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超重神山さんDESTINY

超重神山さんDESTINY

第5話 クロスボーン・バンガード

第5話 クロスボーン・バンガード

フロンティアサイドのコロニーの一つ、フロンティア4。
そのコロニーのドックにアークエンジェルは入港していた。ギガノスとの戦闘を観測していたらしく比較的あっさりと入港は許可された。
現在、マリューはナタル、ダグラスと共に補給などの手続きのために軍司令部へと赴きクレアとフラガはキラ、ケーン、タップ、ライトの4人を引っ張って機体の整備を行っていた。

「なんで俺達が機体の整備しなけりゃいけねぇのよ・・・・」

「文句言わないの。人手不足なんだから仕方ないって、それに自分の機体を自分で整備するのは常識よ」

「嬢ちゃんの言うとおりだな。坊主どもも口じゃなくて手を動かせ、手を」

「「「「は~い・・・」」」」

ブツブツと文句をたれながらも機体の整備を行う4人。
元々は機械工学を学んでいた学生だけに一通りの手順などを教えるだけですぐに整備をこなせるようになった。
授業で作業用MSの操縦から基本整備までを習っていたということだがそれが役立っているのだろう。

「やれやれ・・・近頃の若い奴は」

とぼやきながらフラガがゼロの整備を黙々と続ける。それを聞いたクレアはぼそっと呟く。

「・・・・おっさんですね・・・大尉も」

「グハッ!!」

聞こえていたらしいフラガは吐血しそうな勢いで吹き出し精神的なダメージを受けがくっと力つきたかのように倒れこんだ。
クレアはそれを見て「あっちゃぁ・・・」と呟く。結構気にしていたのか自分ではまだまだお兄さんのつもりだったのかは定かではないがかなりの精神的ダメージを与えてしまったようだ。
見ると痙攣までおこしている。

「・・・・・逃げよっと」

丁度アークラインの整備は終わったし可変型プラズマランチャーも予備の物を引っ張り出したのでなんとかなったし・・・・・・ということでクレアはそそくさと格納庫を後にした。


「とりあえず・・・一安心できるな」

アークエンジェルの食堂で食事を取りながら操舵士のノイマンが呟く。

「ああ、クルーゼ隊とプラート隊の襲撃を受けた時はどうなるかと思ったけどな」

それにCIC担当のチャンドラーが頷いて答える。
人手不足で実戦経験皆無なこの艦で此処までこれただけでも奇跡に近い。
まさか、あれだけの戦闘をイキナリこなす事になると思っていたクルーはいなかったようでフロンティアサイドに着いた途端、安心し気を抜いたクルーは大勢いる。
無論、ナタルとダグラスに大目玉食らったのは言うまでもないが。

「フラガ大尉達のお陰だよな、いてくれなきゃ今頃は三途の川わたってたぜ」

其処にフレイとミリアリアが楽しげに会話しながら食堂へと入ってくる。
ヘリオポリスから乗り込んだ彼女たちも食事は此処で取っているのだ。

「あれ?いつも一緒にいる坊主達はどうした?」

「格納庫の4人組誘ってからくるって言ってましたよ」

チャンドラーの問いに答えながらミリアリアは食事のトレーを自分の分とフレイの分の二人分手に取り席に座る。
フレイも二人分の水をコップについでミリアリアの隣へと座る。

「此処にはいつまでいるんですか?」

「そうだな・・・補給やらなんやらで・・・・まぁ、一日二日って所だろうな」

二人と入れ替わりに食事を終えたノイマンとチャンドラーがトレーを返却棚へと置きながら答える。

「まぁ、補給が終わったらすぐにでも月にむかって出発だろうしな。」

「ついでにクルーの補給もしてくれりゃ助かるんだけどな」

「確かにな、人手不足だしこの艦・・・」

そう言い残して二人は食堂を後にする。

「補給終わったらすぐかぁ・・・・また襲われるのかしら?」

「かもね・・・アークエンジェルって軍艦だし・・・・キラ達もまた出るのかな・・・」

月に着くまでという条件でMSとメタルアーマーのパイロットをやっている友人達の身を案じる。
戦闘に出るということは人と殺し合いをすると言うこと。ほんのちょっと前まで普通の学生だった彼らが戦闘に出て人殺しをしている。
なんだか複雑な気分になる。

「何、鬱な顔してるの?」

二人が鬱な表情でたたずんでいると食堂へクレアが入ってきた。

「あ、クレアさん・・・どうしたんですか?」

「どうしたって・・・食事に決まってるでしょ」

ミリアリアの問いかけに苦笑しながら答え自分の食事を受け取り席に座る。
ふと思い出したようにフレイがクレアに声をかける。

「そういえば、まだちゃんとお礼言ってませんでしたね。ヘリオポリスで助けてくれてありがとうございました」

そう言って頭を軽く下げる。クレアは手を振って言う。

「いいってお礼なんて言わなくても。声かけられなかったら気がつかずにいっちゃってたし」

「そうですか?まぁ・・助けてくれた事には変わりないしお礼はちゃんと言っておかないと」

と、フレイは笑顔で言う。
「まぁ、そういうことならいいけど」とクレアも呟き自分の昼食を口に運ぶ。
暫くしてトールとサイがキラたちを連れて食堂に来たのでそのまま9人で食事を取り始める。

「そう言えば・・・・クレアさんって彼氏いるんですか?」

ミリアリアが興味本位で聞く。年頃の子としてはなんだかんだで気になる話題の一つだ。
それにクレアは素っ気なく答える。

「彼氏?んなもんいないわよ。っていうか初恋もまだだし」

それを聞いた一同は口にしていたその答えに驚き水やスープなどを思わず吹き出す。
彼らの観点からしてクレアほど美人なら彼氏の一人や二人はいると思いこんでいた・・・オマケに初恋もまだという予想外のおまけ付きな答えに思わず吹き出してしまったのだ。
一同の心は「マジかーーーーーーーっ!?」の一言で見事にシンクロしていた。

「彼氏いないって・・・それ以前に初恋まだって・・・18歳でしたよね・・・今時珍しい・・・」

「天然記念物みたって感じだな・・・うん」

「・・・あんた達、喧嘩売ってる?」

彼らの珍しい物でも見るような――18にもなって初恋すらまだというのは実際珍しいと思うが――視線にクレアの顔が引きつる。

「いや・・・あまりにも予想外の答えだったので・・・ついね」

「初恋までしてないとは思わなかった・・・・・・」

「クレアさんって結構もてると思うんですけど・・・」

サイの言葉を聞いたクレアはちょっと表情を暗くし言いにくそうに呟く。

「まぁ・・・自分で言うのもアレだけど・・もてる方だったかな・・・・同姓に」

最後の「同姓に」と言う部分に全員が敏感に反応した。と同時に、一同に共通の疑問を持たせた。
その疑問に勇気を振り絞りフレイが問いかける。

「クレアさんって・・・・もしかして・・・・」

「そっちの趣味はないわよ・・・・・まぁ、中には明らかにそっちの趣味の子もいたけどさ・・酷いのだとストーカーにまでなったなぁ・・・アハハ・・・」

よっぽど嫌な思い出なのだろう、乾いた表情と乾いた笑いのダブルコンボでクレアは暗い雰囲気を醸し出している。

「で・・・でも、同姓にもてる人っているよね。格好良いとかって理由で憧れの対象になったりとか」

「確かに・・・・学校の先輩にもいたよな。クレアさんってそういうタイプなんじゃないっすか?」

キラとライトがなんとかフォローを入れる。
二人の言うとおり同姓にもてるタイプの人間は確かに存在するのである。

「だからって・・・ストーカーにまでなるか普通・・・・・」

が、クレアにとってはフォローにならずであった。
(よっぽど酷い目にあったんだなぁ・・・)と一同は心の中で同情した。同時に(よく女性恐怖症にならなかったな)と思ったが・・・・・・。
その後、ケーンとトールが必死の努力で無理矢理に話を切り替え&盛り上げなんとか楽しい昼食へと持っていった事で食堂を包んでいた暗い雰囲気は物色された。


フロンティアサイドから少し離れた位置にある小さなデブリ帯――宇宙開発、戦争などで生まれたゴミの集まり――の中、三隻の戦艦が身を隠していた。
その中でもっとも大型の戦艦、ザムス・ガルのブリッジで二人の男が報告書を無表情で読んでいた。
もっとも二人の内の一人は顔と言うよりも頭部全体を鉄の仮面で覆い隠し表情自体が読みとれないが。

「ザビーネ艦隊、ドレル艦隊、ランスロー艦隊・・・・・・全て配置についたようです」

「うむ・・・作戦は予定通り、ドレル隊がフロンティア4へ進入。ザビーネ、ランスロー両部隊はドレル隊の援護を」

仮面の男、カロッゾ・ロナが目の前にいる男ジレに言う。
ジレはそれに頷き各部隊への通信回線を開く。モニターに各部隊の指揮官である三名、ザビーネ・シャル、ドレル・ロナ、ランスロー・ダーウェルの顔が映し出される。

「作戦は予定通りに開始する。この作戦に我ら、クロスボーン・バンガードの命運がかかっていると言っても過言ではない。各員の奮闘を期待する」

『『『はっ!』』』

それぞれ敬礼し通信を切る。
それを確認したカロッゾが静かに作戦の開始を告げる。

「MS隊発進。目標・・・フロンティアサイド」

フロンティアサイド周辺にそれぞれ潜んでいた4つの艦隊が動き出す。MSを次々と発進させ各々がフロンティアサイドへと迫る。
4つの艦隊の総指揮を執る旗艦ザムズ・ガルの格納庫を一望できるブリーフィングルームに二人の男がいた。
一人は短めにそろえた白髪、長身で体格の良い体、整った顔立ちと俗に言う美形顔の20代前半の男。
一人はセミロングの金髪に黒い覆面、黒い服を着込んだ16歳前後の少年。二人は格納庫から発進していくMSを退屈そうに眺めていた。

「先発隊が出撃しているな・・・・あの程度の連中で何処までやれるか」

白髪の男が出撃していくMSを眺めながら言う。彼にしてみれば出撃するMSの動きは全て亀のように遅い。
それに対しソファーに座っていた覆面の少年が言う。

「連合の連中など所詮は腑抜け揃いだ。あの程度の雑魚達でも事足りる・・・・俺達が出るまでもないだろうさ」

「そうか?俺としては・・・・戦場で殺しを楽しみたいので雑魚共だけに獲物を捕られるのは我慢ならないが」

白髪の男の言葉を聞いた覆面の少年は驚いたように言う。

「ほぉ・・・・お前が、女を嬲る事以外に楽しみを持っているとは思わなかった・・・意外な発見だ」

少年の明らかに馬鹿にしたような口調を「フンッ」と鼻で笑って聞き流す。
そして、視線を窓の外の宇宙空間に向け呟く。

「今回は・・・・良い予感がするんだよ」

「良い予感?」

「ああ・・・・今までで最高の敵・・・それも女と出会いそうな予感がするんだ。早く出撃して、そいつをこの手で嬲りつくしたいのさ・・・」

男の狂気を感じさせる言葉を聞いた少年はあきれたように呟く。

「結局それか・・・・その名の通り、クズを地でいく男だな・・・ガイリーズ」

ガイリーズ、クズ野郎の意味を持つ名前で呼ばれた男は嬉しそうに口元をゆがめ笑みを造る。

「クズか・・・・俺には最高のほめ言葉だな」


「武器弾薬に予備パーツ用のゲシュペンスト一機に十分な食料と水。オマケに月本部からもうすぐこっちに迎えが来るって・・・怖いぐらいに話が進んでるねぇ」

補給手続きから戻ったマリュー達から受ける補給物資のリストを見せて貰ったフラガが言う。

「ええ、あと半日もすれば来るそうです・・・・無事に合流できれば良いんですけど」

「心配しなさんなって、此処の戦力って結構あるんだろ?攻め込んでくる敵なんかいないって・・・いるとしても余程のバカか、大艦隊だろうさ」

そう言ってフラガは二つあるコップにさっきコーヒーメーカーで作ったホットコーヒーを注ぐ。

「砂糖とクリームは?」

「あぁ・・・クリームだけで」

「あいよ」

マリューの分のカップにクリームだけ入れてかき混ぜる。自分の分には砂糖だけ入れかき混ぜる。
適度に混ぜてからマリューにカップを手渡す。

「ありがと」

「どういたしまして」

それを受け取り口に運ぼうとしたその時、強い振動がドック全体を襲った。
当然、アークエンジェルにも振動が襲いかかる。

『艦長!!至急ブリッジにあがってください・・・って・・・・どーしたんですか?』

艦内通信機で艦長室に繋げたナタルは机の上に顔を押さえて突っ伏しているマリューと同じく顔を押さえて床に倒れもがいているフラガを見て困惑した。
さっきの振動で入れたばかりの熱いコーヒーがこぼれ丁度、口に運んでいた最中だった事もあり見事に顔にかかった為にこのような状態である事を彼女は知るよしもないが。

『とりあえず・・・ブリッジにあがってくれますか?』

「りょ・・・了解・・」


タオルで顔を拭いてからマリューはブリッジへとあがった。
フラガは直接格納庫で待機すると言って今は格納庫に向かっている。

「何が起こったの?」

「わかりません、急にドック全体を振動が・・・・10分以上、司令部とも連絡がつきません」

「状況は不明と言うこと?」

「ええ・・・しかし、先程の振動からして爆発の可能性も。状況もヘリオポリスに酷似していますし」

ダグラスの言葉を受けてマリューは考え込む。確かに今の状況はヘリオポリスの時に酷似している。
しかし、それだけで敵襲と判断するのも早計すぎる。だが、隕石だとしてもこれだけ長い時間、司令部と連絡がつかないのもおかしい。

「・・・何にしても情報が無さ過ぎるわ。かといって此処にいても情報は手に入りそうにないし・・・艦は動かせる?」

「えっ・・・武器弾薬の補充はまだですが動かせますが・・・」

「艦を動かすのですか?」

ナタルの問いかけにマリューは頷く。

「ええ・・此処にいたって何も出来ないし、情報も手に入らないわ。万が一・・敵襲ならドッグにいるのは危険よ。状況確認のためアークエンジェル発進します」

「了解しました」

「総員第一戦闘配備。パイロットは搭乗機にて待機」


『総員第一戦闘配備。パイロットは搭乗機にて待機。繰り返す・・・』

艦内アナウンスにより総員に戦闘配備が伝えられる。
食堂で他愛の無い話を続けていたクレア達にも当然それは伝えられる。

「戦闘配備だぁ!?」

「此処は安全じゃなかったのかよ!?」

「んな事言っても仕方ないでしょ。さっきの振動と関係あるみたいだし・・・さっさと行くわよ」

一足先に食堂を飛び出したクレアに続きキラたちも食堂を出て格納庫へと向かって駆け出す。

「みんな・・また戦争に行くんだよな」

トールが呟く。戦闘配備と言うことは出撃もあり得るだろう。
友人である彼らだけを戦わせて自分たちだけ何もせず此処にいていいのだろうかと、トールの言葉で彼らの中にそういう考えが浮かぶ。

「そういえば・・・この艦、人手不足って言ってたよね・・・」

ミリアリアが思い出したように呟く。
食堂から出る間際にノイマンとチャンドラーが人手不足を嘆いていたことを思い出したのだ。

「俺達にも何か・・・出来る事、あるはずだよな」

意を決したように席を立ったサイが言う。
それに続いてトール、ミリアリアも席を立ち彼に頷いて意見に同意する。
そんな中、フレイただ一人はどうしたものかとオロオロと席に座ったままである。

「えっと・・・私は・・・・」

「無理に付き合わなくていいわ。私もトールも自分で決めた事なんだし、フレイも自分で決めて」

フレイにミリアリアが優しく言葉をかける。彼女もトールも自分で決めてサイについていくのだ。
無理にフレイまで付き合わせるつもりはない。こういう物は自分で決めるべき事である。

「・・・・・・・うん、私は・・・止めておく」

「そっか、それじゃ俺達はブリッジに行って来るから部屋でじっとしてろよ」

食堂を後にしながらトールが言う。
その様子をフレイは見届けてから駆け足で居住区へと戻っていった。


更衣室でパイロットスーツに着替え格納庫へと出たクレア達はそれぞれの機体のコクピットへと向かう。

「ったく、此処で出撃なんてね」

フロンティアサイドで出撃する事になるとは思ってなかったクレアが愚痴を呟きながらコクピットへと潜り込む。
素早く機体を起動させ発進準備を整えながら通信をブリッジへ繋ぐ。

「敵襲ですか?」

『まだ断定は出来ないわ。何せ情報が少ないから・・・・レナード少尉、貴方とキラ君に先行して欲しいの。頼める?』

通信モニターのマリューが言う事からして敵襲かどうかはわからないがさっきの振動についての情報を集めるために出ると言うことだと察する。
クレアは少し考えるが確かにそれしか無いだろう。アークラインはレーダーと通信能力が他の機体より強化されているし戦闘力もあるので現在の戦力の中では偵察に一番向いている。
ストライクをつけるのは念のための護衛であろう。通信、策敵などの能力はD-3が一番勝っているのだが足の速さではアークラインに劣るのではずされたのだろう。

「わかりました、偵察してくれば良いんでしょ?」

『お願いね。十分に気をつけて』

通信が終わると同時にアークラインとストライクのメンテナンスベットがカタパルトへと移動する。
右舷カタパルトが開き先にストライクが発進準備を整えられる。

『キラ』

不意に通信機から聞こえてきた聞き慣れた少女の声にキラは驚き通信モニターを見る。
其処には軍服に身を包んだミリアリアの姿が映されていた。

「ミリアリア!?何で!?」

『ミリィだけじゃ無い。俺とトールもいるぞ』

二つある通信モニターのもう一方に同じく軍服に身を包んだサイの姿が映し出された。

『お前やケーン達ばっか戦わせるのもなんかアレだしな、俺達は俺達に出来る事しようって決めたんだ』

『ブリッジはいるなら軍服着ろって言われたのよ。以後、私がMS発進管制を担当するからよろしくね』

まさか、彼らがこのような行動に出るとは思っていなかったキラは驚きと共に不思議と心強さのような感情を覚えた。

「こっちこそ、よろしく」

『うん。ストライカーパックはエールを装備。ストライク発進準備完了』

友人としての会話を終えてから今、任された仕事を開始する。
ミリアリアの管制と共に発進準備が整えられエールストライカーが装備される。

『進路クリア、システムオールグリーン。ストライク発進どうぞ!』

「キラ・ヤマト、ストライクガンダム行きます!!」

ストライクがカタパルトから射出され発進する。
その直後、アークラインがカタパルトに接続される。

『クレアさん、キラの事・・・頼みます』

通信機から聞こえてきたミリアリアの声にクレアも少し驚くが其処に座っている意味をすぐに察して笑顔で答える。

「OK、お姉さんに任せなさいって。その代わり、あなた達は自分の仕事をちゃんとこなしなさいよ」

『はい!進路クリア、システムオールグリーン。アークライン、発進どうぞ!』

「クレア・レナード、アークライン出ます!!」

アークラインがカタパルトから射出され発進する。
外で待機していたストライクと合流、そのままドッグの外へと向かう。
その途中、クレアはストライクの肩を掴み接触通信で回戦を開く。

「キラ君」

「えっ・・・なんですか?」

「貴方・・・良い友達持ってるわね」

「・・ええ、まぁ」

クレアの言葉に笑顔で答えるキラ。
やがて、二機はドッグの外へと飛び出し宇宙空間へと出る。その二機を出迎えたのは見たこともない3機のMSにドートレスが破壊されている光景だった。
ドートレスのマシンガンをことごとく回避し手に持ったランサー型の武器の銃口から弾丸を連射しドートレスを無惨な姿へと変えていく。

「な・・・何なんだ、一体?」

「さぁ・・・とりあえず、やばそうなのは確かだけど・・・」

ドートレスを破壊したMSはアークラインとストライクの方へと向き直る。そして、ランサーを突き出し襲いかかってくる。
舌打ちしそれを回避するアークラインとストライク。敵は分散し一機がアークライン、二機がストライクへと狙いを定め襲いかかる。

「問答無用ってわけ・・・このっ!!」

三連装機関砲を牽制として放ちながらプラズマランチャーをライフルモードへと変形させる。
そして、アークエンジェルに敵がいる事とすぐにドッグから出るようにと文章で通信を送る。
敵はランサーをまっすぐにつきだしてくる。それを避け間合いを取ってライフルを放つ。しかし、敵MSは左腕を胸部の前へと持っていくと内蔵されていた装備を作動させる。
腕分の装備が展開、ビームが放たれそれがシールドのように形となりアークラインの放ったビームを防ぐ。

「なっ・・・ビームシールド!?」

敵MSが展開したビームシールドに驚愕の声をあげる。
ビームシールド自体はすでに連合でも開発が進められている装備であるがエネルギーなどの問題から今だ未済用の装備だ。当初はストライク等のGAT-Xナンバーズにも装備が予定されていたがエネルギー問題を解決出来ず装備されなかった経緯もある。
それを実用化しているMSを運用しているこの集団、ただ者では無い事は確かだ。オマケにこの敵パイロット、なかなかに場数を踏んでいる熟練のようで動きに無駄がなく的確な攻撃をしてくる。
接近戦では相手に分がある上にクレアの十八番である遠距離戦ではビームシールドがあるため決定打は与えにくい。クレアにとって相性が最高に悪い相手である。

「これじゃキラ君も苦戦してるわね・・・とっとと片づけて応援に行きたいけど・・」

もう一度ライフルのトリガーを引くがそれはビームシールドで受け止められる。そして、一気に接近してきた敵がランサーを突き出す。
機体を捻らせて回避し再び間合いを取る。これでは応援に行くどころではない。クレアは敵の鬱陶しさに苛立ちを覚えながら相手の間合いに入らないよう戦うほか無かった。


「・・・・・・これは・・?」

ザムス・ガルのブリーフィングルームのソファーでくつろいでいた覆面の少年は何か妙な感覚を覚え立ち上がり窓の外の宇宙を見る。
其処からは戦闘が行われているのだろう、ピンク色の閃光が時折確認できる。少年は窓の外をじっと見ながらこの感覚の正体を探る。

「・・・どうした?」

ガイリーズが少年に話しかけるがそれに答えず少年は窓の外をじっと睨むように見ている。二分ほど時間が過ぎた頃、少年の口から不気味な笑いがこぼれる。

「ククク・・・」

やがて、それは押さえきれない感情となり爆発する。

「ハハハハハハハハハッ!!!ようやく・・・ようやく見つけたぞ!!」

少年は声をあげて笑い出す。そこからは喜びと憎しみと怒りが混ざり合った感情が読みとれる。
笑い終えた少年はソファーの上に置いていたヘルメットを手に取り格納庫へと向かう。

「出るのか?」

「ああ、探し続けていた獲物がいる見たいなんでな・・・・」

それだけ言い残し少年は格納庫へと出る。
ガイリーズは鼻で笑い小声で呟く。彼は知っているのだ、少年の獲物が誰なのかを。少年が何者なのかを。

「まぁ、せいぜい頑張ってこいや・・・・・・失敗作のミスティック」

少年、ミスティックはメンテナンスベットに固定された自分の機体、青紫のカラーリングで統一されたガンダムのような頭部を持つ機体のコクピットへと潜り込む。
手早く起動させ発進準備を整えカタパルトへと向かう。

「出るぞ!!」

機体がカタパルトから射出され漆黒の宇宙へと飛び出す。
レヴィアタン、嫉妬の魔王の名を冠した機体の目が赤く邪悪な光を灯す。

「さぁ、感動の兄弟再会と行こうじゃないか・・・・キラ・ヤマトォッ!!」


突然の襲撃を受けたフロンティアサイド駐留軍は戸惑いを隠せなかった。
いくつかの艦隊は迎撃体勢が整う前に壊滅させられ、展開できた艦隊も敵MSに次々と撃破されている。
予想だにしていなかった奇襲により連合のパイロットが浮き足立っていたのもあったが敵パイロットに熟練した腕を持つ者が多いのだ。
MS性能もわずかに敵の方が上。性能とパイロットの腕の差が相まって連合軍は為す術が無く返り討ちにあっていた。

「ええい、こうまで一方的にやられると言うのか!!」

フロンティアサイド駐留軍司令官は司令室にもたらされる報告を聞き思わず叫ぶ。
此処の戦力を相手に仕掛けてくる相手など存在しない。そう思いこんでいた駐留軍の怠慢がこうまで響いているのも事実だが司令官はそんなことなど考えてはいない。
このままでは自分のキャリアと命に関わる。その事しか頭にないのだ。キャリアに傷が付くのも嫌だが命を失う方がもっと嫌だ。
現在の戦況は駐留軍に不利な状況、このままでは全滅の可能性も十分にあり得るだろう。

「こんな所で終わってたまるものか・・・・」

小声で呟く司令官。周囲の目を盗み誰にも気がつかれる事が無いようにこっそりと司令室を後にしようとする。
此処を出て出向準備中の艦に乗り込み逃げるという算段を頭の中で描き実行に移そうとする。

「司令!!敵機がこちらに!!」

「何だと!?」

オペレーターの声に驚き、思わず足を止め声を上げる。
と同時に司令室の目の前に一機の黒いMSが肉薄、司令室にマシンガンが撃ち込まれ爆発した。

「これが連合の実力だと言うのか・・・・・腑抜け揃いだな」

黒いMS、ベルガ・ギロスのパイロットである眼帯の男、ザビーネ・シャルが呟く。
最初からそれほど期待していた訳でもないし戦いが楽しみという訳でもないが此処まで張り合いが無いとさすがに落胆する。
出撃からものの数十分で彼の率いるザビーネ艦隊は連合駐留軍の無力化という役目を果たしてしまったのだ。隊から数人の戦死者は出た物の壊滅的といった被害は受けていない。

『ザビーネ隊長、ドックの制圧完了しました』

緑色のMS、ジェニスに乗った部下が任務完了の報告を通信で入れる。

「こちらの被害は?」

『戦死者が5名と負傷者が10名、以上です』

「了解した、補給が必要な機体は艦へ戻れ。それ以外は此処の守りと他の部隊の応援を」

指示を出して通信を切る。こちらの被害も決して少なくは無いが敵に与えた被害と差し引けば許容範囲内だ。
部下達もこの日のために積んできた訓練の成果が出ているのか順調に役割をこなしている。もっともクロスボーン・バンガードの構成員、特にパイロットは行き場を無くした旧・宇宙革命軍の残党達で構成されているため元から練度は高めな者が多かったのだが。
ザビーネは機体の状態をチェック、まだ補給を受けるほど消耗はしていないと判断し他の隊の応援に行くため機体を動かした。


クレアからの連絡を受けたアークエンジェルはすぐにドックから移動し宇宙へと出ていた。
付近に敵影は確認できないが遠くで爆発のような閃光がいくつか確認出来る。

「アークラインとストライクから通信は?」

「呼びかけを続けていますが・・・応答ありません」

「二機ともレーダーで確認できません。どうやら範囲内から出ているようで・・・」

ナタルの問いにミリアリアとチャンドラーが答える。
先に出撃した二機と先程から連絡が取れないのだ。この状況で孤立する事は死を意味する、一刻も早く合流したい所なのだが・・・・・・。

「応答があるまで通信で呼びかけて、とにかく早く見つけないと・・・」

マリューの言葉からは焦りが感じられる。先行を命じたのは自分だし、あの状況では必要だったがこのような事になるならしなければ良かったと後悔する。
一刻も早く合流しなければ二人とも危険だがかといって捜索にこれ以上は艦載機を裂くことは出来ない。アークエンジェルが沈んでしまっては元も子もないのだから。

「レーダーに反応!!艦5、MS30!!」

「駐留軍じゃないのか!?」

「いえ、連合の識別コードは出していません!!」

それならば十中八九、敵の部隊であろう。
すでにMSを展開している事から見て、問答無用で仕掛けるつもりのようだ。

「こんな所で沈められる訳にはいかないわ・・・ゼロとD兵器を出撃させて!!アークエンジェルを防衛しつつ此処から離脱します!!」

「イーゲルシュテルン、バリアント、スレッジハンマー、ゴットフリート起動!!」


アークエンジェルに接近する巡洋艦パテオのブリッジでは赤い髪をオールバックでまとめた男性が艦長から報告を聞いていた。

「前方に敵艦を発見しました」

「数は?」

「一隻のみです」

それを聞いた男性は軽く頷いてからモニターを見る。
最大望遠で映し出された敵戦艦、カタパルトが艦首の左右から突き出た白い戦艦だ。今まで見たことの無いタイプでライブラリーにも該当する艦は無い。
となれば新造艦だろう。此処のコロニーで開発されていたのかは知らないが未知の敵である以上は油断できない。男性は足をブリッジの出入り口へと向ける。

「ランスロー大佐、どちらへ?」

「敵は新造艦・・性能がわからぬ以上は油断出来ないからな、私も出る。オクト・エイプを準備しておけ」

その男性、ランスロー・ダーウェルはそう告げてからブリッジを後にする。
元、宇宙革命軍大佐である事と15年前の戦争では旧連合軍の最終兵器であるガンダムと互角の勝負を繰り広げた実績を買われクロスボーン・バンガードの一艦隊を任されている。
終戦後、再編成され革命軍の戦力を吸収した地球圏連合にはつく気になれず。かといって普通の生活にも戻れず半ば世捨て人のような生活を続けていた時にこの軍へ参加しないかと誘われた。
どのみち平和には馴染めない自分にも嫌気がさしていたしかつての仲間達も参加していると聞き二つ返事で参加を承諾して今に至る。
格納庫で機体をアイボリーに塗装した専用の高機動MSオクト・エイプへと搭乗する。

「ランスロー・ダーウェル、オクト・エイプ発進するぞ」

カタパルトから機体を宇宙へ踊り出し、隊の先頭へと出る。

「全機、私に続け!!」


アークラインと離れてしまったストライクはコロニー外周部を舞台に二機のMS、デナン・ゾンに苦戦していた。
接近戦ではショットランサー、遠距離ではビームシールド、一対一で同じ装備の機体と戦っているクレアでも苦戦――機体の相性が悪すぎるせいでもあるが――する相手が二機襲ってくるのだ。
それなりの腕と素質はあっても実力は未だに発展途上、実戦経験はわずか3回でしかないキラが勝てるわけが無い。こうやって、撃墜されていないのはストライクの機体性能と敵の主武装であるランサーが実弾であるためPS装甲のストライクに致命傷を与えにくいお陰である。

「どうすればいいんだよ!!くそっ!!」

悪態をつきながらビームライフルを放つ。デナン・ゾンは難なくビームシールドで受け止める。その隙にもう一機のデナン・ゾンが間合いを詰めてランサーを突き出す。
ランサーをシールドで受け止めイーゲルシュテルンで牽制しながら間合いを取り離れる。
敵のビームシールドはランサーの使用に干渉しないように一部が展開しない仕組みであるため展開しながらの突撃が可能である。デナン・ゾンはそれをしていたためイーゲルシュテルンのダメージは受けていない。

「あのシールドとランサーさえどうにかなれば・・・・・」

あの二つの装備さえどうにかすれば自分にも勝機は見えてくるのだがどうにかする方法が思いつかない。
仮にどうにかしても敵パイロットの腕は自分より上であるため勝てるかどうかは微妙な確率である事に変わりないが。
そうこう考えている間に二機のデナン・ゾンがシールドを展開しつつランサーを突きだして同時に突撃を仕掛けてくる。

「来る!!っ!?」

二機のデナン・ゾン相手に身構えようとした直前、キラは何か嫌な気を感じストライクを後方へと下がらせる。
直後、真上から降り注いだビームの嵐が二機のデナン・ゾンに降りかかる。一瞬にして全身を撃ち抜かれたデナン・ゾンは爆散し宇宙へと消える。

「な・・・なんだ?」

「やはり・・・こんな攻撃ではお前を仕留める事は無理か」

「!?」

不意に掛けられた声に反応しビームが降り注いできた方に顔を向ける。
其処には青紫にカラーリングされたガンダムタイプの頭部を持つMSがストライクを見下ろすような体勢で存在していた。
胸部の装甲が左右に開いており其処に大口径の銃口が見える。先程のビームは其処から放った物なのだろう。そのMSはゆっくりと降下しストライクの前に立つ。

「なんだ・・・お前は」

キラは警戒しながら問いかける。先程からこの青紫の機体からは妙な感覚を覚えている。
さっきも不意にこの機体の存在を感じたからこそ機体を下がらせ結果が二機のデナン・ゾンの末路である。
その問いに対し青紫の機体、レヴィアタンのコクピットに座っているミスティックは独白のように答える。

「お前も俺を感じるか・・・まぁ、当然だな。何も知らないのも仕方はないか・・・」

「えっ?」

「まぁ、いいさ・・・・そんな事はどうでも良い」

レヴィアタンの腰部から筒状の装備が引き抜かれる。先端から太いビームの刃が展開、ハイパービームソードを構えストライクに狙いを定める。

「貴様と戦って勝つ・・・それだけだ!!」

背部のスラスターを吹かし一気にストライクとの間合いを詰める。
キラはライフルを腰の後ろへとマウントさせビームサーベルを引き抜きシールドを前に出して待ちかまえる。
ハイパービームソードが振り下ろされる。それをシールドで受け止めるが、その出力の前にシールドの表面が溶け始める。

「くっ!!」

ビームサーベルを振るってレヴィアタンを攻撃する。レヴィアタンは機体を下がらせ斬撃を回避、その隙にイーゲルシュテルンで牽制しながら間合いを取って構え直す。
シールドの表面はドロドロと言う表現が最も似合うほどに溶けておりあと一回でも攻撃を受ければ使い物にならなくなるだろう。

「さぁ、殺し合おうじゃないか・・・兄弟!!」

ミスティックの叫びと共にレヴィアタンのアイカメラが不気味に光を灯し、ストライクへと再び襲いかかった。


続く


《次回予告》

クロスボーン・バンガードの猛攻を受けるアークエンジェル。
先行して出撃していたクレアとキラも敵の猛攻を受け窮地に陥る。
絶体絶命の状況の中、新たなるGが目覚め電子の妖精が舞い降りる。

次回 スーパーロボット大戦エヴォリューション 第6話「フロンティアサイドの死闘」

混沌の戦場に舞い降りろ ナデシコ!


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