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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

★クリス・クロスマンという名の箱船(編集済)コンテンツあり●

101
クリスリクマンという名の箱船
山 田 博 一
  プロローグ

 七こは一つの空間だった。空間としか、呼
びようがなかった。
 無形の生命体、七れも超生命体が集まり、
コヽヽヽユニュケートしていた。
 「もう彼に事実を認識させたらどうだね」
 生命体1が言った。
 「彼はショックに耐えうるだけ成長したとい
えるだろうか」生命体2が考え深げに質問を
投げかけた。皆、一様に不安を持っているよ
うだ。
 「全人格が崩壊するかもしれん」生命体3が
発言する。
 「確かに、彼のような下等生命体にとって、
かなりのショックに違いない」

 「それはそうだ。自分の信じて『いる全世界が
足もとからくずえるのだからな』
 再び、先程の生命体1が強く言った。
 「もう、そろそろ、事実を認識し、彼はI人
立ちすべきだ」
 「新しい生命体へ、アウフヘヽIペンすべき時
だと君は確信するのだね」生命体2が尋ねた。
 「そうだ」。生命体1は断固として言い放った。
 「よろしい。彼の意識を全開させよう。手段
のI?として別の保存個性体J6678を蘇
生させよう」生命体3が提案した。‘
 「そ’れはいい考えだ。確か、彼はJ6678
と特別な感情が発展しそうだったはずだね」
 「そうだ。一人ぽっちは確かに心細いからね」
 生命体2が言った。
一101
102

 観察者でもあった彼ら、超生命体達は、彼
らの観察対象である一個の下等生物の意識世
界を全開させた。

 隊商が黄金都市を訪れようとしていた。長
い砂漠の道のりで、さしものサイボーグ=一フ
クダも疲弊しているようだった。その上に乗
っている人々はそれ以上のようだ。
 目の前に吹き荒れる砂嵐を通して、かろう
じて、彫刻が施された金色の城壁が見えてき
ている。目ざす都市一フグーソボなのだ。
 このあたりの砂漠地帯のオアシス。このミ
ューダ砂漠の富と財宝を集めている都市なの
だ。
 黄金の壁の一部が外側へ開き、ねずみに似
た形のヴィーグルが出現した。
 隊商を迎えるためだろうか。砂漠を越え、
ようやくこのラグーン市へ辿り着いた人々は
手を振った。
 が。それに応えたのはヴィーグルの目玉の部
分から発射された機関銃のスタッカート音だ
った。       。
 機銃弾は人々の体を貫き、さらにはサイボ
ーグ=ラクダの体をパラパラに吹き飛ばした。
 静寂が訪れた。しはらくしてヴィーグルの
(。チから一人の男が出てきた。ヴ4Iグル
の後部へ七りを着けた格納車の中へ総ての残
滓をヴィーグタのマニュピュレーターを使い、
格納車にほおり込み、都市の中へ引きずり込
んでいく。何回もこの作業をくり返し、後に
何も残らなかった。最後には壁がヴィーグル
を呑み込み、‘何もおこらなかったのごとく、
砂が動いていた。
 こあ一部始終を私は上空500mから消音へ日ノ
コプターでモニターカメラを通じ、観察して
いた。
 私はラグーン市から少し離れた小高い丘の
陰・へ、・『ヘリコプターを着陸させた。
 ヘリコプターは自動操縦にセ″卜し。セン
102

103
ターの方へ帰って行く。私はそれを見送って
ゆっくりとラグーン市の方ヘー歩を印した。
`私といえば外見はよぼよぼの70才の老人で、
白いチュニ″夕風の衣装とサンダル。それに
心強い杖と、背に掛けたわずかな小物袋だけ
が荷物だった。
 砂嵐が再び強くなって来た。私の向かうべ
き黄金都市ラグーン市が目の前に迫っている。
 ここが私の求めている都市だろうか。そう
であってほしいと私は思い続け、私はいくつ
の都市を、その町の通りを。さらに年月をす
ごしてきただろうか。
 恐らく私の体には血のにおいが染み込んで
いるに違いない。その血はまた私自身の体の
血でもあった。
 一体いくつの町を私は破滅させてきただろ

 私は本当に私の理想とする都市へ辿り着く
事ができるのだろうか。
 私は年老い、私の創り上げ尭す侭ら七い子
供達、子孫を捜し求め・‐て’、地球を放浪’してい
る老人にすぎないのだ。しかし`、私自身の正
義は全うされなけれぱな・らない。七れが私の
・生存価値(レグシaデトール)だからだ。

 ああ、私の愛する星、地球よ。 
   ’
 私は、この星地球から遠く旅立ち、再び、
 それこそや’つとの思いで地球の土を踏んだ何
 世紀か前の宇宙飛行士達の事を考えていた。
 彼らが再び地球の土を踏んだ時の気持はど
 うだったのだろうか。
  私はこの世界で一人ぽっちなのだ。しかし
何があろうと私の道は守り通さなければなら
ない。私の思いをかき消すように、ラグーン
可からお出迎えが現われた。
  ラグーン慨の金壁の一部が開き、先刻のね
ずみ型ビーグルがこちらへ向かってくる。
  ビーグルは私の前で急停止した。外部スピ
 ーカーが七?べりだした。
 「じいさん。残念だが、この直に茨しい人間
 を迎える事はでさないよ。特にあんたのよう
103

104
な老’人はね。どこの市も同じだろうが、食い
物がないんだよ。すまないな。帰ってくれ」
 私は黙ってビーグルの前面の編光フロント
=グラスの方を眺めていた。
 「じいさん。耳がないのか。今、来た道を戻

れ、せっかくその年まで生きてきたんだ。死】
に急ぐ事はないぜ」
 スピーカーから少しばかり怒った声がした。
唐突に足元に機銃が射ち込まれた。砂ぼこり
があがる。       ‘・
 「これで警告は最後だぜ。次は体が吹き飛ぶ
苓だ」
 私は服の汚れを払い、ゆっくりと¨小物袋か
らシルバー=スターをとりだし、胸に付けた。
シルバー日‥スターはにぶく銀色に輝いている。
 組手側の態度の変化が目にみえるようだっ
た。ビーグルは急に萍しだまった。市庁本部
と連絡をとっているらしい。
 あわてた屏がスピーカーから再び流れ`てき
た。゛


 「し、失礼いたしました。セソターのお方と
は存じませんでした」
 私は疲れた顔で言った。
 「私は疲れているのだがね。老人をこのまま
立たせておくのかね」
 ビーグルの(ツチが開いて、屈強な私と似
た顔をしたひげづらの男が飛び出してきた。
私の前で土下座をしかねない態度だ。
 「お、お許し下さい。センターの方とはまさ
か思わなかったものですから」
 「いいんだ。よくある事だ。放浪者と間違わ
れる事はね。いいからいいから、私をビLグ
ルに乗せてくれないのかね」
 「どうぞ、こちらへ。足元に気をつけて下さ
 い」
 古いタイプのビーグルだった。恐らく『大
侵略』以前の代物だろう。彼らはそれらが七
こにあった・がゆえに使っている。はずだった。
 私は運転席のひ・げづらの男に尋ねた。
「お前、いやお前達の年は各々何才だね」
104

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 「そんな事を聞いてどうする……」
 ・ひげ男はいつもの横柄な言い方で、私に話
しかけようとしたが、恟のシルバーhスター
にふと気付き、しゃべり方を変えた。
 「失礼しました。ファザーが183才。グランド
ファゲーが260才、私の息子が62才、孫が2人
30才と27才です」
 「複合体のパーソナリティは6名か。ボディ
は50才くらいの代物だな」
 地球は極度の食禄不足だった。それゆえ一
人の体の中に数人のファミリーのパーソナリ
ティが住みついているのは、あたり前の事な
のだ。
 そして、その食`Jは、私のセンターからし
か与えられない。センターは食糧運搬車で各
邨市に食糧を分け与えているのだった。
 いわば食糧を媒介とした支配が行なわれて
いるのがこの世界である。そして私は七のセ
ンターの人間であり、かつ都市の視察者、そ
して、シティト‥ディザスターであった。存在

するに無益な都而は私の手で抹消、つまり地
球上から消滅させられるのだった。
 ビーグルはびテyの壁の内へ入って行く。
 ラグーン雨中に周囲の人家よりはるかに高
くそびえる中世の教会堂のような建物が市庁
だった。金の装飾がゆき届いた建物だった。
さすがに黄金の都市一フグーy市だけの事はあ
る。
 九今の私は100才のデルです・お見知り置き下
さい」
 ビーグルの運転手は言った。
 「わかった。市庁まで早く行ってくれたまえ」
 町並は地球中世のヨーロッパの程をなして
いた。どこまでも続く石畳の道。しかし石は
金ばりだ。人々の数はもちろん少ない。
 ビーグルは市庁を目ざし進行していく。
 一体、この町には何体の個体が存在するの
だろうか。
 一個体は自らの派生したパーソナリティを
内包した複合体だ。彼らのパーソナリティは
105
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 時々、’変化し、表出してくるのだ。
   ビーグルは金色の建物の前で止まったノ
   デルはビーグルの(ツチを開け、手で示し
 た。
  「どうぞ、視察官、ここがクグーン暦の市庁
  です。暦長の「ルによろしく私の事をお伝え
  下さい」
  私は市庁の中に一歩、足を踏み入れた。金
 を貼りつめた回廊が奥まで続いている。
  残念ながら。この都市は私が求めていた都
 市ではないようだ。陰迦な周囲の雰囲気が私
 を飲み込んでいた。確かに建物は金銀、ダイ
J ヤで飾られてはいるのだが。
  町へ入る前のあの事件から感じていた事な
  のだが。やはりこの町は違う。     ヽ
  私はこの都市をまた破滅させなければなら
 ないかと思うと寂しくなった。
  私はゆっくりと中央の大きな階段を七へと
 登っていた。両側のステソド0グラスから暗
 い光が私の両肩にかかっていた。
 私の足音は重く暗く、市庁の中で響いてい
た。柱の飾りの黄金の女神像も悲しげ。な表情
だった。七の女神は人間そっくりにできてい
た。
 市長室は三階中央部にあった。そこで男が
待っているはずだった。あのビーグルのデル
から連絡が入っているは’ずだ。私は金の装飾
のゆき届いた扉をノ″‐クした。ドアが内へ開


 (夕市長はサイボーグだった。趣味の悪い
事に金色の板をボディに使っている。彼は私
の手に飛びついてすが肛つくようだった。
 「これは、これは、視察官、よくいらっし?
いました。どうぞこの都市を隅々まで。よく
御覧下さい。不正がまったくない事をよく御
覧下さい」
 彼は、私の事をシティ=デ″ザスターと呼
ばずに視察官と言った。
 私は市長(ルのメタリ。クな無表情な顔を
106
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  にらみ、言った。
  「もちろん、(ル市長、私の事は知っている
  はずだ。ある揉の人々は私の事をシティ=デ
) イザスターと呼んでいる。センターの命令に
  従わない市は総て、この地球上から抹消され
  る。私はセンターから七の監視役を引き受け
  ている」
  「もちろん、七の恟のシルバー=スターを見
  れば、誰だって、わかりますよ。あなたが一
  つの都市の運命を左右できるジテ″=デ″ザ
  スターだとね。でもジテ″=ディザスター、
  残念ながら、この市には何の不正もございま
  せん。御足労でしたね。この副官べ1ムが慨
  内を御案内さしあげます。疑問がありました
  らベームにお尋ね下さい」
  「わかりました。見物させてもらいましょう
  しかし、市長」   ド『
   私は鋭い眼ざしで、市長を見た。
  「変な小細工はしないでいただきたい」
  「わかっております。私の市では何も不正が

 行なわれておりませんからね。そんな事をす
’る必要はご・ざいません。〈ラグーンは何しろ術
 金都市ですから」
。 私は’ベームに従り市長の部屋を出た・べ
・Iムという男、箸にも棒にもかからぬという
】タイプの男だ。
・。 直後、市長の部屋の内部に、私の聴覚を集
。中した。私の耳はかなり離れた場所の音を聞
・く事ができるように改造してあるのだ。
一 他に誰かいたようだ。
一 『ザイル、シティト‥デ″ザスターがついにや
 ってきたぞ』
  市長(ルはさっきとはうって変って興奮し
 ているようだった。
 『我々の事業がばれたのでしょうか』
 『そんなはずはない。しかし、もし見つけら
 れそうなら処分しろ、いつもの手でな』
二わかりました』       J
  私は悲しくなった。ここが私が求め続けて
 きた都市でない事は決定だ。一暴れする事が
107
108
でさるようだ。私の悲しみをまぎらわせるの
にはI暴れも必要なものなのだ。ストレスの
解消になるというものだ。
 食糧をもって武器とするセンターに対して
反感を持つ人々が増加の一途を辿っている。
彼らは『都市連合』を作り、センターの場所
を知ろうとしていた。センターの場所は極秘
なのだ。
 それからセソターのまわし者、シティ=デ
ィザスターに対する人々のにくしみも恐ろし
いものだった。彼ら、『都市連合』は秘かに、
シティ日‥ディザスターに賞金をかけていた。
 (ルの副官ベームは市内を案内してくれた。
このラグーン所は侵略者に対する芸術、美術
工芸品を作り売る事で、命脈を保っている都
肛らしい。近くに侵略者用の荷物集積場があ
るようだった。
 小さな美術工房が賤えにも重なり、軒先を
並べていた。この黄金都市の繁栄は相当なも
のらしい。人々はしかし、あまり元気がなく
都市自体は黄金で輝いているが、町の雰囲気
はうら寂しい限りだった。
 私はあるポスターに気がついた。町角の金
色の壁にポスター・・が貼られている。七れはか
なり昔から貼られていたらしく。薄汚れ、お
まけに破れかけていた。風に切っぱしがゆら
ゆらと揺れている。しか・し、七のポスターは
金泊だった。
 ポスターはまるで私だった。私のようにや
っれ、疲れ果てて、身も心もボロボロのよう
だった。
 私への挑戦だろう。私のポスターだった。
『シティ=ディヂスター、20万クレジット、
『都市連合』』と書かれていた。20万クレジ
ットは大金だった。一人の個体が都市連合か
ら買える程の金額だった。
 都市連合は、各都市で不用とみなされた人
間の体をスト″クしているのだった。
 私匪身にはそれ程の価値があるとは思われ
ない。しかし都市連合は私に賞金をかけてい
108
109
て、‘しかもそれは大金なのだ。
 私は廉われ者。誰にも相手にされない、い
わぱ逃亡者と同じだった。
 しかし、誰もこの私を殺す事は絶対に不可
能なのだ。
 ベームはこのポスターが貼られている事を
知っていたに違いない。それゆえ、わざとこ
のポスターを見せたのだろう。ひよ。つとして
この都市には侵略者との美術品以外の取引き
があるのかもしれない。
 数百年前、侵略者は突然やってきて、地球
を壊滅させた。地球の再建まで長い時間が必
要だった。
とある美術工房で私は足を留めた。それはと
ても美しい立像だった。金色に輝き等身大の
立像だった。まるで生き身をそのまま黄金で
塗りかためたかのように見える。
 それは苦悩の表情を表わし、七こに立って
いた。遠くから見て、私はそれが人間かと思
った。しかしそうではなく、ただの金色の像
だった。七れもすぱらしい立像だった。
 私が偶然目を止めたその立像は、どうやら
私の目にふれさしたくない物のようだった。
 私は案内役のベー・ムに尋ねた。
 「こんな像は多量に製作されているのかね」
 べ1ムは一瞬いやな顔をした。。店の主人は
奥へ引き込んでしまった。    。。
 「いいえ、視察官、これは失敗作なのですよ。
こんな苦痛の表情の像なんか売れるはずがあ
りません。さあ、どんどんこの通りを進んで
下さい。あちらにはもっとすばらしい彫刻家
の工房がありますから」
 どうやら何事もなくペームによる市中一周
を終えることができた。私の見たかぎり、工
芸家達の町のようだった。表づらはそうなの
だ。
 「視察官、どうぞ、我々の宿泊施設にお泊り
下さい。あのミューダ砂漠を越えてくるの
は大した骨折りだったと思います。旅の疲れ
109

110
をそこでおとり下さい」
 再び、市長室へ戻った私に(ルはそう言っ
た。私は市長(夕が何か企らんでいるのを知
りながら、つい相手の誘いに乗ってしまった。
 宿泊所とは名のみで、そこはまるで宮殿の
ようだった。古代ギリジアーローマの神殿を
似せて作られた建物は驚きに値いした。一フグ
ーy市の人間の美的感覚はすぐれているのだ。
 私は美人達を横にはべらせ、美酒を飲み、
湯船にどっぷりつかっていた。そして不確に
も眠り込んでしまった。
 長い暗闇から解き放された時、私は思って
いたように鎖に繋がれ、石畳にころかってい
た。残念ながら、鎖は金ではなかった。あま
りいい客扱いとはいいかぬた。
 ラグーン而の慨長(ルが私の目の前に立っ
ていた。
「お出迎え、ごくろう、市長」私は言った。
「どういたしまして、視察官殿。何かめぼし
い発見でもございましたか」
 「いやいや、あなたの市はすばらしい彫刻で
一杯ですね。例えば等身大の黄金像など、ま
るで人間と間違える程の出来ですな」
 (ルは表情を変えた。サイボーグーフェイ
スの彼がである。どうやら図星だったな。
 「視察官’、残念ながら死んでいただかなくて
はなりますまい」
「おや、おや、それはどういう事かな」
「ふざけるな。お前があれを人間と感づ
からだ」
いた 
 先刻から市長の隣りにいた、品性の・卑しい
小男がどなりかけた。
 「これは失礼、さて、どちらさまでしたかな。
ひょっとしてザイルさんではないですか」
 小男ザイルは自分の名前を告げられて大い
に驚いている様子だった。
 「なぜ、俺の、俺の名前を知っている」
 「私が最初に市長室を訪れたあと、君はこそ
こそとこのラグーン而の秘密が知られていな
110
111
いかと而長と話していたからね」
 「市長、こいつを、このシティ0ディザスタ
ーを早く殺してしまおう。この老人があの有
名なシティ=ディザスターだとはとても思え
ないが」
 ザイルは頭から、それこそ湯気を立てて、
怒っている。。
 「待て待て、ザイル、そうあわてるものでは
ない。シティ=ディザスター、聞きたい事が
ある。なぜ我々の市に目をつけたのかね」
 「まず、一フグーン市が『都市連合』の中でも
大きな力がある事だ。おまけにかなりの武装
を持っている事だ。これは星間クレジットを
豊富に持っていなければならない」
 「ほう、それから」
 「さらに、ベーム君に、ラグーン市の美術創
作工房を多数案内してもらった。出来あがっ
ているものは二束三文の作品が多い。この地
球でも、さらに侵略者に売った所でそんな金
が得られるはずがない。あの種の黄金像を除
いてはね」
 「二束三文とはひどいな。あの美術工芸品は
他の都市ではありがたがっているのだぞ」
 【さらに、私に最初にあったビーグルのデル
にしてもそうだが、複合パーソナリティが】
個体に平均水準よりも多すぎる。つまりボデ
ィをどこかにやっているのだ。さらにこのIフ
グーン市近郊、ミューダ砂漠で人間が行途
不明になる率が他地区に比べて最近かなり高
くなっている。それがセンターのコンピュー
ターがはじき出したデー・夕だ。事実、私がこ
こにくる直前に隊商がラグーン市に連れてい
かれるのを見たんでね」
 「あのデル・のばかが。それでどんな結論がで
るんだね」
 「お前達、一フグーソ贋には人間以‘下の集団だ。
人間じ?ない。お前達と侵略者はグダミヤ規
定書を明らかに破ってい’る’。ラダミヤ規定害
は星間連合から侵略者が地球から何も生物を
持ち帰・らないボを規定しているはずだ。
111

112
   お前達は、人間を吸し、あるいは誘拐し、
  特殊な処置を施し、彼らを黄金の像にしてい‘
  る。七れも地球の苦悶を表わしている像だ。一
  七れを奴らに売っているはずだ。      一
   侵略者はそれを地球占領の記念として宇宙一
  空間にばらまいているのだ。おまけにお前達一
  ラグーン市の人間が一緒にそれを商うためにI
  侵略者の船に乗っているのだろう。そして侵一
  略者から莫大な星間クレジットと武器を手にI
  入れているのだろう。我々センターと対決すI
  るためにな」                  一
  「御名答だ。シティト‥ディザスター、その通
J りだ」                 一
   ザイルが横から口を添えた。       一
  「お前もずいぷんと苦しませてからその苦悶
  の表情が表われたままの黄金像にしてやる」 一。
  「シティ=ディザスターの黄金像か、奴ら高一
  く買ってくれるぞ」             一。
   ああヽかわいそうな人間達よ。私は思わず・。
  涙かこぼれた。この心の乏しさよ。人間が人

「言うんだ」私の心は痛みよりも噴りで一杯
になった。
 「私がお前達のような人間のくずにセンター
の場所を言うと思うのか」私は苦しい息の下
から蔑みの眼をして言った。
 「く七っ、投してやる」
 ザイルが、致死量の電流が流れるようにム
チをセ″卜して打ちかかってきた。
121
113
 ムチが私の体にふれた一瞬、ザイルは消え
て‘いる。’私は無傷だった。
 「どういう事だ。ザイyyどこへやった。ど
んな手を使った。おい白状しろ」
 市長(ルが私に近づいてきた。狂気の色が
眼にあった。
 「言うんだ。言わなけれは枚す」
 市長(ルは、近くの男からレイ=ガンをと
りあげ、近づき私の体にあてだ。
 「白状しろ、本当にこれが最期だ」
 (ルは、私のいうにいわれぬ悲しげな表情
に気付くべきだった。親が子供を見るような。
しかし彼はトリッガーを引きしぼっていた。
 そして、面長もその瞬間に消滅していた。
 「うわっ」
 二、三ぺいた腹心の者達はその場の理解で
きない事件に驚き、逃げ出してしまった。
 私は、一人、牢に残されていた。

 市長が使おうとしたレイ=ガンを足でひさ
よせ、私は顛を切り、廊下へ出る事がでさ
た。逃げ出す前うに、近くの倉庫をのぞいて見
ると、先刻の襲撃を受けたと思われる隊商の
人々がいた。いや隊商達の黄金像があった。
皆、悲’しげな顔をしていた。』私はまた辛くな
った。
 地下の牢獄を抜け、上を見上げると、そこ
は例のギリジアーローマ神殿を真似た宿泊所
だった。
 市中を歩くと、人々は逃げ出し、物陰に隠
れた。
 私は最後の見納めに、ゆっくりと杖をつき
ながら、ラグーン市を廻った。まだ誰も私に
手をだ七うとしなかった。先程の出来事は皆
に伝わっているのだろう。まだ、私に対する
対応策が立てられていないのだろう。
 やがてラグー。ン市に死が静かに訪ずれるだ
ろう。
 センターからの食糧を送らなけれぱ、彼ら
は餓死する。それだけでも本当はいいのだ。
しかし、それは私の心が許さなかった。昔の
113

間を売るだと、私の・涙は、恐しいからではな
い。嘆かわしいからだ。
 「さて、シティ=デ″ダスター、死ぬ前にセ
ンターの場所を言ってもらおうか」
 私が掴まったために弱気にな。ていると彼
らは考えているらしい。私は彼ら自身の事を
嘆き悲しんでいるというのに。
 「市長、どうせ殺すんだ。いためつけましょ
うか」
 ザイルが舌なめずりをして叫んだ。
 「やれ」電磁ムチが私の体に打ち七そがれた。
電撃が私’の体を襲った。


114
私にそっくりの人間達を見るに耐られなかっ
たのだ。
 私はこのラグーン市をゆっくり歩きながら
死の細菌をばらまいてきたのだ。私の杖の先
から、少しずつ、目に見えない細菌が各所に
ばらまかれていたのだ。
 一フグーソ市の機構ではこの細菌に対する免
疫体を作りあげる事はできないはずだ。
 私は再び市庁を訪れた。

 もちろん、贋長はいない。恐ろしい者を見
る目付きでベームがいやいやあいさつに出て
きた。

 「見るべき所は全部見せていただきました。
別に不審な所は見当りません。セッターから
は通常通り、食禄が送り込まれるでしょう」
 私はゆっくりとペームにおじぎをした。
 ベームは食糧が送り込まれると聞き、一応
安心しているようだった。
 私は市庁から出た。
 しかし、易々と私をラグーン市から出して
はくれないだろう。
 パウンテt ‐‐(ンター(賞金かせぎ)を市
内へ呼び入れる事も考えられる。どんな手を
打ってくるのかわからなかった。
 私は何しろ、ラグーン所を侵略者との間の
黄金像の事を知っているのだから。
 一フグーン市社すでに私に対する新たな対策
をとり始めているに違いない。
 考え込んでいる私の目の前に黒い影が急激
に近づいてくる切に気がついた。
 ビーグルだ。七れも先刻のデルのビーグル
が私に向かって暴走してくる。
 車体が私の体にふれそうになった一ほ、杖
を私はジエ″卜噴射させた。すんでの所で私
はよける事ができた。
 チェニックの端が切れて飛んでいた。ビー
グルは前・の建物をよけ切れず、窓の中心へ突
き込んでいた。ビーグルは燃えあがっていた。
中にいたデルは消滅しているはずだった。
 もう、’すでにラグーソ市での仕事をやりと
114
115
げていた私は、市の誰も気づかれぬうやにラ
グーン市から脱出しなけれぽならない。やが
てラグーン市は死の町になるのだから。

 街角から、銃を手にした人々、いやアンド
ロイドが出現した。それは間違いなく、私を
殺す目的を持ったアンドロイド達だ・だ。

 残念ながら、私にはこれを総て防ぐ方法は、
なかった。アンドロイド達は町のあちこちか
ら現われてくる。増える一方なのだ。
 私は杖をふりまわして、彼らから逃れよう
とした。杖はまた一種の銃ともなる。光線が
発射される。彼らは仲間が圖れても、それを
踏み越えて襲ってくる。

 私は再び杖につかまり、上空へ登った。
 市の食糧庫の前に止まっている大きなトラ
ックが目にはいった。私があらかじめ時間を
セットして呼びよせているものだ。
 センターから派遣されていた食1運搬車の
中に隠れ、・脱出するつもりだった。
 この時、私以外に、誰かが先に乗り込んで
いようとは思いもよらなかった。

 センターからはヽ地球上のあらゆる都市へ食
糧が送り込まれている’。地球にわずかに残っ
た農耕地域を総てセンターが押えているのだ。
 センターがこの地球すべてを食aをもって
支配するようになったのはかなり昔の話だ。
 ’セyターがどこにあるのか誰も知らなかっ
た。・            ―
-地・球の運搬機関はわずか『のビーグルだけだ
った。飛行機はセーンター以外には所有してい
ない。  ‘ヽ
 他に侵略者の円盤柵が地球で見る事のでき
る飛翔体である。
 センターが存在する以前はこの地球は巨大
な文明をほこっていた。
 食糧運搬車は食糧を各都市にはきだしたあ
とヽすぐさまその市を立ち去る。後をつけら
れてセンターの場所を知られないためだ。
115
116
 運転席には人影はない。。センターのコンピ
ューターと連動しているのだ。
 食糧をはきだす(″チは全部で10個あるが
いずれも人一人がはいりこめるに充分な大き
さだ。しかしそこから無理にはいりこもうと
すれば、レイザー=ガソに焼き投される運命
にある。
 私の体はレイザー=ガンのセンサーと同調
されている。私は(″チの一つから潜り込み、
からっぽのタンクの中にはいれた。
 ラグーン市の見張りに気がつかれなかった
事をいのった。
 自動操縦で食糧車は動き始めた。・フグーン
市の金色の壁の外へ出るまで、私は食糧タン
クの中でじっとしていた。
 市外へ出たと思われた時、タンクのボルト
を杖で焼き切り、トラックの中央を走る通路
へ出た。運転席の方へ歩み出した。’
 運搬トーフ5 1;X t全長500mもある。車輪は20
輪、チタン合金でまわりをかためてあり、ち
よっとした襲撃などにはピクともしない。お
まけに重装備の武器がいたる所に隠されてい
るのだ。
 人の気配がした。補助タンクの影で動くも
のがあった。私は杖を構え。近づいていった。
少女だった。傷ついて、意識を失しなってい
るようだ。
 3

 少女はオリエント風のコスチュームをつけ
ていた。私は少女を担ぎ上げ、ともかくも前
部にある運転席へ向かった。むろん、冷たい
磯器で囲まれた運転席には誰もいない。 コッ
クピットのマイクロコンピューターがセンタ
ーのメインH‥コンピューターの指令を受けて、
動いているのだ。
 運転席の医療コアで私は少女の手当てをし
た。その間も運搬トラックはセンター。を目ざ
し、時速80』でヽヽヽユーダ砂漠を突進している。
 やがて、少女は目を開いた。不信の表情で
私は言っ‘た。。
116
117
 「こわがる事はない。私はジテ″=デ″ザス
ターだ」
 私は、彼女の顔を見て、以前どこかで見た
事があるような気がした。それもずっと前に。
 彼女は私の顔を見て、それから胸のシルバ
スターを見た。

 「お願い。シティ=デ″ダスター、あの市を、
あのラグーン市を破滅させて下さい」彼女は
嘆願した。私は静かに言った。
 「わかっている。もう処分したあとだ。あの
ラグーン漑は死の町と化しているだろう」
 「そう、そうですか」彼女は一気に肩の荷を
落したようになった。
 「君はラグーン市の者ではない人だね」
 「私。私はもちろん、違います。あ、いい忘
れています。ごめんなさい。私はイーダ。メ
ルダ市の人間です」
 「そのメルダ市の人間がなぜラグーン市にい
たのかね」
 「ラグーン市と取引にいったのです。しかし
彼らは……」
 彼女は急に泣き出してしまった。
 「ざあ、落ち付くんだ。一体何があったとい
うんだね」
 「彼らは私達の隊商が。ラグーン市の前まで
来た時、ビーグルが攻撃してきたのです。皆
殺しです。私はサイボーグ’フクダの体の下に
いたので傷を受けただけで助かったのです。
そして、牢屋から逃げ出す事ができました。
 「彼らは、何の目的で、君達を役したのだ」
 「私達の体が欲かったからです。それにもし
杢き残った私みたいな体があれば。・フグーソ
而の複合パーソナリテ″の一部を送り込んで
いるのです。そして七の体をメルダ肢へ送
り帰すつもりだったのです。メルダ市を乗っ
とるためにね」

 腐り切った奴らめ。私はまた悲しくなった。
黄金像の一件以外にも、他の都市を支配する
方法を考えていたのか。
 地球が侵略者に『大侵略』を受けて数丿年、
 117一
118
新しい人格と新しい種ができあがっ。だと思っ
ていたのに何んてことだ。
 悪の種はとぎれる事なく、人類に受けつが
れているのだ。くそっ、私は私を恨んだ。 こ
の私の体が持っている、内に秘めている悪の
種子を。かわいそうな私の子孫たちよ。
 「どうしたのです。ご気分でも悪いのですか」
 イーダが心配そうに私の顔をのそき込んだ。
これでは立場が逆というものだ。
 しまった。大事な事・を忘れていた。と同時
に、私の心に一つの疑問がわいていた。
 「イーダ、大変だ。君を至急に減菌しなけれ
ぱならない」
 「どうしてですか」
 「私は、あのラグーン市を細菌で汚染させた。
君はわずかでもあのラグーン市の空気をすっ
ていたわけだ。汚染されている。威眉チュー
ブに入りたまえ」
「という事は、すでに、あの都市が死の都市
となっているのは確実なのですね」
「そうだ」
 私はイーダを瞰に装備してある減菌チュー
ブに寝こませた。。まだ間に合うはずだった。
 当然、私も減菌処置を受けなければならな
かった。
 その時運搬車に衝撃が襲った。運転席のコ
ンソールがうめき声をあげ、つけておいたモ
ニタースクリーンのいくつかが死んだ。車体
がきしみ、ストップした。何だ。何が起こっ
た。車内が急激に熱くなった。
 私は減菌チューブから飛び出し、運転席へ
戻った。イーダはチューブにはいったままに
しておいた。とりあえず生さているモニター・
スクリーンをチェヅクした。
 食橿運搬トーフックのかなり前に、装甲車が
2台止まっていた。。
 車内のディスプレーには20綸の車輪のうち
片側8輪が吹き飛ばされている事を示してい
た○  ・ 。’゛
 彼らは超小型核弾頭を使ったらしい。そう
118
119
でもなければ、この食糧トラックがびくとも
するはずがないのだ。
 彼らは車外スピーカーからどなっていた。
こちらのモニターにはいってくる。    ’
『でてこい、シティ=ディザスター。お前が
七の車の中に隠れているのはわかっているん
だ。            し
 お前もわかったと思うが、我々は原子砲を
装備している。今は小型のものを使用したが
もっと大きな原子弾頭を所持している。お前
の体もろとも運搬トラックは消滅するぞ。フ聞
さたい7がある。車から顔を出せ・』
 しかたがなかった。でていく他はない。イ
ーダが減菌されるまで、まだしばらく時間が
かかるだろう。
 私は杖を持ち、運転席横の(ツチを開けて
砂漠砂上に立った。
「君達は何者だ」
 一台のビーグルから男が上半身を出してい
る。彼は肩に小型陽子砲をかかえていた。砲
 口はまちがいなく私に向かっている。男は車
 から降りこちらへ歩いてきた。
 「何者だと、ふふん、決まっているだろう。
 賞金かせぎだ」
  ヘルメ″卜と偏光グラスで相手の顔ははっ
 きり見えなかったが、笑っているのは事実だ
 った。
  おまけに彼は背中には小型ウイポン=パッ
 クを背負っている。
 「それじ’?、どうぞ殺したまえ、私がシティ
 「ンターだ。20万クレジットの賞金がかかっ
 たな」
 「待て、晦て。あわてるな。死に急ぐ必要は
 ない。聞きたい事があるんだ。答え方によっ
 ちゃ、『都市連合』本部に生きたまま、連れ
 ていくという手もおるからな」
 「ありかたい筝だ。命を助けてくれるわけか」
 私は少し体を動かぞうとした。
 「待て、動くな。七の杖を捨てろ。その杖に
 ついてはラグーン市のベー‘ムから聞いている。
119     `

`120
  遠くへ捨てろ」
   私は杖を投げ出した。
  「もう一台の装甲車がねらっている事を忘れ
  るなよ。さて質問だ。最初は、お前のような
  シティ=ディザスターが何名いるかだ。答え
  ろ、何十名か、何百名か」
  「一人だ」
  「何だと、笑わすな、一人だと、一人で今ま
  であんなに数多くの都市を滅ぼしただと」
  「そうだ。邪悪の根ざす都市はすべて私が地
 球上から抹消した」
  「それじや、クルー市を原爆で吹き飛ばした
J のも、ソルダ″卜市を焼き払ったのも、キル
  ス市を「リケーンで消滅させたのもお前だと
  いうのか」
  「そうだ。ところで、私がこの食糧トラック
 に乗っていると連絡したのはラグーン市の連
  中か」
  「そうだ。市長のベームからな」
  「ほう、ベームが(ルに変わって市長になっ
たわけか。ラグーン市最後の市長にな」
 「何だと」
 「一フグーン市は、先刻、私がばらまいた細菌
でもう死滅しているはずだ」
 男にひるみができた。私は運転席のマイク
ロト‥コンピューターにテレパシーで連絡を送
った。
 食糧トラックの中央からニケ所、砲塔が急
激に突出した。その二連プロトン砲は各々、
二台の装甲車を一撃で消滅させた。
 瞬間、私を射とうとした男へ、私はテレキ
ネスで杖を投げつけていた。
 男の背中を杖が突き抜け、男はtrリッガー
を引くひまもなくくずれ落ちた。
 私は男の体に近づいた。側に立った時、急
激に男は飛び上がり、銃を私の頭に当てた。
 「くそっ、仲間と、装甲車をよくも吹き飛ば
してくれたな」
 男は私の頭に銃身を突きつけたまま、左手
で背中のウィポツ=パ″クから核手榴弾を2
120
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 121
個とりだし、砲塔へ投げつけた。
 食糧トーフックの二連プロトン砲は二門とも
死んだ。
 「よし、お前の、食糧卜一フックに乗せてもら
おう。それがら、センターの場所を教えても
らおうか」この男は人間ではないのだ。アン
ドロイドだった。   プ・
 「センターの場所を知ってどうするつもりだ」
 「知れた事よ。都市連合に場所を知らせるの
だ。センターを攻撃する。『都市連合』はセ
ンターの支配にあきあきしているんだ。我々
が農業地帯を占領する。各々の都暦が自由な
活動をしたがっているんだ。それにあんたを
殺せば、シティ‥Hディザスターがいなくなる
わけだからな。死ぬ前にセンターの場所を言
ってもらおう」男はトリッガーを引きしぼり
つつあった。
 「言いたくなければそれでもいい。あの食糧
卜一フックのマイクロ‥日コンピューターからセ
ンターの場所を読みとる事も可能だからな」
 「やめろ」私は叫んでいた。
 「私が死ねば、‐自動的にあの運搬トラ“Q~S t!
自爆する。。そうすれば、センターの手掛りは
まったくなくなるぞ」
 運転席の方ヘイーダがやってきた。どうや
ら減菌処置が終ったようだ。
 バウンティ=(ンターは彼女に気づいた。
 「あの女は誰だ。車の中の女だよ」
 『知らん』
 「知らんわけはないだろう。あの女をいため
つけるか。よし、あの女をここへ呼べ。呼ば
なければ、運転席部分を核手榴弾で破壊する
ぜ」
 「そうすれば、コンピューターが傷つくぞ」
 「かまわん。・早くするんだ」
 しかたがない。チ″yスを待つか。イーダ
がチャンスを作ってくれるかもしれない。そ
れとも奥の手を使うべきか。
 「イーダ、出て来てくれ」私は手で合図した。
 イ’‘ダが運転席の(″チから出て来た。
12
122
 「ようし、こっちへゆっくり来るんだ」
 イーダはこちらへゆっくりと歩いてくる。
『やめろ、イーダ、やめろ』
 私はテレパシーで叫んでいた。イーダは小
型レーザー=ガンをオリェソト風のコスチュ
ームの下に隠している。が小型レーザー=ガ
ンはこのアンドロイドには針がささった程に
も感じないはずだ。
 遅かった。イーダはすばやくレーザーを取
り出し、男を射った。それに気づいた男は、
核手指弾をイーダヘ投げつけようとした。
 光があたりを包んだ。
 瞬間、男の体は消滅した。さらに男が投げ
た核手榴弾はイーダの目の前で消えている。
 私はイーダの側に走り寄った。
 「大丈夫か、イーダ」
 「ええ、でも、あのアシドロイドはなぜ消え
たの」
 「メーザー日‥ガンだよ」
 「でも運・当車の砲塔はさっきやられたでしよ
う。他にはなかったはずだし、あなたも持っ
ていなかったわ」
 「メーザー=ガンを宇宙衛星に載せて、地球
上空を廻らせているのさ。私の杖が私のテレ
パシーを増幅させて、衛星に発射指令を出し
たのだ。衛星を頭上に呼び寄せるのに少し時
間がかかったのさ。しかし、一つ賦に落ちな
い事がある。あの核手榴弾がどこへ消滅した
のか。君がやったのか。イーダ」
 「いいえ、私ではない`わ。私にはそんな力は
ないもの」
 私は杖を探した。先刻。ロボットの体を突
き破った杖だ。そして、今、衛星への私のテ
レパシーを送った杖だった。ない。どこにも
なかった。
 危機は去ったようだったが、トラックはか
なりいためつけられていた。とても、長距離
を働かせそうにない。
 連絡用に使っていたテレパシー噌幅器の入
った杖もなくなっている。トグ″クの運転席
122
123
もいかれていて’無線も死んでいる。センタ
ーからヘリコプターを呼び寄せる手段もない。
 「さて、どうしたものか」
 私は助かったけれど、砂漠に裸同然にはお
りだされたも同様だ。おまけにこんな時、再
び賞金かせぎにでも襲われたら大変だ。
 イーダが口を添えた。し
 「私の都市メタダ市なら、ここからそんなに
遠くないわ」
私は決意した。し「しかたがない。メルダ暦
へ連れていってもらおう」
 しかし、不思昌な事に、’私の記憶にはメル
ダ慨という都市の記憶はなか。つた。私はこの
地球上に現存する
る。しかし、メル

の都市名全部を覚えてい
市の名前は
ストには含まれていない。つま

の都市名リ
センターから食禄を受け取ってはいないのだ。彼女はそ
れを知っているのか。
 が、ともかく、私は私自身が生き残るため、
メルダ慨に向かう事にした。

 運搬キタックは片側のタイヤが・完全にいか
¨れていた。’運搬車に標準装備されている砂上
小型ホーバークラフトを私とイーダは組み立
で始めた。
1私はイーダに尋ねてみた。    ヽ『
【君達の都市は何を作っているのかね】
何も作ってはいないわ」
そんな都市があるわけがない。それならば
どんな方法で金を得ているのだ」
「私はわかりません」彼女は黙り込んでしまっ
た。私はしかた・なく。彼女を組み上ったホー
((Iクラフトに價せぐ彼女の指さす方向へ造
甘せ始めた。
{ しはらくして、爆風と閃光が襲ってきて、
{後から爆発音が響いてきた。食糧トラ″クの
}自爆装毀をオンにしておいたのだ。

 私は食糧トク″クが完全に消え去った事を
。調べてから、イーダに尋ねた。
「所で、イーダ、君の複合個体はいくつだね」
「私の体には一つの個性よ」
123

124
  「君の都市の人達は皆・、君と一緒なのか」
  「そうよ、一つの体に一つの個性、それが私
  達の市の普通の人達よ」
   その時、ホーバークラフトは潅木地帯に入
  っていた。
   突然、一発の弾丸が私の方へ飛んできた。
  私は瞬時に体をふせていた。又は、新手のバ
  ウンティ=(ンターの登場らしい。
   二弾、三弾と次々に射ち出される弾は、今
  度は、ホーバークラフトのフレキジブルスカ
  ートを射ち貫いていた。速度がおとろえた。
  (止まれ、止まれ、止まらなければ、その女
) に命中させるぞ」荒々しい男の声が聞こえて
  きた。

  4
   大昔のスコープ付対戦車ライフルをかつい
  だ私と同じ年配の男が潅木の茂みから姿を表
  わしていた。

  「動くなよ。俺の指は、年のせいでょくふる
  えるんだ」男はすばやい動きで走ってきて操
 縦席にライフルを突き込み、私の頭をライフ
 ルの銃身でなぐった。「おい、お前、何者だ」
 男は私の胸のジペ(Iスターに気づいた。
 「これはこれはシティ=ディザスターか。女
 連れか、いい御身分だな。なぜそんないい暮
 しができるんだ」
  私は男に逆に尋ねた。「お前はどこの市の
 者だ」
 「俺か、俺はどこの市にも属してはいない。
 放浪者さ。しかし、今日は狩人さ。まさか、
 その得物がシティ=ディザスターとはな。お
 いお前出てこい」彼は茂みの方へ叫んだ。
  再び、後の茂みから、若い男があらわれた。
]この男もボロボロの服を着ている。
 「これがシティ‥‥デ″ダスター様だとよ。よ
 く見ておけ、二度と拝めないぞ」私はそれに
 対して、「私は君の面を二度とは見たくない」
 「何だと」老人は力″となった。。
 「いけない。あやまれよ。お前、このじいさ
 んはすぐ頭に来るんだ。あや。まれ」若い方が
124

125
 叫んだ。  
   私は黙って、私とよく似た顔をした老人の
) 顔をにらんでいた。老人の怒りは急激に頂点
  に達したようだ。
  「この野郎、死にやがれ」対戦車ライフルの
  銃身を私の頭に当て、引き金を引きしぼった。
  「ボスッ/ すごい音脈響いた。イーダは失
  神していた。当然、私の頭がすいかか何かの
  ように吹き飛び、血だらけの下半身が残って
  いるに違いないと考えていただろう。しかし
  私は無傷だった。
   反対に、対戦車一フイフルをぶっばなした老
  人の姿が消えていた。一フイフルだけが地面に
  ころがっていた。
   残った若い男は、小型拳銃をとりだし、ふ
  るえながら、私に向けた。が若い男は私の双
  眼を見つめた。何か異常に気づいたようだ。
  男は悲鳴をあげ、銃をほおり投げ、茂の中に
  走り込んで行った。彼は直観で気付いたのか
  もしれない。この地球上の総ての人々は私を
 殺す事はできないのだ。

 私か彼らの父なのだ。
 先祖殺しはでさないというフ″クターを私
 生体の中にプログーフミングし、私・のクロー
・ン人間、子孫に植えつけていた。

 イーダはまだ気を失しなったままだった。
‐‐ だメルダ市まではかなりの道のりがあると
いうのに
 私はまた話相手もなく、傷ついたホーバー
 クフトを修理し、メルダ市があると思われ
り方向へ走り出した。

 途中の風景はあまりに変化に乏しい。私か
 の時代、侵略者が来る前に生きていた時代
 比べ、なんと寂しい光簑なのだろう。あの
 ・代、地球は活気に満ちあふれていた。地球
 緑をなしていた。海には魚や貝が、森や林
 は動物たちが、群れ遊んでいたはずだ。
‘もはや、・そんな風景は、二度と目にする事
ができないだろう。
 イーダがようやく息を吹き返した。イーダ
125
126
は私が生き。ている事に気づき、私にだきっい
て来た。
 〔イーダ、惑が、る事はない。事実私は生きて
いる。私は殺される事は決してない。不死身
なのだ〕イーダはなぜと『は尋ねなかった。イ
ーダは他の事を考えているようだった。
  市街が地平線の向こうに見えて来た。たぶ
 んあれがメルダ市だろう。
  メルダ市は今まで私が訪れた都市とはまっ
 たく異なっていた。
  城壁が存在しなかった。どこの都市にもあ
J るはずの壁がなかった。外に対してあけっぴ
 ろげだった。またこんなに近づいたのに警備
 兵の姿さえなかった。静かだった。町並がは
 っきりと見えてくる。簡潔で美しかった。
  けばけばしさ・や重苦しさ。そんな類いの言
 葉はこの都市には不必要だった。都市デザイ
 ソは秀れていて、住んでいる人々の知性を感
 じさせる都原だった。゛私はここが私の考え求

恥て来た理想郷かもしれないと思った。
 ・私達、人類の悪しき傾向から切り離れた人
々が住んでいるに違いないと思った。いや私
は念じていた。ここが、私の求めてきた理想
。郷であれかしと。
 ホーバークラフトは町中へ入った。
 住民はまた、都市の外観から受けた印象と
同一であった。礼儀正しく、さらに鍛え上げ
られ練りあげられた人格を感じさせる。
 数人の白い服を着た人々が私を待ち構えて
いる。私はホーバークラフトを止め、大地に
降り立った。
 イーダはその人々の方へ歩いていく。どう
やら隊商とIフグーソ市の顛末を述べているよ
うだった。
 ‐集団の中でひときわ背の高い男が私の方へ
歩いてくる。この都市の指導者らしい。
 「事のあらましはイーダから。聞きました。イ
ーダを助けていただいてありがとうございま
した。どうぞ、この都市でゆっくりとお休み
126

127
  下さい。。たいしたもてなしはできませんが」
   男は今まで、―私の見た事のない高貴な顔立
  ちをしていた。私という同じ素材から生まれ
J た顔でもこうむ違うものだろうか。
   それにシテjaディザスターの私を少しも
  恐れてはいない。
   私はこんな平和な安心し・だ気分は感じたこ
  とがなかった。この気分はどこからくるのだ
  ろう。            ‘・   い
   私はささやかな歓迎会を受け、イーダに連
  れられて、。町の中を歩き、私の宿泊所にあて
  られている建物でゆっくりとくつろいだ。
   彼らは私がセンターへ帰れるよう努力して
  くれるだろう。
   私は眠りにつこうとしていた。が何かの疑
  惑が私を寝つかせなかった。
   イーダの事だ。私はイーダを愛しているの
  かもしれない。が出会った時から気になって
  いるのだが。イーダを私はずっと大昔に見た
  記憶があるのだ。もちろん、顔は私のコピー
なのだが、仕ぐさ、動き、話し方がなぜか私
の記億を刺激するのだ。
 私は私の。コピー人間、クローン人間を大量
に作り、繁殖するまで、冷凍睡眠にはいった
のだが・、・イーダにはその以前に会ったような
気がする。が、そんな事はありえない。
 それに、このメルダ甫が、センターから食
糧を受けていないのも合点がいかない。
 まだある。
 イーダは、食糧トラックに乗り込んでいた。
私しか乗り込む事ができない(リチから、レ
イ‥Hガンにやられずに。それにラグーン市に
長時間いたはずなのに、私のばらまいた細菌
による病気の徴候があの時、まったく現われ
ていなかった。さらに、メルダ市の隊商は確
かに皆殺しにされたはずなのだ。おまけに市
庁の牢獄から一人逃れ、食礎トラックまで辿
りつける可能性は極めて少ない。・女の手では
不可能だ。止
 最初の賞金かせぎに襲われた時、彼女は自
127

128
 分の力で貧金かせぎが投げた核手榴弾から身
 を守った。

  私の眼はもうさえさっていた。
  あの隊商はメルダ市のものではない。一体
  この町の奴らは何者なのだ。少なくとも私の
  クローン人間の子孫ではあるまい。
  彼らはイーダという駒を使って、センター
  の場所を探り出そうとしているのではないか。
  私は自らの聴覚の能力を数倍にしてみた。
  この建物のどこかに会議室があるらしい。
 多数の人々の話し声が聞えてくる。
  私は部屋の天井に上り、換気孔をはずし、
J 換気ダクトを、多勢の声のする方へと這って
 行った。
  数十分動き廻った後、大きな会議室をみつ
 けだした。
  私は換気孔から秘かにのそいた。七こに出
 席している人々を見て、驚かざるを得なかっ
 た。            rlri  rl    ÷
  円卓を囲んでいる人間達は、死んだはずの
人間だ。亡霊達だ。
 「それでは、‘無事に、このメルダガヘ、シテ
ィ=ディザスターは辿り着いたわけですな」
 こう言ったのはミューダ市の(ルだった。
 「作戦はうまく行った」卜
 「これで我々もセンターの場所をつきとめら
れるだろう」
 「間違いなくセンターを発見できるでしょう」
 私が今まで消滅させたはずの市長達が、一
堂に会していた。
 原爆で吹き飛ばしたグル而の市長、メルダ
ート市長、ギルス市長……
 なぜなんだ。私は私自身の眼を疑った。さ
らに追い討ちがかかった。
 「イーダ、シティ‥トディザスターの杖はとり
あげたのかね」
 「そうです」円卓の一人にイーダがいた。
 私は裏切られた(総べてシナリオが書かれ
ていた。私はシナリオ通りに動いただけたん
だ。
128

129
 二台の、アンドロイドの装甲車が侍ち伏せ
ていたのも、イーダが何らかの方法で位置を
知らせていた。のだ。彼らは罠であり、消耗品
だったのだ。私の杖をとりあげる絶好の機会
を彼女に与えたのだ。
 まんまと私は敵の本拠メルダ市へ連れてこ
られたのだ。ここが本当の『都市連合』の本
部なのだろう。
 私は換気ダクトを使い、私の寝室へ戻った。
 どんな手を打つか。とにかく私はセンター
と何としても連絡をとるか、辿り着かなけれ
ばなるまい。まず杖だ。
 その夜は、怒のためI唾もでさなかった。
 次の日、イーダが私の部屋を訪れてきた。
 「指導者があなたとお話ししたい事があると
いっています。どうぞ私についてきて下さい」
 私は銃を隠していた。若い男がおとした古
代の小型拳銃だ。ないよりもましという代物
だが。
 私は回廊をイーダの後について進んでいた。
私はイーダ。の背中に銃を押し着けた。
 「何をなさるんですか」イーダはびっくりし
ている。              ‐・
 「杖はどこにあるんだね」
 「何の事です。杖はなくな・つたじ?ありませ
んか」
 「いや、違う、君がテレキネス(空間物体移
動)で、隠したはずだ」
 イーダは認めた。
 「でも、残念ながら、七の力は私ではありま
せん。指導者の力によるものです」
 突然声がした。『そうだ。私が杖を隠した
のだ。すべては私の命令なのだ。彼女には罪
がない。離したまえ』指導者の声だ。
 【返してもらおう。さもなくば、イーダを投
す】
 ヽしばらく沈黙があった。
 『しかたがない。君の杖は返却しよう』
 私の目の前に杖が出現した。私は杖を握り、
イーダを離した。
129
130
 「待って下さい。話があるの」イーダの声を
私は振り切った。私は杖の送信機をつかい、
センタヽ‐・’からヘリコプターを呼びよせた。
 「誤解しているのよ・ルいヤ帰って来てI
 私は杖をジェット噴射して、上空へ昇ろう
としていたが。私には衝撃だった。彼女は私
のかなを叫んでいる。誰もしらない本名を。
 杖につかまった私はメリダボの上空にあが
り、センターからのジェット=ヘリに乗り込
む事がで・さた。
 ヘリの中で私は泣いていた。なぜなのかわ
からな’い。しかし、涙は私のほほを濡らして
いた。私は自分自身に裏切られたような気が
していたのだ。
  ヘリはセンターに近づいた。

  上空から見て、そこは何の変哲もない(ゲ
山だった。ヘリは山肌にぶつかりそうに接近・
する。次の瞬間、山腹の一部が開き、ヘリを一
飲み込んだ。                ]
 長い空間を徐々に降下していく。急に目の
前が開けてきた。私が大事に育てている日畑
が全面に拡がっている。ここが私のセンター
だった。私一人の。
 地下何10㎞の所に、センターは造り上げら
れている。この地下の大空洞は私が発見した
もので、侵略者には知られていない。
 このはげ山近辺の地域の天候を私はコント
ロールし。何人たりとも近づき得ない天険状
況を作りあげていた。特殊な雲海を発生させ、
上空からの発見も不可能にしている。
 私のヘリは畑の中央部にあるタワーの側の
往機場へ着陸する。タワーから見てもこの空


8ぎょうたりず。)


て、‘しかもそれは大金なのだ。
 私は廉われ者。誰にも相手にされない、い
わぱ逃亡者と同じだった。
 しかし、誰もこの私を殺す事は絶対に不可
能なのだ。
 ベームはこのポスターが貼られている事を
知っていたに違いない。それゆえ、わざとこ
のポスターを見せたのだろう。ひよ。つとして
この都市には侵略者との美術品以外の取引き
があるのかもしれない。
 数百年前、侵略者は突然やってきて、地球
を壊滅させた。地球の再建まで長い時間が必
要だった。
とある美術工房で私は足を留めた。それはと
ても美しい立像だった。金色に輝き等身大の
立像だった。まるで生き身をそのまま黄金で
塗りかためたかのように見える。
 それは苦悩の表情を表わし、七こに立って
いた。遠くから見て、私はそれが人間かと思
った。しかしそうではなく、ただの金色の像
だった。七れもすぱらしい立像だった。
 私が偶然目を止めたその立像は、どうやら
私の目にふれさしたくない物のようだった。
 私は案内役のベー・ムに尋ねた。
 「こんな像は多量に製作されているのかね」
 べ1ムは一瞬いやな顔をした。。店の主人は
奥へ引き込んでしまった。    。。
 「いいえ、視察官、これは失敗作なのですよ。
こんな苦痛の表情の像なんか売れるはずがあ
りません。さあ、どんどんこの通りを進んで
下さい。あちらにはもっとすばらしい彫刻家
の工房がありますから」
 どうやら何事もなくペームによる市中一周
を終えることができた。私の見たかぎり、工
芸家達の町のようだった。表づらはそうなの
だ。
 「視察官、どうぞ、我々の宿泊施設にお泊り
下さい。あのミューダ砂漠を越えてくるの
は大した骨折りだったと思います。旅の疲れ



をそこでおとり下さい」
 再び、市長室へ戻った私に(ルはそう言っ
た。私は市長(夕が何か企らんでいるのを知
りながら、つい相手の誘いに乗ってしまった。
 宿泊所とは名のみで、そこはまるで宮殿の
ようだった。古代ギリジアーローマの神殿を
似せて作られた建物は驚きに値いした。一フグ
ーy市の人間の美的感覚はすぐれているのだ。
 私は美人達を横にはべらせ、美酒を飲み、
湯船にどっぷりつかっていた。そして不確に
も眠り込んでしまった。
 長い暗闇から解き放された時、私は思って
いたように鎖に繋がれ、石畳にころかってい
た。残念ながら、鎖は金ではなかった。あま
りいい客扱いとはいいかぬた。
 ラグーン而の慨長(ルが私の目の前に立っ
ていた。
「お出迎え、ごくろう、市長」私は言った。
「どういたしまして、視察官殿。何かめぼし
い発見でもございましたか」
 「いやいや、あなたの市はすばらしい彫刻で
一杯ですね。例えば等身大の黄金像など、ま
るで人間と間違える程の出来ですな」
 (ルは表情を変えた。サイボーグーフェイ
スの彼がである。どうやら図星だったな。
 「視察官’、残念ながら死んでいただかなくて
はなりますまい」
「おや、おや、それはどういう事かな」
「ふざけるな。お前があれを人間と感づ
からだ」
いた 0‐
    I
    1
 先刻から市長の隣りにいた、品性の・卑しい
小男がどなりかけた。
 「これは失礼、さて、どちらさまでしたかな。
ひょっとしてザイルさんではないですか」
 小男ザイルは自分の名前を告げられて大い
に驚いている様子だった。
 「なぜ、俺の、俺の名前を知っている」
 「私が最初に市長室を訪れたあと、君はこそ
こそとこのラグーン而の秘密が知られていな
--’――-――

130
 「待って下さい。話があるの」イーダの声を
私は振り切った。私は杖の送信機をつかい、
センタヽ‐・’からヘリコプターを呼びよせた。
 「誤解しているのよ・ルいヤ帰って来てI
 私は杖をジェット噴射して、上空へ昇ろう
としていたが。私には衝撃だった。彼女は私
のかなを叫んでいる。誰もしらない本名を。
 杖につかまった私はメリダボの上空にあが
り、センターからのジェット=ヘリに乗り込
む事がで・さた。
 ヘリの中で私は泣いていた。なぜなのかわ
からな’い。しかし、涙は私のほほを濡らして
いた。私は自分自身に裏切られたような気が
していたのだ。
  ヘリはセンターに近づいた。

  上空から見て、そこは何の変哲もない(ゲ
山だった。ヘリは山肌にぶつかりそうに接近・
する。次の瞬間、山腹の一部が開き、ヘリを一
飲み込んだ。                ]
 長い空間を徐々に降下していく。急に目の
前が開けてきた。私が大事に育てている日畑
が全面に拡がっている。ここが私のセンター
だった。私一人の。
 地下何10㎞の所に、センターは造り上げら
れている。この地下の大空洞は私が発見した
もので、侵略者には知られていない。
 このはげ山近辺の地域の天候を私はコント
ロールし。何人たりとも近づき得ない天険状
況を作りあげていた。特殊な雲海を発生させ、
上空からの発見も不可能にしている。
 私のヘリは畑の中央部にあるタワーの側の
往機場へ着陸する。タワーから見てもこの空
洞を全部見渡す事は不可能である。ロボ″卜
作業員が収穫に余念がないようだった。ロボ
ットの作業は、総て。タワーのコントロール
‥Hコンピューターが行なっていた。
 空、つまり空洞の天井の下には、多数の人
工太陽球が、光り暉いて、浮かんでいた。
 タワーの基部、地下駐車場には、各都而へ
130

山だった。ヘリは山肌にぶつかりそう。に接近一
する。次の瞬間、山腹の一部が開き、ヘリを一
飲み込んだ。               ]
一131
食糧を領布するための食糧運舞車が並べられI

ていた。                    一
 私はヘリから降り、タワーの最上階にあが・

つた。
 私は中央指令室のコンソールの前に座り、一
肉眼で見えない部分の農場のVTR画像をチー
エックした。異状はなかった。支障はおきて一
いない。                  
  センター。

いわば、ここは私の王国だったJ・
  ここの収穫物を使って、私は地上を支配し]
ている。いや支配しているつもりだった。し一
かし……                 一
                       一
 どこで歯車がかみあわなくなったというの‐‐‐

だろう。
 私の作りあげたクローン人間の子孫達は私
に戦いを挑もうとしているのだ。
 私は外部カメラのモニターのスイッチを入
れ、追跡者がいないか、念のためチエM;~S 43
行なう。大丈夫だ。誰も後をつけてはこなか
ったようだ。飛翔体は侵略者以外、持ってい


な’いはずなのだ。
ヽ次叱、私は、ジティロ‥デ。イザスターとして
滅ぼしたはずの都市をチェックする事にした。
 宇宙空間に飛ばしてある偵察衛星が映像を
送ってくる。
 黄金都市ラグーン。人影はもちろんない。
クルー市。跡形もない。……残りの都市群も
同じだ。死滅している。
 それではなぜ、あのメルダ市の建物の中に
死滅したはずの都市の市長がいたのだ。
 最後に、私はメルダ市を映しだそうとした。
が、画面は空白だった。何も映らない。なぜ
だ。私はメルダ市についてのデータがコソピ
ュ・Iターにインプットされていなかった事を
想い出し、私の記憶している距離、方向をイ
ンプットしてみた。
 偵察衛星はその部位に移動する。が相変ら
ず、何も映しだされない。砂漠だけだった。
計算違いをしたのかと思い、何度も計算しな
おしてみた。しかしデータは間違ってはいな
131
132
い。
 
 メルダ而はこの地球上には存在しないのだ。
 なぜだ。私は混乱していた。
 私の頭上で警告ブザーがなり始めた。何か
が私の王国に近づこうとしていろ。
 モニターに侵略者の円盤機群が映っている。
なぜ、彼らが。メルダ市の、いや都市連合は
どうやら侵略者と手をくんだらしい。
 私は宇宙の、メーザーガソを塔載している
戦闘衛星を総て集合させた。 。。
 上空から円盤機群を攻撃するためだ。
 無力だ。
 メーザーガンは侵略者の円盤機群には効果
がなかった。
 円盤機は山腹をぶち破り、私のセンターへ
侵入してきた。
 農場作業員のロポ″卜に戦闘体勢をとらせ
た。各部署に用意しておいた火器群が火を吹
く。彼らはしかし、数限りなく襲ってくる。
私の農場の穀物は燃え上っている。
 人工太陽球を円盤機にぶつける手段をとっ
た。最後の手段だ。
 大きな音がおこる。円盤機は消滅しただろ
う。が逆に。、白熱した人工太陽球のエネルギ
トは円盤機に吸いとられてしまった。
 一機の円盤機がタワーに接近してきた。光
が走る。同時にタワー全体のエネルギー回路
は死んだ‐0コンソールもモニターもコンピュ
ーターも作動しない。暗闇の中で私一人。
 誰かが私の司令室に入ってきた。
 イーダだった。彼女の体全身が光り輝いて
いる。
 私は、私に残された最後の武器、古代のガ
ソ、マグナム44を取り出し、発射した。
 マグナムから発射された弾丸は、彼女の体
をつらぬいたが、彼女を傷つける事はできな・
かった。
 彼女は美しかった。そして悲しげだった。
 「グリス=リックマン。まだ、あなたは理解
できないの」彼女は再び私の本名を呼んだ。
132

133
「君は、なぜ、俺の本名を知っているのだ」 一
「私をはあなたの事を何でも知ってい・るわ」 一
 「侵略者とくんだのか」
 私はまた怒りに目がくらみそうになった。
 「グリス、あなたは間違った考えを・している。
あれは侵略ではなかったのよ」
 「侵略ではなくて何だというのだ」
 「星間法廷の裁定なの。地球人類はまだ宇宙
にのりだすのには早すぎたのよ。大。人になり
きれない子供が宇宙のルールも何も知らずに
行妨したら、どうなると思う。宇宙のバーフン
スがくずれるわ。彼らは宇宙の平和を重んじ
たのよ。その判定により地球の破壊が決定さ
れたのよ。しかし人類が滅亡したわけで討な
かった。あなたがいたわ」
 「そうだ。俺だけが不思議に生き残ってしま
った。なぜだ」
 「あなたを箱船にして35げようと彼らが考え
たからよ」
 「箱船」
「そう、聖書に出てくるあのノアの箱船よ。
ヽだ、あなたは一人だけだっ、た。イブに。は私
fなるはずだった。けれど、私があなたの元
‘行く前に、あなたは自らの子で自分のクロ
ーン人間を作り、自分は。この大空洞内でコー
’『ドスリープにはいってしまったわ。彼らの
ふ惑がはずれたの』
 そうだ。確かに、私は数百年前、イーダに
二ったことがあるのだ。私が宇宙パイロ″卜
にった吸遠い違い昔の話だ。そう少しで恋
に陥りそうだった。しかし侵略が始まって、
それから……
 「どん々田-惑だ。侵略者の思い通りになる地
球人類か」
 「いえ、違うわ。今地球にいるあなたのクロ
ーン人間の子孫ではなく、いい精神、いい形
態を持つ’新しい人類を生みだすという事t」
 クローン人間、確かに彼らは失敗作なのだ、


 地球は燃えあがっていた。侵略者達の円盤
133

134
  咸で世界中の町という町、都市という都市は
 破壊されつくされていた。まるで大なたで根
 こ七ぎ打ち払われたように。
 「大侵略」の時、一人残った私、グリス9リ(
 ツクマソはこの星を守るため、地球。の再建を
 めざし、自らのクローン人間を作りあげた。
 そのクローン人間が何世紀か後、この地球上
 に満ちる事を願った。
   それから私自身は、この空洞の中で長い長
  い冷凍睡眠にはいった。
  再び、・私が目覚め、地上にあがった時、大
 地は確かに人間であふれていた。すべて私の^
) 息子、娘達だった。
   しかし、悲しいかな、彼らはあいも変らず
 闘争にあけくれていた。人間の精神は進化し
 ていなかったのだ。
   どこかの一村落、一都市でも、私の理想と。
 した人間が生まれていないかと私は地球をさ
 まよった。
   しかしいなかった。失敗作は、作者自身の
手で抹殺しなけれはならない。それが私の役
目だった。私はクローン人間の彼らを食糧で
支配しようとした。/センターの存在を彼らに
知らしめ、不用の都市を抹殺するため、シテ
ィ=ディザスターという役目を自らで果そう
とした。      ’
 「もう、あきらめるのよ、グリス、あなたの
やり方をね」
 イーダの顔は私のコピーではなく、大昔の
彼女の顔に変貌した。彼女の本名はクラグだ
っだ。彼女は、はっきりとした口調で言った。
 「あなたの努力は確かに大きかった。でも結
果は見ての通り」
 「しかし……」
 「いえ、あなたにもよくわかっているはずよ。
あなたの理想とす石人々の住む都市は決して
存在しないと」
 イ’・‐ダ、いやクララは決心したように言っ
た。
 「クリ’ス、今まで、あなたにはだまっていた
134

135
のだけれど、ここは地球ではないの」
 「じゃ、どこの星だというんだ。-、ばかな」
 「どこの星でもないの。大きな研究室がある
と考えて。ここは想像を越えた巨大な実験空
間なのよ」   
 
 屏が聞こえてきた。あ。のメ。ルグ市の指導者
のβだった。      。
『クグラ・の話につけ加えよう。君をあのまま
にしておき、地球に君のクローン・人間をあの
まま繁殖させるのは危険だったのだよ。私達
は総て、この実験空間へとじこめておいたの
だ』
 私は悲しくなった。そしてやがて笑い出し
た。何んて屏だ。今までの数十年の努力、シ
ティ‥日ディザスターとしての努力が、実験室
のフーフスコの化学反応だったってわけか。私
は古い中国の話、ジ″力の手の中の孫悟空の
事を想い出していた。
 私は近くのコンソールにでも頭をぶちつけ
て死にたくなった0 

『落ちつきたまえ。君はまだ死ぬ運命にはな
い』
 指導者の声は静かに言った。私はある事に
気がついた○   ’『。 。  ‘
 「それじゃ、今、地球はどうなっているのだ」
一『見せてあげよう』
 巨大なスクリーンが空洞の空に拡がった。
そのスクリーンのよう。なものは。昔の、裁定
を受ける前の地球の姿だった。
 私は思わず、声’をあげてしまった。それは
驚さと喜びの入り混ったものだった。
 「今、この地球に住んでいる生物は」
『人間は。住んではいない』
 「というと」
『そうだ。君がこれから行くべきなのだ。新
しいアダムとしてね。。もちろんイブも連れて
いかねばならな・い』
 私はク。ラグの方を見た。
『グリス君、’くりかえしておく。我々は全宇
宙のバランスを重んじる。もし、又、君とイ
135

136
  Iダの子孫が前の時代と同じようなあやまち
  をくりかえしたとしたら……』
  私は指導者、いや侵略者の声を途中でさえ
  ぎって答えた。
  「そんな事を考えないで下さい。私とクーフフ
  の子孫なのですから」
   私は再び、新しき人類の祖先になろうと心
  に決めていた。私は胸のシルバー=スターを
  もぎとり、ほおりなげた。それはスクリーン
  に吸いこまれ、侵略者によって破壊されてし
  まった月となった。月の復活である。
   私はグラフに近づき、だき寄せ、二人はい
) つのまにか、地球という名のエデンの園に立
  っていた。
   私は70才の老人ではなく、20才の男となり
クラーフは少女ではなく18才の娘となって゛いる。
彼ら、超生命体にとってこんな事は造作もな
い事だろう。
 私達は、新しい運命を切り開くために、地
球の大地を踏み出していた。

   エピローグ

『実験は一応、成功といえるだろう』生命体
―がいった。
「まだまだ、わからんぞ。ひき続き観察は必
要だろう」生命体3が続けて言った。他の超
生命体も同意を示す。
『失敗すれば、またやりなおせばいいのだ』
 生命体1は独りごちた。


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