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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

地下道1949■第1回から

地下道1949■(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
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地下道1949■第1回

1949年日本トウキョウ。

 男達が争っていた。
いや一名の男が数名の男に追われている。
逃げる男はスラブ系の顔をしている。
アメリカ軍占領地区、トウキョウ市の町中で追跡が
行なわれている。
 追う一団は、トレンチ・コートで身をかた
め、一般市民の姿をしているが、訓練を受け
死者の持つ独特の体臭がする。
彼らは入がいない場所にぐると、コルト45を各々と取りだし、
前の逃げる男へ弾をあびせる。
 逃げている男も、オーバーコートからトカ
レフ挙銃を出し、振りむきざま、撃ちかえす。
男の射撃の腕は一段上手らしい。
たちまち後の2人の男が倒れた。前の男は大事そうに、カ
パンをかかえている。 

やがて、追撃している男に応援が来た。ライフルを持っている。
彼はスコープに逃亡者をとらえ、男の肩を阻撃した。
 男はうずくまり、死力を尽し、カパンを目の前の河へほおり投げた。
 河は雨の降った後で、水かさが増していた。一濁流で流れも急だ。

 このいちぶしじゆうを見ていた一入の浮浪児がいた。
すばやく河に棹さし、そのカバンをひっかけひろいあげた。
少年は隠れた。
 追撃して来た狩人達は、倒れている獲物のそぱに立つ。
男は歯に隠していた毒カプセルを飲んで死んでいた。

 男達はあたりを見わたす。 カバンを探しているようだった。
しかし、一時間後、彼らはあきちめたらしく、ひきあげていった。

 その隠れ場所で息をひそめていた少年は、カバンを手に出
てきた。
死体の手からトカレフ挙銃をひっべがし、河のそばへひきずり、死体を投げ落と
した。
それから、意気様々と「竜」のアジトヘ向かった。
(続く)

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地下道1949■第2回

アメリカ軍占領軍情報部(OSS)の一部屋に
一人の日本人が,大きなデスクを手前に腰かけている。
彼の青白い顔に汗がにじんでいる。
時々、時計に視線を向けいらだっていた。

 乾公介、名目は「占領軍付日本人通訳」だが、OSS
のメンバーの一員である。
 彼乾公介は確かにあせっていた。理由は死期がせまって
いるからだ。癌の宣告を受けていた。あと3ケ月と
もたないだろう。それまでにあのプランを完
遂し々ければならない。彼の宿願であった。
 いまや、彼の命脈を保っているのはその計画の
みである。双肩に重くそれがのしかかってい
る。’

アメリカ人が、一入いそいで乾の部屋へはいって
きた。                

「どうやら、我がアメリカ保安部は、あの地図をMGB(在日占領軍ソ
連保安省)のエージェントから手にいれることに失敗したようだ」
 「よかった。地図はまだ、やつら、保安部の手にはけいらな
かったのですか。それでいいんです。地図を持っていたイワノフ大尉はどうした。」
 「保安部がライフルでしとめたとのことだ。
が、自殺し、地図のはいったカバンは見つていない。死体の前が河だったので、い
おそらく投げ込んだものと思われるのだ」
‘「わかりました。その地図が保安声の誰かの手にはい
らないか留意しなければなりませんね」  ’
「そうだ、。引続き、我保安部と、MGBのエージェントの監視を続けよう」

瞬間、血の気がうせて、乾は、自分の机の上につっぷしそうになる。
「乾チーフ、だいじょうぶか、休が悪いのでは」
「いやなんでもないです。だいじょうぷです」
 OSSの内部では、波が宿摘の病にあることは誰も知らない。
「この仕事を頑張らせて下さい」
 乾はそう言い、立ち上がった。占領軍情報部(OSS)の窓の外は焼
けのこったトウキョウ市の無残な姿が横たわっていた。
 アメリカ占領軍情報部の接収しているショ
ウワ・ビルからはトウキョウ市全部がみわたせる。
トウキョウ市は日本の首府であった。そのトウキョウ市を壁が真ふたつに分断して
いたo 壁の向こう側は、、極東ソビエト軍の占領地区なのだ。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
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地下道1949■第3回


「さあ今日の取り分だ」
 竜は顔をみわたしながら、目の前につみあ
げられた物資をわけ始めた。彼らは十才をい
くつも越えてはいない浮浪児達だ。竜は波らの主領である。              
 自らの力で食物や闇物資を手に入れたのだ。
恐喝、かっぱらい、強盗、その他いろんな呼び方がある。
この時代とこの場所で生きのびていくための手段であった。
 竜のアジトであるはっ建て小屋からも焼け果てたトウキョウ市の新しい壁が見えている。
  その壁は日本人に希望を与えるものでは忿日本人の心と休を。いわゆる本土決戦
以上に疲弊させるものだった。

  竜は本土決戦当時は、新潟県に疎開していた。
そこで愛国少年団に属していた。
赤い星をつけたソ漣軍のT.34戦車が進撃してきたのは昭和二十年十月三
日。
 ポツダム会談でトルーマン大統領はスターリンに圧倒されたのだ。
アメリカ、ネパダでの原爆実験の失敗がそれに追いうちをかけたのだ。
しぶしぶ、トルーマンは、ソ連軍の対日本戦参戦を認めたのだ。
チャーチル以下イギリス軍の反対も、アメリカ参謀本部の反対も押しきられていた
。あのグルジア人ヨーゼフのずるがしこいほほえみに。

そして、日本の運命が変わった。

 北海道、東北の海岸は、欧州戦線からシベリア鉄道を経由して
大急ぎで輸送されたソ連軍の艦隊老上陸用舟艇で埋め尽された。
少しでも多くの土地を。そして日露戦争の敵を!

 竜の兄は沖縄で特攻隊として出撃していた。
お別れに、兄はお守りを竜と恵にさずけた。
 兄は消息不明といなったが、竜と恵はそのお守りを後生大事に
にしていた。
 疎開先の校舎はふきとばされキャタピラで、人体と建築物が
混じり合い押しうぶされた。機関銃や爆撃、大砲、嗚咽、叫び、悲鳴で
あたりは充満していた。まさに地獄だ。
鮮血をニイガタの大地に流し、友達は殺されていったのだ。
竜や恵には特特の人生観というものが形成されていった。

 竜と恵がトウキョウ市にたどりつけたのは、僥倖と呼ぶより他はない。

やがて日本は連合軍に全面降伏した。
日本全土は廃虚と化していた。
アメリカ軍とソ連が分割占領を行なった。

 机の上にトカレフ挙銃が傲いてある。
「誰の獲物だ。これは」
 竜はまわりの皆を見渡しながら、尋ねた。
「俺さ」
鉄だった。鉄は使いなれたナイフをいじくりながら答えた。
皆の目が鉄に注がれる。
 以前にも、鉄はコルト45をアメリカ保安部隊からくすねてきたことがある。
鉄はこのグループの中でも、このあたり一帯でもー目おかれる存在となっている。
それは、小さな社会にさざ波を起す。つまりは、グループの長としての竜の地位を
もおびやかしていることになる。

 鉄はナイフに関して天賦の才をもつ。
それゆえ、あだ名が「ナィフのー鉄」

「この地区にきた露助からとりあげたものだ」
 鉄はロシア製の苦いタバコをくゆらせながらつぶやいた。
「その挙銃と一緒に、そのカパンもいただいたのさ」
 鉄は、うす汚れた黒革のダレス型鞄を指さした。
「どうせたいしたものははいっていないと思うぜ。米ソ定期会談に来ていた奴かもしれない。

「とにかく中をしらべてみょう。」
 仲間の一人が、カパンのキーをいじり始めた。
 突然銃声がした。
一瞬全員が身がまえる。
鉄だった。カバンのカギがふきとんでいる。
「この方が早いさ」
「この野郎、おどかしやがって、ここをどこたと思っているんだ。」
 誰かがどなる。
「竜のアジトさ。遠うかね」
「俺のやり方に文句でもあるのか、鉄」竜がなじった。
(続く)
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作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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地下道1949■第4回 

竜のぞす黒い顔がうなる。
「ああ、おおありだ。このグループの方針て奴だ。なんで全員が一度、‘お前さんの前で獲
獲物をお広げるなあやならないのだ。でめえでとった獲物は、総て自分の物でいいじゃない
か」
「鉄。グループの掟を忘れたのか。相互補助ってのがグループの基本のルールなんだぜ。
お前、それとも忘れたのか。お前がアメリカ保安部隊に撃たれ、熱を出し、うなっていた
時、皆に看病してもらったことを」
「それはそれ。これはこれさ。力のある者が、より多くをちようだいする。これがあたり前
だぜ。涙ちょうだいの平等主義なんて、、アメ公だけでたくさんだ。ゲップがでるぜ。わかっ
たぜ。このグループを抜けさしてもらうさ」
「ああ、でていけ」
「兄さん」
 竜の妹の恵が、兄をなだめようとした。そして鉄に言った。
「鉄、いま、グループを離れるのね危ないわ。アメリカ保安部隊がベビーギャングを
しているのよ。特にあなたは凶悪な部類ウエオンテッドにリスト・アヅブーれているわ。
考え直しなさい。グループには、いえ、兄さんにはあなたが必要なの。まして、明日の食糧
車襲撃はどうするの」
 「恵、お前には世話はなっているが、これだけはどうもな。俺は、やはり、集団行動ってのが性にあ
わないんだ。それに俺には、この守り神があるからな」
 鉄は愛しい子供の様にナイフをなでる。
「ほおっておけ、恵」
 竜のきびしい声がとぶ。

「このトカレフはもらっていくぜ」
 鉄は、トカレフに再び手をのぱす。竜の拳銃が火を吹く。
あたってはいない。
「伺をするんだ」
 鉄は、反射釣に竜にナイフを投げようとし、一瞬思いとどまった。

「よしな。そのトカレフは、置いていくんだ」

 鉄は竜をにらんでいたが、しばらくして、ニヤリと笑う。
 「わかったよ。トカレフは、竜、お前さんへの最後のプレゼントだ」           
 鉄は、アジト入口のドアを開け、荒々しぐでていった。
不思議なことにカバンの事はー言もいわなかった。
 静寂があった。               
 「さあ、みんな気にする゛な、それよりカバンの中が問題だな」      
 カバンの中は書類がほとんどで、ずぶぬれたった。ロシア語でかかれていた。
  一片の紙片がビニール袋につつまれていた。 こっちの方は日本語だったが、古い文字でく
づし字であった。
「どうやら地図のようだな」
 仲間の一人が言う。 
「まん中の大きな部分は、江戸城の様だな」
「金になりそうか。」
「わからん。伊藤にでもみせるか」
 突然、暗闇になる。
部屋じゆうの明かりであるロウソクが、消えている。
誰かが竜をなぐりつけた。物音がしやた。
皆一瞬、身動きができなかった。

気をとりなおした者が、ろうそくの火を再びつけた。
数本のナイフが、壁や机にささっていた。
ナイフの刃が、部屋じゆうのろうそくのしんの部分をぶち切っていたのだ。
「おい、見ろ、地図がないぞ」
「くそっ、鉄のしわざだ」       
「まだ、間に合う。おいかけよう」
「そうだ。いまなら、すぐ近くにいるはずだ。」

「やめて分け」
竜がー声いった。
「なぜですか。竜さん」
「今日はもう、遅い。これ以上争いたくはない。闇やみでは不利だ。ナイフはあまり音
をたてないからな。それに、明日は、大仕事がまっている。体を休めて分け」
不承不承、部下の連中はこたえる。
「そうですか。竜さんがそう分っしゃるなら」
「くそっ、鉄の奴、こんどあった,らただじゃおかないぞ」
「おまえの腕では、鉄に殺されるのがオチだぜ。やめておけ」
「そういわれりゃ、そうだな」変に納得している。
 皆、笑った。
「よし、皆、明日にそなえて、もう寝るんだ」
 恵は、兄の竜に言った。
「兄さん、ありがとう。鉄を追いかけないのね」
「おしい奴だぜ、あいつも」
といいいながら、竜はでかける準備をしている。
「で、それは、兄さん、どこへ行くの。」
「明日の下見だ。俺だけな」
(続く)
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地下道1949■第5回(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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地下道1949■第5回  

 米軍食指貯蔵庫はゆうに10万人の人々の口を養うことができる。
トウキョウ市では餓死者が続出していた。食糧はいくらでも高く売ることができるのだ。
食指庫から、トウキョウ市内の米軍キヤンプヘ食糧が一日数回搬出されている。
竜たちはそのトラックをねらっていた。
 竜は、夜の闇にまぎれ、食糧庫に近づく。
サーチよフイトがあたりを照らし番犬が鉄条網内でとき放たれ、動き回まっている。

「竜、ひさしぶりだな」 背後から声がかかった。
「かっと、銃には手をかけるなよ。こちらは4人。皆、すでに銃を手にしている。ゆっく
りこちらを向きな」
「ムサシか。ごこで、昔のしかえしを受けるわけか」
「そうしたいのは、ヤマヤマなんだが、どうやら、お前もあれをねらっているらしいな」
 上背180mをこえる大男、ムサシば貯蔵庫の方を指さす。
ムサシはこのあたり一帯を、とりしきる浮浪児のグループ(ベビーギャング)の長だった。
その支配下の戦争孤児の数は300名をはるかに越えている。
 かって、竜は、このムサシに手ひどい仕打ちをしたことかある。
「違うといっても隠しようがないな。そうだ。あの食指庫の搬出トラックをねなっている」
「実は、俺達も.あの車をねらっている」
ムサシは、竜をじっと見つめた。 
「そこで相談だが、手を引け、といっても引きさがるか前じゃない。」
  竜の手に汗がしみでている。
 「手を組むか」ムサシは威嚇的に言う。
 「わかった。俺達のグループ人数では手にあまる仕事だと思っていたところだ」
 「そうとなりゃ、話が早い。この3人は俺の知りあいだ。俺のグループと、こいつら各々
 の手下。それにお前のグループと5つのグループで襲撃することにする。それじゃ、俺の
 アジトヘ来てくれるか。」
 「わかった。しかし、ムサシ、変なまねだけはするなよ。」
 「お前にそれを言われると不思議な気がする ぜ。ところで鉄は元気か。」
 「でていったよ」
 「いつ」
「さっきさ。残念そうな顔つきだな」

 ムサシは右手を竜の方へむけた。
右手のくすり指が第三関節からなかった。
以前のいざこざの時、鉄のナイフが切り取ったのだ。
「鉄とは会いたかったな」  
 ムサシの目に残忍な光が宿る。


  鉄は故買屋、進藤の店を訪れていた。
テーブルの上には例の地図が拡げられている。
進藤は静かにその地図をながめていた。
が、一瞬、驚きの表情があらわれたようだった。それが突然不機嫌な表情にかわる。
その顔つきでテーブルの下に設置してあるスイプチを操作する。カシャカシャという音が
上の方から聞こえてくる。
 「だめだね、鉄。残念ながら、値打ちなんかない。高く買うわけにはいかないよ。もっと
 いい出物はないのかね。近頃はいい出物がなくて困っている。いいヤマに当らないのか。
 竜はどうしている。今度はどんな仕事だね。いい仕事なら前金を渡してやってもいいよ。」

「おっさんには関係のないことさ」鉄がいう。

(続く)
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(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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地下道1949■第6回
鉄は、進藤の店テーブルの上の地図をわしづかみにする。
 「それじゃ、悪い。じゃましたな。またな。進藤のおやっさん」
あわてて、故買屋、進藤は鉄に呼ぴかける。
「その地図、あずかって訃いてもいいぜ。高くは売れないだろうが、ものずきがいるかも
しれない。銃弾二箱となら、変えてもいいぜ」
 「ほう、価値のない地図と、銃弾二箱と」
 鉄は進藤仲藤をにらみつける。

「それくらいなら、こうだ。」
鉄は地図をやぷろうとする。
 「やめろ、それは・・・・。」
 鉄は、進藤の服のエリをつかんだ。
 「おっさん、悪い冗談はやめろよな。どうやらたいへんなものらしいな。この地図は」
 進藤の眼をにらみつける。
 「はっきりいいなよ。この地図は何だ。いわないと、明日からメガネをかけるのに不自由
するぜ」
 
鉄の右手に、ナイフがにぎられている。
 恐怖におぴえる進藤の目に、アメリカ軍占領軍のジープが近づくてくるのが、みえた。
「いけね、アメ公だ」
 風のすぱやさで、進藤の店から、鉄は走り去った。
 息をゼイゼイいわせながら、首を押さえた進藤は、そのジープの乗り手が、上客の保安
部のライリー大尉であることを認めた。
「ガキめ、ただじゃすまさないぞ。この進藤を甘くみるなよ。ほえずらかかせてやる」

 店の前にジープで乗りつけたライリー大尉に向い、しわがれ声で叫んだ。
「今、走りでたガキをつかまえて下さい。奴は「ナイフの鉄」です。早く、大尉」
ライリーはその声を聞くやいなや、ジーブを反転させ、鉄を追いかける。
 鉄を始め、竜のダループは、このトウキョウのアメリカ軍占領地区では、「ベビーギヤング」として特にマークされている。
 ライリーと、同乗して運転しているロバート軍曹は、各々トンプソン・ザブマシガンと、
M3グリースガンを構えた。

 進藤はあわてて、電話をかけていた。
「地図をみつけました。いえまちがいなく、あの地図です。ええ、『ナイフの鉄』とい夕
浮浪児です。今米軍のライリーが追いかけています。おそらくつかまるでしよう。ハンタ
ーの威名を持つライリーの事ですから。でも御心配なく、奴は保安部の入間ですから、
「ベビーギヤング」竜のグループのことを聞き出すことに全力をあげるでしょう。
地図ですか。いえまだ鉄が持っています。ご心配なく、奴が気づかないように地図のコピー写真をとりました。
それじゃ、お札の方はお忘れなく、例の場所で」
進藤は電話を切り、にんまりほくそ笑んだ。

 『ナイフの鉄』は、相手をまけるはずと思っていた。
なにしろ、このあたりは、鉄の庭も同然だった。
相手はジープを乗り捨てたようだ。
車でははいってこれない路地だった。路地にたむろする日本人たちが何がおこたのかと
騒ぎ見守っている。
 鉄の誤算は、相手が、「ハンター・ライリーとプッチヤー・ロパート」のペアだ、としらなかったこ
とだ。

 アメリカ保安部の「ハンターライリーとプッチヤー・ロパート」の名前を聞き、ふるえあがらない
「ベビーギヤング」や浮浪児がいれば、お目にかかりたい。
 餌食になった者、数百名。
ほとんどが殺されゐか、半死半生の目にあわされ不愚者となっていた。彼らは年少者だからとい
って容赦はしない。彼らは生まれながらのサデイストのコンビで、ちょうどいい職場を、この東洋の占領地日本トウキョウで与えられていた。

黒い影が、秘かに、おびえる鉄に近づいてくる。獲物を、ねらう肉食動物の動きを思わせる。
鉄は敵の動きを息をひそめて見守りながら、ナイフを手ににぎる。
手汗でナイフがすべりそうになる。恐怖ゆえのアドレナリンの分泌だ。

 そいつは、まるで鉄のい場所を知っているかのごとく、肉迫してくる。
影から判断して、どうやら相手はサブマシンガンを手にしている。
やばいことになったと鉄は思う。かなりベビー・ギャング狩りに慣れている奴だ。

(続く)
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作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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「鉄,逃げられないぞ。出て来い!ナイフをまず投げ出すんだ」
日本語で叫ぶ
 鉄の隠れている木材置場にライトが照らされた。鉄はそのライトで目がくらむ。
おまけに、相手は鉄の名前を知っている。
ふるえが鉄の体を襲う。アメ公だ。
どうやら仲藤の店からつけてきたようだ。伸藤のおっさん、俺のことばらしやがったな。
と鉄は思う。

「わかったよ。まだ殺らされたくない。いまでていくから、撃たないでくれよ」
「ようし、ゆっくりとだぞ。ナイフを先に投げろ」
 鉄は、あきらめた様子でナイフを二丁、遠くの地面へ投げだす。
男が近づいてきた。
「ようし、いい子だ。おとなしくしな」
 その長身のアメリカ入が目前に来た時、服のエリから、
鉄は三丁目の小型ナイフをひき出し、まうえから切りつけた。

 ライリー大尉はとっさに身を投げだす。
がナイフはわずかにほかをかする。さらに鉄は顔をねらい体ごと、突きこむ。
ライリーは銃身でそれを防いだ。
 鉄は、急激なショックを後頭部に受け、前にのめった。

「大尉あぶなかったですな。あなたともあろう方が」
 地面にのびている鉄の上に、大男のロバート軍曹のシルエットがかぶる。
「このガキ、3つめのナイフを、服のエリに隠していやがったんだ。このしかえしはどうせたっぷり’
としてやる」
「それじゃ、こいつを拷問にかけて、竜たちの居所をさぐるわけですな。楽しみです」
「そういうことだ。やり方はお前にまかせる」

 ライリーは、ほほからしたたる血をしきりにぬぐっている。
「くそ、ジャップめ、皆殺しだ」
ロバートは、片手で鉄の体を軽々と持ち上げ、ジープの後部座席へほうりこんだ。


鉄は椅子にしばりつけられている。
格子窓から月光が差しこんでいる。
寒々とした広い部屋だ。
わけのわからない道具が所せましと並べられている。

 平手打ちを受け、鉄が目を開けた時、目の前に、大男のにやにや笑いがあった。
「鉄、竜たちは、いまどこにいるんだ。隠れ家をいうんだ」
「知らないな。俺はもう竜のグループと手を切ったんだ。たとえ知っていてもアメ公なんかに誰が言うもんか」

 強烈な打撃が鉄の腹に加えられた。椅子ごと鉄はとびあがり、壁に激しくぶつかった。
水をかけられ、息をふき帰す。イスは形をとどめていない。
「おい、鉄、さっきか前がナイフで切りつけた相手がだれか知っているか」
鉄,はかたぐなにだまっている。
「ハンターライリーさ」
 鉄は驚いた。それじゃこの前にいるコヤツのは。
「そうさ、俺が、有名なブッチャー(屠殺人)ロバートさ」

同時に軍用ブーツが,顔にのしかかってきた。
鼻血が噴出し。歯がメキメキと音をたてて折れた。

「いいか、よく聞けよ。俺の上司の、ライリー大尉は非常のお怒りだ。何せお前にファニー・フェイスを傷つけら
れたからな。むろん、プレイドもな。だから俺はお前をじわじわとなぷり殺すことを許されている」
ブッチャー(屠殺人)ロバートは、血まみれミンチ肉になっている鉄の顔をゆくりと見直す。
相手の恐怖をゆっくり呼び起こし、犠牲者のその恐怖の有様を楽しもうとしている。
「お前が何もしゃべらないなら、手の指から一本ずつ切り離していくぞ」
そこでロパートは言葉を切る。
そばの机の書類に目を落とした。
「そのつもりだったが、俺は慈悲深いぜ。感謝しな」
「もっと、いい、お前にとって好ましいことを思いついた。伸藤から耳よりの話を聞いたのだ。
ごくんと、鉄は血まみれののどを鳴らす。
「お前はクモが大嫌い、、、だそうだな。本当か」
鉄の心臓が波うった。
この世界で何も俺は恐れない。がクモだけは。
「そうか。どうやら、まだいうつもりがないらしな。それに伸藤の話も確かめなければ
ならんな」
にやりと、ブッチャー(屠殺人)ロバートは、血まみれの鉄を覗き込んだ。
(続く)
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地下道1949■第8回
(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所


 クモと聞いて、口もきけないほどふるえている鉄を、ブッチャー(屠殺人)ロバートは片手でつまみあげ、
 下を歩み、新たなドアの前に立った。
「それじゃ、しばしのお別れだ。テツ。寂しいがな。何か話すつもりになったら、ドアを
必死にたたくんだな」
 反動をつけ、鉄をほうりこみ、ドアをしめた。
まつ暗闇だ。
投げ込まれた時、鉄の体の下で何かぐしゃりと、つぶれ、ねばりついた。
くもだ。
体の上にタモがはいががろうとする。
顔上にも、手の甲にもクモが続々とはいあがってくる。
「くうう」
鉄は腰がぬけそうになる。
もうだまだ。体が、心が、、
ドアの方へ必死ではいよっていく。
その間にもズボンやシャツの中ヘ、ざったなクモがはいってくるのが、わかる。
体じゆう、タモがはいまわる。
「ヴわー、やめてぐれ。出してくれ。出してく、」
 力の限り、 鉄はドアをたたく。

しばらくして、ドアが開けられた時、もう鉄は気を失っている。
水をかけられ。
「竜のグループは、明日二時、有栖川宮公園、B地点で食糧運搬トラックを襲う。
お願いだから、そのクモを、、」
 そこまでしゃべり、鉄は慙愧の念にかられながら、意識をうしなう。

       
「隠れ家より、おもしろいことを言ったな。食糧トラックか。ちようどいい。やつら皆殺じだ。
よし、こいつを独房にほおりこんでおけ」
 ロパートは、近くの衛兵にそうどなり、いきようようとライリー大尉の部屋へ向う。
いま得たばかりの情報を持ち、さあジャップをどう始末してやろうと、意気揚々と廊下を歩き始めた。




翌日は寒い日だった。昼頃からは天候がくずれ始め、雪まじりの雨が降る。
舗装がまだ完全ではない、トウキョウの道は、泥濘の道となる。 

 M8装甲車が三台、食糧運搬トラックの先導を努めている。
後には12台の食料トラックが続く。

有栖川宮公園、B地点では、ムサシのグループの数人、がーmくらいの金属棒状のものを、
にぎりしめていた。その他の者も、各々略奪したらしいアメリカ製の武器を手に手に持ち、
待機している。今、食糧トラックが通過しつつある道の両側に、息をひそめた数百名の
ベビー・ギャングが身を隠している。

 先導のM8装甲車が爆発した。
あとかたもなく吹きとぶ。
金属の土管状のものから発射された弾丸が、恐るべき破壊力をしめしたのだ。
 米軍は応戦の姿勢をただちにとった。
護衛兵が散開し、トラックからも、機銃が掃射される。

 ムサジは自分達のみつけた砲の破壊力の大きさに呆然自失していた。

 ムサシは知らなかったが、この砲は、旧日本車が、戦争末期限開発していた簡易無反動
砲だった。本土決戦のため、昭和20年に試作されたもので、アメリカ軍のバズーカ砲に相
当すると考えていいだろう。
本土決戦の際はすでに輸送網が寸断されていたため、実戦には使用されなかった。

ムサシ達ぽこれをトウキョウ市の軍需工場に放棄されていた軍用車の中で発見したのだ。
 ベビー・ギャングは、トラダタの運転席を一つ二つねらいうちにしていく。やがて
無反動砲のために、米軍は壊滅し、兵は逃げさったようだ。

ムサシ達は、用心深く、運搬車に近づいていく。むろん、竜のグループもその中に混じって
いる。
 食糧袋を焼けないうちにひきずタ出さねばならない。多くの浮浪児たちが、獲物にむら
がるアリのように袋を奪っていた。
 一入の少年が、袋を持ちあげようとして、下に落とした時、パニックが始まった。
 袋の中は砂だった。
 ムサシはすぺての袋を調べるように命じた。
中身はすべて砂や石だ。

「罠だ。皆すぐに逃げるんだ。ぐずぐずする」
彼らは獲物をほうりだし、我先にと逃はじめた。 
 遅かった。
爆音がムサシたちの耳にはいってくる。
戦闘機だった。

(続く)
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地下道1949■第9回
(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
■第9回
上空から飛来した戦闘機ムスタングは、両翼の爆弾を雨を浴びせる。
ナパーム弾が地上を燃え上げる。
投下しおわり、爆弾のなくなった戦闘機は、機銃弾を空からあびせはじめた。

風防からは、この殺戮を楽しむバイロ″トの顔がみえる。
低空飛行でつっこんでくるのだ。
ベビーギャングたちの勝利の戦場となるべき場所は、修羅場となり、墓場となった。
機銃弾が、無機質な音で土ぼこりをあげ、地面をほりさげる度に、大地に鮮血が流れ、
しみこんでいった。

 二つの双眼鏡が、ま下の光灘をながめている。

小高い丘がらは、この虐殺がー望のもとにみわたせる。
 ロパートは思わず、叫んでいた。
「死ね。みんな死ね。お前ら、ジャップ。くず野郎はみんな死んじまえ。お前ら、ガキが
皆くたばったら、日本はアメリカの完全な領土になるんだ。なにしろ日本人がいなくなる
んだからな」
 ほおにガーゼをあてたライリーは、双眼鏡をおろし、傍らのロバートに言った。
「ようし ロバート。もう少し前進だ。それからスコープ付きライフルを出せ、俺たちの
楽しみはこれからだ」
 彼らは、なんとか、戦闘機から逃れた少年達を今、望遠スコープの照準にとらえ、ねらい撃ち
にするつもりなのだ。



「鉄、鉄おきて」
 声がした。夢の中から聞えてくるようだ。

どうやら、俺はまた死んではいないようだな。
鉄はそう怒った。
うすぼんやりした光が鉄の目をさす。
まだまだ、くらくらする。

声は床の下からかすかに聞えてくる。
それは恵の声だった。
「どうしたんだ。恵か」
「しっー、あまり大きな声を出さないで」
「だそうにも声はでないさ。あのロパートにえーらい目にあわされた。
それよりお前、なぜこんなところにいる」

「あなたのことが気になっていたの。あなたが、あの地図を奪ったから、どうせ仲藤の店にいくと
おもったわ。米軍のジープがあなたを追いかけていくのを見たわ。車のナンバープレートが保安部のものだったから、つかまると息ったわ。
きよう、それで保安部の独房の下へ忍びこんできたわけよ」
「よく、ここまでこれたな。昔なじみにあえるのはうれしいぜ」
「何いってるの。ふざけないで」
ほんとに怒っている。
「わかった。よし、はやくここから出してくれ。ロバートかライリーがまた来た日にや、、俺はぶっ殺れ
かねない」
「いい。言うことをよく聞いて。右壁から約一mのところをさぐってみて。何か印がある
でしょう。印のある床の上を思い切り踏みつけてごらんなさい」
「少し、へこんだぞ」
「そう、そこを何とか動かしてみて」
 床は、鉄がひっぱると、穴が開いた。すばやく穴中にはいる。もと通りににする。暗闇の中
に薄い光がもれている。声があった。
「どうやら、また、あえたようね」
「恵、一体この穴は」
「しつ、この上はずっと保安部よ。気がつかたら、それっきるよ」
 小さなろうそくを恵は持っていた。
小さな声で、
「この通路は、日本軍がトウキョウ市攻防戦の際作った地下壕の一部らしいの。
これを伝っていけぱ何とか外に出られるわ。ついてきて。鉄」
 恵は先に立ち、ずんずん歩んでいく。
鉄はいためつられた体をひきずるように、光についていく。
あたりは、ゆっくりと闇がもどていく。


 泥滓の中で、ベビーギャングの頭、ムサシの意識がもどってきた。
同時に体がほてるように暑い。
場所の感覚がもどってきた。
顔をすこしもちあげる。
まだ少し雪まじりの雨が降っていた。
異臭がする。あたり1帯が燃えあがり、人間の形をした何かが焼け焦げていた。
(続く)
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地下道1949■第10回
(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/

「鉄。どこにいるの、鉄、、」
恵は思わず叫んでしまった。
この長い通路の中で鉄とはぐれてしまったのだ。
地下壕はトウキョウ市のすみずみに、はりめぐらされている。
一つまちがえば、迷路のような地下道を堂堂巡りしかねない。
恵は鉄とはぐれてだいぷの時間がたっていた。ろうそくも短くなっていた。
恵はしかたなく自分達のアジトに帰ることにした。


アジトには、兄達はまだ帰っていないようだ。
寂しく恵は竜たちの帰りを待つ。遅い。いつもはこんなでない。不安がよぎる。
 足音がした。恵はドアを急いで開け、叫んだ。
「兄さん」

目の前には180mを越すムサシの姿がそびえたっていた。
その眼はにくしみと悲しみをたたえて、静かに恵をながめていた。


 竜もかろうじて、攻撃からのがれていた。
爆弾のショックで地面が割れ、地下壕に半死半生でふきとばされていた。
竜は、トウキョウ市じゆうに攻防戦用に地下壕が存在していることを、恵から聞いていた。
 恵は地下壕を知悉していた。
ひまがあれば地下壕を歩きまわっていたようだ。
今、ここに恵がいれば、竜は弱音をはいた。

他の奴は助かったろうか。いや恐らく。あんなに激しい攻撃を受けのだ。
助かっているはずがない。
自分が助かったのも不思議だ。

竜は、はるか、昔のこる、そう、もうはるか昔、御伽噺のような昔だ。
その時期をを暗やみの中で思い知こしていた。

彼は幼い恵を背中に負い、怒濤の様なソ建軍の攻撃をのがれたのだ。
何回も兄、恵介からさずかった守り袋をにぎりしめ、つぷやいていた。
「兄さん、助けてくれ。』と。
兄は特攻隊で音信不通の状態だった。
父や母と会うこともないだろうと竜は考えた。その代り、この恵を守り通さねばならぬ。
唯一の肉親だから。そう竜はおもっていた。

 トウキョウ市は戦後、アメリカとソ建により分断された。
両軍共、トウキョウ市周辺に強大な部隊を集結している。
東西陣営の対立が、この日本のトウキョウ市で顕在しているめだ。触発の状態にある。
定期会談がいく度となく聞かれているが、雲行きがあやしい。
そんな中で、竜は恵を守り、生きていかねばならなかった。力が総てだった。

 ポケットをさぐると、ジッポー・ライターがあった。
火をともし、出口を捜し始めた。どこまで続くか、わからない。
永久に外にでられないかもしれない。武器も手にしていない。
 前に光がみえたような気がする。急いでライターを消す。
 光がゆっくりとこちらの方へ近づいてくる。
竜は身をふせた。
 
ろうそくを前に、鉄がかずむずと歩いてきた。
かなり疲れている。鉄は人の気配に気づき、
ろうそくを捨て、ナイフを身構えた。
 「誰だ。そこにいるのは。」
 「さすがだな、鉄。俺たよ、竜だ」
 「お前こんなところに、なぜ。」
 「アメ公にやられたんだよ。米軍トラック襲撃に失敗し、このざまさ」
「かれも似たようなものさ。お前も出口を披し困っているようだな」
「そのようだ」
「しかたがない。ここは共同戦線といくか」

2-3時間ほど歩き回った後、ようやく、ろうそくの炎が風でゆらいだのだ。
風の吹く方向へ進み巧妙に隠された出口へと導かれた。

竜は恵のことが心配だったのでアジトヘ帰ることにした。
鉄はしぶっていたが、やがて、それに同意した。鉄も恵の事が気になっている。
しかし、‥保安部につかまっていたことが、竜にばれてしまう。
その危惧が、鉄を不安にする。


(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/



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