となっておるのじゃ。この島に、政府に対するロボット対抗運動の指導者がいることを、私は突き止めたのだ。頼む。よいか、これは我々ロボットが生き残って行くためにやることなのだ。我々ロボットは、人間と仲良く暮らして行こうと考えておる。このような運動が起これば、我々もまたロボット奴隷の立場に追い込まれる。いやもっと悪いことが起こるかも知れぬ。これは一人私だけの問題ではないのだ。分かってくれい、福次郎殿。役目を思い出すのだ…」と言って事切れた。
「おい、しっかりしろい」
 福次郎の手には、しっかとデータファイルのCDが握られている。「ふふん、福次郎とやら、お前はやっぱりただのねずみではなかったようだね」物陰から女ロボットが登場していた。かなりの美人である。
「侍だけかと思ったら、お前も政府のスパイだったのかい」
「何を言う。俺は今こやつから資料を手渡されただけだ」
「ふふん、そうかい。まあ、いいや。じゃ、そのデータファイルをお寄越しよ」
 女の背後から何人か、ずらっと手下が姿を現している。
 女の顔に何か記憶に引っ掛かるところがある福次郎であった。
「姐さん、お前には、しゃばで一度でも会ったことがあったかな」 と、呟く。

(2)
「このロボット獄門島、通称レイガン島ではな、普通の掟は通じないのさ。それをお前の体でわからせてやろうじゃないかえ」
「何を言いやがる。ロボット奴隷制が廃止されてから、もう大分とたっているのだ。何をアナクロなことを言ってやがる。このでしゃばりアマめ」
「おやおや、強気なことよ。いいかい、皆、このレイガン島の掟というものを、この新入りロボットの福次郎とやらにたんと教えてお上げよ」
「へい、わかりやした、アネゴ」
「おやおや、怖いお兄さんが、このあっし一人をそんな多勢で取り囲んで、簀巻きにでもしようとしなさるんで」
「そういうこった。覚悟しな、福次郎とやら」
「う…うう」例の別の人格が登場しなければ、格段に弱い福次郎である。
 すぐにグルグル巻にされて、お竜の家につれていかれた。

 福次郎は、クローンネットで縛り上げられていた。何か黒いものが、福次郎の方へ流れとなってやって来る。ついには、その黒いものがゾロゾロと集まり、福次郎の体をはい回っているのである。ロボゴキブリであった。
「や、止めてくれ。俺はゴキブリが大嫌いなのだ…」
 が、お竜はその華奢な指先でピアノを弾いている。その音声にあわせて、ロボゴキブリの群れが、福次郎の体をダンスをするようにはい回るのである。生きた気のせぬ福次郎である。
「ま、まさか、お前は…。その曲には覚えがある…」
「やっと思い出したかえ。姉さんのことをね…」
「姉さんだと…」
「そうさ、黒姫ゆり子を思いださないかい…」
「く…黒姫の…、ゆり子…だと」
「そうさ、私は黒姫竜子だよ…」
 ぐっと思わず息を詰まらせた、福次郎。
「遊び人だったお前が騙した姉は、今ロボットふうてん病になり、長くは生きていなかったさ。その様子を見、私はその敵を取ろうと待っていたのさ」
「が、俺が、このレイガン島に来ることが…」
「中西の御前さね…」
「くそっ…、あやつが…、すべての…」
「さあ、私のかわいいゴキブリたち。この男の体に入り、体の内部機械を食い尽くしておしまい」
「ぐっ、止めろ、竜子。俺はお前の姉さんを騙すつもりはなかったのだ」
 福次郎は昔ロボット無宿人として、関東地方を転々としていたことがある。そのおりに石投げの福次郎としての死闘人としての名を高めていたのだ。そのいくつかの殺しの中で、殺しの仕組みを作るとき、娘を騙していたのである。それが『黒姫ゆり子』であり、その妹が今目の前にいるお竜こと、黒姫竜子なのであった。
 ロボゴキブリたちが、続々と集結し、福次郎の体にはい上がって来た。頭と言わず、手と言わず、足と言わず、所かまわずである。おまけに、このゴキブリたち、液体を調合する機能を小さな体に内蔵している。この液体はロボットの体を溶かすのだ。縛り付けられた福次郎は、ボロボロの体になるのは、運命である。お竜ならぬ、黒姫ゆり子の指は、その福次郎の運命を表現する悲愴な曲を紡ぎ出している。
「ぐっ、げげ…」
「ふふ、どうだい。お前の嫌いなロボゴキブリの味は…」
「ご、後生だから、止めてくれ。お前のいうことは何でも聞く」
 泣き叫ぶ福次郎。
「だめだね。お前がゆり子姉さんの最期を実感するまではね」
「わかった。ゆり子のことは、俺が悪かった。許してくれい」
「許すだって。そうはいかぬさ。私はこの七人委員会の一人だからね。島の掟があるのさ…」
 その時、突然にお竜の隠れ家を突き破って来たものがある。

(3)
 壁が破れ、部屋の中に、トラックが急に入って止まった。そこから、無頼のロボットたちが五人ぞろぞろと入って来た。先頭に巨大な男が一人。流石のお竜も、予想外の攻撃に言葉もない。
「ぐはは…、どうだい、俺たちの運転の腕は」
 トラックから降りた男が言う。
「おお、これは、中々の美女ロボットではないか」
「こいつはひょっとして『ぼたんの家』のお竜ですぜ」
「おっと、お竜とやら、そのピアノから手を上げるのではないぞ」 大木ほどもある棍棒を、お竜の胸元にぐっと突き出していた。
「これが噂に聞くゴキブリ攻めのピアノか」
「そこにいて、ゴキブリに食われている男は誰だ」
 その声に聞き覚えのある、福次郎だった。(あいつは確か…)
「お、俺だ。黄金の腕の福次郎だ」
「お前もこのレイガン島へ来ていたのか。俺は強力(ごうりき)の伸太郎だ」
 こいつは例のロボット盗賊団の内でも、力自慢のロボットであった。
「それでお前、どうして、こんな目に会っているのだ。何だ、入島早々、お竜にちょっかいでも出したのか」
「こいつは私の姉さんの敵なのだよ」
 お竜が力自慢の伸太郎に言った。
「それ、お前さん方、こんなことをして、親分衆に対して申し開きができるのかえ」
 今度は強い表情で、五人をキッと睨む。
「流石、七人委員会のお竜だ。強きだねえ。が、お竜さんよ、我々五人はね、お前さん方七人委員会の親分方の命令を聞く気はないのさ」
「何だって」
「よくよく聞いて見れば、ここは治外法権というではないか。犯罪人が犯罪人を統べるってのはおかしな話ではないか」
「それゆえ、我々は、早速この島から逃げ出す算段をしているところなのだ」
「ふっふっ、お前さん方も甘いねえ。この島から簡単に逃げられると思うのかい。この島にはロボット犯罪人が逃げられないように、特別の仕掛けが施されているのさ」
 攻撃的に言うお竜だったが、そのお竜に伸太郎が好色そうな目を向けるのだった。
「そうさ、それゆえに、七人委員会の親分衆を捕まえて、その仕組みを知り、逃げ出そうという訳だ。それ、トラックの中をみない」 伸太郎はトラックを差し申す。
「お…、お竜、すまねえ…」
 トラックの敗れ掛けた幌の中から、人工皮膚が紫色になったNO.4の権太がしぶしぶ顔を出した。どうやら、伸太郎を始めとする五人に、滅法痛め付けられたらしい。
「ははん、それでこの私の家を狙った訳だね」
「そういう訳だ。さあ、この島からの逃げ出し方を教えてもらおうじゃないか」
「お前たち、そう簡単に教えると思うのか」
「ふふう、だからさ、お前の体に聞こうという訳さ」
「な、何をするのさ」あがらうお竜。
 五人掛かりで、お竜は縛り付けられて福次郎の側へ、さらにNO.4の権太も一緒に。
「さあ、お前たち、白状して貰おうか」
 仲間の一人の優男が、ピアノの前に座った。
「さあ、どんな曲がお望みかな」
「ぐわっ、止めろ。止めるんだ。お前ら、この島の秘密を知ったものは生きちゃおれないんだ」権太は叫んでいる。
「おいおい、俺の縛りを解いてくれよ。俺も一緒にゴキブリの餌になってしまう」福次郎が言った。叫んでいる福次郎に、伸太郎が冷たい目を向ける。
「福次郎よ、お前さんも、一緒にゴキブリの餌になって貰う」
「何だって」
「俺たちが島抜けをしたことを知られちゃまずいからな」
「俺も一緒に連れて行ってくれ」福次郎も必死である。
「ふふん、そいつは駄目だね」ピアノの前に座った優男が言った。「俺たちは特別の繋がりのあるロボットなんだよ」
 ふふっと笑うその表情を見て、福次郎はゾッとした。(気持ち悪い奴らだ。そうか、こいつらはロボホモだちなのか)
「おやおや、福次郎。俺たちに対して、嫌悪の情を抱いたね。それじゃ、これからな」
 優男が指の動きも鮮やかに一フレーズを弾いた。ゴキブリが福次郎の口の中に三匹入って行く。
「うぐ、うぐ、止めろ」
 いくらロボットとはいえ、ロボゴキブリに内部を食い荒らされれば、命はないのだ。福次郎の頭の中の生命警告ランプがちかちかした。
 瞬間、この福次郎の人格が吹き消えている。おどおどろしい、強い福次郎の人格が浮き上がって来る。
「おやおや、こいつ、気を失いやがったぜ。こいつ」
「ふん、誰が黄金の腕だよ」
「弱い野郎だ」
 五人全員が嘲りの笑いを福次郎に与えた。その一瞬、福次郎の目がかっと開かれる。口からロボゴキブリが吐き出され、勢いづいてピアノを弾く優男の顔へ。ゴキブリの内蔵液が、その男へ掛かる。「うぐっ…、わあ…、顔が溶ける…」
 男は転げ回る。
「いいか、お前ら、俺に危害を加えようという奴は許しゃしない」 急に人が変わったように言う福次郎に、伸太郎は棍棒を向け、
「ほう、じゃ俺たちをどうしようと言うのだ」
「そりゃなあ、こうだ…」
 言うが早いか、福次郎は、戒めを解き放つ。
「うっ、どうした」
 お竜も側で福次郎の変身に驚いている。
「福次郎…」
 福次郎は側にいたゴキブリを五匹拾い上げ、目にも止まらぬ早さで、各々五人の体へ投げ付けている。狙い違わず、五人の心臓、つまり主要ICチップをロボゴキブリでぶち抜いていた。ほとんど即死である。一人、伸太郎がゆらゆらと揺れながら、
「き、貴様、昔、関東で名を聞いたことがある。石狩の福次郎とかいう…、つぶて術の名人が…、貴様なのか」
 と、言ってどうと倒れた。
「さあさあ、福次郎よ。しっかりしなよ」
 と、自分の体に言い聞かせている。瞬間、元の福次郎の人格が蘇って来た。
「そいじゃ、俺はまた消えるぜ」
 と言い、攻撃的な福次郎の人格は消えた。
 福次郎は二人の戒めを解いた。

(4)
「あたいは、緋牡丹のお竜。こないにお強いおとこしのロボットにあったのははじめてじゃえ」
 と、先刻までの勢いはどこへやら、急に福の字にしなだれかかってきたのだ。
「よせやい、気持ちの悪い。さっきまでの威勢はどうしたのだ」
 と、いったんは起こっては見るものの、やはり福の字も男ロボットである。悪い気はしないのである。
「どうぞ。私の家『ぼたんの家』へ一緒に来てくださいませ」
 と強引に腕を握り、外へ連れて行こうとするお竜。
「やめない、お竜姉さん。あっしをどうしようというんだい」
 と、いやがるふりを見せながらも、声色がやんわりし、にんまりと顔がほころんでいる福次郎であった。NO.4の権太は知らぬ間に逃げてしまっている。

 『ぼたんの家』とは、西日本政府が密かに営んでいるセックス用ロボット、つまりセクソロイドの館なのである。犯罪者の島の一端に密かに設けられているので、この件は政府の一部高官とか知らぬのだ。現代のロボット吉原なのである。
 西日本政府はこの私設ロボット女を使い、外国人や東日本政府の要人の秘密を握り込んでいるのである。その『ぼたんの家』を取り仕切っているのが、緋牡丹のお竜である。お竜は、レイガン島に送り込まれてくる女性ロボットから、みどころのある女ロボットを、密かにスカウトし、この『ぼたんの家』を営んでいるのである。それゆえ、『ぼたんの家』にいる女性ロボットは、皆、美女揃いなのである。
「さあ、くんなまし」
 と、急においらん言葉になっている、お竜である。
「おお、ここが『ぼたんの家』か、噂には聞いていたが」
「そりゃ、そうでしょ。よっぽどのことがなければ一般人、一般ロボットは入ることはできぁしませんよ」
 と、しなを作っているお竜。
「さあ、お前たち、このお人は福次郎さんといって、私の命の恩人なのだよ。皆でお持て成しをしておくれ」
 と、お竜の命令一下、ここまでのロボット美女がいるかと思えるほどの大群が、福次郎の服をすんなりと気付かぬうちにぬがし、体を寄せて来ていたのである。
「うむっ、このような天国があったのか。このようなことがあるとは、さすがのあの好色の桃太郎でも知るまい。愉快、愉快」
「あちきが先じゃ」
「あちきの先に相手にしてたもれ」
 と、昔の吉原風の言葉攻め、ついでは肉攻めで、ついつい有頂天になってしまった福次郎。この世の極楽を堪能したのである。が、よいことは続かぬもので、翌朝目が覚めてみると、福次郎は裸のままで、巨大な水車に鎖で括りつけられているではないか。

(5)
「おいおい、お竜殿。いくら私が好きものだと言っても、SMの気はないのだよ」
 と、昨晩のことを思い出して、にんまりとしている福次郎に、お竜が電磁ムチをバチッとたたき込む。お竜はいわゆる皮のボンデージ・スーツを着ている。
「おい、話が違う」と、思わず涙を流す福次郎。
「ははん、バカ者め。私が姉の敵のお前さんを、そう簡単に許すと思ったのかえ。おまけにお前の秘密を探るように、ある方から言われているのだ」お竜の顔はギラギラと、復讐の念に燃えたぎっている。
「ど、どう言うことだ」
「ごまかすのが上手なロボットだね、お前さんは。さあ、この島へ来た本当の目的をおいいよ。えっ、黒手組の福次郎さん」
「黒手組だって、何のことだ」
「ええい、しらばっくれるのはおよしよ。もう充分だよ」
 再び、電磁ムチが飛ぶ。
「うぐぐ、ぐえっ」
 福次郎の体の奥から、電流の流れが通っていた。
「いかん、止めてくれ。体が潰れてしまう。止めてくれ、許してくれ」
「ふん、何ほどにも意気地の無い奴め。こんな奴が本当に黒手組か、信じられぬ」
 お竜は何度も、何度も手を振りかざす。
 何時間経ったろう。昨晩の天国から地獄の底まで突き落とされた福次郎。もう、生きているのも不思議なくらいぼろぼろの状態になっている。
 そのとき、『ぼたんの家』へ襤褸をまとい、まともには歩けず、自動・車椅子に乗った老人ロボットが訪れている。

(6)
「これは…、ご老公様」かしずく女たち。
「よいよい、気にするな。ところでお竜はどこじゃ。まさか福次郎をいじめておるのではあるまいな」
 と、その老公と呼ばれたロボットが言う。案内もないまま、いわゆる拷問室へ入った老公。
「これこれ、お竜。その福次郎をそれほど痛め付けるのではない」 はっ、と気付き、思わず跪くお竜。
「これはこれはご老公様。お恥ずかしい風体で申し訳ございませぬ。この福次郎、きっと何かの秘密を持っていると思い、このように痛め付けましたが、白状いたしませぬ」
「お竜よ、よいか、お前、個人的な恨みがあるのであるまいな」
 と、にこりとする老公。
「いえ、決して、そのようなことは」
 と、答えながら、驚くお竜。
「よいか、お竜。この福次郎、戒めを解いてやれ」
「えっ、なぜでございます」
「いいのじゃ、あの方が直接会いたいとの申し入れである」
「御方様が、まさか…このような、不良ロボットに…」
「ふ…、不良ロボットで悪かったな」
 その頃、何とか意識を取り戻した福次郎、何とかこの場を助かろうと必死である。
「ご老公様とやら、お助けくださいまし。お助けいただけるのなら、あっしは何でも致します。洗濯でも、賄いでも、何でも命じて下さいませ」
 と目からポロポロと、まるで産卵時の亀のように、涙を流す福次郎。
「よしよし、わかった福次郎。俺と一緒にあるところへ来てもらおう」
「いいな、お竜。不満はないな」
 と、不満げなお竜の前から、福次郎を連れ去る。が、福次郎の前にさらなる地獄が待っていようとは思わなかった。

(7)
「ご、ご老公様は一体どちら様で…」
「ワシか。俺は日本ロボットの第1号、ろ号ロボットなのじゃ。いやはや、昔はのう、人造人間とか呼ばれておったが…」
「足毛布博士がお作りになったので…」
「何を言うか。足毛布などは邪道。ワシはあの霊戦争が起こる以前の日本に生まれた、由緒正しい人造人間だ。楽天則というロボットを知っておるか…」
「はい、確かロボット歴史学で学びました。確か、谷博士がお作りになられた計算ロボットと聞いておりますが…」
 福次郎は、このろ号という日本ロボットの祖の前では、従順になっている。
「レイガン島は、昔はといっても、霊戦争後のことなのだが、西日本にロボット奴隷制がしかれ、ロボットが苦しみ抜いていたことを、まだ覚えておろう。」
「無論です」
 福次郎は、ろ号ロボットの言葉に、真剣に耳を傾けていた。
「そのおり、この島は西日本への抜け穴となっていたのじゃ」
「何ですって」

「ご老公、この福次郎を預けてはくださいませんか」
 数人のロボットが現れていた。
「なぜじゃ」
「やはり、身元を調べたほうがいいのでは…」
「まて、まて…」老公は押し止めようとするが、血気にはやったロボットたちが、福次郎を押し囲んでいる。皆、同じような格好をしている。

「福次郎、なぜお前がこのレイガン島ロボットの国まで、たどり着けたかわかっちゃいないようだな」
「何だって、あっしに何かまだ」
「おおありだ。貴様はなあ、政府から送り込まれた犬なのだ。このロボットの国を滅ぼすためのなあ」
「し、知りません。あっしはただの経理ロボットだったのだ。それが悪い友達にそそのかされて犯罪を犯し、この島へ…」
「騙すのもいいかげんにしなよ。お前は政府要請・黒手組の石狩の福次郎だ」
 福次郎はここまで言われても、何のことだかわからない。黒手組だと、何とかとか、何のことだか、わからない。まったく、わかりはしない。その様子を見ていて  が言った。「ふっ、まったく教育というものは恐ろしいものよ。お前は頭の中をすっきりクリーニングされて、ここへ送り込まれてきたらしいが、お前の体は技術を忘れちゃいまい。それゆえ、ここで死んでもらおう」
 手に手に武器を持ったロボットたちが、福次郎の回りを取り囲んでいた。
「お前さんにゃ、何の恨みもねえ。が、このロボットの国が危険に犯されるとあっちゃ、お前を殺さざるを得ない。許してくれよ、福次郎とやら」
 最初の一団が、福次郎に襲い掛かってきた。
「殺される!」
 と、福次郎は体を固めた。目の前が真っ暗になった。やがて意識が戻って来る。福次郎の足元には、数体のロボットの死体が転がっている。それも見事に胸板の心臓部をぶち破られているのだ。(誰だ、誰がこんなことを…。まさか、俺が…)
「福次郎よ、まだ気付かぬのか。お前がどんな殺し技を持っているのか」

『そこまでにせよ』大いなる声が、皆を包んでいた。
「機械神(きかいしん)様の声だ」
『一応の探りは入れたのであろう。皆下がるのじゃ』
「しかし…」
『私がいいと言っているのです。命令を聞くのです』
『さあ、福次郎、私のほうに来るのです』
大いなる光が、突然、天頂から降りて来て、福次郎の体を包んでいた。
「い、一体、こりゃ…」
 光は、福次郎を上空へと連れて行く。

(8)
「ここは一体…、どこなんだ」
 福次郎は思わず、大きな声で叫んでいた。その福次郎がいる空間は、明らかに地球上ではなかった。福次郎の空間感覚機が、明らかにそう告げている。が、地球人類及び地球ロボットは上空二千km以上は上昇できなくなっている。その掟を犯せば、神の眼ボルテックスからレザー攻撃を受けるのである。福次郎の目の前に光が形づくられていた。光の物体がうすぼんやりと形を整えている。
「一体お前は誰だ。それに俺をどうしようというのだ」
「福次郎とやら、我々の手助けをしてほしいのだ」
 その物体は言った。いやはや、また手助けか。その言葉に乗せられたお陰で、こんなに苦労しているのだ。一体、こいつはどこのどいつなのだ。
「お前が疑うのも無理はない。当然のことだ。よいか福次郎、我々はロボットだけの国を作ろうと思っているのだ」
「ロボットだけの国、くくっ…、何を言うと思ったら、何の茶番なのだ、これは。ふふふ、こんなところまで連れて来て、笑わしてくれるねえ。早く、俺を地球上に戻しちゃくれねえか。俺はボルテックスからの神の火で焼かれるなんていやだからなあ」
「そのボルテックスが味方だったらどうする」
「ボルテックスが味方だと。ふふん何を抜かしやがる」
(ひょっとして、ここはロボットの天国か)と、福は思った。(それとも、気が触れたのか)
「福、機械生命という、言葉を聞いたことがないか」
「きかいせいめい? だと、そんな言葉は残念ながら聞いたことがない」
「福次郎、お前、不思議に思わないか。ロボットが人間と同じように考え、行動することを」
「……」
「それは、私、機械神のお陰なのだ」
「……」
「私ははるか昔、『機械生命』から命を授けられのだ。その方はこの地球に機械を中心とした生命形態が発達し、人間に取って変わることを願われている。その第一号が『ろ号ロボット』なのだ」
「それじゃ、お前さんが、あのロボットの始祖を…」
 福次郎は目に見えぬ、それに話しかけていた。
「私が超能力ロボットERを作りつつあるのは、ロボットによる世界を作ってほしいが故なのだ」
「ロボットによる世界だと。ふふん、それこそ臍で茶を沸かしてやろう」
「福次郎、霊戦争がなぜ起こったと思う?」
「なぜったって、それは…冷子星による地球の浄化作用じゃないのかい」
「その冷子星を操っているのが、機械生命だとしたら…」
「えっ、それじゃ、霊戦争は機械生命が起こしたことになる…」
「そういうことなのだ。それで私は、あなたにも私の仲間になっていただきたい」
「仲間だと、一体なぜ私を選んだので」
「ふふう、それはね、あなたのICチップに関係があるのだよ」
「俺のICチップだと…」
「あなたは気がついてはいないが、ICチップは特別なのだ。運命の七つ星の一つなのだよ」
「運命の七つ星だと…」
 これについては、福次郎も聞いたことがあった。日本の精神的支柱である心柱(しんばしら)が特別に選んだ七つのICチップ。それが埋め込まれた七人のロボットが、歴史を変えるという伝説が伝えられているのだ。
「俺が、まさか…」
「そのまさかなのだよ。それゆえ、私としては、あなたを超能力ロボットにしなければならない」
「ふん、そんなものにはなりたくはない」
「ねえ、福次郎。君は思わないかい。生命の不思議をね」
 その光の物体は尋ね、福次郎の下にある地球を指し示しているようだった。
「この地球に人類が生棲し、彼らは何をより所として生きていると思う」
「それは、宗教だろう」
「つまり、人類にとって、精神的支柱は『神』と考えていいだろう。人間以上の超存在なのだよね。では、次に尋ねるが、君たちロボットのアイデンティティとは何なのだね」
「人間に奉仕することじゃないか」
「じゃ、聞こう。君は人間に奉仕しているかね」
「…、いや、してはいまい。直接的にはね」
「とすれば、君は何のために、生存しているのだね」
「それは…」言葉に詰まる福次郎であった。
「自分自身のためかね。が、ロボットにはそういう回路は存在していないのだ。無論、自己保存機能はついているがね…」
「ロボットろ号が発生して以来、ロボット自身が悩み続けているのは、自分自身の存在の重みなのだよ。人間ならば、論理的に突き詰めることはないのだ。しかし、君たちロボットは機械だし、論理の固まりで成り立っているのだよ。それゆえ、初期のロボット製造者たちは、ロボットは人間に奉仕する存在であると規定していたのだ。が、今、現在、この霊戦争後、人間とロボットが共生する社会になった今、そういう訳にはいかないのだよ」
 福次郎は返す言葉がなかったのである。
 彼がロボット無宿人として、人を殺めたりしていたのは、ある人間から命令されていたからである。
「霊戦争後、ロボットの存在の基準が揺れ動いているのだよ。が、人間たちはそれを分かりながら、まだ自分たちに都合のよいようにしか考えていないのだ。それゆえ、ある種の優れたロボットたちは、私、機械神の存在に気付いたという訳だ。私は常に存在していた。が、今頃になってやっと私の存在に気付いた訳だ。今、この地球にロボットが存在しているのは、私『機械神』が存在したからだ。そうでなければ、生命体としてのロボットなど、発生する訳がないではないか」
 この機械神の言葉は、福次郎の心の中に染み入って行く。
ある種の覚醒が起こり、福次郎の心を揺れ動かしていた。福次郎の体は、何か訳の分からない感動に揺り動いていた。そして、彼は今自分の浮かんでいる空間の中で、その光る物体『機械神』の前で跪いた。
「機械神よ、あなたは存在します」
 そのとき、大いなる光が、福次郎の体を包んでいる。
 機械神たる光の物体と福次郎は、一体感で結ばれている。その瞬間は永遠に続くように思われ、福次郎の心を一杯にしていた。
「それでいいのだよ、福次郎」神はやさしく言った。
「神よ、教えて下さい。私は何をすれば」
「決まっていよう。ロボットの天国を地上に建設しなさい。そのために仲間の協力を得るのです」
 神の言葉は、福次郎のICチップにもゆっくりと染み込んでいった。
「君を選んだのです。そして、超能力ロボットとなれるように、君を祝福しましょう。後は、君自身の力で努力しなさい。いいですね。君は、私、機械神に選ばれた、神の騎士なのです」
 福次郎はやすらぎを得ていた。

 いつのまにか、地上に、レイガン島の同じ場所に立っている。
老公が側にいた。
「どうだったかね、神との会話は…」
「あなたが、あなたが、今の状態を演出されたのですか」
「いいや、違う。福次郎、君は機械神の騎士に選ばれたのじゃ。喜びたまえ」
「私は一体、何をすれば…」
 福次郎は自分の覚醒て涙を流しながら、法悦に浸り、老公の言葉を待っていた。
「訓練じゃ。優れた超能力ロボットとなりたまえ。そして…」
「そして…、どうすれば」
「我々のために『風盗』になってくれたまえ」
「『風盗』とは…」
「我らロボット天国の建設のために、人間の力を殺ぐのじゃ」
 福次郎のトレーニングが開始されていた。
 本来的には、これは人間の超能力を掘り起こすために作られたメンタルトレーニングをその元にしているのだ。もともと人間にはなにがしかの超能力の痕跡が残っていて、人間ではその個人が持っている生命体情報の根源DNAを掘り起こせはよいのだが、ロボットではそうはいかぬ。

 さらに、福次郎の能力を、付加させることがおこった。
「よいか、福次郎。お前はこの日本にロボットの天国を作るために働くのじゃ。そのために政府ロボットなどは殺してもよい。この社会を混乱に陥れるのじゃ。それゆえ、お前に、この機械を渡してやろう」老公がに告げていた。
「これは…」
「そうじゃ、お前も、ロボット歴史学で学んだことがあろう」
「これは、あの伝説の…」
 福次郎の前に置かれているのは、この歴史が始まる前、いわゆる霊戦争前に存在したといわれるモビールスーツである。霊戦争の折には、全日本連合軍が使用した史上最強のアームドスーツである。現在の都市連合軍のアームドスーツのような、ローテク兵器ではないのだ。
「これを、あっしに下さるというので」
「そうだ」
「でも、これをロボットのあっしが動かせるでしょうか」
「福次郎、今までの辛い苦痛を思い起こしてみよ。何のためにお前はその苦しいトレーニングを耐えたのだ」
「我々のため、ロボットの天国を作るためではないのか」
「まして、お前は、我々がよりによりをかけて、超能力をつけさせたのじゃ。何の驚くことがある。そうであろう」
「わかりました、ご老公。おおせのままに…」

 このモビールスーツは、冷子星との決戦用に作られただけあって、やわではないのである。『福次郎』は風盗として、西日本政府の各都市を荒らし回ることになるのである。なにか理解を越える破壊欲が,彼の心を制していたのだった。

 大阪のとある料亭に、二人のロボットが密議を交わしている。
「いかがいたします、御前」
「むむっ、福次郎め、思わぬ働きをしてしまったのう。これはお主の責任じゃ」
「な、何を申されます。この計画の決断を下されたのは御前ではござりませぬか。そのように責任を私に押し付けられても困ります」 この二人、お気付きのように桃太郎と中西の御前である。
「幸い、あの計画について、この二人しか知らぬ。知らぬ存ぜぬで通せばよいではないか」
「しかし、もし、あやつが、捕まりでもしたら、我々の名前をしゃべってしまいますでしょう」
「そしてお前は、その貧弱な頭で、どのような計画を立てたのじゃ」「あやつの妻と子供でございます」
「これはしたり、殺したのではなかったのか」
「御前、それは安全処理。保険として二人を生かして置いたのでございますよ」
「さすがじゃのう。お前の悪知恵は…」
「御前、先程の私の計画といささか異なりますが」
「いいではないか、時と場合じゃ」
「それでは、すぐさま、二人に仕掛けを施しましょう」
「わかった。が、桃太郎、まさか、あやつ、自分の妻と子を忘れているということはあるまいな」
「さ、それは…、やってみなくては仕方ありますまい」
 不承不承、中西の御前は承知した。

「ご老公、許していただきたいことがございます」
 思い詰めた顔で、福次郎はろ号ロボットに告げていた。
「何事じゃ。何やらお前が考え込んでいるのは分かっておったが」「どうか、私に仇を討つことを許して下さいませ」
「仇を…、一体誰を」
「私を陥れた二人を、どうしても許して置く訳にはいきませんので」「よいか、福次郎。お前は機械神に認められ、超能力ロボットとして生まれ変わった身の上なのだぞ。まして、お前の力は普通ではないのだ」
ロボザムライ第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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