やまのみず　お笑い　コント

人には向き不向きがあり、
それによって世の中のバランスが保たれているのかもしれない。

僕のバイト先にも、
不向き
な人がいる。

たいていの人ならば、遅くても３０分で終えることの出来る仕事を
彼は１時間かけてやる。
彼は、恐らく３０歳後半で、
頭には白いものが混じり、丸く刈り上げている。
ちょいと体格のいい彼は、その丸い頭からも
雪だるまのようだ。

彼は僕より年が相当上のはずなのに、敬語で、
「山田くん、これは…？」
とよく聞いてくる。

聞く一時の恥　知らぬは一生の恥

わからないのだから聞くのは当たり前、
僕は、そして皆は、よく彼に教えた。
それから２ケ月。彼は今も聞いてくる。

人にはそれぞれペースがあるんだから
彼にイライラしなくてもいいじゃないか

とも思うが、その日は違った。
その日はメンバー的にも弱い布陣だったため
僕はイライラしてしまい、彼に当たってしまった。

何とかその日を切り抜けた僕は、帰る前にトイレに行った。
迷わず大の個室に入った。
別に小でも事足りたのだが、
座りたい気もあり、個室に入り一息ついた。

するとトイレに誰か入ってきた。
僕は、彼に当たってしまった自分を反省していた。
すると
「ブぅ　ブブゥ　ブ――――ぶっ」
と、おならの音が聞こえてきた。
ウソみたいな、おならだった。
僕は、疲れが吹っ飛んだような気がした。
するとまた
「プ――ぅ　プぅプぅ」
と音がした。　
そこのトイレは、大の個室が１つしかないから、
その人は大を決め込んで入ってきたけど
あいておらず
仕方ないから、おならだけでも
って放屁したのか…？
それにしても、今まで生きてきて
このような、おならのメロディを聞いたことがない。
感動にも似た変な喜びを感じていた。
するとまた
「プブッ　プー！」
これは僕を煽っているに違いない、
まるで僕に早く出ろと言っているようなおならだった。

僕は慌てて出ると、そこには
そう、彼が仁王立ちしていたのである。

彼は、おならで人を癒したり、
自分の感情を伝えたり出来るという
あまり人が持ち合わせていない
あまり人には見せにくい（聞かせにくい）特技を
持っていたことを僕はその時知った。

そんな彼は、この仕事には不向きかもしれないが
おならを使う仕事なら大成することは間違いないと
僕が保障します。