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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

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源義経黄金伝説2010版(短縮版)

2018.05.13
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 義経黄金伝説■第13回★

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

Manga Agency山田企画事務所

★漫画通信教育「マンガ家になる塾」

★you tube「マンガ家になる塾」

 桟敷の中央にいる源頼朝が、急に立ち上がった。

「あの白拍子めが。この期に及んで、ましてやわが鎌倉が舞台で、この頼朝が面前で、義経への恋歌を歌うとは、どういう心根だ。この頼朝を嘲笑しているとしか思われぬ」

 頼朝は毒づいた。それは一つには、政子に対するある種の照れを含んでいる。

「よいではございませぬか。あの静の腹のありようお気付きにありませぬか」

 政子はとりなそうとした。薄笑いが浮かんでいることに、頼朝は気付かぬ。

「なに、まさか義経が子を…」

「さようでございます。あの舞いは恋歌ではなく、大殿さまに、我が子を守ってほしいというなぞかけでございます」

「政子、おまえはなぜそれを……」

 疑惑が、頼朝の心の中にじっくりと広がって行く。

今、このおりに頼朝に、自分の腹の内を探らせめる訳にはいかぬ。

あのたくらみが、私の命綱なのだから。政子は俯きながら黙っている。

「……」

「まあよい。広元をここへ」

 頼朝の部下、門注所別当・大江広元が頼朝のもとにやってくる。

「よいか、広元。静をお前の観察下に置け。和子が生まれ、もし男の子なら

殺めよ」

[では、大殿。もし、女の子ならば、生かして置いてよろしゅうございますな」

「……それは、お前に任せる」

 広元はちらりと政子の方を見ていた。

 頼朝は広元と政子の、静をかばう態度に不審なものを感じている

 政子は静を一眼見たときから、気に入っていた。その美貌からではなく、義経という愛人のために頑として情報を、源氏に渡さなかった。

その見事さは、一層、政子を静を好ましく感じた。

また、京の政争の中に送り込まれるべく、その許婚を殺されたばかりの、政子と頼朝の子供、大姫をも味方に取り込んでいた。

義経の行方を探索する人間は、何とか手掛かりを取ろうと静の尋問を続けた。

が、それは徒労に終わった。

尋問した武者たちも、顔には出さなかったが、この若い白拍子静の勇気を心の中では褒めたたえていた。

 観客の中で、静の動静を悩む者が、もう一人。

静の母親 磯禅師いそのぜんしが、固唾を呑んでその舞いを見ていた。

裏切られた。そういう思いが心に広がっている。愛娘と思っていたが、

「あの静は、この母、禅師が苦労を無にするつもりか……」

やはり、血の繋がりが深いものは…。

この動乱の時期に女として生き残って来た者の思いが、

頭の内を目まぐるしく動かしている。

その思いは、しばらくの前のことに繋がる。

静の母禅師は、政子の方を見やった。

続く2010改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.06.03 16:59:57
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2018.05.12
源義経黄金伝説■第12回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

大江広元おおえひろもとは、これから奥州平泉を攻めようとする頼朝にとっては勝利を確約する、いわば勝利の女神であった。

なぜなら、大江広元の曾祖父は、奥州攻略を成功させた八幡太郎はちまんたろうの知恵袋だった。

占いの専門職。

占いはこの時期の総合科学である。

しかし、今、その広元は恐怖を感じて、青ざめていた。

このままでは、会場の武士を味方にしてしまう。

大殿はいかに、頼朝をかいま見る。

政治顧問である,荒法師の異名をとる文覚もんがくでさえ、静の舞に内心は心動かされていた。

文覚は若い頃、北面の武士の折、色恋沙汰で殺傷事件を起こしている。感情の高ぶりをおさられないのである。この感情の濃さが、いい具合に発露すると、それが、寺社の勧進かんじんとなった。

また、頼朝に対する挙兵を教示し、いわば、頼朝の教師である。

頼朝とは幼き頃、朝廷で顔を見知り置いている。

その後、文覚は数々の荒行をこなし今は、江ノ島で、藤原秀郷の呪殺を、頼朝から依頼され、とり込んでいる。

先年、後白河法皇から許可を受け、京都から、頼朝の父、義朝の骨を発見し、クビからぶら下げ、東海道を下るという鎌倉幕府成立の知らしめる行いしながら帰ってきたばかりである。

この寺は、勝長寿院・大御堂という。

骨の髄から、頼朝は、平泉を恐れている。

16万の軍旗が、義経という天才に率いられて鎌倉を背後から、また海から襲ってくる事。おそらく、この日本で、義経は最高の軍事指揮官であろう。

それは頼朝も、いらなぶ、坂東武者もわかっている。

傍らに控える大江広元も、文覚も理解しているだろう。

この勝利はまさに義経のおかげである。

そのため、そのおもいものである静かが、ここで、頼朝に対して恭順のいを著わすべきであった。が政子が、、意図と違う事を、わずかながら、意思の疎通がうまくいかぬ。

また、最大の交渉者、西行さいぎょう法師が、この鎌倉を目指していると文覚から、聞いている。

西行は、京都王朝で、始めて伊勢神宮と、東大寺の手を握らせた男。

後白河法王の意図で動く男。

文覚とは、北面の武士の折の同輩。

そして義経とも、平泉とも、近しい。

この坂東でも、西行の本家、佐藤家の威光は輝いている。東北の伝説の勇者、平将門たいらのまさかどを強弓で射抜いた、俵の藤太の子孫。それが西行。加えて、当代一の詩人・この文学的功名は、京都貴族の中においても光り輝いている。

いわば京王朝の切札。

また、平泉にとっても最強の交渉の1枚。

まして、民衆の指示を受けつつある東大寺再建指導者、重源ちょうげんの友人。

そして、その後ろには結縁衆けちえんしゅう

恐らくは東大寺を始めとする京宗教集団の力も。

意図は何か。西行は1万の武装集団よりも怖い。

頼朝はそう思った。

源氏は鉱山経営と関連が深い。

祖先・源満仲は、攝津多田の庄(現・兵庫県川西市)の鉱山経営の利益を得ている。能勢・川辺・豊島三郡における鉱脈を支配し、最盛期2000を越える抗を穿っていた。

鉱山の警備隊として武士団を養い、鉱山経営のうまみを知った源氏は、その後、京都大江山鉱山の利権も手にした。その利権を手に京にいき貴族を籠絡する。いわば鉱山貴族である。

いわゆる大江山鬼退治の伝説である。

源氏は一族の血の記憶として,鉱山経営のうまみをしっている。

そして、今、目指すは奥州金山である。

源氏の護り神、八幡神は、産銅・産鉄神である。

最終目標は奥州。また、そのためにもこの東国の独立運動はまもらねばならぬ。

東国王朝は、源氏の悲願である。奥州平泉王朝を打ち倒す事もまた源氏の悲願。

それぞれの思いの中、やっと頼朝は、言葉を発した。

続く2010改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.06.03 16:58:52
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2018.05.11
源義経黄金伝説■第11回(第10回欠番)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

あの女、手に入れたい。頼朝は思った。たとえ、義経の思いものであったとしても…。 

文治二年(1186)四月八日。 鎌倉八幡宮の境内。

目の前には、京一番の舞い手義経が愛妾が舞をまっている。

義経の女の趣味は良い。誉めてやりたいぐらいだった。

頼朝は今でも心のうちは、京都人である。京都の女が好きなのであった。

この田舎臭い鎌倉近辺の女どもには、あきあきしている。

が、そのあたりには、異常に感の鋭い政子のために、今までにも、散々な目にあっている。いままた、頼朝はちらりと…、横目で政子の方を向く。

視線がばったりあう。

いかぬ。

政子はその頼朝の心を見抜いているかのようだった。

が、政子は、そんな頼朝の思いを知らぬげに、静の舞に見ほれている。

よかった。感づかれなかったかと、頼朝は安心した。

 政子の思いは別のところにあったのである。

北条家・平政子は、この板東を統べる漢の妻になれたという自負もあり、肌色もよろしく、つやつやしている。新しい坂東独立国が、京都の貴族にもかなわぬ国が、我が夫、頼朝の手でなったのである。

 義経のことは、気にならなかった。

静という、コマを手に入れているのだから。それに静の体には。

「ふふう」と、思わず政子は笑った。

 大殿もそのことはご存じあるまい。せいぜい、京都から来た白拍子風情に、うつつを抜かされるがよい。

私ども、関東武士。平家の北条家が、この日本を支配する手筈ですからね。

あなた、大殿ではない。

誇りが、政子の体と心を、一回り大きく見せている。

頼朝はある種の恐れを、我が妻である政子に感じている。やがて,後に政子は、日本で始めて、女性として京都王朝と戦いの火蓋を切るのだが、その胆力は、かいま見えているのだ。

 この政子と頼朝に共通している悩みと言えば、それは…愛娘大姫のことであった。

舞台の上の静の元気さ、華麗さを見るたびに、比較して打ちし抱かれたようになっている大姫の心の内を思い悩む二人であった。

 その問題は二人の、この鎌倉幕府成立の内にたなびく暗雲である。

 大姫はうつむきかげんに静の舞いを見ている。

舞台を見て嗚咽が会場のあちこちに広がっている。

見事である。

それが、武士達にとっての正直な感想であろう。

いわば敵に囲まれながら、どうどうと義経への恋歌を歌うとは、

歌姫・白拍子・女の戦士としては、

静は、十分に この戦場 敵地鎌倉で勝利をおさめようとしていた。

続く2016改訂







最終更新日  2018.05.27 18:44:57
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2018.05.09
源義経黄金伝説■第9回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

 平泉に、東西の軍書を読んでいる牛若はいた。

 その顔は真っ黒にやけ、元気そうに見える。

基本的体力は、鞍馬山にて鍛えられ、この奥州の地でその体力がぐんぐんと伸びていた。また馬も、この地の馬にすぐ慣れ、新しい馬術を学んでいる。

「牛若殿、ご勉強、精が出ますな」

 奥州平泉の帝王、秀衡であった。

「これは秀衡様」

 牛若は姿勢を正し、挨拶をした。

「いやいや、そう堅苦しくせずともよい。よろしいですか、牛若様。我が郎党

ども、感嘆の声をあげておりますのじゃ」

 にこやかに秀衡は言う。本当にうれしそうなのだ。

「いや、一体」

 牛若には、この秀衡が、なぜ機嫌がいいのか、わからぬのだ。

「腕がよい。教えがいがあると、申しますのじゃ。教える者は、京の軟弱な子

供かと考えていたようでございますよ。はは」

「これはしたり。こう見えても私は、源氏の氏長者の息子でございます。そう

はずかしい仕業を見せる訳には行かぬのです」

 若い牛若は、本気で怒っているのである。彼には、大きなプライドがある。

たとえ、母親が白拍子であろうと、父親は歴とした源義朝。由緒正しいのであ

る。

逆に言えば、牛若の売り所はそれしかないのである。その一点に牛若は

かけていた。

「それで、元気のよい牛若様。一つ留学をなさって見る気になりませぬか」

「留学ですと。私は僧になるつもりはありませぬぞ」

意外な 言葉に、牛若は怪訝な顔をする。

「いや、別に僧になり、仏教を勉強していただこうという訳ではありません。

我が平泉には僧は足りておりまする」

「では、何のために」

一瞬、秀衡は牛若の顔をのぞき込んでいる。

「武術でございます」

ゆっくりと秀衡は告げた。

「武術ですと。、、」牛若も詰まった。

「それは面白い。中国の武術、実際に見て見たかった」

「いや、牛若殿。中国、宋へ渡る訳ではないのです」

「我々、平泉王国は、近くは蝦夷、遠くは黒竜江まで、貿易をしておること

はご存じでしょう」

「まさか、その黒竜江を越えて」

「さようです。丁度便船を、津軽十三湊とさみなとから出す予定がある

のです。従者を付けましょう」

十三湊は奥州平泉の支配下にあり、外国との貿易でにぎわっていた。

「従者、それは」

「吉次です」

「吉次。あの者が、なぜ」

「吉次は、京都、平泉第にいた隠密の一人ですが、もともとあの男は播州

(ばんしゅう・兵庫県姫路のあたり)の鋳物師の息子。冶金については、

一通りの技術を持っているのでございます。吉次には、かの地の新しい技

術を持ってこよと」

 牛若は、少しばかり考えにひたっている。

 この機会、かなり面白いかもしれぬ。

牛若は本で読み、体得した技を使って見たくて仕方がなかった。秀衡の部下相手の模擬戦には、少しばかり飽いて来ていたのだ。実戦を経験したかったのである。

「宋を北方から狙っている、女真族の一団があります。すでにこちらの手

配は済んでおります。後は牛若様の決断次第。よろしいですか。私はあな

たを実の息子のように、いや息子以上に思っております。これは何も西行

殿に頼まれた訳ではない」

「わかりました。外国へ行かせていただきます」

「おお、さすがは牛若様じゃ」

■■7

一一七八年 中国沿海州・女真族の国に義経はいる。

「日本のこわっぱ、このようなことができるか」

義経の前を一陣の風がまった。

いや、風でなかった、人馬一体となった戦士が、的を次々に射抜ているの

だ。神業であった。歓迎の印として女真族の若者が見事な射術を見せてい

るのだ。

 平泉をでて2ヶ月の時間を経て、牛若は中国、女真族の国にたどり着い

ている。

彼らは裸馬に乗り、あぶみ、両手を離し、後ろ向きに弓矢を打つのである。

おまけに、その矢は、すべて中心に打ち込んでいる。

日本の流鏑馬の巧者でもあそこまでは打てまい。義経は感心している。

また、自分を送り出した秀衡の頭のさえにも。秀衡は牛若をこの地に派遣

し武術を学ばせ、牛若を平泉の武将とし西国王朝の備えにしょうとしてい

るのだ。

「弁慶、どうじゃ、あの若者は」

 義経は傍らにいる弁慶に尋ねた。弁慶は付き従ってきた。元々弁慶は

紀州熊野水軍の流れをひく。この国の水軍の武術に興味があるのだ。

「恐るべき術にございます。日本の武者では、あのような真似はできま

すまい。若、やはり世界はひろうございます。我々の預かり知らぬ

術を持つ人間が多うこざいます」

先年まで、京都の鞍馬という山にいて、自分の存在の不遇を嘆いたおと

こが蛮地、奥州平泉にあり、そこから先、日本の毛外のち、にいるのだ、

新しい運命!、それをあの僧形の男が与えてくれたのだ。

あの男は何故に。牛若の心に疑問が浮かんだ。

 この女真族の国で、牛若は戦術を学んだ。それが財産となる。

続く2014改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.05.27 18:43:59
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2018.05.08

源義経黄金伝説■第8回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

Manga Agency山田企画事務所

弁慶は鬼一から 牛若の氏素性を話され、守り役に徹すると決めた。

牛若がいう。

「弁慶、私の味方になりたいのかどうだ?返答はいかがか」

「いや、それはもう、、」

悪僧、弁慶の答えは微妙である。

「先刻の五条の橋で暴言をはかなったか。いや、で、ものは相談。お主が味

方かどうか、こころたい。私のゆうことを聞いてくれるかな」

「それは、もう」

「弁慶、俺は奥州へ行くにあたって、鞍馬から土産を持って行きたいのよ」

「若、一体、何を。いたずらはもう、いい加減になされませ」

 弁慶は牛若を若と読んでいる、この男なりの諧謔である。

「いたずらではない。俺が源氏の生まれで在る事を証明したいのだ。私はな、鞍馬に伝わる太刀を持って行こうと思うのだ。そうすれば、あの奥州

の者共、俺の力にびっくりするぞ。いや、敬服する!」

牛若はもう心を決めている。

あの埒外の地にいき、自分の存在を示す、いわば旗をあげるには それに限るのだ。

「まさか、若様。あれを…」

 弁慶は冷や汗を流している。

「そうなのだ。私が欲しいのは鞍馬宝物の坂上田村磨呂の太刀なのだ」

 坂上田村磨呂、最初の征夷大将軍である。

東北人との争いで、始めて大和朝廷の力に屈せしめた大将軍である。

その太刀が、この鞍馬の秘刀として、鞍馬に保存されているのである。

しばらくして鞍馬山の火祭りの夜のことである。

「誰か、火が。火が宝殿から出ておるぞ」

 凄まじい叫び声が、鞍馬山から木霊している。漆黒の闇の中、炎が宝殿をなめ尽くそうとしていた。

「早く、早く、中の仏典、宝物を、、、」

僧坊の僧たちがてんでに、宝物を持ち、宝殿から助け出そうとしている。そ

の中に無論、牛若と弁慶も混じっている。

「若、これは、、泥棒ではないか」

「いや、何、火を持ってする戦法だ」

牛若の顔が笑っているように弁慶には見える。

 疾風のように、二人は京都の奥州の大使館にあたる平泉第まで駆け抜け

ている。

その場所には猪首の巨漢が体を振るわして待っていた。

「さあて、吉次、準備は調うたぞ。出発いたそう」

牛若が鋸やかに言う。うやうやしく吉次は答える。

「わかり申した。ふふ、牛若さまの本当の旅立ちでございますな」

 金売り吉次はこのとき三十才。若い盛りであった。

 吉次は、奥州の金を京都の平家に届けている。

 清盛はその金を宋に輸出し、宋の銭を得ていた。

日本の貿易に 宋銭を利用し、お金というものの革命を起こそうとしている、

その一翼を吉次がになう。奥州と平家はこのように結び合って

いた。

続く2016改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.05.27 18:37:18
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2018.05.07

源義経黄金伝説■第7回★

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

言うが早いか、弁慶は、背中から引き抜いた薙刀を一閃していた。

普通の人間ならば、真っ二つである。

が、弁慶の薙刀には、手ごたえがない。

目の前にあるはずの、血まみれの体も残ってはいない。

「はて、面妖な」

「ふふっ、ここだ、ここだ」

 弁慶の後ろから声が聞こえて来る。

すばやく、背後を見返すと、橋げたのうえにふわりと牛若が乗っている。

まるで、重さがない鳥のように、それは乗っているのだ。

「貴様は、飛ぶ鳥か」

「ふふう、そうかも知れぬぞ」

不敵な笑みが、牛若の顔から漏れている。

「鞍馬山の鳥かもな」

 その声音は、完全に人を食っている。

牛若は、自分の力を他人に見せるのが、うれしく、楽しいのだ。

「お前は、平氏のまわし者か」毅然と、牛若が言う。

「何を言う。平氏など、物の数ではない」

そう答えるが早いか、弁慶は橋を蹴って、欄干のうえに薙刀を数振りする。

その刀の動きは、常人の目には捕らえられぬ。

とはいえ、明かりなどない夜中である。誰もそれには気付かぬ。

ただ、野犬が、恐るべき力の争いに驚き、鳴き声をあげている。

「どうした、弁慶。この私を捕まえることができぬか」

にやりと笑う牛若の顔に、弁慶は、憎しみを倍加させる。

 西行と鬼一法眼は橋の影からのぞいている。

「どうだ、遮那王様の動き」

「よかろう。あのように成長しておられるならば、奥州の秀衡殿の手元にお送りしても、十分役にたつだろう」。

「秀衡殿もお喜びであろう」二人笑い会う。

「西行殿、後はお任せるぞ」

「何をこしゃくな」

が、弁慶の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

「弁慶、止めるのじゃ」

突然異形の老人が、弁慶の前に姿を現し、争いを止めようとした。

強い、この男は、

弁慶はこの男を見て毛穴がひゅつと閉じるの感じた。

「なぜだ、鬼一殿。この若造を殺せというたは、お主ではないのか」

弁慶はこの老人にくってかかる。

「もうよいのだ。お主もこの若者の力がわかったであろう」

「そうであればこそ、なおさら許せぬ。俺の力を見せねば、気が済まぬ」

「そうだ、鬼一。止めてくださるな。この大男に負けたと言わせるまでは、

私も気が済まぬ」欄干の上にいる牛若が、答える。

「こやつ、いわしておけば」

背中より大槌を引き抜いて、弁慶は打ってかかる。

ズーンと大きな音が響き、バラバラと橋げたが川中に崩れ落ちる。

「おお、何をする。橋を壊すつもりか」

「橋が壊れるが早いか、お主が死ぬのが早いか」

 騒ぎを聞き付けた検非違使たちが六波羅の方から駆けつけてくる。

「いかぬ」

弁慶はそれにきを取られる。

「ぐぅ」

思わず弁慶が叫び、気を失う。牛若の高下駄が蹴りを弁慶の天頂に加えてい

た。「やれやれ」

鬼一は橋のしたに用意してあった小舟に弁慶の体を隠し、鴨川を下った。

「牛若殿、もう少しお手柔らかにお願いいたすぞ」

「戦いの舞台を移そう」

「こわっぱ、どこに逃げる。怖じけづいたか」

息を吹き返し、苦しい息の下から弁慶が叫ぶ。

「何を言う。お主がそう暴れるから、そら平家の郎党が現れたではないか」

平家の屋敷に点々と灯が灯り、その灯が五条の橋を目がけてくる。

かなりの人数のようだ。牛若が跳躍する。

「おのれ、何処へ」弁慶は上を眺め、叫んだ。

「頭の悪い坊主。この京都で晴れ舞台と言えばわかろうが…」

声は天から響いた。

「くっ、あそこか。わ、わかったぞ。約束を違えるなよ。半刻後じゃ、よい

な」遠方で見ていた、西行と鬼一法眼はお互いに顔を見合わせていた。

「いかん、あやつら、まさか…」

「そうじゃ、あの寺だな」

二人は疾風となり、東山を目指している。四人が目指すは、坂上田村麻呂公の寺、清水寺である。

牛若は、弁慶の前で、清水寺の舞台で、ひらりひらりと舞っている。

「ふっ、弁慶、どうだい。貴公もこの欄干の上で、京都の町を見てゆかぬ

か。よう見えるぞ。特に平家屋敷がな。おっと、貴公の体では、ちと無理かもな」

「くそっ、口のへらぬこわっぱだ。そのようなこと、俺にもできるわ」

「弁慶、止めておけ。お主の重さ、この清水寺の舞台を沈ませるぞ」

「牛若殿、もう止めておきなされ。このお方もお疲れなのだ。お主の武勇、充分

私も見せてもろうたぞ」

いつも間にかその場所に源空も現れている。

「争い事は、武士たちにお 任せなるのだ」

源空の頭の中には、子供のころの自らの家の惨劇が埋まっている。

 源空、後の世にいう法然は、この後、京都市中で僧坊を営み、後白河法皇、九条兼実らの知遇を得ることになる。

 後に鎌倉仏教と呼ばれることになる、新しい日本仏教は、この源平争乱という武者革命と時を同じくしつつ起こった「宗教改革」だったのである。この時の源空には、まだその片鱗は見えない。

続く2016改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.05.27 18:34:27
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2018.05.06

源義経黄金伝説■第6回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

 京都・鞍馬堂宇で鬼一法眼が、西行を待っていた。

「おお、ここだ、西行殿」

「おお鬼一法眼殿、息災であられるか」

「西行殿も、歌名ますます上がられる。うれしい限りだ。それにあの遮那

王、教えがいがある。よい弟子を送り込んでくれたものだ」

「牛若、いや遮那王はそれほどまでに」

「そうじゃ、仏法など、とんと興味がないわ。俺が教える武法のみ。さすがは

源氏の頭領、源義朝殿が和子だな」

「いや、やはり清盛殿の願いどおりにはならぬか」

「それでは、やはり奥州、藤原秀衡殿の手にお渡しするか」

「そうじゃのう。がその前に、武術の腕どれくらいのできあがりかを確かめて

みるかな」

「よい考えだ。さすがは武名高い北面の武士であられた西行殿。して、相手は」

「近ごろ京で評判の、あの法師はどうだ」

西行は手を打って、

「弁慶か、よかろう」

五条を中心とした平清盛、六波羅ろくはら政権は、170屋の大きな屋策をほこり、5200余の家々をしたがえている。

六条河原と京の葬送地、鳥辺野とりべのの間を埋め尽くしている。

この北域には、山門武装の資源つまり弓矢を生産する弓矢町を抱合している。

弓矢町はつまり武器工廠である。また、300名からなる「赤かむろ」なる幼年探索第養育所も含んでいる。幼き密偵の養成所である。

この年、「太郎焼亡たろうしょうぼう」と呼ばれる大火事がおこっていて、西の京はまだ焼け跡が

広がっている。京の人間は乱世の始まりを感じ始めていた。

その京都・五条にある松原橋たもとに のっそりと、その大男の悪僧は立ち

塞がっている。

大男にして、筋肉質で敏捷な動きをしている。

「お主が牛若殿か」

 月の光が鴨川の川面に映えている。

牛若が押し入ろうとしていた平家の公達の家屋敷あたりからは、光とさざめきが漏れている。

庶民が住んでいる辺りはもうすでに闇の中に沈んでいる。

東山の辺りも、夜空に飲み込まれていて、遠く比叡の山からのわずかな光が、星のひとつのように霞んでいた。

「私が牛若とすれば、どうするつもりかな」

 ゆっくりと、牛若は答える。

「そうなればー」

 急に大きな弁慶が、牛若の顔を隠していた布を捲る。

「ふふっ、なかなかよい顔をしている。我が稚児にするにちょうどよい…のう」

 少しばかり、沈黙が二人の間に流れ、視線が素早く交わった。

「しかしな、やはり、命をもらわねばならぬな」

続く2016年改稿

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所







最終更新日  2018.05.27 18:31:54
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2018.05.05

源義経黄金伝説■第5回★

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

十五年後。永暦元年(一一六〇)

今年57歳になった法師が、山道を登っている。

 京都、鞍馬山僧正ヶ谷である。山肌に木の根が血管のようにごつごつと現れている。

 激しく武者修行をする牛若の前に、法師が一人現れていた。

かぶりもので牛若うしわかには顔が見えない。

「牛若殿、元気であらせられるか」

「はっ、あなた様は」

「名乗るほどの者ではない。いずれ私の正体わかりもうそう。いわば、牛若殿

の未来にかけておるものだ。いかがかな、牛若殿、武術の方は上達いたしました

か」

その問に不審な顔で牛若は答えた。

「はっ、師匠の鬼一法眼おにいちほうがん様の指導よろしきを得て、ますます励んでおります」

「そうよのう、ここ鞍馬山の坂道で鍛えられれば、体力もつきもうそう。が、

牛若殿、くれぐれも自重されよ。牛若殿の身は、御身一人だけのものではないの

だ。お気をつけられよ」

 そう言い残し、法師は去って行った。

練習に励む牛若の前に、牛若の師匠、鬼一法眼が現れる。

京都、いや日本で有名な幻術師である。

「お師匠様、見たこともない法師が、私を激励されましたが…」

不思議そうな表情で述べた。

 鬼一法眼はかすかにほほ笑んで

「ふふう、牛若、あちこちにお前の守護神がおるようだのう」

「あの方は、私の守護神ですか」

「どうやら、そのようだのう」

 牛若は、首をひねる。その姿を見て、鬼一法眼は笑っていた。

今、牛若は毎日、下界の京都までかけ降りては、自分の武術を試し、鞍馬にかけ戻っている。

「牛若殿、またそのような乱暴狼藉を働かれて…」

非難するような様子で、その若い僧は言う。

 その源空げんくうという名の僧は、京都王朝の大学・学術都市である比叡山の僧坊に属

しているのだが、ある時牛若と出会い、友達となったのだった。ゆっくりとお互

いの身の上を話し合った。

 源空は、じっとりと顔が濡れるほどに、牛若の身の上を案じてくれた。

「何と、お可哀想な身の上なのだ…」

 その若者らしい激情に、牛若もまた自身の身の上話に、ほほに涙をぬらすのだ。

「牛若殿、仏に身を任せるのじゃ。そうすれば、おのが身、仏によって救われ

るであろう」いつも出会うたびに、言うのだった。が、牛若は仏を信じぬ。

 牛若は自分の体は、戦の化身だと信じている。

なぜならば、父は源氏の氏長者うじのちょうじゃ

だったのだ。武者中の武者の血が流れているのだ。

それがこのような京都の外界、辺境

に置かれようとも、いつかはこの世に出たい。源氏の若武者として、名を馳せた

い。そういう願いが、牛若の心を一杯にしている。

そうするべきだという自身が、みづからの中から沸き起こるのだ。

 若い血は、あの急勾配の鞍馬山を、毎日行き来することによってにじり立

ち、若い体は強力な膂力を手に入れつつあった。そして、その若い力を、この無

慈悲なる、牛若自身の力を理解しない世の中へ出て試したいと、希っていた。

これは、世に対する復讐なのか

 源空は、やさしくにこやかな表情でゆっくりと分かりやすく牛若に語る。

「およしなされ、牛若殿。、、、おのが身は、、、平相国そうこく、平の清盛様から助けられた命でございますぞ。、、、そのようなお考え、恐ろしいことは、お止めなされ」 と非難し止めるのであった。

なぜに源空は、私の心がわかるのか、、と 牛若は思った。

(続く)

★2016改訂★

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最終更新日  2018.05.27 18:30:53
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2018.05.04
源義経黄金伝説■第4回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

第1章

永暦元年(一一六〇)今年42歳となった西行は、北面の武士当時、同僚であった平清盛を訪れている。
京都六波羅かいわいは、まるで平家の城塞都市である。平家親戚一同が甍を並べ
、藤原氏をはじめとしての貴族を睥睨している。平家にとって武力は力で
あった。
 清盛と話す西行から、奥座敷の方に、幼児と母親がかすかに見える。

(なにか、面白い話か、あるいは、わたしを陥れる奸計か。
くえぬからのう、清盛は、、)

こう考えていた折り、大きな陰が現れている。
今、飛び鳥を落とす勢いの男が、仁王がごとく立っている。
「おひさしゅうござる。西行法師殿、巷の噂、ご高名聞いておる。これがあ
の北面の武士、当時の佐藤殿とはのう」

 今42歳同年の清盛は、若い頃、詩上手の西行に色々な恋歌を代作してもら
ったことを思い出して、恥じらい、頭を掻いている。
「いやいや、北面の武士と言えば、あの文覚殿も」
文覚も同じ頃、北面の武士である。
「いやはや、困ったものよのう、あの男にも」

「今は、確か」
「そうじゃ、あの性格。、、よせばいいものを、後白河法皇にけちをつけ、
伊豆に流されておる」
文覚は摂津渡辺党の武士である。

「あの若妻をなで切りにしてからは、一層人となりが代わりよったな」
話を切り出してきた。背後から若い女御が、和子を清盛の腕にさしだしてい
る。
「のう、西行殿。古き馴染みの貴公じゃから、こと相談じゃ。この幼子、ど
う思う」
「おお、なかなか賢そうな顔たちをしておられますなあ。清盛殿がお子か」

「いや、違う。この常盤ときわの子供だ、名は牛若と言う」
「おう、源義朝がお子か」 
西行は驚いている。

(政敵の子供ではないか。それをこのように慈しんでいるとは。清盛とは拘
らぬ男よな。それとも性格が桁外れなのか)西行の理解を超えていることは
確かなのだ。

「そうじゃ、牛若の後世こうせい、よろしくお願い願えまいか。西行殿
も確か仏門に入られて、あちらこちらの寺にも顔がきこうが。それに将来は北
の仏教王国で、僧侶としての命をまっとうさせてくれまいか」

「北の…」
 西行は、少しばかり青ざめる。

「言わずともよい。貴公が奥州の藤原氏とは、浅からぬ縁あるを知らぬもの
はない」にやりとしながら、清盛は言う。西行は恐れた。

西行が奥州の秀衡とかなり昵懇な関係があり、京都の情報を流していること
を知れば、いくら清盛といえども黙っているはずはない。西行は冷や汗をか
いている。
「……」

「それゆえ、行く行くは、平泉へお送りいただけまいか。おそらくは、藤原
秀衡殿にとって、荷ではないはず」

しゃあしゃあと清盛は言う。西行の思いなど気にしていないようだ。
「清盛殿、源氏が子を、散り散りに……」
「西行殿、俺も人の子よ。母上からの注文が多少のう」

 相国平清盛は、頭を掻いていた。
母上、つまり池禅尼いけのぜんにである。清盛も母には頭があがらぬ。池禅尼が、牛若があまりにかわゆく死んだ孫に似ているため助けをこうたらしい。

が、相国平清盛は、北面の武士の同僚だった折りから、食えぬ男、また何や
ら他の企みがあるかもしれぬが、この話、西行にとっていい話かもしれない。
あとあと、牛若の事は交渉材料として使えるかもしれぬ。ここは、乗せられみるか。あるいは、平泉にとっても好材料かもしれぬ。ここは清盛の話を聞いてお
くか。

この時が、西行と源義経のえにしの始まりとなった。

平清盛はゼニの大将だった。平家の経済基盤のひとつは日宋貿易である。奥州の金を輸出し、宋の銭を輸入した。宋の銭の流入は日本の新しい経済基盤をつくろうとしていた。むろん、ここには平泉第の吉次がからんでいるのはいうまでもない。無論、西行もまた。

新しい経済機構が発達しょうとしていいる。新しい職業もまた始まろうとして
いる。日本の社会が揺れ動いているのだ。

続く2014改訂
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最終更新日  2018.05.19 15:56:12
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2018.05.03
源義経黄金伝説■第3回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

第1章 一一八六年 鎌倉八幡宮
    1 
 文治二年(1186)四月八日のことである。 鎌倉八幡宮の境内、音曲が響いてくる。
「京一番の舞い手じゃそうじゃ」そこに向かう雑色ぞうしきが仲間と声高に話していた。相方がこれも声高に答えた。

「おまけに義経が愛妾とな」
「それが御台所様のたっての願いで、八幡宮で舞うことを頼朝様がお許しになられたのそうじゃ」
「大姫様にもお見せになるというな」
「おう、ここじゃが。この混み様はどうじゃ」

鎌倉の御家人たちもまた、この静の白拍子の舞を見ようと、八幡宮に集まって来ている。
大姫は頼朝と御台所・北条政子の娘であり、木曽義仲の子供である許婚を頼朝の命令で切り殺されたところでもあり、気鬱になっていた。

去年文治元年(1185)三月平家は壇ノ浦で滅亡している。その立役者が義経。その愛妾が話題の人、静。平家を滅ぼした源氏の大祝賀会である。その舞
台にある女が登場するのを、人々はいまか今かと待ち兼ねて、ざわついている。

 季は春。舞台に、観客席に桜の花びらがヒラヒラと散ってきて風情を催させる。

その時、どよめきが起こった。

 人々の好奇心が一点に集中し、先刻までのどよめきが、嘘のように静まっている。舞台のうえにあでやかな人形があらわれた。

 舞殿まいどのの上、ひとりの男装の白拍子が舞おうとしている。
 頼朝から追われている源義経の愛妾静その人であった。この時、この境内の目はすべて静に注目している。
 衣装は立烏帽子に水干と白い袴をつけ、腰には太刀より小振りな鞘巻をはいている。
 静は、あのやさしげな義経の眼を思っている。きっと母親の常盤様そっくりなのだろう。思考が途切れる。騒がしさ。ひといきれ。

 静の母親の磯禅師は今、側にはしり寄って執拗に繰り返す。
「和子を救いたくば、よいか、静、頼朝様の前での舞は、お前の恭順の意を表すものにするのです。くれぐれもこの母が、どれほどの願いを方々にしたか思ってくだされ。わかってくだされ。よいな、静」涙ながら叫んでいる。

 が、静にも誇りはあった。

 母の磯禅師は白拍子の創始者だった。その二代目が静。義経からの寵愛を一身に集めた女性が静である。京一番といわれた踊り手。それが、たとえ、義経が頼朝に追われようと…。
 静は母の思わぬところで、別の生き物の心を持った。

要塞都市、鎌倉の若宮大路。路の両側に普請された塀と溝。何と殺風景なと静は思った。その先に春めいた陽炎たつ由比ガ浜が見えている。その相模の海から逃れたかった。


  かわいそうな一人ぼっちの義経様。私がいなければ、、
そう、私がここで戦おう。

これは女の戦い。知らぬうちにそっと自分の下腹をなででいる。義経様、お守り下させ。これは私の鎌倉に対する一人の戦い。別の生き物のように、ふっきれたように、静かの体は舞台へ浮かんだ。

 しかし,今、舞台真正面にいる源頼朝の心は別の所にある。

 頼朝は、2つの独立を画策していた。ひとつは、京都からの独立、いまひとつは、階級からの独立である。武士は貴族の下にいつまでもいる必要がない。とくに、東国では、この独立の意識が強いのだ。

西国からきた貴族になぜ、金をわたさなければいけなにのか。だれが一番苦労しているのか。その不満の上に鎌倉は成り立っている。

しかし、義経は、、あの弟は、、義経は人生において、常に逃亡者である。

自分の居場所がない。世の中には彼に与える場所がない。義経は、頼朝が作ろうとしている「組織」には属することが不可能な「個人」であった。その時代の世界に彼を受け入れてくれる所がどこにもない。

 頼朝はまた平泉を思う。

頼朝に宿る源氏の地が奥州の地を渇望している。源氏は奥州でいかほどの血をながしたのか。頼朝は片腹にいる大江広元おおえひろもとをみる。

土師氏はじしの末裔。学問を生業とする大江一族。頼朝は京から顧問になる男を呼び寄せる折、あるこだわりを持った。

なぜなら、彼の曾父は大江匡房まさふさ。博学の士。八幡太郎義家に兵法を伝授し、奥州での勝利を確約したといわれている。頼朝はその故事に掛けている。奥州との戦いのために学問の神、大江家が必要だったのだ。

さらに別の人物頼朝は眺める。

文覚もんがくは十年前、後白河法王の密命を受けてきた荒法師で、が今は頼朝の精神的な支えとなっている。皮肉な運命だった。法王はそこまで、頼朝が大きくなるとは考えてなかった。
 その想いの中を歩む心に、声が響いて、頼朝はふと我にかえる。

「しずや、しずしずのおだまき繰り返し、昔を今になすよすがなる。吉野山
みねの白雪踏み分けて、入りにし人の跡ぞ恋しき」

 ひらひらと舞台の上に舞い落ちる桜吹雪の中、静は妖精のようだった。人間ではない、何か別の生き物…。

 思わず、頼朝をはじめ、居並ぶ鎌倉武士の目が、静に引き寄せられていた。
感嘆の息を吐くのもためらわれるほど、
 それは…、人と神の境を歩んでいる妖精の姿であった。

●続く●2014版
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所






最終更新日  2018.05.19 15:57:24
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