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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

●(編集終了)●青き騎士(1992年)未完

●(編集終了)■青き騎士(1992年)未完
青き騎士(1992年版)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/

シーン1
 もう、かなり昔の事だ。その時、私は、まさか彼が私の探し求めていた青い騎士だとは気がつかなかった。若気のいたりというものだろう。もし、あの時……。いや、もうやめておこう。
 時間は、2度と返ってこないのだ。

シーン2
「恐い子だよ」その時、私は何をしていたのだろう、記憶はなかった。
「何しろ、この子の頭の中には、悪魔が住んでいるのさ」
養父母が言った言葉だ。私の耳の奥にいつも残っている言葉だった。 その時も、私は彼らに尋ねていた。アイスフイールドのそばにある小さなコロニーだった。コロニーの前を連邦軍の車両が轟音をたててとうりすぎていった。
「ねえ、それどういう意味なの」
「ふん、自分で知っているくせに白々しい子だよ」
「そうだ、どうせ、私達の事も、心の中ではあざわらっているのさ」 なぜ、どうして、私を、普通の子供のように扱ってくれないの。 確かに私は父と母をうしなって、法律により、救済され、この父母におしつけられた子供だった。が、この時、地球は、生か死のせとぎわだったはずだ。《アイス》との戦争でたくさんの人々が死んでいた。ともかくも、この私に対する疑問、救済が私の長い旅の始まりだった。

 《人民の王》となって私がさとった事は、私が、あの人にとって《青き騎士》だったという事。
そして、気づいた時には、あの人はとても手がとどかない遠いところにいた。私が彼をうらぎり、そして死んだのだ。

シーン3
 まわりは荒野だった。それも血みどろの荒野だった。
改造された彼の視覚機能は、風景を人間とは異なる視点からながめることができた。零の力で見ることができる。
 零の電子のグリッドが彼、翔の眼の前に拡がっている。
 軍務についた最初は、希望にみちあふれていた。若さと、おのれの未来に対する希望。未来は栄光で満ちあふれているはずだった。対「アイス」戦が彼の未来、希望を打ちくだく。
 今の彼は荒野の狼。個々人の判断で勝手に行動するワンマンアーミー。索敵し、攻撃する。
 通常の正規戦では「アイス」に対する勝算がないと理解した地球連邦軍はヒット=エンド=ランのゲリラ戦を展開していた。「アイス」はある一定以上の気候帯には侵入しない。南極がその戦略地域であり、対地球軍との戦域は「アイスフィールド」と呼ばれ、対「アイス」用の戦士のみが生棲していた。弱点をみつけ、「アイス」を撃破すること。それが翔らに与えられた任務であった。が翔の出身学校「連邦士官学校」いわゆる「バトルスクール」での装甲機兵科で現時点で生存している人間は約5%であった。翔も対「アイス」戦でかなりのダメージを受け、補給もままならぬ戦略の泥沼の中で自らの運命を呪っていた。
 おのれの技量に対する信頼。世界はすべて、彼翔のためにあるように思えた。突出せぬばかりのエネルギーが彼の体に宿っていた。対「アイス」戦までは。
 対「アイス」戦は、翔の神経をずたずたに切りきざみ、体力・気力もなえさせ、あらかたの未来に対する希望をもはぎとっていた。 彼1人のための巨大な装甲機。初めて装着した時、翔は感じた。自らの能力を高めるための補助機能。零。
 神から与えられた最も秀れた機械。
 電子戦のための高度なテクニックが必要だった。
 敵をほふるためのあらゆるテクニック。翔は短時間で修得していた。

 アイスの飛行端子は、連邦軍の船に侵入し、連邦軍の人間の頭に触手をうちこむ。その触手にはアイスブレッドをうめる機構がそなわっている。打ち込まれたアイスブレッドは、人間の脳内で微妙に変化する。
 彼らは人類を殺しはしない。冷徹に人間1人1人の頭にアイスブレッドをうちこんでいくのだった。
 人類をアイスに同化させていくのだ。アイスの命令をきく。がそれに適応できなく、廃人となるものもでた。アイスブレッドを打ち込まれた子供はある一定年齢になると、アイスの命令を聞き始める。それゆえ、子供の関しては、16才まで人類の味方だった。が、彼らは、ニュー・オーハンとも呼ばれた。地球の孤児である。連邦軍の支配にあった。

 翔は、“零”に闘うことを命じた。
 幼ない頃から翔は“零”と共に育った。翔にとって零はいまや肉親以上の存在である。
 翔の身長、体重、大きさが変化するにあわせて“零”もチューンアップされた。零は翔は別の意味で腕や足と同じで肉体の一部である
 連邦軍は子供が生まれた時、適性検査を行ない、優良因子を持つ子供たちをかく離し、特別に育てた。それゆえ、翔もまた、自分の両親の顔を知らない。
 連邦政府の保護のもと、昔の学校制度と同じ様に、翔は機動装甲兵として育てられた。所属は“狼”部隊である。
No4-2
「翔、気をつけろ」零の言葉が翔の意識に入ってくる。
アイスの飛行体だった。アイス・レンズ。中央部が盛り上がり、レンズの形をした円盤であった。
 レーザー光線が、翔の体をねらって襲いかかってくる。
 上空で何かがはじけたようにボンという音がした。
 まるで花火のように小さな部分が散らばっている。それがすべてアイスの分身なのだ。アイス端子。アイスの意志を持ち稼働する。大空を被ったそれは一勢に翔をめがけて飛来してくる。
「おいでなすったぞ、翔」
「ああ、零、腕の見せどころだな」
 零の装甲機からも火花がほとばしる。
アイス端子の光子と、装甲機から放されて光子が、空中で交錯し散華する。火花と火花があいあらそっているようにも見える。
 襲撃が終ったアイスの分身は、アイスレンズ本体ごと翔の方へ向ってきた。「いよいよ、本体が」
「まっていたぞ、この瞬間を」
 翔の手には、装甲機に装着された剣がにぎられている。
 瞬間凍結を可能にする剣だった。絶対零度を与えるSB(スペシャル・ブレイド)。
 その零度のおりSBへやつらをつめこみ、分子のかけらまで破壊するのだ。
 翔のSBが、本体ボディにあたる。瞬時、大きな音がする。空気が振動する。アイスレンズは瞬間とまり、自らの重量で落下していった。
 戦いのあとで、「零よ」翔は装甲機に呼びかけていた。
「俺は君と生きていけることに喜びを感じる。君といるこの世界は何とすばらしいのだろう」
 零は答える「翔よ、それは私も同じだ。普通ならばどこかの機械のCPUにすぎない私だが、君のおかげで別の生命体験をすることができる」
「君にとって生命とは何だろうな」
「その同じ質問を、翔、君にかえすさ」零は続ける。
「翔、いつまでも生きろ、そうすれば同じように私はすてきな生命体験をくりかえすことができる」
「ああ、できればな、零、が、人間には寿命というものがあるのだ」「諦観か、翔。君にはにつかわしくない」
「いや、そうではない」
「心配するな、君を守ってやるさ、翔」
「零、笑わしてくれるなよ。それよりも俺が死んでしまったらどうする、他の装甲機のように自爆するか」
「そうはしない」
「が、連邦政府は乗り手のいない装甲機の存在は認めないぞ」
「しかし、俺は違う生き方をしたい」
「おいおい零、連邦政府が俺達の声をモニターしているんだぜ」
「翔、君は俺の生き方をバックアップしてくれるだろう」
 翔は、零と話ながら、連邦軍の運搬ラインのストリートに着地した。が、その瞬間、足元から零が沈む。
シーン5
 トラップドア。翔は瞬時、そう考える。
 トラップドアとは、人類と「アイス」との勢力境界に投げられてるアイスの巧妙な罠。そのドアにはいった物体を瞬時、アイスパレスへ伝送するといわれていた。彼らは捕獲した人類を殺しはしない。みずからの命令通り動く人形とする。アイスブレッドである。
 その罠に、翔はひっかかったと思った。
 そいつは並のトラップドアとは異なっていた。
粘性のある液体が、彼を装甲服ごと包みこんでいた。しめあげられ、彼の装甲服のはしばしがきしんでいた。
「こいつは、本当にアイスか」翔は思わず叫びそうになる。あらゆる戦術を自らの頭脳と零の電子脳で計算してみる。冷凍法、光熱法。この液体に対しては反応が皆無であった。
「一体、お前は何者だ」この液体全部から、声が響きわたる。
「私を何者だと尋ねたかね」翔の混乱した意識を覚醒させる。
「私は“神の河”だ」その声が答えた。
「アイスではないのか」
「違う。君達の味方だ」
「私をなぜとりこんだ」
「翔君、間違えてはいかん。我々は君を保護したのだ。なぜなら、君にある仕事をしてほしいのだ。
「役目だと」
「君に、ある人間の青き騎士になってほしいのだ」
「騎士だと、この俺さまが、青き騎士だと。笑わせるな」
「いや、君は笑うが、彼女を我々のもとに連れてこざるをえまい」「彼女!女か」
「そうだ」
「どんな女だ。そいつが我々人類の救世主ってわけか」
「彼女はまだ覚醒していない。今の職業は、殺し屋でおたずね者だ」「はっはっ、笑わしてくれる。そんな女が俺を騎士として必要としているのか、こんな笑い話は軍隊の中でも聞いた事がない。最高だぜ」
「この荒野の狼と呼ばれる俺が、“青き騎士”になるだと、これは今までに聞いた最大のジョークだよ」
 翔はきずく。「まてよ、ひょっとして、今までに出現した青い騎士は、皆、お前が作ってきたというわけか。恐るべき存在だよな。“神の河”よ」
「翔よ。お前も気付いているだろうが、アイスの活動が活発になっている。早くアイスを止めなければ、地球がすべて冷凍されてしまう。今までに捕獲された人類の数も多い。アイスの世界に適応してしまう。そうなればアイスの思うつぼなのだ」
「で、俺にどうしろと」
「彼女を助けてほしい」
「どう思う、零」

シーン6
 私が始めて「青き騎士の伝説」を聞いたのは、小学校の頃だった。話をしてくれたのは移動商人の娘パウエだった。
「沙織、あおい騎士の伝説って聞いた事がある」
「いえ、何の事、それ」
「人類の主護神として青き騎士がいる。困難な時にあらわれ、人類を助けてくれるのよ。戦争の伝説よ、何人かの人がそれを聞いた事があるわ」
「あなた、青き騎士を見た事があるの」私は尋ねた。
「ええ、あるわ、私が別のコロニーにいた時にね」
「本当にあおい色をしているの」私は目を輝かして言った。
「その“あお”はね、地球光の青なのよ。宇宙から地球を見た時のあの青色なの。そして彼は私達を幸せにしてくれるわ」
「しあわせにしてくれるって、それじゃこの地球を救ってくれるってわけなの」
「そう、私達地球人類をね」
「それじゃ、私みたいなアイスブレッド、ニュー・オーハンは無理なのね。」
「そうじゃないわ、沙織、全人類を救ってくれるのよ」
「ふうん」
 この時も、私は、私がこの「青き騎士」に出会うとは夢にもおもっていなかった。

 私は幼い頃から、親から厳しく育てられていた。それがなぜなのかわけもわからずに。
「早く、沙織、この綱をわたるんだ」
 ロープは地上3mの位置にぴんとはられていた。が子供の私にとって、それは超高層ビルのいただきにも等しかった。それでも日々の日課にすぎなかったのだが。
とうとう、ある日、私は泣き叫んでいた。「やめてよ、ママ、死んでしまうよ」
母は言った。「ああ、死んでしまった方が、お前は楽かもしれないよ。これからは、お前は地獄を見るのだからね」
 その地獄がどれ程の地獄か、私はまだ気づいていなかった。

また、ある日、母は言った。「ほれ、沙織、あの犬をつかまえるんだ」
「だって、あれは私のロボット犬だよ、つかまえてどうするの」

「だから、つかまえて、分解おし、IC部品が高く売れるだろう。おまんまが食べられるじゃないか。食事をしたくなければいいけれどね。おまえだってたらふく食べたいだろう」
 殺した犬は、私がとても愛していた犬だった。
だからできるだけ苦しまないように殺そうと思った。犬との格闘は骨がおれた。
神経叢があつまっている骨部分を一折りにした。
涙もでなかった。まま母からいわれた通り、犬の体を
バラバラにして、使えそうな部分をよりわけた。
 アイスにおそわれキャラバンに生き残っていた犬だった。それを私は見つけ、大事に育ててきたのだ。
 ロボット犬の骨が折れたそのうめき声をききながら私は泣いていた。なぜ、私だけが、こんな目に。
「それはお前がアイスブレッドだからさ」
「ちがうわよ、私はアイスなんかじゃない。人間よ」
 コロニーに住む同じ年頃の子供たちは残酷だった。
「それじゃ、お前の体温はなぜそんなに冷たいのだ」
 そうだった。私の体温は普通の子供より、10度は低かった。異常体質なのだろうか。
「やあい、冷血動物、あっちいけやい」
 私は泣きながら、家へたどりつく。泣いてはいたが、けっして涙を人に見せなかった。学校は家庭よりまだ、ましだったからだ。

 やがて、私に転機が訪れた。
 ある日、学校から家へかえると、家には見知らぬ男がいた。都市の男らしかった。両親はこの男には丁寧だった。父は私を目ざとく見付け、男に示した。
「ゲイターさん、この子がそうです」
「ああ、沙織、りっぱに育ったじゃないか」
「そうでしょう、アイスブレッドで生き残った子供、ニュー・オーハンは、わずかだって聞いていまさあ」
「母さん、このおじさんは」
「いいかい、よくおきき、沙織。今日から、お前はこの人にもらわれていくんだ」
「いやよ。急に何を言いだすの」
「おや、お前たち、この子が《ローズバット》に属していることを知らせていなかったのか」ゲイターと呼ばれた男は言った。
「そうでさあ、へんな事を知って逃げられると困ると思いましてね」 別の地獄のかまが、開かれたと私は思った。

シーン7
「沙織、悲しむことはない。いわば君は人類のエリートなのだから」ブルーの目をもつゲイターが言った。《ローズバット》への車の中で私にしゃべりかけていた。他にも女の子が、乗せられていた。
「エリート、そのエリートの私になにをさせようとするの」
「政府への非協力者の排除だ」
「つまり、エリートが殺しをするの」
「そうだ、今、政府は猫の手でも借りたい。対アイス戦争で、人材が払底している。それに、これは連邦政府が決めたことなのだ」
私は決意した。逃げよう。まだ、ましな世界がどこかに残っているに違いない。
私は、休息の時、ゲイターのすきを見計らい、ワゴンから逃れた。アイスフイールドのこのあたりは、私の遊び場も同然だった。
が、すぐに、ゲイターは私を見付けた。
「遊びはいいかげんにしたまえ、沙織、私達にはあまり時間がないのだ。教えておこう。君の頭の中の悪魔にはナンバーがうたれている。それにそのあり場所も察知できるのだ、君がどこにいるかすぐわかる」すこしの会い間、だまりそして悲しげに言った。
「誰も自分の運命からは逃れ様がないのさ。それは私も同じだよ、沙織」ゲイターは私を両肩をつかまえ、両眼をのぞきこんで行った。
 ローズ・バットは、また別の意味で、練獄だった。
「アイスブレッド」の中から特に殺傷能力があると思われる少女たちを集めていたのだ。政府はニュー・オーハンを分析していた。性格分析後、各々の里親に預けていたのだ。

「こいつらを殺せ」教官は命令した。ローズバットの巨大なドームの中だった。訓練期間だった。最初の研修は終わっていた。
 眼の前の壁には、青い顔をした生気のない人間たちが、10人ほど呆然と立っている。何か変な感じだった。
「だって、人間だよ、この人達は」私は言った。
「違う、こいつらはもう人間じゃない、アイス側の人間だ」教官は断言する。
「だって」
「アイスブレッドの注入が失敗した人間だ。いわば人間爆弾だ。廃人だ。安らかな死を与えてやれ」
「でも」私達はためらった。
「お前達がためらうなら。こうだ」教官はおもむろに銃を構え、そいつらを殺そうとした。
次の一瞬、何がおこったのか、私には理解できなかった。あの生命のない人間たちの眼に怒りがみなぎり、我々を屠ろうと手や足を武器に襲って来たのだ。このドームには出入口はなかった。私達がこの中に入ると完全に密封されたのだ。そのときは、なぜだかわからなかったが。
私達は戦わざるをえない。教官の銃は奪いとられ、教官に向け発射される。彼の体はずたずたに吹き飛ばされ、ひきさかれていた。 一瞬の出来事だ。
 私と私の仲間は「こわい」おもわず叫んでいた。教官を屠った彼らは、次に私達の方に眼を向けた。
「やめて、やめて、私達は子供だよ」そいつらは聞く耳をもたなかった。
 私のとなりにいた子がまず倒れた。
 殺すか、殺されるかだ。選択の余地はなかった。二つに一つだ。自分が死ぬか、相手を倒すかだ。
 すでに講習をうけていた殺人テクニックを使わざるを得なかった。敵は強かった。何しろ人間ではなくなっていた。
 普通の人間だったら倒れるほどの打撃を与えても倒れないのだ。おまけに、私達といえば武器は与えられていない。自らの体だけが武器だったのだ。
 私達の仲間の何人かが、倒れて動かなかった。それを見て、私の怒りは激化した。
「こいつらを殺してやる」
「沙織、大丈夫」だれかが叫ぶ。
 私の体のどこかにあるギアがシフトしたようだった。数分達って、私が気づいた時には、体じゅう血まみれだった。が、私はそこにすっくと立っていた。他の仲間も4~5人をのぞいてぼうぜんと立っていた。フロアには死体と肉片がころがり、湯気が立っていた。いやなにおいが充満していた。それは血と汗と恐怖のためのアドレナリンのにおいだ。静けさがあたりを被う。誰も声がでない。その静けさを破り、急に人の声がした。
「よーし、第一過程は終了だ」ドームの上部に窓が開き、あのなつかしいゲイター氏が顔をだしていた。
「ゲイター、なぜ私達を助けてくれなかったの」
「沙織、これは試験なのだよ。実施試験のひとつだ。そして君達が生きていくための資格を与えられる」
「でも、あの教官が死んでしまったわ」
「彼? 彼の姿を見てみろ」
 死体の間から、教官だった彼が立ちあがっていた。
「よく、やったよ、君達」彼は私達を激賞する。
「彼は人間じゃなかったのね、それじゃ敵も」
「いや、残念ながら、敵は本物さ」
 私達は、吐き気をもよおしていた。
「ゲイター、あなたの恩は忘れないわ」
「頼もしい限りだ。君たちたよりにしているよ」
 私の体の中で、何かがカチリとなった。

シーン8
 ニュー・アッピア街道には、ボロボロになったアイスブレッドの体が、金属製の十字架にかけられてぶらさげられている。この現代のローマ、つまりアイスフイールドの兵站基地に通じる街道には、同じようなアイスブレッドの亡きがらが、かかげられていた。
 沙織の乗った輸送エア・カーゴは、その前をゆっくりと通りすぎていく。
「くそっ、いやだよう、あんな姿になるなんて」
 ローズバットの1人が叫んだ。
「安心しろ、人間にはあんな事はしないさ」ゲイターが言う。
私たちは、ローズバットの要員として、戦略基地に送られる途中だった。
 政府がアイスの攻撃でやられた。そんなうわさが、私達の収容所に拡がっていった。
「アイスフィールドでも、連邦軍が全滅状態に陥ったそうだ」
「そういえば指導員の奴らも、浮足立っているな。チャンスだぜ、沙織」仲間の一人、チェリーが言った。
「どうするのさ」
「脱出だ」
「どこへ逃げるの」
「どこへでもさ。どうせ無政府状態になる。そうなれば力が支配する社会となるさ」

シーン9
 この後、私、沙織は移動略奪隊の長となった。残存するコロニーや戦略基地を略奪し、殺す。テクニックはローズバットで教わった通りだった。逆に体が反応していた。
 1シーズンがすぎた頃、見覚えのある老夫婦が、私の前にひきずりだされてきた。
「おかしら、こいつらがおかしらを育てたって言ってます。いちおう殺さずにおいたのですが」
 驚いた事に養父母だった。私のゆがんだ性格の最大原因。「ローズバット」に私を売りはらった張本人だった。
「ああ、沙織、私だよ、お前の命の恩人を覚えているだろうね」「そうだ、ワシラはお前の、育ての父と母だ。幼ない頃、世話をしてやった。まさか、それを忘れてはいない」
「こんな奴は知らない。一緒に燃やしてしまいな」私の声は冷たい。「なんて奴だ」
「お願いだ、助けておくれ」 2人は私の足元にひざまづき、いまにも足の裏までなめそうだった。
「おまち」私は仲間に言った。
「そいつらを助けておやり、ここから逃がしておやり」
「しかし沙織、こいつらは…」
「いいんだよ。私が決めたんだ」
 2人は私の足にせっぷんし、ねずみのように逃げ去っていった。
「たまには、いい事をするね、沙織」
「いいかい、あまったれるんじゃないよ。ここから逃げたって、どうやって生活できる。外は冷たいよ。もうすぐ雪のシーズンだ。どうせ助かりっこないさ」
が、その考えはあまかった。彼らは、通信機を持ち逃げした。私達の居所が知れると、残存する政府軍が捜査の手を伸ばしてくるに違いない。
 私達は父母を追跡するはめになった。
「ああ、沙織、いわないこっちゃないよ」チェリーが嘆いた。「あんたには慈悲なんて、似合わないのさ」
私達は、彼らをようやく発見し、今度こそ、いきのねをとめようと思った。
 が、二人は連邦軍の装甲機に保護されていた。

シーン10
「その二人を渡してもらおうじゃないの」
 私はその男に声をかけた。氷原の上にその男はすっくと立っていた。私の方にふりかえった時、それがわかった。野性的な力強い男だった。
 男は、装甲機から出ていた。
「お前は誰だ」その男が、私に面と向かってしゃべっていた。
「私を知らないのかい、ローズ・サークルの長、沙織さ。このあたりをしきっているのはあたしさ」
「お前が、あの沙織か」さげすみの眼だった。まるでうじ虫が眼前にぶらさがっているように、その男は私を見ていた。
「お前みたいな女。どうせアイスブレッドだろう」
 私の顔は、怒りでどす黒くなっていただろう。
「そうだよ、それがどうしたというんだい。私はアイスブレッドだよ」
「そうなんです。あいつは小さい時からこわい奴なんです。私達はあいつの育ての親なんですよ。それが今はこのざまです。私達をなぶり殺そうとするんですよ。だんな」目ざとい父親が今度は、その男に泣きをいれていた。
「俺はだんなという名前ではない。名前は翔。荒野の狼だ」
 仲間から、どよめきがおこっていた。
「お前が荒野の狼かい、このあたりじゃ名前が売れているね」私は本当のところ少しびびった。
「狼だか、何だか知らないけれど、干渉はやめておくれよ。ここはあたしの領地だよ。お前みたいな敗残兵はお呼びじゃないよ」
「が、な お嬢さんよ、人の難儀をほっておけないのが、俺の流儀。どうしてもこの人たちを殺すというのなら、まず最初に私を倒してもらおうか」
「聞いたような口をおききだね」
 ここでひきさがれば、ローズ・サークルの沙織の名おれだ。すくなくともローズ・バットで最優秀と呼ばれた私だ、仲間の手前もある。
 私は叫んでいた。「1対1の勝負というわけね、翔とやら」
「無駄な闘いだな」零が翔につぶやいた。
「なぜだ、零、俺はこの両親たちを助けたいんだ」
「それが無駄な努力だというんだ、翔。あやつらを助けてどうする生活のめんどうでもみてやるつもりなのか、我々は移動殺傷機だ。アイスに対して、我々の仲間の復讐を果すのではなかったのか。それがこんなところで、他人のもめごとにかかわりあってどいする」「闘いをやめるかい、臆病風にふかれたさ」私は考え込んでいる翔に向かって叫んでいた。
「ともかく、ここは、一勝負」
「翔、あせるな」零が言う。がしかし、翔の体はもう反応していた。しぶしぶながら零も、沙織はローズバットであたえられたテクニックをすべて使用する。ローズサークルの部下たちもまわりをかこんでいる。沙織は、翔と比較して小さい体にもかかわらず、健闘していた。
 翔の発するレーザー光には沙織はつかまらない。個人装甲をつけていないだけすばやく動ける。さらに沙織は、ローズ・バットでは敏捷さにおいては一番だったのだ。
「どうしたい、人間1人殺せないでアイスをやっつけるとは連邦軍の名と、荒野の狼伸ばして名前が泣くよ」
「何、生意気な女め」
「翔、おちつけ、よくみろ、彼女の動きにはパターンがあるだろう。それに相手はアイスではない、よく考えろ」
「そうか、きたない手だが」翔はきづく。
「そうだ、あの女を殺すこともあるまい」
「よしそうしよう」
 とはいうものの、すでに沙織は、岩場のくぼみへ追いこまれていた。「さあ、沙織、覚悟をしてもらおうか」装甲機の中から翔の声が聞こえてきた。
「へん、おだまりよ、最後の一発だよ」翔の装甲機が数mに近づき、沙織に照準を合わせた時、沙織の動きが今までと異なっていた。倍速度で動き、翔の装甲機の首部に、背後から両腕でしがみついていた
「さあ、これで私をどう処置する」私の手には、すでにハイマンガンスティールのナイフがにぎられている。
「このナイフはよく切れる。動力機動部ケーブルをたたき切ってやる。そうすれば、あんたも単なるでくの坊さ」
「まちな、沙織」翔の声が背後からした。
 私は思わずふりかえる。そこにはレイガンを手にした翔がいる。
「これはいったい」私は気づく。
「きたない手を使うね、それが狼の闘い方かい」
「えい、こうしてやる」私はケーブルにナイフを差し入れようとした。一瞬、電撃が装甲機からほとばしり、私は気をうしなった。
 最後の言葉が耳に残った。
「やれやれ、手をやかせる女だなあ」
 意識がもどると、もと私が住んでいたコロニーの家に私は寝かされていた。
 前には翔がすわっている。
「きたない手を使うね、狼」
「おいおい、あいさつはそれかよ」
「だって、そうじゃないか」
「我々が本当の力を使えばお前はふきとぶ」翔の隣りにあった装甲機が、翔の声で言った。
「おどろいたか、沙織。我々は一身同体なのさ」
「機械と人間の共生体が我々“狼”さ」零が言う。
「連邦政府がこのように我々を作ったのさ。だから子供の頃からこいつと一緒さ」私の心を揺さぶる何かがあった。
「それじゃ両親の顔は」
「そんなもの覚えちゃいない」
「あたしと同じだね」
「ああ、聞いているさ、ローズバットのうわさはさ。すべての人類の子供はアイスに対する戦闘兵器にされている」
「普通の子供はいないのかい」
「わずかだ、連邦政府の要人のご子息さまたちだけさ」
「それじゃ、あんたと私は同類なんだね」
「そういう事さ」
 私が寝かされている部屋の中に、唐突に私の養父母がはいってきた。
「どうも翔さん、助けていただいてありがとうございます」
「そうです。こんな鬼っ子に育てた覚えはないのですがね」
 2人の様子が何か違う。言葉に表せないのだが。
「いかん、沙織」翔がどなる。その言葉と同時に、養父母の体が白熱したように見えた。両親の体は、触角の集合体と化した。そこには人間の姿はなく、アイスブレッドをうめこまれた「アイス」の究極兵器が存在した。
「こいつは」
「はやくここから逃げろ。沙織」翔は、私を抱き上げ、装甲機の方へほうりなげた。
「わっ」装甲機の装着部が開き、私をやわらかに包み込み、装甲機のコックピットが閉まる。同時に大爆発がおこった。
「翔」私は装甲服ごとふきとばされながら叫んでいた。
「大丈夫だ、沙織。翔は並の人間じゃない」装甲機の中で、声が聞こえた。廻りは火の海と化し、轟音が零のモニターから聞こえていた。
 コロニーは巨大なクレーターとなっていた。何もかも消滅していた。私の仲間も、あの懐かしい思いでの家家も。過去がすべて。
 「翔」私は声を限りにさけび、彼を探していた。それが愛だとは私は気づいてはいなかった。
「沙織、心配ない。翔は生きているはずだ」
「どうして、そんなことがわかるのよ」
「私の体は、翔の生命と同調して作られている。それゆえ、翔の生命波を感じることができる」
「それならそうと言って。はやく翔のいる場所を教えてよ」
「が、沙織、現況は君の眼の前にあるとおりだ」
「何もかもバラバラなのだ。おまけに翔の生命波はでているが、彼は意識を失っているようだ」
 私は、急に昔殺したロボット犬のことを思い出していた。
 何の脈絡もないのだが、とても寂しい気がした。

No11
 アイスの端子は、私たちに意識で話しかけてきた。
「沙織をわたしてもらおう」
「なぜだ」翔が尋ねた。
「君達にはもう、選択の余地などない。我々に対抗できる勢力など地球に残っていない。我々アイスの前にひざまづき、アイスブレッドをうけいれることだ。我々に頭をたれよ」
「何をいうの」私は怒っていた。
「くっ、沙織、ここは」翔は言う。
「おとなしくするんだ」
「そういう事だ。それがお互いのためだ。翔とやら、沙織を渡せ」「沙織を? なぜ」
「沙織は選ばれた個体だからだ」
「どういう事」私は尋ねる。
「アイスが君を必要としている。つれてこいという指令だ。アイスパレスへ来てもらおう」
「翔」私はおもわず、翔の体をつかんでいた。
「げせないなあ、なぜ沙織だけを」
「わからぬ奴だ。疑問、反問など、君たち人類にはもう存在しない。あるのはただアイスの命令だけなのだ」
「沙織、逃げろ」急に翔が叫び、上空から零が舞い降りてきた。
「狼部隊の最後の死に花をみせてやるぜ」
「無用なことを。人間め」
「それほどまでなら、俺を倒してから、沙織を連れてゆけ」
「ふふっ、そうか、お前が沙織の青い騎士というわけか。これはお笑い草だ」
「お笑い草だと。どういう意味だ」
「いずれわかる。まあ、お前はその時には死んでいるだろうがな」「くそ」零の反撃砲が、アイスの端子に向けて発射されていた。
「わからんか。もう無用だぞ、翔とやら。我々にはそんな物理的な攻撃など役にたたんのだ」
「くそっ、いったいどうすれば」
「翔」
「零、わるいが、沙織を連れて早く逃げろ」
「どこへ」
「神の河をさがせ。神の河の中に彼女をうずめろ。そうすれば彼女は助かる」
「わかった、翔。君をほおっておくぞ」
「そうしてくれ。私はここでやつらをむかえうつ」
「翔、教えて。やはり、あなたは私の青き騎士なのね」
「わからん。が、沙織、覚えておいてくれ、君をまもるために死んだ1人の男がいたことをな」
「翔」
「沙織、早く逃げるのだ。翔の力ではそう長時間ささえきれん」
「でも、零」
「君が生きのびろ。そして翔のかたきをうつのだ」
「一緒にきて、翔、お願いよ、私はあなたの助けがなければ生きてはいけない」

シーン11
地中から液体が沸いて来る。「これは」
「神の河だ」
零が言う。「さあ、沙織、この河に入るのだ。」
「この河はいったい」
「神の河だ」零が答える。
「この河に入れば」
「君は世界の救世主となれる」
「何ですって」
「君はそういう運命を背負っているんだ、沙織」
「誰がそんなことを決めたの」
「わからん、神の河に聞け」
「でも、翔、あなたは」
「私か、私は君がこの河を渡るのをみとどける」
「翔、お願いよ、私はいなければ生きてはいけない」
「だめだ。君だけでも渡ってくれ。私の命はもう長くはあるまい。2人が倒れるよりも、君が生き残り、君が人類をすくうのだ。それが君の宿命だ。それが、君達アイス・ブレッドの役割だ」
 翔の服の破れ目から、血が流れおちている。
「沙織、急げ、やつらが追いかけてくる。私の体力も長くはもたん」沙織の眼に追跡機が飛来してくるのが映っていた。
「零、彼女を投げ込め」
「いやー、翔」投げ出されるのと、翔と零にアイスの攻撃が集中するのが同時だった。

シーン12
 体ごと、その液体につっこんでいた。変な色をしていて、ゼリーの様だった。流れの中に身をまかせた。その中は温くもなく、冷たくもなかった。それは私の体温と同じ温度だった。私は理解していた。河は一つの生命体だった。ある一つの強い志識が私の体の中にはいってくる。
「やっと帰ってきたね、沙織」
「帰ってきた、ですって」
「そうだよ、我々は君の仲間なんだ」
「アイスブレッドなの」
「そうではない。アイスブレッドはいわば変種だ。そうだね、君に理解しやすい言葉でいえば 我々は地球の霊。それも地球創成以来の生命体の思想の集合体だ。我々は、この地球という小さな星の生命の記憶体だ。それゆえ、この地球に滅んでほしくないのだ。つまり、我々はいわば、地球意志というものだ」
「その地球意志とやらが、私に何をさせようというわけ」
「君がこの地球を救うのだ」
「笑わさないでよ。私の手は多くの人々の血が汚れている。ついさっきも、1人の人をうらぎり、殺してしまったわ、その私がこの地球人類を救うですってお笑いぐさよ」
「しかし沙織、それが君の命の役割なのだ」
「命の役割ですって、それじゃあ、1人1人に役割というものがあるとでもいうわけ」
「そうだ、君の役割は全人類も救い、我々も救うとい事だ」
「それほど、私が大切な人間なら、なぜ、今まで手助けをしてくれなかったの。なぜ私がニュー・オーハンであるときに、助けてくれなかったの。なぜローズバットであるときに私を救済してくれなかったの。私が、それほどの重要人物ならば、今までに助けてほしいときが幾度もあったわ、なぜなぜなの。この数分前にすら、私は最愛の人をなくしたわ。あなた方の力をもってすれば、簡単だったはずよ」
「沙織よ、我々は手助けすることはかなわぬ、なぜなら、実体を持ってはいない。人々の悲しみを感じ、同じように悲しみ、嘆くことはできるが、それだけだ」
「ただ、それだけ。地球が、人々がどんなに苦しんでいるのに同じように悲しむ、ただそれだけ」
「そうだ、それだからこそ、お前の出現。さらにこの我々の元にもどってくることをどれ程待ちのぞんでいたか。運命というものには さからえない。お前が我々のもとにくるためには、君の悲しみ・苦しみを必要としたのだ」
「それじゃ、私は人類を代表して、代りに苦しめというわけね」
「大切な役割を果たしてもらいたい。アイスパレスに行け」
神の河は続ける。「沙織、お前しかアイスパレスにはいれないのだ」「なぜ、私が」
「それは、お前がアイスの娘だからだ」
「なぜよ、なぜ私が娘なの。私はニュー・オーハンの1人にすぎないわ」
「違う、それなら、なぜ、ローズ・サークルのチーフになれたのだ。連邦政府もわかっていたのだ。君がアイスの分身だとな。だから君をおよがせておいた。が、逆に君はアイスのために連邦政府をがかいせしめた。君の情報収集力を持ってしてな」
「待ってよ、それならば、私が地球連邦軍を滅ぼしたというわけ」「そういうことだ。信じたくないだろうが。本当のことがわかる方法がひとつある」
「それは」
「君がアイスパレスへ行き、アイスに尋ねることだ」
「もし違えば」
「それならば、君がアイスを倒せばいい。ニュー・オーハンのうらみと、君のあおい騎士、翔のうらみをはらすためにな」


シーン14
「お前に血をさずけよう」
「血ですって」
 翔の姿が目の前に現れる。
「翔、何んて姿に」
「この翔の血をお前にさずけてやろう。お前の体細胞のどこかに、お前がこの翔をいつも近くに感じる事ができるようにな」
シーン10
「私が君をアイスの元まで連れてゆく」
「えっ、どうやって」
「君がアイスブレッドであることが役立つ」
「え、どういう事」
「君が冷温生物だという事だ」
「まさか私を」
「そういう事だ。君をトラップの中につめ込む」
「やめて」私は“神の河”の力により、トラップ=ドアにつめこまれていた。アイスがアイスフィールドにばらまいている冷凍のわなだ。私は意識をうしなっていた。
「よく来たね。沙織」
光の中心から声が聞こえてきた。
「一体ここは」意識がはっきりした私はまず一言を発した。
「『アイス』の場所さ、もちろん」
「“神の河”の考えている事などおみとおしさ。私にとってはね。お前がとてもすぐれた沙織バットと聞いていたからね」
「どこからそんな情報を手に入れたの」
「私の眼と耳は、あちらこちらにあるのさ」

シーン16-3
 翔のぬぎすてられた“零”が動いていた。私は叫ぶ
「これはいったい」翔の声が聞こえる。
「私の残留意識が零を動かしている。私自身の体は滅んだが、まだ体の一部である“零”は動かせる。さあ、沙織、零にのって戦え、私の“零”と沙織、君の力が加わったならばアイスを倒せる。戦うのだ、沙織、いや戦ってくれ君と私のためにそして地球の未来のために」

シーン16-4
アイス、滅べ
私沙織は激怒していた。今までの悲しみ、苦しみが収斂されていた。我々、ニュー・オーハンのすべての元凶。また、翔をはじめ狼たちの存在したのも彼の存在のおかげ。いまの傷ついた地球のすべての原因はアイスにあるのだ。
私の眼の前から消えてなくなれ、私は心から念じた

シーン20
「私がアイスよ。この氷原、いえ、地球をいずれすべて支配するために生まれてきた」
あなたのおかげで私達はニュー・オーハンとなった。一体、何人の子供が苦しい眼にあったと思う。私は、すべての子供の怒りの権化よ、覚悟しなさい」
「沙織、お前は忘れているね、なぜお前たちが、なぜ頭の中に悪魔をかっているといわれているのか」
私は気ずく。「まさか」
「ホッホッホ、その通りよ、私の体の一部を切りさき、あなた方の頭の中へほおり込んだ。だから、あなたの心の秘密なぞ、何でもわかるわ。あなたの想いはあおい騎士、それもあなたが裏切り、あなたのために死んだ」
「やめて、なぜなの」
「まだまだあるわ、あなたがその想い、死の想いにほだされて、いかに「神の河」でかわったかね」
「怒りよ、あなたに対する、怒りで一杯だわ、私は私だけで戦っているのではない。私の体の中には翔の血が流れているのだわ」「ほほう、翔と共に戦うのですって、それなら、その部分だけを分離させてあげよう」
 私の体がひきちぎられる想いがした。
 体のすみずみから血や肉がとびだしていく。
 「アイス」の方に、やがてその血と肉はごそごそともりあがる。そやつは翔の姿をとっていた。
シーン16
「沙織よ」どこからか呼びかける声がした。
「だれだれなの」私は叫んでいた。その間にもするどい切っ先が、翔の姿をしたモノから送りこまれる。私はいかに死体であろうとも、この翔の姿をしたモノを殺す事をためらっていた。
「沙織よ、思いだせ、翔はお前の心と共にある。お前がアイスを倒せば、翔の心も体も救済される。目の前にいるそやつは翔ではない」神の河からの声だった。
「でも、神の河、私にはできない、翔の姿をしているのですもの、許して、ここで私は倒れるかもしれない」
「沙織、お前が倒れば、翔も悲しむ。お前1人の体ではない。お前の体は全人類を象徴している。この「アイス」の場所まで辿り着いた人間はお前だけなのだ」翔の攻撃を何とか逃れつつ、私は、その声を聞いていた。
「でも、神の河」
「沙織よ」別の声がした。翔の体から発せられている声
「沙織よ、私の体を滅ぼせ、この体は私ではない。私は死んだ。が、私の心は君と共にある。私は君の青き騎士なのだ。私の意志は、君のためにある。今から私が君に力をあたえる。私の体を滅ぼすために」目に見えぬ力が私にみなぎった。私の意志とは違うところで私の体は反応し、翔の体を私の剣は切りさいていた。
「翔」私は声をかぎりにさけんだ。
「これでいい」私の中の翔はいった。わけのわからない、感情が私の体を押しつつみ、アイスの前につきすすんでいた。
「私達、アイスブレッドのうらみをうけなさい」
 私の剣は、アイスの小さな結晶体に突ら抜いていた。
一瞬、白光が私の眼をいる。体が解けさるように熱くなった。体細胞の1つ1つが燃え上がるようだった。

「沙織、君が我々にさからうとするならば、君を抹殺しなければならん」
「ほほう、こんどは私がじゃまになってきたわけ、神の河」
「そうだ、この地球は私が管理するのが正しい」
「あなた、何かまちがっているのじゃない、自分の正体がわかっていないのじゃない」
「それじゃ、君は私が何だというのだ」
「地球政府メインコンピューター《アム》のコピーよ」
「コンピューターだと、なぜそれなら私が機械体をしていないのだ」「あなたはアムのコピーなのよ。液体機械なのよ。それも地球連邦軍の地下要塞にコピーされていた流体電子頭脳よ」
「よく見破ったな、沙織、なぜ、わかった」

シーン19

 私は気づく。私のドリフトする精神。私自身の精神治癒機構。それが“青い騎士”守護神ではなく、自分自身の精神を安定されるために造りあげたイリュージョン。想像上の生物、それが青い騎士だったのだ。
 私は気づく。このアイス戦争自体が私という悪夢からの脱出行ではなかったかと、私自身のアイデンティさがしではなかったかと。私、沙織は地球の意識だった。
「地球よ、あなたは長い夢からさめられましたね」翔の姿をしたそれは言った。
「そう、長い悪夢だったわ、青き騎士。私は夢から醒め本来の目的を達成することができるわ」
 本当の「アイス」とは私なのだと私はその時気づいた。

「アイス」を中心に立ちこめていた煙が一せいに消えてなくなっている。周囲には見も知らぬ機械類の壁が拡がっていた。
「一体、これはどういうことなの」私は叫んだ。
「マスター」機械的な声がした。それはあちこちの機械から聞こえるようだった。私、私を呼んでいるの
「そうです、マスター、あなたは今、アイスをじょーきょされた。それにゆえに、ここのマスターになったのです。」
「ちょ、ちょっと待って、ここのマスターって」
「御存じないのも無理はない、この船は、数千年前、この地球に不自着しました。この船の主人であるα-962は死亡し、かわってα-962の保助機能であるアイスがかわってここを支配していたのです。」「ここは船の中なの」
「そう、あなた方がいう巨大な円盤です」
「でもその円盤が、なぜアイスとなって地球連邦軍と戦っていたの」「あのアイスが、自分の命令で、地下大空洞で侵略部隊を作りあげ、地球連邦軍と戦っていたのです」「神の河はそれを知っていたのね」 そうそれゆえ、「アイス」を滅ぼす必要があった。アイスを滅ぼし、自分の進化する方向に向けようとしていた。
「ちょっと待って、それじゃ何か、「神の河」が悪いみたいじゃないの」
「まだ、おわかりにならないのですね。マスター、神の河が、何を考えているのか」

 私は急に気づいた。私は二重の意味で“母”殺しなのだと。1人の母は今の“アイス”ではなかったか。
 肉親をあまりににくんではいなかったかと。

が、考えてみると、ここは私のマザーシップなのだ。
そう、今、あなたが「アイス」にかわり、我々シップを
指導することができるのです。
それは「地球」を意味するの。そうです。マスター
“地球”も船なのですから。

 私は、「人民の王」となり、地球という巨大な
船を、本当の神の河にむかわせようとした。
それは、かつて人類の想像した事のない長い長い旅になるだろう。人類が宇宙創造の旅につくのだ。

No20-2

私の体温は段々さがっていく。アイスの思うつぼだ。
私の体の中にうめられた何かが叫んでいる。
記憶の中だ。遠い遠い記憶、少女の頃だ。
たしか、母さんからいわれて、愛しい「犬」を解体した。
IC部分は家族の食いぶちになった。がしかし、何か心にひっかかっている。そうだ1つのIC部品を記念として私は持っていた。中心頭脳の一部だ。
それが私を呼んでいるのだ。
「零の体の所へはっていけ」そう言っている。
私の頭脳なら零を動かせる。
「零、動けないの」私は零にも呼びかける。
ああ、私もかなりのダメージをうけた。動くのに苦労する。
「翔、あなたは」だめだ零が動けなければ意味がない。
「誰か、誰か助けて」
アイスがいう。「どうしたい、沙織、もうだめなのかい」
「お前の青い騎士はどうしたんだい。」
「神の河、どうにかして」
「だめだ、私もそこには侵入できない。強固な壁が築かれている」
No20-3

「いとしい我が子よ、さあ、ここではもうそうふるまう必要はないのだよ」
「そうだね、ママ」私の心をうらぎり何かがそう答えていた。
 私の奥底から私以外の意識があらわれている。
 それが悪魔たちだ。アイスの分身。私の心のうらぎり者。
 別の私が翔を死にいたらしめたのだ。
 そして、養父母の爆発も、沙織バットが滅んだのも、政府が滅んだのも、すべてこの別の私のせいだった。
 地球最大のユダ、それが私「沙織W」だった。

No20-4

 何か悲しい気がした。そしてなつかしい気がした。
 なぜだかわからなかったが親切感が私の心の中に充満していた。にくんでもにくみきれない「アイス」のはずなのにどうしたのだろう。
私は何のために、ここ「アイスパレス」に来たのだろう。
 めまいが私を襲う。何のために。


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