Pastime Paradise

2023/07/30(日)01:47

Heavenly Rock Town - Episode 5 * 6

Heavenly Rock Town(57)

農場主のボブ、情報管理センターで不正を働いた罰としてボブの元で働いているジミー、恋人であるジミーを追って来たリジーの三人と共に私達を出迎えてくれた野良着姿の男性は、あの世界的に有名な英国のロック・バンド、Queen(クイーン)のヴォーカルだったフレディではないか!  フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)ことファルーク・バルサラ(Farrokh Bulsara)は91年11月、45歳にしてAIDSによる肺炎でこの町へやって来た。フレディ、リッキー、ジミー、他にも情報管理センターでジミーの上司だったシー、NOMI RECORDSのオーナー・クラウスと、彼の元で働いているジョブライアスことブルース。彼等は皆、80~90年代にAIDSでこちらの世界へ来ている。今では医学の進歩によってHIV感染もしくはAIDSを発症しても、薬を飲み続けるなど適切な治療を継続すれば普通の生活を送ることが可能だというのに…。心から気の毒に思う。 「久しぶりだね、フレディ!でもまたどうしてここに?」 「よォ、リッキー。ボブから今日はお前が顔を覗かせに来るって聞いてよ、一緒に待ってたんだ。今度は俺んとこの農場にも遊びに来いよ」  クイーンとThe B-52'sの繋がりといえば、85年1月にブラジルで行われたロック・イン・リオ(Rock in Rio)で同日に演奏している。また、ボブ・マーリーとThe B-52'sはアイランド・レコードのブラックウェル氏(Chris Blackwell)が所有するバハマ・ナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで同時期にレコーディングしており、二人ともリッキーとはあちらの世界にいた時から面識があったようである。 「有難うフレディ、是非伺わせてもらうよ。ボブ、君には無理なお願いを聞いてもらって、本当に感謝している。ジミー、ここでの生活には慣れたかい?リジーまで来ていたのには驚いたけど」  リッキーは男性三人それぞれに声を掛け、握手を交わした。そして 「やぁリジー。こっちに来てたんだ。君が急にいなくなったものだから、アパートメントの連中は寂しがってるよ」 と、リジーにも声を掛けた。 「ふふッ、意外とお世辞が上手いのね。短い間だったけど私も楽しかったわ」  彼女はリッキーに近寄り、頬に軽く接吻した。二人は以前、愛情は伴ってなかったものの濃厚なフレンチキスを交わした間柄である。 「リッキー、あの節は御迷惑をお掛けして本当にすみませんでした。何であんなことをしてしまったのか…自分の馬鹿さ加減が情けないです。頭を冷やすつもりでここに来ましたが、ボブに色々教わりながら自然と共に暮らしているうちに農夫生活にもすっかり馴染んできました」 「大欲は無欲に似たりって言うだろ、欲に目が眩むと自分自身が苦しむことになるぞ。それにしてもすっかり逞しくなったな、ジミー。以前より生き生き…いや、活き活きして見えるよ」 「ええ、何だかここでの生活が性に合ってるみたいで。この先もずっとここで暮らして、行く行くはリジーと一緒に小さな農園でも営めたらいいな、と思ってるんです」  ジミーがリジーに視線を向けると、リジーも微笑みながら頷いた。嗚呼、何て素敵な二人なのだろう。私もリッキーと互いに愛し合い、信頼しあい、支えあえる日が果たして訪れるのだろうか? 「まぁここが気に入ってくれたのは嬉しいことだが、奴らは毎日この調子だから敵わんよ、全く。尤も恋人連れのアンタに愚痴っても仕方ないがな」  ボブは口調こそ呆れた風であったが、ジミー達の仲睦まじさを父親のような温かい眼差しで見守っている。 「ホント、羨ましい限りだよ。あ、彼女は同じアパートメントに住んでる子でね、今日は社会科見学も兼ねて一緒に来たんだ」 「高崎樹央です」  私はボブとフレディに向かって軽く頭を下げて挨拶した。ジミーとも今日が初対面ではあったが、彼の顔は以前から知っているうえ時々話題に上ったりもしていたので、すっかり知り合いの気分で挨拶し忘れてしまった。  ボブの家で呼ばれた昼食は格別だった。こんなに美味しい食事が毎日食べられるのであれば、ずっとここに居たくなるのも当然かもしれない。  食事が終わって男性達がダイニングルームで昔話に興じている間、リジーと私は台所で後片付けをしていた。せっかく彼女と二人きりになれたことだし、是非ともあのこと――ゲイのジミーとどうやって深い愛情で結ばれたのか?――を尋ねてみたいのだが、こんな繊細な話題についてどう切り出せばよいのかが分からず、諦めかけたところで 「ねぇ、正直なところ、あなたとリッキーってどういう関係なの?」 と、逆にこっちが質問されてしまった。 「どういう関係って…。リッキーは私の世話役且つ隣人で、いつも面倒を見てもらってて…」 「それは分かってるわ。あなた、リッキーと寝たの?」 「えッ!? ま、まさかそんな。そんなことあるわけないでしょ。だってリッキーは…」  何というどストレートな剛速球を投げてよこすのだ。そういえば彼女は面と向かってリッキーを悪魔呼ばわりしたことがあったっけ。良くも悪くも真直ぐな人なのだろう。だけどまさかリッキーがゲイだから、なんて第三者に軽々と言えるわけがない。それでいて私はゲイのジミーと彼女の関係を聞きたくて仕方がないのだから、我ながらつくづく質が悪いと思う。 「リッキーは、何?」 「い、いや、何でもない。とにかく彼とはそういう関係じゃなくて――」 「ふーん。あなたはこの先もずっとこんなあやふやな関係でいいの?」 「……」  いいわけがない。だけど彼は以前、ベンとの会話で女性を愛せないと明言したのだ。 「あのね、私も好きになった人がゲイだったの。だからあなたの心情は分かってるつもりよ」  リッキーがゲイだって知ってたんだ。知っててハニートラップを仕掛けようとしたのかしらん。それはともかく、何だか話の流れが上手い具合にこちらに向かってきたような…。 「でもあっちの世界でゲイだった人が、こっちの世界でもゲイだとは限らないのよ。それはストレートでも同じこと。自分はゲイだとかストレートだとか思い込んでるだけで、ここの人達っておそらく皆バイ(両性愛)だと思うの。んー、バイというよりパンセクシュアル(全性愛)の方が近いかもね。だからふとしたきっかけで案外どちらにでも簡単に転ぶみたい」  そういえばリッキーが女性を愛せないと明言したとき、ベンは “ストレートの俺が一時期お前に惚れちまったみたいに、ゲイのお前だって女に惚れることもある” と言っていた。もしかするとリジーの言うとおり、この世界では同性愛と異性愛の垣根がかなり低めに設定されているのかもしれない。ってことは私も何かの拍子に女性に恋したりして!? 「一体どういうきっかけがあれば、リッキーも転んでくれるのかなぁ?」  リジーの言葉に釣られた私は、つい本音を口にしてしまった。 「さあ、それは当人じゃないと分からないわ。彼は一筋縄では行かないだろうけど、あなたの熱情に負けてそのうちコロッと転がる日が来るんじゃないかしら」 「そんな日が本当に来てくれるといいけど」 「大丈夫、必ず来るわよ」  そう言いながら額に軽く接吻してくれたリジーの色気と優しさに、私も思わず惚れてしまいそうになった。  私達はまた近いうちに再訪することを約束し、ボブの家を辞去した。 「何だかさっきから随分嬉しそうだね」 「うん。私、リジーのこと誤解してたみたい。話してみると凄く素敵な人だった」 「全く以てジミーは果報者だよ。ところで俺の用件は済んだけど、キオもどこか行きたい所とかある?」 「特にはないけど…」  リッキーと一緒にならば、どこでもいい。こうして麦畑の脇をぽくぽくと歩いているだけでも十分楽しい。 「じゃあそうだなぁ、せっかくここまで来たんだからこの町の最果てに行ってみようか」  Farrokh Bulsara (September 5, 1946 – November 24, 1991) フレディ・マーキュリー

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