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超重神山さんDESTINY

超重神山さんDESTINY

第1話 砕かれた平和

地球連合軍と宇宙革命軍の戦争が終結しムゲ・ゾルドバス帝国、木星連合との戦争を乗り切り地球連合、宇宙革命、木星連合の3軍が統合し地球圏連合軍となってから15年の月日が流れた。
戦後の復興もようやく起動に乗り始めていた頃、“血のバレンタイン”を引き金に再び地球圏は戦争と言う闇に飲み込まれていた。
オーブ首脳国連邦。戦後、もっとも早く復興したこの中立国に属するコロニー、ヘリオポリスに一隻の戦艦が入港していた。地球圏連合軍の所有するアオヤギ級宇宙戦艦だ。

「なんとか無事に入港出来たな」

アオヤギ級ブリッジ。髭をはやした艦長が安心したように呟く。

「これで、この艦の最後の任務も終了だ。貴様も護衛の任、ご苦労だったな・・ムウ・ラ・フラガ大尉」

艦長は操舵士の後ろで腕を組んで立っている金髪の男性に声をかける。
ムウ・ラ・フラガ。エンデュミオンの鷹の異名で知られる連合軍のエースパイロットである。

「いえ、航路問題なく幸いでありました・・・周辺にザフトとギガノス艦の動きは?」

安心しきっているらしい艦長とは対照的にフラガはまだ安心出来ないのか周辺に敵艦がいないかどうかを訪ねる。
艦長はそんなフラガを安心させるつもりなのか軽い口調で答える。

「ザフト艦が2隻トレースしているが心配なかろう。入港してしまえばこちらの物だ」

「中立国・・・でありますか」

艦長の言いたい事を理解したフラガが何処か、呆れたような口調で言う。
今、自分たちは中立国オーブに属するコロニー、ヘリオポリスに入港している。中立国への攻撃など何処の軍もおこなわないだろうと言う艦長の慢心から来る自信だとフラガは理解した。

「ああ、いくらザフトでも此処まで手出しは出来ないだろう。オーブも地球の一国という事だ」

そう言って艦長は笑みを浮かべる。
フラガも苦笑いでそれに答えながら何処かぬぐいきれない不安に表情を曇らせていた。何か良くない事が起きると彼の経験と直感が告げている。

「艦長」

艦長の右横についていた5人の青年士官が声をかける。
艦長は「うむ」と頷き敬礼する。5人もそれを敬礼で返しブリッジを後にした。
それを見ていたフラガが心配そうに訪ねる。

「上陸は、本当にあの5人だけでよろしいので?」

「まだひよっことはいえ、Gのパイロットに選ばれたトップガンだぞ。心配はいらん・・貴様なんぞがウロチョロしていたほうがよっぽど目立つぞ」

艦長の言葉にフラガは思わず苦笑する。
確かに名前も顔も知られている自分がウロウロするのは目立ちすぎる。

「そういえば・・・嬢ちゃんも此処に来ているんでしたよね?」

フラガが思い出したように訪ねる。
自分たちより一足先にヘリオポリスに来ているはずの同僚の事だ。

「ああ・・・三日前に着いているはずだ。彼女も新型を受理した後、大天使に配属される予定だからな」

「嬢ちゃん達が運んできてた物・・・ギガノスの連中が見逃すとは思えないのですが・・・」

「ふむ・・・確かにギガノスは中立国など無視しかねんからな・・・まぁ、今のところ周辺にギガノス艦の反応はない。上手く巻いたのだろう我々が心配する事でもあるまい」

そう言うと艦長は少し休むと言ってブリッジを後にした。
フラガはため息をつくとモニターに表示されたレーダーを睨みつける。こういう時の嫌な予感はよく当たる物だから。

「やれやれ・・これじゃリラックスも出来そうにないわな」



ヘリオポリス、工業カレッジ。
その中庭に設置されたベンチに一人の少年が座っていた。膝の上にノートパソコンを置きキーボードを操作しプログラムをかなりの早さで組み上げていく。
肩には小型のロボット鳥がとまり「トリィ」と機械的な声で鳴きながら首をかしげてノートパソコンをのぞき込んでいる。

「お~い、キラ」

「ん?」

後ろから話しかけられキラと呼ばれた少年が振り向く。其処には友人である二人組の少年と少女が鞄を提げて立っていた。

「トール、ミリアリア。何か用?」

「ああ、カトウ教授が探してたぜ。頼みたい事があるんだってさ」

トールと呼んだ少年の言葉にキラは嫌そうな顔で不満を口にする。

「またぁ?この間頼まれたのだって、まだ終わってないっていうのに・・・人使い荒いなぁ・・」

ぶつくさ文句を言いながらノートパソコンの電源を切り鞄にしまい込む。
ミリアリアと呼ばれた少女が好奇心から質問をする。

「キラ、一体何を頼まれてるの?」

「プログラムの解析とかデバックとか・・・・色々だよ。モルゲンレーテの仕事忙しくて一人じゃ手が回り切らないんで手伝ってくれって、僕も詳しくは知らないんだ」

「ふぅん・・・キラも大変ねぇ。成績が半ば良いだけに色々と頼まれごとされて」

ミリアリアの言葉に苦笑いを浮かべて頷く。

「お陰で課題にも中々手が出せなくてさ、急ぎの奴ばっかり持ってくるんだよ、教授」

片づけを終え鞄を肩にかけてキラがベンチから腰を上げる。

「サイ達も向こうで待ってるから急ごうぜ。ついでにあの3人も引っ張ってこいって言われてるけど・・・」

トールが中庭を見渡しながら言う。目的の3人を探しているのだろうと理解したキラが言う。

「ケーン達ならまだ教室にいたと思うけど・・・・あ、噂をすれば」

キラの言葉にトールとミリアリアも校舎のほうを振り向く。
丁度、校舎のほうから自分たちの所に歩いてくる3人組の少年の姿がそこにあった。

「お~い、ケーン、タップ、ライト」

トールが手を振りながら3人の名前を呼ぶ。3人組もそれに手を軽く振って答え早歩きで近づいてくる。

「よう、皆さんおそろいで。これからどっか行くのか?」

3人組の中の一人、今時珍しい髪型をリーゼントにしている少年。ケーン・ワカバがいつも通りの軽い調子で言う。
その問いにミリアリアが答える。

「ええ、今からモルゲンレーテにね。サイがアンタ達も引っ張ってこいって」

「ゲッ、マジかよぉ・・・・俺、昨日の分の課題も終わってないのによぉ・・・・」

それを聞いたケーンはため息をつき肩をがっくりと落とす。
ケーンの横にいた金髪の少年、ライト・ニューマンと黒い肌の少年、タップ・オノセアも同じく肩を落とす。

「やれやれ、忙しい事で・・・・」

「家に帰ってゆっくりしたかったのによぉ・・・」

「文句言わない。ホラ、覚悟を決める」

ミリアリアの言葉であきらめがついたのか「了解」とやる気のない返事を返し、6人は中庭を後にした。
その途中、ケーンがキラに話しかける。

「なぁキラ・・・ちょっと頼みがあるんだけど・・」

彼が何を言いたいのか理解したキラは「またか」と心の中で呟きため息をつく。

「昨日の分の課題見せろっていうんだろ?たまには自分でやってきなよ」

「俺が自分で出来るわけねぇーだろっ!!」

「って逆ギレされても・・・・」

「頼む。これ落とすとヤバイんだよ!!」

歩きながらケーンは頭の上で両手を合わせ懇願のポーズを取る。彼はこうしてよく課題を忘れて来てしまい、そのたびにキラに助けを求めているのだ。
それを見たキラは少し考えた後、少しいい考えが浮かんだのかニヤっと笑みを浮かべて言った。

「そうだね・・・・明日の昼食、おごってくれるんなら考えるけど」

「なっ!!テメェ!!俺が今月ヤバイの知ってて言ってるだろ!!」

「さぁねぇ~。で、どうする?」

「この野郎・・・・」

無論、キラの言っている事は冗談である。今月の財布の中身がすでに寂しいの一言である友人に昼食をたかるほど彼は悪魔ではない。まぁ・・・このような冗談で友人をからかっている次点で十分に悪魔であろうが。
その様子を見ていたミリアリアが思わず呟く。

「キラって・・・あんな性格だったっけ?」

「違ったような・・・・まぁ、ケーンの扱いに慣れてきた影響・・・だろうな」

トールの答えにミリアリアは思わず苦笑する。知り合ったばかりの頃はどちらかと言えば暗めの性格だったキラだが今はオープンな性格になってきている。
時期的にケーン達と知り合ってからだ。キラの性格が明るくなってきたのは。

「お~い、其処のカップル!!ほってくぞぉ!!」

少しゆっくり歩いていたトールとミリアリアはいつの間にかケーン達との距離が開いており気がつけば彼らはすでに中庭を出ようとしていた。
それを見た二人は駆け足で中庭を後にする。いつもと何ら変わりない平穏な時間が其処に流れていた。



モルゲンレーテ工場区。
関係者以外の立ち入りが禁止され厳重な警備がなされたこの工場の敷地内にあるベンチの上で横になっている少女がいた。
ショートカットに切りそろえられた銀髪の少女は横になってぼぉっとコロニーの人工の空をながめている。

「平和ねぇ・・・・・此処」

思った事をそのまま口にする。この状態で空を眺め始めてすでに1時間近くたっているが少女は飽きもしないで人工の空をずっと眺めている。
工場の敷地内を囲むフェンス越しに道行く通行人が少女を見て「おお」と小声で声をあげている。顔もスタイルも平均よりは良い、俗に言う美少女に銀髪の少女が入るからだろう。
その通行人達に少女も気がついているが別に見られて困るような格好でもないので無視。そんな少女の元にモルゲンレーテの作業着に身を包んだ男が話しかける。

「レナード少尉、クレア・レナード少尉」

「ん?」

名前を呼ばれた少女、クレア・レナードは寝っ転がったまま顔だけあげて男の姿を確認する。

「何か用?」

「ラミアス大尉がお呼びです。機体の最終調整をお願いしたいと」

「OK。5分後で行くって伝言しておいて」

そう言って再び顔を降ろし横になる。それを見ていた男は深いため息をついて元来た道を戻りはじめる。
クレアは横になって再び空を見上げている。

「・・・・さてっと、ボチボチ行きますか」

そう言うが早いかクレアは「よっ」と声を上げてベンチから飛び跳ねるように起きあがり軽く肩を回しながら工場の入り口へと向かい歩いていった。


工場の中では数十人の作業員が忙しく動き回り全部で九つのトレーラーの荷台に積まれた人型機動兵器の調整を行っている。そのうちの一機、全身を白で統一された機体が積まれたトレーラーにクレアが近づく。
その荷台の上で作業をしていた作業着姿の女性がクレアに気がつき荷台から降りて出迎える。

「やっと来たわね、レナード少尉」

「ハイハイ。んで・・機体の最終調整ですか?ラミアス大尉」

クレアは作業着姿の女性、上官であるマリュー・ラミアス大尉に自分が呼ばれた理由を確認する。

「ええ、アークラインだけ予定よりも早くアークエンジェルに搬入される事になったの。だから、その前に最終調整を済ませておかないとね武装は内蔵している物以外すでにアークエンジェルに搬入しておいたから」

「了解、了解。ちゃっちゃと済ませますか・・・あ~あ、のんびりできるのも今日で最後かぁ・・・」

と愚痴をこぼしながらクレアは自らの専用機として開発された機体、アークラインの積み込まれている荷台へとあがる。開け放たれているコクピットへと潜り込み備え付けのキーボードを引っ張り出してプログラムを起動させる。

「そういえば・・・今日でしたっけ?Gのパイロットが来るのって」

クレアがコクピットの外で小型の端末を操作しているマリューに聞く。

「そうよ。もう着いてるころでしょうね・・・今日明日にはアークラインもGも・・あの3機も積み込んでアークエンジェルはアラスカ連合軍本部へむかうわ」

「そうですか・・・・にしても、中立国のコロニーでこんな事しちゃっていいんでしょうかね」

苦笑いを浮かべながらクレアが呟く。自分たちは連合軍に所属している軍人であり今、ここにあるのは新たに開発された新型機動兵器が9機・・早い話が最高レベルの軍事機密だ。
本来ならば中立国でのこのような行為は違法なのだが軍上層部がオーブ政府に圧力をかけ、このモルゲンレーテでの新型開発を行わせている。中立国という都合の良い隠れ蓑を利用した汚い方法である。
クレアの言葉にマリューも表情を曇らせる。彼女も本心をいえばこのやり方に不満があるのだ。

「本当はいけないことっていうのはわかっているのだけれどね・・・上の命令である以上、従うしかないわ・・私たちは軍人なんだから」

「軍人・・・って、嫌な職業ですよねぇ・・・」

「そうねぇ・・・」

二人は同時にため息をつく。その様子はなんだか妙におばさん臭いように見える と思った数人の作業員はその言葉を胸の内にしまい込む。口に出したら命がない。
作業員の一人が荷台の下からマリューに声をかける。

「ラミアス大尉、デュエル、バスター、ブリッツの搬入準備が整いました」

「わかったわ、すぐに開始して。それじゃ、私は一足先にアークエンジェルへ向かうわね」

クレアに一声かけてからマリューはアークラインを積んだ荷台から降りて一足先に運び出される三台のトレーラーの搬入作業のため十人ほどの作業員と共に工場を出る。

「はぁ・・・・・本当に、嫌な職業ね」

クレアはさっき言った言葉をもう一度、自嘲気味に呟いた。



コロニー、ヘリオポリス宙域外。其処に2隻の戦艦が存在していた。
ザフト軍所属艦、ローラシア級戦艦ガモフとナスカ級戦艦ヴェザリウスである。そのヴェザリウスのブリッジで一人の男が写真を眺めていた。
ラウ・ル・クルーゼ、この2隻の戦艦を率いる部隊の隊長である。

「そう難しい顔をするな、アデス」

そう言いながら今回の作戦内容に不満を感じているヴェザリウス艦長、アデスを諭すように呟く。

「いや・・・しかし、最高票議会の判断をまってからでも遅くは・・・」

「遅いな。私の感がそう告げている」

アデスの言葉を遮りクルーゼが呟く。そしてアデスに向かって手に持っていた一枚のーーーー機動兵器MSの頭部が写ったーーーー写真を投げる。
感と言う理由だけで此処までの自信を見せるクルーゼの事をアデスは時折、恐ろしく思う。しかし、彼の感はこれまで外れた事がないという事実が反論を許さない。

「此処で見過ごせばその代価・・・・いずれ我らの命で払わねばならなくなるぞ。連合軍の新型機動兵器・・・この場で奪取する。必ずな」

クルーゼは不気味な笑みを浮かべ自信ありげに断言した。仮面で顔の半分を隠し表情を読み取らせない彼だが時折、仮面の下からでもわかる自信に満ちた表情を見せる。

「潜入部隊は?」

「ハッ、無事に付いた頃でしょう・・・・非武装の中立コロニーへの潜入なので失敗なんて考えられませんが」

「その慢心はいずれ自分を殺すぞ・・・と、私が言っても説得力はないな」

そう言ってクルーゼは苦笑する。アデスはその様子を呆れたような表情で見ている。が、顔をすぐに引き締め時間を確認する。

「隊長、時間まであと3分です」

「ふむ・・・総員第一戦闘態勢。時間になればすぐに戦闘になるぞ」

アデスの言葉を受けたクルーゼ指示を出しブリッジに用意された自らの席に腰を下ろす。そして、無重力の中をふわふわ浮き自分の元へ帰ってきた写真を手に取り再び見つめる。
写真に写ったMSの頭部の形状・・・・彼はそれに見覚えがあった。いや・・・軍関係者ならば誰もが知っている頭部の形状である。

「ガンダム・・・・・か」



「ふぅ・・・調整完了っと」

アークラインのコクピットでOSの最終調整をすませたクレアはキーボードをしまい込みコクピットの外に出て腕を伸ばす。こういったプログラム関係は苦手なので肩がこる。
肩を軽くまわしながらトレーラーの荷台から降りる。
すませた と言っても自分がわかる範囲でなので後はプロに任せる事にする。下手にいじくるよりもそっちの方が安全で確実だ。何より、中立国のコロニーで戦闘など起こりえるはずもないと心のどこかでそう思っていた。

「あ~、慣れない事すると肩こるわねぇ・・・・・アークラインの積み込みってまだなの?」

肩をほぐしながら近くで作業していた作業員に問いただす。作業員は手元の表を見ながら答える。

「そうですね・・・今、積み込みはじめている3機が終わった後になるでしょうから・・・まだ暫くかかりますね」

「ふぅん・・・・それじゃ、私は暫く休憩してようかな・・・・」

クレアがそう呟き、工場区を後にしようとしたその時・・・・コロニー全体を強い振動が襲った。



モルゲンレーテ工場区の丁度、裏手にある崖の頂。そこにマシンガンで武装した数十人の人影があった。それぞれが緑色、赤色のパイロットスーツに身を包んでおり軍関係者であることは一目瞭然だ。
彼らの真下にあるコロニーの港へ続く道路を三台のトレーラーがゆっくりと走っている。それを見ていた赤いパイロットスーツを着た銀髪の少年、イザーク・ジュールが呟く。

「アレか・・・クルーゼ隊長の言ったとおりだな」

「つつけば慌てて巣穴から出てくるって?」

イザークの言葉に苦笑気味に相づちをうつのはディアッカ・エルスマン。同じく赤いパイロットスーツに身を包んでいる褐色の少年だ。

「やはり間抜けなものだな・・・ナチュラルなんて」

イザークがあざ笑うように言う。彼らは遺伝子操作により誕生した人類、コーディネイターで構成された軍・・ザフトに所属する人間だ。生まれたときから普通の人間よりも優れた能力を持ち得ているコーディネイターにはイザークのように
ナチュラルを見下す者も少なくない。イザークの横にたちトレーラーを双眼鏡で見ていた少年、ニコル・アマルフィが疑問に思ったことを口にする。

「あれ・・・報告では9機のはずなのに・・・3機しかありませんね」

「何?とすると・・・・残りは工場の中か」

イザークの言葉に奥にいた赤いパイロットスーツの少年が口を開く。

「工場へは俺とラスティの班で行く。イザーク達はあの3機を」

イザークは少年の提案を聞き少し考えて返答する。

「OK任せよう。ニコル、ミゲル達に連絡を取れ・・・行くぞ!!」

イザークが叫ぶ。
彼に続きディアッカ、ニコルそして数人の緑色のパイロットスーツに身を包んだ男達が腰に付けている簡易バーニアを使ってそのまま崖から降下し真下のトレーラーを襲撃し始める。
それを見届けた少年、アスラン・ザラは残った数人のメンバーと共にモルゲンレーテの工場に向かって降下していった。
それとほぼ同時に港口のシャッターが吹き飛びコロニー内に7機のザフト軍主力MS、ジンが侵入した。MSの一機、他の機体とは違いグレーでは無くオレンジに塗装されたMSのコクピットに通信が入る。

『ミゲル、目標を発見しました。』

ミゲルと呼ばれたパイロットが通信に笑顔で答える。

「了解、さすがに早かったな。それじゃ・・こっちも計画通りにやらせて貰うぜ」

通信を切りジンを地表に降下させながらトレーラーの進路を塞ぐためマシンガンで道路を狙い撃ち粉砕する。
三台のトレーラーの近くに7機のジンが降り立ち同時に数人のザフト兵も襲撃し瞬く間にトレーラー周辺は地獄絵図と化した。

「三台だけだと・・・・残りは工場ってわけか」

トレーラーの数を確認したミゲルが呟く。襲撃しているメンバーを数えても約半数しかいない。残りのトレーラーがあるであろう工場へと向かったのだろう。

「半分は俺と来い、工場にある残りを頂くぞ」

ミゲルのオレンジ色に塗装されたジンに続き3機のジンがバーニアを吹かし工場へ向かう。
それまで平和だったコロニー、ヘリオポリスが戦場に変わった瞬間だった・・・。



「クソ!!中立国相手に堂々と攻め込んでくるかよ普通!!!」

ヘリオポリスの外でも戦闘は起こっていた。
突如、ヘリオポリスを襲った振動。それと同時に攻め込んできたザフト軍の戦艦2隻。ジンが4機コロニーの外でアオヤギと出撃した連合軍主力MSドートレス2機。そして、フラガ専用のモビルアーマー、メビウス・ゼロと戦闘を繰り広げる。
メビウス・ゼロに装備された特殊武装ガンパレルが展開しロックオンしたジンに機首のリニアカノンを含め計9問の砲撃が襲いかかる。
砲撃によりジンの左足と右腕を吹き飛ばしリニアカノンが胸部を撃ち抜き撃破する。
現在はなんとか五分五分の戦況にはなっているがコロニーに侵入していった別働隊が戻ってくればこちらが不利だ。

「まぁ、中立国で新型つくってた俺等も人の事は言えねぇだろうけどよぉ!!!」

リニアカノンでジンを牽制し体制を崩させた所でガンパレルの機関砲によりジンを連続で砲撃、四肢と胸部を撃ち抜く。

「二機目!・・・・ん?」

不意に妙な感覚がフラガに襲いかかる。
以前にもこれと同じ感覚を感じたことがある。そして、この感覚を感じると言うことは近くに“奴”がいると言う事だ。

「この感覚・・・奴か!!

メビウス・ゼロの機体を反転させ嫌な気配を感じる方向へリニアカノンを放つ。
案の定、其処には白いカラーリングのMSシグーがマシンガンを構えこちらを狙ってきていた。

「フッ・・」

シグーのコクピット。クルーゼは鼻で笑いその攻撃をかわし左腕に装備しているシールドに装着したガトリングで攻撃する。
ガトリングから放たれる弾丸を回避しリニアカノンで反撃する。シグーはシールドでそれを受け止め右手に構えるマシンガンのトリガーを引く。

「私がお前を感じるように・・お前も私を感じるのか。不幸な宿怨だな、ムウ・ラ・フラガ」

「ラウ・ル・クルーゼか、こういう忙しいときにばっかり現れやがって!!」

二機は激しく撃ち合いながらお互いの出方をうかがう。

「この辺で消えてくれるとありがたいのだがね・・・ムウ」

クルーゼはシグーのガトリングとマシンガンを連射しながらヘリオポリス内部へと侵入していく。

「あの野郎!!コロニーの中に!!」

フラガもその後を追いメビウス・ゼロをコロニー内部へ突入させる。



モルゲンレーテの学生のために解放されているラボの一室にキラ達はいた。
此処の設備がないと課題が出来ないから という学生らしい理由でよく此処を利用しているのだ。いつものように一番最初に来て作業しているサイ・アーガイルに挨拶を交わして自分たちもそれぞれの作業に取りかかる。
なんて事はない、カトウ教授を訪ねて来たらしい客が部屋にいた事以外はいつもと変わらぬ日常だった。ラボ全体を強い振動が襲うまでは。

「うわあああっ!!」

「な・・・なんだぁ!?」

「地震か!?」

「バカか、コロニーで地震なんか起こるわけないでしょ!!」

「とりあえずシェルターに行こう。これは普通じゃない、ひょっとしたら隕石がぶつかったのかもしれないし」

サイの提案でその部屋にいた全員がシェルターに向かうため屋外へと続く非常階段を下りるため廊下にある非常ドアまで走る。ドアを開けると上の階からも人々が大勢、階段を駆け下りていた。

「何があったんです!?」

サイが近くにいた男に問いかける。男は自分でもわけがわからないといった表情で問いに答える。

「よくはわからないよ。ザフトのMSが攻めてきたとか言ってるのは聞いたけどさ」

「えっ!?」

男の答えに全員が息をのむ。中立国オーブのコロニーであるヘリオポリスに何故ザフト軍が攻め込んでくるのか、戦争をニュースでしか知らない彼らには理解出来ない。
戦争とは何ら関係ないと思っていただけに余計、わけがわからない。

「ザフトが来てるってのがマジなら余計に急がないとな。さっさと行こうぜ」

ライトの言葉にハッとなりトールとミリアリアを先頭に階段を下りはじめる。
しかし、彼らと一緒に避難していた帽子を深く被った少年は一人、元来た道を戻りはじめる。

「なっ、ちょっと君!!そっちは危ないって!!」

それに気がついたキラが呼びかけるが少年は気がつかない。「クソッ!」と吐き捨てキラは全速力で少年の後を追いかける。

「おい!!何処行ってるんだよキラ!!」

いきなり走り出し元来た道を逆送し始めたキラにむかってケーンが叫ぶ。キラは聞こえているのかいないのか無視して先へ走っていく。

「ったくよぉ。悪いけど先に行っててくれ!!」

ケーンはそうサイに告げてキラの後を追いかける。

「ってケーン!!ちょっと待てよ!!」

それを追ってタップまでもが逆送を始める。それを見ていたライトがやれやれと言った感じにため息をつく。

「悪いサイ。あの3バカトリオは俺が連れ戻すから先に行っててくれ、後で必ず合流するからよ!!」

「って・・・ライトまで、オイ!!」

サイの静止を無視しライトも3人を追って走り出した。



「ちょっと君!!」

廊下をまっすぐに工場区へと走る少年の後をキラは走って追う。運動はどちらかと言うと苦手だがそれでも、その辺の人よりは足は速いと自負している。
前を走っている少年に追いつき、その手を掴んで動きを止める。

「なっ・・離せ!!」

同い年ぐらいの少年にしては細い腕だな と思いつつ少年に話しかける。

「ここから先は危ないって、それに工場区は関係者以外立ち入り禁止なんだよ」

「五月蠅い!!私には確かめねばならない事があるんだ!!」

「確かめなきゃいけない事が何か知らないけど命の方が大事でしょ!!」

「ええい、お前には関係ないだろ!!」

二人が押し問答をしている間に後から追ってきていたケーン達も合流する。

「お二人さん、何もめてるのよ?」

「早い所、ずらかろうぜ。なんだか嫌な予感がするんだよな・・・」

ケーンとライトが言う。その直後、強い振動が建物を揺さぶり天井が崩れる。

「ヤベッ!!」

「危ない!!」

5人は急いでその場から飛び退く。崩れてきた天井が廊下を塞ぎ帰り道の他に周辺の廊下をも塞いでしまう。
残る道はただ一つ、工場区へと続く道だけとなった。

「あっちゃぁ・・・見事に塞がれたな・・・・」

瓦礫で塞がれた廊下を見ながらライトが呟く。タップとケーンが非常ドアをガンガンと蹴り飛ばすが変形してしまっているドアには何をしても無駄だろう。
キラは塞がれていない廊下ーーーー工場区へ続く廊下ーーーーを見る。

「工場区へ行くしかないか・・・・君、立てる?」

キラは足下で膝をついている少年に話しかける。

「あ・・ああ、大丈夫だ」

キラの手を借りて少年が立ち上がる。その際、少年の被っていた帽子が取れ帽子の下に隠れていた首もとまで伸びている金髪があらわになる。
その姿はどう見ても男ではなく・・・・・・。

「えっ・・・・女・・・・の子?」

少年だと信じ切っていたキラが唖然とした表情でポツリと呟く。
その言葉にムッと来たのか少女が不満そうに怒鳴る。

「なんだと思っていたんだ、今まで!!」

「あ・・・ゴメン」

凄い剣幕で怒る少年・・では無く少女に謝るキラ。

「お~い、お二人さん。早く工場区のシェルターに避難しようぜ」

キラと少女にケーンが話しかける。
二人もそれに頷き5人は駆け足で工場区へと急いだ。



その頃、工場区では激しい銃撃戦がおこなわれていた。
襲撃してきたザフト軍と工場区にいた数十人の作業員に扮した連合軍兵士との銃撃戦。工場のあちこちに銃で撃たれた連合兵士やザフト兵の亡骸が倒れ転がっている。
また一人、銃弾に頭を撃ち抜かれ緑のパイロットスーツを着たザフト兵が倒れる。

「ったく、よくもまぁ堂々と攻めてくるわね・・・」

クレアはそうぼやきながら物陰に隠れながら銃のマガジンを取り替え弾を込める。さっき、ザフト兵を撃ち抜いて弾が丁度無くなったのだ。
マガジンの交換を終えると上着の下にあるガンベルトからもう一丁の銃を取り出し構える。

「はぁ・・・中立国でこんな事してた私たちに対する天罰かしらね・・・最悪っ!!」

物陰から飛び出し二丁の銃の引き金を引く。ザフト兵二人を撃ち殺しすぐ近くのコンテナの影に隠れる。そのコンテナに向かってマシンガンの弾丸が放たれる。
身を潜め弾丸が止むのを待つクレア。マシンガンを連射している赤いパイロットスーツのザフト兵にもう一人の赤いスーツの少年が話しかける。

「ラスティ、無駄弾を撃つな」

「まだ弾は十分にあるし・・相手はナチュラルだぜ?慎重すぎてもしゃーないんじゃない?」

ラスティと呼ばれた少年兵が気楽に答える。

「ナチュラルだからといって油断するな、戦場で油断は即刻死に繋がると散々言われてきただろう」

「はいはい。とりあえず、此処は俺に任せてアスランは残りの機体の奪取に回ってくれよ」

ラスティはそう言いながらマシンガンの弾倉を取り替える。アスランと呼ばれた少年は油断しきっているラスティに不安を抱きつつも「ああ・・」と答え機体の奪取へと向かう。
マシンガンを構えラスティはゆっくりとクレアの隠れているコンテナへと近寄る。ギリギリまで近寄り一呼吸おいてから飛び出しマシンガンを向ける。

「!?」

しかし、マシンガンのトリガーを引く前にヘルメットに白い布のような物がかぶせられ視界が塞がれる。と同時に下顎を思いっきり蹴り飛ばされ体が宙に浮く。

「ぐはっ!!」

ラスティはそのまま仰向けに倒れる。クレアはラスティの視界を塞ぐのに自分の上着を使い、そのまま真下から彼の顎を蹴り上げたのだ。
蹴り上げたときにラスティのヘルメットから離れた上着を手に取り手早く着こむ。

「くっそ・・・お前!!」

思わぬ不意打ちに逆上したラスティがナイフを抜いてクレアに襲いかかる。

「おっと」

怒り任せに振るわれる攻撃ほど見切りやすい物は無い。正直、格闘戦は苦手なクレアでも簡単に見切る事が出来る。
ナイフによる突きをかわしラスティの腹部にカウンターの膝蹴りを入れる。

「がっ!」

もろに直撃を喰らうがなんとか堪えラスティはクレアに向き直りナイフを振るおうとするが・・・・・その前に頭を銃弾が撃ち抜いた。
そのまま仰向けに力なくラスティは倒れ込む。頭部を撃ち抜かれたのだ間違いなく即死。生命活動を停止したラスティにクレアが冷たく言い放つ。

「ナチュラルだからって油断するからよ、自業自得ね」

機体の奪取に向かっていたアスランは嫌な予感がしてラスティの方を向く。丁度、アスランがラスティを視界に認めたとき彼は頭を撃ち抜かれ仰向けに倒れていた。
銃を構えている白い上着を羽織った女がやったのだろう。仲間を殺された怒りがアスランから一瞬、理性を奪った。

「ラスティ!!うおおおっ!!」

クレアに向かって駆け寄りながらマシンガンを連射する。クレアは真横のコンテナに隠れて弾丸を避け、隠れながら銃をアスランに向け発砲する。
アスランはそれを横っ飛びで回避しマシンガンの弾倉を取り替える。その身のこなしを見てクレアはチッと舌打ちする。中々に出来る相手のようだ。
弾倉を取り替え近くの物陰に隠れるアスランもクレアの動きには少々驚いていた。中々出来る相手と判断する。

「・・・・よし」

クレアをどう攻略するか一瞬の思考の後、アスランは物陰から飛び出してマシンガンの引き金を引く。コンテナの影に隠れて弾丸から身を守るクレアは弾丸の雨が止むと同時に飛び出し銃をアスランに向ける。

「今だ!」

クレアが飛び出して来たのを確認したアスランは手に持っていたマシンガンをそのまま投げつけた。

「なっ!?」

マシンガンを投げつけてくるとは思わなかったクレアは一瞬反応が遅れるがなんとか身をのけぞらして回避する。その体制を崩した所にアスランが潜り込みクレアの腹部に蹴りを入れる。
受けきれず床に仰向けに倒れ込むクレアにナイフを抜いてアスランが飛びかかる。そのナイフをクレアは右腕を盾にして防ぐ。普通ならば深くナイフの刃が突き刺さるはずだがクレアの右腕には何故かそうならない。と言うより妙に腕が硬くてナイフが刺さらない。
それにアスランが困惑している隙にクレアはアスランの腹部を仰向けに倒されたまま蹴り飛ばしアスランをはね飛ばす。

「くっ!!」

仰向けに倒れた体制のままクレアはアスランに向け発砲する。アスランはバックステップでそれをよけて物陰に隠れる。
クレアも体を転がしコンテナの影に隠れナイフを防ぐのに使った右腕を軽く動かす。どうやら問題は無いようでなんの異常もなく動く。

「さっすがに頑丈ね・・・さて、どうしましょうか」

弾数を確認する。両方併せて残り7発の弾丸が残っている。相手はマシンガンを投げ捨てた為、武装はナイフとあと持っていてもハンドガンタイプの銃が一丁だけだろう。
予備のマガジンの持ち合わせはすでに無い。周囲を確認する、新型機を積んでいるトレーラーは丁度、自分が隠れているコンテナの真横にあるが距離がある。飛び出して積まれている自分の機体に飛び乗るという手段もあるが・・・。

「・・・・・・やるしかないわね」

覚悟を決めクレアはコンテナから飛び出して真っ直ぐにトレーラーめがけて走り出した。

「何っ!?」

それを見たアスランはハンドガンでクレアを狙う。トレーラーの真下に滑り込みなんとかハンドガンの弾丸から逃れる。

「クソッ!!」

クレアを逃し忌々しげに吐き捨てるアスラン。これ以上、彼女を狙っても時間の無駄と判断しあきらめて機体の奪取に戻る。
最後に仲間の亡骸に心の中で黙祷を捧げて・・・。



工場区の二階に辿りついたキラ達は其処で起こっている激しい銃撃戦に呆然としていた。此処まで来れば少しはマシだろうと思っていたのだが遥かに不味い状況に足を踏み込んでしまったようだ。
銃撃戦の他にも彼らを唖然とする物があった。工場に並べられたトレーラーとその荷台に並べられた機動兵器の存在だ。

「なんで中立の此処にこんなもんがあるんだ!?」

「俺が知るかよ!!」

タップとライトが驚愕の声を上げる。ケーンも「何かの冗談だろ」と言った感じの表情で機動兵器を見ている。

「やっぱり・・・」

キラの横で機動兵器を見ていた少女が呟き力なくその場に座り込む。

「地球軍の新型機動兵器・・・・お父様の裏切り者ぉーーーっ!!」

少女が悲鳴のような叫び声をあげる。
それに気づいたザフト兵がこちらに銃を向ける。

「冗談じゃない!!」

それに気がついたキラは少女の手を取り無理矢理立たせ走る。

「って、ちょっと待てよ!!」

ケーン達もそれに続き逃げるように走ってキラと少女の後を追う。そのまま全速力で反対側の廊下にあるシェルターまで駆け込む。
キラは空いているシェルターのスイッチを押して中にいる人に話しかける。

「すいません。ドア開けてください!!」

『まだ誰かいるのか!?』

「はい、僕と友達が・・5人いますけど大丈夫ですか!?」

『5人!?此処はもう定員なんだ。反対側のシェルターまで行けるか?』

それを聞いて反対側のシェルターを見る。かなりの距離があり男である自分やケーン達ならばなんとか走って行けるだろうが女であるこの少女には少々キツイ距離だ。

「なら一人だけでもお願いします。女の子なんです!」

『・・・わかった。すまない』

その返答のすぐ後、シェルターのドアが開く。キラは少女の肩を掴みシェルターへと続くエレベーターの中へ誘導する。

「ほら、此処のシェルターに避難して」

「えっ・・オイ、お前!!」

「僕たちなら反対側のシェルターに行くから大丈夫。心配しないで」

そう言って少女を無理矢理押し込んでドアを外側から閉める。少女は何か叫んでいるがそれはキラに聞こえる事はなく少女を乗せたエレベーターはシェルターへと降りていった。
それを確認したキラは胸をなで下ろし反対側のシェルターの方を向く。

「お~い、キラ。どうしたんだよ?」

走って追いついたケーンがキラに聞く。

「早くシェルターに入ろうぜ?」

「此処のシェルターはもう一杯だって。今から反対側のシェルターまで走るしかないね」

「マジかよぉ・・・・まぁ、しゃーないか」

キラの言葉に落胆するがすぐに気を取り直し息を整えて反対側のシェルターに意識を向ける。

「さぁて、行きますか」

4人は反対側のシェルターに向け全速力で走り出した。



トレーラーの荷台に積まれたアークラインの上で銃を二丁構えたクレアが近くのザフト兵を撃ち殺していく。胸部にあるコクピットハッチを開きコクピットに滑り込む。
計器類とOSを作動させ操縦桿を握りしめる。

「やりたい放題暴れてくれたお礼をしてあげるわよ」

アークラインの青いゴーグル状のカメラに光が灯り拘束具を引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。

「何!?」

アークラインの起動に驚くザフト兵を尻目にクレアは左腕の三連装機銃をザフト兵が固まっている工場入り口周辺に向け躊躇いなく弾丸を連射する。
ザフト兵は弾丸を避けるためにちりぢりになり逃げまどう。逃げるザフト兵は残りの友軍に任せて工場の外へと向かう。

「MSが4機・・・ジンね。これぐらいならどうにでもなるか!」

工場の外へ飛び出したアークラインはすぐさま、目の前にいたジンに三連装機銃を向け至近距離から連射しそのボディを蜂の巣へと変え沈黙させる。

「此奴・・・敵が乗ってるのか!!よくも仲間をやってくれたなぁっ!!」

アークラインに気がついたミゲルはマシンガンを構えアークラインに向け放つ。

「色が違うって事は・・・エースパイロットって事かしらね。厄介な!!」

アークラインの背部スラスターをふかし、その場から飛び上がってマシンガンによる銃撃から逃れ三連装機銃で反撃する。ミゲルのジンはそれを後ろに下がることで回避し、そのまま後ろに下がりながらアークラインへとマシンガンを連射する。
空中を飛び回りその弾丸を回避しながらアークラインは工場区から離れていく。アークラインの行動に注意を向けながらミゲルが残りの二機に通信をいれる。

「この白い奴は俺が押さえる。お前らは残りの機体を!!」

『了解した。任せろ』

そのまま、アークラインとミゲルのジンは互いに機銃とマシンガンを撃ち合いながら工場区から離れていった。



工場の二階を走っていたキラ達だが突如、目の前が爆発し壁が崩れ反対側のシェルターに行くための道が塞がれてしまっていた。

「ここまで来てそりゃねぇよ!!」

瓦礫に向かってタップが叫ぶ。反対側のシェルターに行けないとなると工場の外にでなければシェルターは無い。しかし、工場から出るには未だに銃撃戦が行われている一階を抜けなければならない。
他の選択肢は用意されていないようだ。

「降りる・・・か」

ライトが恐る恐る一階をのぞき込む。トレーラーの荷台からさっき一体の機動兵器が起きあがり外へと飛び出した時の混乱で少しはマシになっているような気がしないでもない。
銃撃の音も此処に来たときよりは少なくなっている。しかし、完全に止んだ訳ではないので危険な行為には違いない。
4人が躊躇している間にトレーラーの荷台の上にいた赤いパイロットスーツのザフト兵がこちらに気がつき銃を向け発砲する。

「うわっ!!」

4人は身を屈め奥に引っ込んで銃弾から逃れる。

「俺たちは軍人じゃねぇぞっ!!バッカヤローーーッ!!」

「気がついてねぇのかよ、クソッタレ!!」

銃弾は止んだが今飛び出せばまた撃ってくるだろう。このままでは一階に下りる事などかなわない。
キラはしばらく考えた後、ゆっくりと立ち上がり始める。

「おい、キラ!」

「僕がおとりになるから、その隙にケーン達は工場の外に」

それだけ言ってキラは一気に走りだした。赤いパイロットスーツのザフト兵は銃をキラに向けて発砲する。キラは階段までたどり着くと速度を落とさずに駆け下り途中の踊り場から一気に下のトレーラーの荷台まで飛び降りる。
ザフト兵は其処で自分が撃っていた相手は民間人だと言うことに気がついた。更に、特別な訓練を受けていないはずの民間人では考えにくい身のこなしに銃を向けていたザフト兵ーーーアスランは驚く。

「なっ、まさか・・コーディネイターなのか」

元からある程度、身体能力に優れているコーディネイターなら民間人でもあの身のこなしは納得できる。しかし、その事よりも気がつかなかったとはいえ民間人相手に発砲していた自分にアスランは嫌悪する。
荷台に降り立った少年が顔を上げ周囲を見渡しうまい具合に開いていた機動兵器のコクピットに飛び込み身を隠す。一瞬しか見えなかった少年の顔・・・その顔にアスランは見覚えがあった。4年前に月で分かれた自分の親友。

「・・・キラ?」

キラはうまい具合に開いていた機体のコクピットに飛び込み身を潜めていた。(ご都合主義って本当にあるんだな)と頭の片隅で思ったりしたがそんなことはどうでもいい。
しかし、此処も安全ではない。すぐに移動しなければならないが外のザフト兵はおそらく自分を狙って銃を向けているだろう。
ケーン達はうまい具合に一階に降りて来れただろうか少し心配になる。外では未だに銃撃が続き危険な状況だ。

「・・・よし」

覚悟を決めキラは機体のハッチを閉じる。以前、学校の授業にあった工業用MS実習で動かした経験はあるのでどれがどの計器なのかはわかる。
手早く計器のスイッチを入れてモニターをつける。

「戦闘用でも工業用でも同じMSには違いないんだ・・動け!!」

スロットルを全開にいれる。機体のアイカメラが機動完了を告げるように光りゆっくりと拘束具を引きちぎりながら立ち上がる。

「動いた・・・」

それを見ていたアスランが呟く。まさかさっきの民間人が動かしているのか と思考する。

「キラ・・・いや、あいつが此処にいるはずがない・・」

そう自分に言い聞かせ自分もすぐ横にあったトレーラーの荷台に積まれたMSのコクピットへ潜り込んだ。
それとほぼ同時にキラの乗り込んだ灰色のMSは完全に立ち上がり、その姿を現していた。

「立たせた。よし、後は・・・」

キラはモニターで周囲を確認しケーン達の姿を探す。3人は丁度、階段を下りた所で自分が乗っている機体を見上げている。
それを認めたキラは外部マイクを使い3人に呼びかける。

『何やってるんだ、早く逃げろ!!』

「おいおい・・キラが動かしてるのか・・まさか」

機体から聞こえてきたキラの声に驚きながらも3人は階段から離れて物陰に隠れながら移動する。キラもそれを確認してから機体を歩かせ外にでる。

「この機体なら十分に囮になる筈だ」

一歩踏み出すたびに何故かふらつくこの機体にイライラしながらも外へ出る。其処には丁度、ジンが二機マシンガンを向けこちらを見ていた。

『奪取したのか?』

ジンのパイロットから通信が入り、ゆっくりとジンがこちらに向かって歩いてくる。

「く・・来る。どうすれば・・・・」

キラはとりあえず走って工場区から離れようと機体を動かすが走るどころか足がもつれてその場にうつぶせに倒れ込んでしまう。
思わず計器類に頭をぶつけてしまう。

「痛っ!!」

『おい、大丈夫か?』

通信が来るがそれに答えるわけにいかない。受信オンリーにしているためこちらの声が相手に聞こえる事はないがいつまでも答えないでいると怪しまれる。
まぁ、囮になってケーン達を逃がすことが目的なので問題ないかもしれないが。

「このMS・・・いくら何でも動きが酷すぎる。まさか・・・」

キラはキーボードを引っ張り出しOSのデータを呼び出す。ディスプレイに表示されたOSデータを見たキラは愕然とする。なぜなら、これほどの機体を動かすには無茶というかお粗末にもほどがあるデータが組まれていたのだ。いや・・これで組んでいるというのもおこがましい。

「満足に動かないわけだよ・・・こうなったら、とことんやってやる!」

キラはそのままOSのデータを一つずつ急いで組み直し始める。彼も遺伝子改良で生まれたコーディネイターであるし元からプログラミングは得意分野。
常人とは比べ物にならない速度でOSを動かしやすいように組み直した。

「これで・・・」

『なんとか言ったらどうだ?』

ジンがストライクのすぐ近くまで近寄ってきているのを確認したキラはスロットルを入れ直しストライクを一気に立ち上がらせる。

「行けぇ!!」

『なにっ!?』

立ち上がりながらジンの頭部にアッパーを食らわせる。ジンのパイロットは驚愕すると同時にこの機体の奪取は失敗していると理解した。マシンガンを向け躊躇無く発砲する。
キラはマシンガンを避けながら機体データを調べる。

「PS装甲・・・・これか!」

ディスプレイのすぐ近くにあるスイッチを押す。灰色だった機体に青と白を基調としたカラーリングが浮き上がる。と、同時にマシンガンの弾丸が直撃し衝撃が来る。しかし、機体にはまったくダメージがない。

「凄い、マシンガンの直撃に耐えてる。・・これなら!!」

キラは機体を走らせジンに体当たりを決める。回避も防御も出来ないままジンは仰向けに倒れてしまう。もう一機のジンが近接戦闘用武装である重斬刀を抜き襲いかかるがそれを右腕で止めカウンターの左ストレートを頭部に決めてはじき飛ばす。

「ぐあああっ!!」

ジンは背後のビルを巻き込み倒れ込む。その隙にキラは機体に装備されている武装を調べる。

「武器は・・頭部バルカン砲イーゲルシュテルンと・・・コンバットナイフ、アーマーシュナイダー・・これだけか!!」

腰部に収納された二本のコンバットナイフ、アーマーシュナイダーを引き抜いて構える。
目の前には重斬刀とマシンガンを構えたジンが二機。キラはそれを認め機体を走らせる。

「うわああああああっ!!」

二機のジンと一機の白いMSが激突した。


続く


《次回予告》

ザフト軍MSジンを退けたキラの前にラウ・ル・クルーゼの駆るMSシグーが立ちはだかる。
一方ミゲルと戦闘を繰り広げていたクレアは一人の少女を保護する。
激しさを増すザフトの襲撃に今、大天使の名を持つ戦艦と龍の名を持つ騎兵隊が目覚める。

スーパーロボット大戦エヴォリューション第2話 「大天使と龍騎兵」

戦火の大地、駆け抜けろ ドラグナー!!



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