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カテゴリ:宮部みゆき作品
宮部みゆきの『荒神』 地方の藩を舞台にした『孤宿の人』に続く長編時代小説『荒神』(朝日新聞出版、2014年8月)は、時代は元禄、相互にいがみ合う陸奥の小藩の香山藩と永津野藩の藩境にある山間の小村が一夜にして壊滅状態となるところから始まります。 小山のように大きな怪物が突如香山藩の仁谷村に出現し、荒れ狂って村を崩壊させた後、さらに隣りの永津野藩の名賀村を襲おうとするようです。竹林の中を枝をビュンビュン鳴らして押しやりながら大きな怪物は進んでいきます。読者は、まずこの小山のように大きいとされる怪物の全体像を把握したいと思いながらページを読み進めるでしょう。そしてこの長編小説の中程で、周りの様子に合わせて身体の色や艶を変化させ、身体は蝦蟇、脚は蜥蜴、尻尾は蛇のようで、全身を強靭な鱗で覆われた小山のような大きな化物が口から恐ろしい酸水を吐き出して荒れ狂う様子を見ることになります。 読者はつぎになぜこのような恐ろしい化物がこの地に突如出現したのか、またこの怪物の出現は香山藩と永津野藩の長年のいがみ合いとなにか関連があるのではないかと考え、またそのことからこの恐ろしい怪物を退治するために必要なヒントが得られるのではないかと推測するでしょう。 物語には、病により療養していた香山藩の小姓・直弥や怪物の被害を最初に受けた仁谷村の少年・蓑吉、永津野藩の専横な藩主側近で藩士を率いて怪物を退治しようとする曽谷弾正やその妹・朱音らが登場し、この怪物に立ち向かっていきます。 同じ地方の小藩ものでも、『孤宿の人』がシリアスな社会派時代ミステリーなのに対して、今回の『荒神』は小山のように大きな化物を登場させて、思い切り荒れ狂わせています。そんなフアンタジックな化物に生々しいリアル感を与えるところに作者の宮部みゆきの見事な筆力の冴えが発揮されています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年03月11日 15時08分12秒
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