埼玉県の狭山から浦和を直線で結ぶ埼玉横断線。
通称埼横線は、百パーセント民間企業出資の私鉄である。
資金の多くを出資した会社の社長が狭山に住んでいて、
家から娘の進学した浦和の高校までの交通手段として敷かれたのではないか、
と噂されているが、真意のほどは定かではない。
あるいは、さいたま市が合併する以前、県庁所在地であった浦和の中心である浦和駅が、
路線が京浜東北線一線しか通っていないことに対しての、今更ながらの県庁所在地としての権力誇示なのかもしれない。
狭山市から横に伸びた鉄道は、富士見市を通り、荒川を越え、埼京線の通る与野本町、浦和を経て、
埼玉高速鉄道の走る浦和美園で終点を迎える。全長三十キロほどの鉄道だ。
工事は異例の速さで進み、二年と掛からずに開通した。
さほど距離が離れていなかった事と、路線が埼玉スタジアムの最寄り駅である浦和美園駅まで伸びていた事が工事の進捗を早めたのだろう。
さいたま市が誇る強豪サッカーチームは、埼玉スタジアムをホームとしている。
常に三万人を越える集客力を見せる埼玉スタジアムには駐車場が無い。
必然的に、鉄道を使わざる終えないのだ。
ファンにとって、あるいはそこに住む者にとって、路線が増えるに越したことは無い。
そんな力も後押ししたのだろう。
しかし、乗車しても都心に向かう訳ではないので、平日の乗車率はさほど多くない。
平日の昼間、狭山から富士見の間などは閑散としている。
しばしばその存在意義を問われ、利権だ癒着だとマスコミの餌食になる事もある。
けれど、埼玉の住民の概ねは、そんなのんびりとした鉄道があってもまあ良いかと考えていた。
要は、サッカーの試合に自分を運んでくれれば、それで良いのである。
そんな埼横線の駅員は、実に常識に捉われない駅員ばかりで、
簡単に言えば横柄だった。
敬語もろくに使えない。
ホームを走る客や、黄色い線の外側を歩く客がいれば、アナウンスで怒鳴りつける。
挙句の果てには、ラッシュ時の入りきらない客の襟首を掴んで、電車から引っぺがしたりする。
朝の通勤時間帯は、与野本町や浦和から赤羽に出れることもあり、それなりに混むのだ。
埼横線の横の字は横柄の横、横暴の横と揶揄される事もある。駅員の行動が予測できない為、埼横が馬と言う人間もいる。
通常の鉄道ではありえない態度であるが、それが埼横線では罷り通っていた。
八割方地元民しか利用しない為、一度慣れてしまえば大して文句も出ない。
そして、運賃が安かった。始点から終点まで三百円払ってお釣りが来る程だった。
しかし、利用客が彼らの横暴を許容出来ていた最大の理由は、
彼らの態度とは裏腹に、実に正義感溢れる駅員たちであった事と、伝説の車掌に因るところが大きいのだ。
そんな私鉄の物語。
適当なので完成予定無し。
- 私鉄埼横線はフィクションです。登場する団体や人物、以下いろいろ略-