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財布の話。
先日水島が財布を拾ったという話をしていたので、 ちょっと僕も「財布を落とす」に関する話をしよう。 と言っても、落としたのが僕ではないし、拾ったのも僕ではない。 あくまで第三者だった。 学生時代で、確か大学二年生の頃だと思う。 同じ学年にやまのみずメンバーである山田宗和もいたが、その頃の僕らは生意気盛りで、 何の根拠も無いがやけに高い鼻をぶいぶいと振っていた気がする。 その鼻はおよそ一週間後には、教授に思い切り鷲掴みにされてブンブン振り回されたあげく、 すぽーんと抜けてどっかに行ってしまうのだが、その時はまだ高々だった。 沖縄で公演をする、という企画があり、僕らはそれに向けて日々稽古をしていた。 旅費に関しては大学側から出るわけではなく、当然実費。 一週間以上滞在するとあって、値段は十三万円くらいだったと思う。学生時分にしては超高額だ。 というか今も高額だ。十三万円あればうまい棒が十三本は買える。すごいなそのうまい棒。何味なんだろう。ツバメの巣味か? 僕の中で高額な食べ物というとツバメの巣というものが浮かぶ。食べた事は無いけど、鶏ガラ味のモンブランみたいなものなんじゃないかと想像している。 話は戻るが、僕はその頃焼き鳥屋でアルバイトをしていて、 憎たらしく太った憎たらしい店長のもとせかせかと働いていた。 そのお金と仕送りのお金を合わせれば、さほど苦労も無く旅費を捻出できた。 なんて格好つけて書いたが、実際はほとんど仕送りのお陰だ。ありがとうございます。 そんなある日の事。 とある女性が「財布を落とした!」と悲鳴を上げながら電話を掛けてきた。 話を聞くと、その財布には旅費のための十三万円が入っていたという。 「竹やぶにお金が落ちていた」とか「川にお金が流れてきた」という話は聞くが、 果たして十三万円もの高額を落としたなんて話があるだろうか? 竹やぶも川もせいぜい何千万円ぽっちの金額だろう。十三万円という数字の足元にも及ばない。 なにせ、超セレブな人間が月に一本食べていると言う「うまい棒ツバメのスープ味」が一気に十三本も買えてしまうのだ。 そんなの拾って届ける人はいないだろう。あまりに正義感の無い話だが、僕だったらすぐに駄菓子屋に行ってしまう。 当然ながら、その女性もパニックに陥っていた。 支払いが出来なければ、当然企画には参加できない。 「とりあえず警察に行ってみなよ。もし駄目でも俺が立て替えるから大丈夫」 耳を疑うかもしれないが、これは当時の僕が確かに言った言葉だ。もちろん本心で。 浮ついていたし、下心もあったから、上も下も真ん中も全てひっくるめた言葉だった。 その女性の事がちょっと好きだったのだ。 良い所を見せようと思った。 しかしどうしても格好が付かないのは、貯金なんて殆ど無く完全に親の金をアテにしていた所。 もし借りれなかったら、来月分の家賃や光熱費代を全部あてて、バイト代もあてればなんとか足りる筈。 ざっくばらんで無鉄砲な計算をして、いけると踏んだ。ともかく大事なのは、彼女がこの企画に参加することだ。 ここで一つ奇跡が――いや、ここで奇跡という言葉を使うのは妥当じゃない。 むしろ当たり前の事なのだと言っておきたい。 ここで当たり前の事が起きた。なんと、財布は警察に届けられていたのだ。 中身もしっかりと入ったまま。 拾ってくれたのはおじいさんで、彼女の学生証を見て、こんな大金を無くしたら大変だろうと思い、すぐに警察に届けてくれたのだという。 当然、お礼の一割もいらない、と、連絡先も教えなかったそうだ。 彼女はとても感動し、僕はちょっと胸を撫で下ろした。 その後、彼女も僕も山田も無事に沖縄公演の企画に参加した。 僕と彼女はそれから付き合うことになるのだが、いろいろとあって、今はもう別々の人生を過ごしている。 今でも、やっぱり僕が立て替えるのは難しい話だったんじゃないかと思う。 もしあの財布とその中身が戻ってこなかったら、僕は立て替えた事により人生が汲々としていたかもしれないし、 もしかすると払えずに幻滅されていたかもしれない。 これから先、皆さんもひょっとすると財布を拾う事があるかもしれない。 そんな時、落とした人のさらに向こう側に、なんとか良い格好をしようと無茶している人がいるんだな、と思ったなら、 どうか中のお金はそのままに、警察に届けてはもらえないだろうか。 きっと、落とし主も、その周りの人も、貴方に感謝すると思う。 少なくとも僕はおじいさんにしこたま感謝した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年11月09日 01時29分38秒
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