飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

2017/08/14(月)15:14

宇宙から還りし王(山稜王改題)■第1回

宇宙(そら)から還りし王(山陵王・改題)(33)

宇宙から還りし王(山稜王改題)■第1回 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://ncode.syosetu.com/n1598de/ 山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 第1回 「リーファー君、お客さまらしい。丁寧な迎えを」 「それではまた私の山番というわけですね、山陵王」 リーファーは、翼をぱたぱたさせながら言った。 「それに、今度は君の知っている男だと思うよ」  山陵王のさし山す水晶球には、ある男の姿が映ってい  「ケイン!」リーファーは叫ぶ。  「そう、君の友、ケイン君だ。処理は君にまかせるよ」  「わかりました」   リーファーはやや青い顔をして、飛び立っていった。  「大丈夫ですか。あやつとケインは友達のはずです。  「いや彼にまかせておきたまえ。アゴルフォス」   山陵王はそう言い、アゴルフォスは3対の眼をきょろきょろさせて、うなづいた。 ■ ケインはゼルシア国のエアポートヘ辿り着いていた。 ゼルシア、山陵王が往んでいる国にしては、小っぽけな国、ケインは思った。 ケインは飛行機から外へ出る。 熱帯独特のねばついた風が、ケインの体を包んでいた。 空港ビルまでのバスは昔風のタイプで、ここゼルシアでしか、 もう見られないだろう。  熱気にあてられた乗客の顔がものうげに見える。ここゼルシアは 21世紀から、とり残されたような国なのだ。  空港ビルの窓から見ると、ケインの行くべき「ラシュモア山」が蜃気 楼で揺いでいた。ケインは空港ロビーの大きな窓に手をあてて、 初めて見るゼルシアの風景をぼんやりと、しばらくながめていた。  「ゼルシアヘは、登山ですか」ケインの荷物を見て、飛行機でニュー アークから隣の座席に座っていた男が言った。  「ええ、まあそのようなものですが」  ケインはニューアークでの話し合いにひきもどされる。 ケインの前任者は精神を破壊され、ゼルシアから環されてきた。 その精神からはイメージコーダーは何も読みとることはできなかった。  『一体、山陵王は何者なんだ。彼らに何をしたんだ』 ケインは反問していた。  彼の名前はネイサン。地球人で初めて「タンホイザーゲイト」から帰って来た男。そして今は、山陵王と呼ばれる男。  彼は,このゼルシアにある地球自然保護区に往み、ラシュモア山を支配している。宇宙飛行士にして、世捨て人なのだ。  彼が行って帰った、タンホイザーゲイトはこの宇宙の淵といわれ、新宇宙への門であり、ここからは別の世界が始まるといわれていた。  30年前、恒星星間船アンバサダー号は送り込まれ、そのアンバサダー号は最近帰還してきた。が乗組員で生き残っていたのはネイサンだけだった。  ネイサンは宇宙省の徹底的な心理分析を受けた。 ネイサンの心は空白だった。地球を出発して以降、30年間の記憶はまったく残っていなかった。  ネイサンは宇宙省のリハビリテーションセンターから、姿を隠した。というよりも逃走したのである。  その後、宇宙省の執拗な捜索にもかかわらず、彼の行途は洋として知れなかった。  やがて、彼の存在があきらかになったのは、ある雑誌に発表された小説からだった。  ネイサンの小説は、いわば、言語によるドラッグだった。 その作品を読んだものは、ネイサンの言語による想像力の爆発に酔いしれた。  彼ネイサンの作品は、「21世紀のバイブル」と呼ばれる存在まで評判を高めた。  各テレビ局、出版社、映画会社などは、彼の居場所を知ろうとしてやっきになった。  が、彼の出版エージェントは仲々、口を割ろうとはしなかった。  彼の居場所がわかったのは、宇宙省のエージェントによって、その出版エージェントである、ネフターが圧力を受けたからだと言われている。  彼は今、世界の残された卑怯でもある「ゼルシア」国にあるラシュモア山に住んでいた。  ラシュモア山はこの地球で残された唯一のエルドラド、この21世紀の地球から、また時間の流れから切りはなされた別世界だった。  過去、ラシュモア山には多くの「世捨て人」が流れ込み住んでいた。 またラシュモア山城には宇宙産のドラッグ、「ドラガ」が栽培されていたのだ。 (続く)2014改定 1988年作品 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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