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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

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★神よ、その腕もて闇を払いたまえ2(編集中)
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神よ、その腕もて闇を払いたまえ2

山 田 博 一
4`一年 10月 20日
 ダスーソーy侵入 第一日目

 クロス・クライストは目ざめた。まだクロス・クライストであることに間違いないようだった。
 突然の寒気に襲われ。家の入口で倒れていたはずだったが、今は
ベッドの上に横たわっている。高熱のあとの冷たい汗が流れている。
 視覚にも異常はないようだった。まず最初に自分自身の全身を見
たいという欲望がおこった。
 マーカス大佐と共に、細菌研究所内で見た異形のものを思い出し
ていた。あれは人間でありながら人間の態を成してはいなかった。
自分もそう。なっているかと思うとそっとした。
 部屋の中で鏡を探してみる。
 自分自身の顔をみたかった。自分自身はどんなに変化しているの
だろう。できる限り、驚きはがまんするつもりだった。いずれにし
ても後戻りはできない。
 総てはカレン=コーヘン、わが娘のためなのだ。
 意識がまだ自分自身のものであるという一点だけでも。もうけも
のと思わなければなるまい。
 がクロス・クライストの頭の中にも・う一つうりすらとしたものがあるような気が
する。心の奥底に感じるのだ。
 第一期症状があらわれたため、近くへ飛び込んだ、はずみの家だ
ったが、ゆっくり見渡すと、かなりの邸宅らしい。
 鏡はやっとのことで見つかった。ワードローブの部屋のようであ
った。
 ‘目みた。信じられない。目をつぶった。そしてゆっくり目を開
いて見る。やはり元の人間の体ではなくなっていた。
 まるでキメラだ。つなぎあわせの怪獣だった。機械と人間の合成・
体だった。
 瞬間、スーフィドしたように、別の意識がクロス・クライストの頭の中にはいって
きた。
『君はだれだ』
『私はあなたですよ』その意識は答えた。
『以前何物だったのだ』
『執事用ロボ″卜PoP205です』
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「それがなぜ私の意識の中にいるんだ」
「これは心外です。私の体はあなたの体でもあるのですよ。今では
 意識・は思考の流れとなりクロス・クライストの頭にしみこんでいく。
「私はあなたと合体してしまったのです。私の意志ではもちろんあ
りません。この家の御主人や御家族が亡くなって、命令する人もな
くこの家を守っていたのです。そして昨日、あなたがこの邸へ突然
入ってきて、玄関の所で倒れたのです。大変な熱でした。私はロボ
ットですから、当然、人間を助けるようにプログラミングされてい
ます。それゆえ、あなたをベッドにお運びしたのはこの私なのです。
私の方こそ、驚いているのです。あなたの体の体温がどんどん熱く
なり、急に発光したかと思うと、突然私の体があなたの体の方へと
わけのわからない力でひっぱられたのです。私は瞬間、気絶してい
たのです。意識がとぎれてしまったのです」
『それで、気がついてみれば、俺と合体していたわけか』『そうで
すJ
 クロス・クライストの肩からもう一対のロポツー’・の腕がにょっきりはえている。
顔は上半分はクロス・クライストの顔なのだが、下半分はロボットの顔だ。胸のあ
ちこちから計器類がのぞいている。足は鋼鉄製になっていた。心臓
はどうやらクロス・クライストのものらしい。
「くそっ、これからずっと相棒ってわけか」
「そういう事です。理論的にいってそうなるより他に方法はないで
しょう。この合体した体が分離する事ができるまでは。しかし考え
てごらんなさい。あなたも幸福な方ですよ。私みたいな有能なもの
と合体できて。近くの家などでは、ある方が金庫と冷蔵庫と同時に
合体融和されて動けなくなり、自然体の方が栄養がいきわたらず、
餓死されたのです」
『しかし、これじ夕見世物だぜ』
「クロス・クライスト、考えがあやまっています。この地域デスーソーyではこれ
があたり前なのですよJ
 クロス・クライストはマーカヌ大佐の言葉を想い出していた。
「デス=ソーンはまるで死の地帯のように思われているが、そうで
はない。一つの新しい世界なのだ。地球に異なる二つの世界が存在
していると考えてもらっていい』
 「異世界か」クロス・クライストは独りごちた。
「さあクロス・クライスト、急がなくてはいけませんよ。日数は限られているので
すから」
「何だって」
『あなたの娘さん、カレンUUコーヘンを助けださねばならないので
しょう』
「なぜ、それを知っているのだ」
「クロス・クライスト私はあな大の一部、あなたも私の一部なのですよ。あなたの
情報は全部、私は読みとりました。おいおい私の全情報もあなたの
意識に送り込みましょう。私の情報量は、すばらしいものですよ。
驚かれるはずです』
 トレーラーはまだ放ったらかしになっていた。誰もさわった形跡
はない。
 トレーラーにやっとのことで乗り込むクロス・クライストをながめている四つの
眼があった。
 「どうやら、あっちの世界からやってきた奴のようだな」
 「おかしい。あっちの世界から人間がはいってくるとは考えられん」
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「しかし’、あのトレーラーは一昼夜放り離しだったそ」
「よし、目的はわからんが。後をつけてみよう。かなりのガソリy
を積んでいるようだな」
 「そうだ。お前はチーフに・知らせ、指示をあおげ」
 「わかった」
 彼はそこから音を立てて走り去った。彼には足がなかった。体の
下は車輪だった。人馬のように、体の下がオートバイの車輪部とエ
ンジyで構成されていた。彼らはデスnlソーyで「ソク」と呼ばれ
ていた。
「POP`一、RM計画施設の位置がわかるかね」
「あなたのデータと合わせて判断してみると、恐らくラインシュタ
イン城の近くの地下だと思われます』
「ライyジュタイy城だと。ここはアメリカだぞ。なぜ、城なそが
あるんだ」
「あるドイツから移民して一代で財を成した男が、ドイツ国内で城
を買いとり。それをこの地に移転したのです。自分の富の象徴とし
てね」
『わかった。その方向を指示してくれ』
 トレーーフーは東南へ向い始める。ソクの一人が、そのあとわずか
に遅れて後をつけていた。
 地下数百m下、RM計画施設。物音一つしない。生命体の反応は
ないように思われる。死体がいくっか腐敗している。
 機械類は正常に作動していた。本部との有線連絡装置はまだつぶ

れてはいないが、それを作動する’。ぺき生命体が存在しないのだ。
 最下層のフロアで静かに機械が作勤し始める音がした。オッシロ
スコープが動き始めている。脳波測定器も作動を始めていた。冬眠
装置が数十器セッティングされていた。その内の一つが作動し始め
ているの・だ。生命維持装置が徐々に動き始める。体を被っていたド
ームが上へはね上がる。人間が起きあがる。金髪の美しい女だ。
 リチャード=コーヘンがクロス・クライストに見せた写真と同じ女性だ。そうカ
レy9コーヘyだった。
 カレンはアメリカB地区へ阻星が落下する直前、冬眠装置にはい
 っていたのだ。一年半の間、眠っていたのだ。
 彼女はRM計画の研究員であったが、研究材料でもあった。その
特殊な事情は彼女も知らなかった。
 カレンは他の冬眠装置をのぞいてみた。中にいる人々は冬眠では
なく、本当の眠りについていた。なぜ彼女だけが生きているのか。
 彼女は、あの、時折襲ってくる不思践な感覚が体にやってくるの
{を感じた。
} 彼女の感覚は折折、時間を遡るのだ。その瞬間彼女は不思議な事
 に008年、火星マリナ9シティ郊外にもどっていた。彼女の祖父であ
一るコーヘyがっかわした追跡部隊の記憶。母が胸に受けた、重反動
一砲の挑出薬莱の痛み、それを彼女は今の出来事のように知覚できる
一のだ。そして彼女をだ・きあげたクーガルの手。確かに彼クーガルは
一なぜか泣いていたのだった。
  彼女は目をつぶり、思わず頭をふるった。
  現実にひきもどされる。上のフロアへあがる。かつて人間であっ
{たものの残滓が散らばっていた。彼女をくといていた(Iバート出
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のエリート研究員、ロジャーもその中に混じり、ほとんど白骨化し
ていた。
 彼女は通信室へはいった。本部へ連絡をとろうとした。しかし連
絡はとれなかった。誰でも簡単に連絡はとれないのだ。秘密のコー
ドーナンパーがあるらしい。
 彼女が眠りをむさぼっていた間、何がおこったのだろう。まず現
状の把握が必要と思われた。
 彼女は研究室のコyソールにすわり、本部のコンピューターパン
クからその答えを得ようとする。幸い、この回路はすぐ通じた。
 「現在の状況を簡単に述べよ」キーを打つ。
『B地区はデロスに汚染され隔離されている』
 「その理由は」
「阻星落下によって発生したと思われる疾病デロスによって地球は
壊滅的状況にある」
 「デロスとは」
「空気感染経路による疾病。病菌は現地点では発見されておらず。
感染者の生存率叩%ヽそのうちゼ‐‐一ス星惑で生活した経験のある者
の生存率88%。汚染数時間後発熱。ほとんどの者がこの数時間中に
死亡。また生存できえたものにも生物的特徴に変化があらわれる』
 「生物的変化とは何か」
『その症状によって一定せず。標本データ不足』
 「RM計画施設の現在状況」
「地上出入口。は完全にブロックされている。阻星落下時より連絡は
不通となっている。自動連絡操置のみ作動」
 「B地区からの脱出方法」
「データ不足。可能性は非常に少ないと思われる。さらに五日以内
にインド洋上の潜水戦隊から核弾頭ミサイルが発射される予定」
 カレyはディスプレイに見入っている。
 マーカス大佐はりIマス空軍基地の自分の部屋に戻ってきていた。
電話がなる。
 「マーカスだ」
 「大佐。私です」部下の声が響いた。
 「わかった。少し待て」大佐はスクランブラー回路のスイッチを入
れた。これで盗聴される可能性はない。
 「デスーソーンの情報が今はいってきたのです」
 「何だって」
 「大佐、RM計画施設略奪のため特殊コマンド部隊が二度送りこま
れたのを御存知でしょう」
 「もちろん知っている。二度目はデリー・コーヘyが隊長だった」
 「どうやら部隊隊員の一部が生きているらしいのです」
 「正常なままか」
 「いや、どうやらそうではないようです。狂っているようです。我
我連邦議会に対して「我々は神の軍隊だ」と名のっているそうです。
この汚れた世界を浄化するために全世界につかわされた者であると
言っているそうです」
 「その連絡はどんな経路で」
 「監視塔の一つに届けられたそうです。それも鳩によってね」
 「わかった詳しいデータがはいりしだい又、連絡してくれ」
 マーカスは電話を一度切り、机の引き出しから別の電話をとり出
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した。相手はすぐ。に出た。
 「リヂャードー、大変な事になった」
 電話の相手は病院に収容されているリヂャードーコーヘyだ。こ
れは特別回線電話だった。
 「神の軍隊の事か。私も今、耳にしたところだ。デリーも生きてい
るかもしれんな」
 「喜んでばかりおれんぞ。これでヽヽヽザイル発射が早まらなければい
いが」
 「わからんな。何せ私の現況はこの通りだ。それで、どうだクロス・クライストは
どこまですすんでいる」
 「ラインシュタイン城へ向かいトレーラーは動き始めているようだ」
 「あと四日だぞ。まにあうかな、マーカス」
 「祈れ、ジチ々1ド、今はそれしかない」
 「私が神を信じない男だという事を君も知っているだろう。私が信
ずるのは君だけだよ。コーヘyoクロス・クライストの手に負えない仕事かもしれ
ん。心配になってきた」
 「どうやら、君は言外に、私もデスーソーyへ行けと言っているよ
うだな」
 「そうだ」
 「考えておこう」冷たく言った。
 マーカス大佐は電話を切った。
 病室ではリチャード0コーヘンが本当に祈っていた。
「マーカス、頼む」顔の前に手を合わしていた。
 病室の外にいるはずのガード達が姿を消していた。不穏な動きが、
コーヘンの身辺にも表われている。

続く


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