2348094 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Pastime Paradise

Pastime Paradise

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2014.04.05
XML
カテゴリ:Heavenly Rock Town
休日だというのにいつもより早く目覚めた私は、ベッドから抜け出すと直に窓を開けた。穏かで爽やかな朝東風が、春の到来を告げている。今日は待ちに待ったリッキーとの初デートだ!
 毎日のように会ってはいるが、やはりデートとなるとつい気合が入ってしまうもの。シャワーを浴びて念入りに体中を磨き上げ、化粧も丁寧に施し、一昨日こっそり買っておいた春物のブラウスとカーディガンに袖を通す。ジーンズは手持ちの中で最もスラリと脚が細く長く見えるものを、そしてスニーカーはいつも履き慣れたものを選んだ。デート中に靴擦れなんて起こしたら最悪だ。
 ちょうど支度が整った頃に部屋のインターホンが鳴った。
「おはよう、キオ。出掛ける用意は出来たかい?」
 窓を閉めてから部屋を出ると、見覚えのあるシャツにジーンズという普段どおりのラフな格好をした、何一つ気負い込んだところのないリッキーが立っていた。
「おはよう、リッキー。今日一日、宜しくお願いします」
「急に畏まってどうしたんだい?もっと気楽にいこうよ。さてと、まずは駅まで行くバスに乗らなきゃ」
 私達は町の中心部に程近い市街地に住んでいることもあって、移動手段は大抵徒歩もしくはバスである。この町の列車というのは、日本人である私の感覚からすると新幹線に近く、余程遠方に行く用事でもないかぎり乗る機会がない。
 アパートメントから東へ歩いて3分程の所にあるバス停でバスに乗り込んだ私は、運転手の顔を見て驚いた。自動車事故でこの世界に来た者が集まるバー・CCB(Car Crash Bar)で顔見知りになったコージー(Cozy Powell)ではないか。そういえば以前、同じくCCBで知り合ったボーナ(Bjorn "Bona" Eriksson / Rude Kids)の運転するタクシーに乗車した時、コージーがバスの運転手だと聞いたことがあったっけ。
「よォ、久しぶりだな。今日はリッキーとデートか?二人してどこまで行くんだ?」
「デートだなんて、そんな…コージーったら」
「やぁコージー。二人とも中央駅(Central station)まで往復で。料金は俺が二人分払うよ」
 デートという言葉に浮かれてモジモジしている私の横から、他の乗客の迷惑を考えてかリッキーが素早く質問に答えた。流石、バンド結成前は地元のバスステーションでチケットエージェントをしていただけはある…って関係ないか。
「二人で5だ」
「OK」
 リッキーが決済端末機に触れている間に、コージーは二人分のチケットを私に手渡した。空いている一番後ろの席に腰を下ろそうとした途端にバスが動き出したため、私達は若干よろけながら慌ててシートに座った。
 私が生まれ育った田舎ではバスに乗るとまず番号が書かれた整理券を取り、前の電光掲示板に表示される料金表でその番号の所の金額を確認してから降りる時に料金を払うシステムであった。それが当たり前だと思っていたところ、大学に通うために上京した地域では料金一律先払という非常に簡潔明瞭なシステムで、大層驚かされた。バスや列車の乗り方というのは、初めて利用する者にとって意外と頭を悩ますものだ。リッキーもそのあたりを気遣ってくれたのかもしれない。
「バスや列車って国や地方によってシステムが違ったりするから、初めて乗るときはちょっと緊張しちゃう」
「そうだね。その点ここではバスも列車も全て町営だから違いはないよ。慌てることもなければ、ワクワクすることもないのさ」

 私達はPROG区(Progressive Rock地区)にある中央駅正面のバス停で下車した。駅舎は英国の――あれは何という駅だったか…私がこの町に来る前年ぐらいにニュースで見た、公共の場で最も多くのパンツ姿の人間が集まったギネス記録を更新したとかいう駅…確かロンドンのセント・パンクラス駅だったかな?――に似た、この小さな町には不釣合いと思えるほど荘厳華麗な建物である。
 構内に足を踏み入れてみると、外観とは打って変わって非常に近代的で、明るく開放的な感じがする。ただ休日の朝だというのに意外と人が多いことに驚いた。
「案外列車の利用客って多いんだ」
「一応ロックスターの町だからね、ほとんどが観光客じゃないかな」
 そうなのだ。私は運良く【Heavenly Rock Town】の住人になれたので、わざわざ有名人を見に出掛ける必要がないのだが、町の行き来は基本的に自由で、身内や友人、過去の有名人達と会うことはいつでも可能なのである。
「町中を走っている列車は東西線と南北線の2本で、あとは全て他町行きの高速鉄道さ。それと俺達のような一般人は余程のことがないかぎり乗る機会はないけど、一応地獄行きの便も地下のホームから出てるよ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ天国行きは?」
「ここの人達は地獄に落ちることはあるかもしれないけど、天国へ昇ることは絶無だから、便はない。天国の住人達だってわざわざ市井に降りてくることもないし」
 成程、天国だけは丸っきり別天地ということか。
 ボブの農園に行くには南北線に乗って南野駅(Southfields station)で下車するらしく、券売機で往復乗車券を購入した私達は、南北線が入ってくる2番ホームに向かった。彼の言ったとおり構内にいた人々の大半は観光客だったらしく、町内線のホームには私達を含めても僅かに数人がいるだけだ。
 南北線は1時間に3本、ぴったり20分おきに発車するらしい。まぁそんなものだろう。私の田舎でもそれくらいだった。とはいえその田舎は私が上京した数年後には政令指定都市に移行したので、今ではもっと本数が増えているかもしれないけど。
「もうそろそろ列車が来るよ」





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023.07.30 01:30:09
コメント(0) | コメントを書く
[Heavenly Rock Town] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
別の画像を表示
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。


PR

Free Space

Recent Posts

Category

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News


© Rakuten Group, Inc.