キンドルで「心にナイフをしのばせて」(文春文庫)を読む
キンドルで「心にナイフをしのばせて」(文春文庫)を読む。以前、立ち読みをしたことがあり、今回は2回目となる。 ぜひ、死刑廃止論者に読んでもらいたい。 身勝手な妄想に浸る前に、遺族と向かい合うべき。それができないならば、「リベラル」「市民派」などと、名乗るべきではない。 それは欺瞞であり、偽善であり、ファシストでしかない。 この本では、川崎のサレジオ高校で起きた殺人事件を扱っている。 渋谷のスナックの店主がこの高校出身で、年齢がこの事件の加害者や被害者(故人)に近い。 10数年前、この店主から事件について多少、聞いたことがある。数十年前は進学校として知られていたわけではなく、むしろ、入学難易度が県立の進学校と比べると、相当に低かったようだ。 それはともかく、加害者の少年はその後、弁護士になっていたようだ。 本のクライマックで、それが明らかになる。そこまでは、遺族である父、母、妹のロングインタビューで進む。 このような死にかかわる内容を読むことには慣れているから、苦痛はなかったが、免疫ができていない人は少々、滅入るのかもしれない。 不幸を通り越し、絶望的な家庭となりながらも、かわいらしい犬や、多感な時期を苦しみながら生き抜く妹の姿などがみえてくる。くっきりと…。 父親の死は、なんともいえない。思い起こすことが多かった。 それほどに、著者の取材は深いものであり、しつこいものであり、真摯に向かい合ったのだと思う。遺族との間に、一定の信頼関係があったのかもしれない。 読むかぎりでは、遺族の心理、生活、人生は実によくわかる。ここまで丁寧な聞き取りをしている本は相当に少ない。モノローグ形式が、いい。 ところで、加害者である少年は弁護士になったようだが、本が発売された後の、遺族や著者との接点には不可解なものがある。さすがに、午前7時に、他人の家に電話はしないだろう。 ただし、ふつうの人からすると、「不可解」であり、人殺しからすると、「ごくありきたりな感覚」なのだと思う。 人は、人を殺したぐらいで、考えや思想、生き方は変わらない。 きっと幼少の頃から、常に自分は正しく、常に周囲に非がある、と信じ込んでいるのだろう。そのように、親などから教えられたのかもしれない。極端に甘やかされたのだろうか。私がかつて仕えた、冴えない上司もこのタイプだった。 この男も精神異常だった。 今の時代とは違い、数十年前に弁護士になるくらいだから、地頭は抜群にいいのだろう。 少年院を出たあと、きっと「ゆがんだ人権派」の人の家で多額のお金を与えられ、勉学にいそしむことができたのだと思う。 少なくとも、苦学生ではなかったのだろう。 弁護士になり、一定の実績も残していたようだが、この本が発売され、話題となったことで、弁護士を辞める道を選んだようだ。 実際は、そこまで甘くはなく、何らかの形で企業などの法務顧問などはしている、とわたしは思う。 この男を擁護するつもりはないが、人を殺したら、通常、遺族に金を貸そうとしたり、会おうとはしない。 このブログを書く数日前、ある外食店に勤務する男が、元暴力団員で、「人を殺して、刑務所に7~8年いた」と得意げに語っていた。 笑える話なのだが、この店とは別に、ある店がある。ここに出入りする暴力団員も人を殺したことがあるようだ。 近所の学習塾に通う子どもが数人、このヤクザに「ハゲ!」とからかった。 それに怒った、この暴力団員が学習塾に。 「この3人の子の親を呼び出せ!」と脅す。 塾はおびえて、3人の親を呼ぶ。そこで、お詫びをした。と、聞いた。 これが、人を殺した男の「その後」だ。 人を殺す者で、反省をする者はいない、と私は思っているだけに、今回のこの弁護士崩れの男には、理解できないものがあった。 なぜ、遺族と会おうとするのか…と。 どうして、お金を貸そうとするのか…と。 マトモな良心があるとは思えにくいし、罪を償う意識はないのだと思う。 だが、実は、ごくわずかに後ろめたいものはあるのだろうし、ごくわずかに悔いるものもあるはず。 それを受け入れることができないのだろう。精神に障害あるがゆえに…。妙なプライドも持っているのだろうから。 迷うまでもまく、死刑台に送り込むべきであるのに、この国はこういう異常者に人権を与えておく。 それが、「リベラル」で、「進歩的」で、「良識派」になるらしい。 本来のリベラリズムは、一切の偶像を排するべきであるのに、そんな姿勢はまったくない。 異論を封じ込めるファシストが「リベラル」であり、「市民派」なのだ。 こういう人たちに殺される犠牲者は、絶えない。 それはそうと、名作ですね。この本は…。 死刑廃止論者や「市民派」「リベラル派」が、こういう本を読まないのが、つくづく残念。 これもまた、不可解。 何よりも、この遺族たちのことを好きになった。いい家族だった、のだと思う。 特に、父親と妹に魅かれた。