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ここ数か月、 都内や神奈川県、千葉県内の、精神障害者の就労支援をしている団体に 取材で出入りするうちに 不気味な思いがよみがえってきたので、 気持ちを整理するためにも書いておこう。
10年ほど前から数年間、 ある出版社の編集者と仕事をするようになった。
結論からいえば、 奇妙な言動を繰り返すのだ。
象徴的なものは、 僕が原稿を書き、その編集者の判断で掲載した記事についてのこと。
「社内でこういう声があるから、今後はこうしてほしい」といった 内容のメールを書いてくる。
不思議なことに電話をしてこない。 あくまで、メールのみだ。
中には、 「記事について外部から電話があった」とか、 「(記事について)読者からメールが届いた」と 書いて送ってくる場合もあった。
当初は、 こんな内容で電話が入るのだろうか、と 疑問にしか感じなかったが、それが頻繁に繰り返されると、 不気味な気がしてきた。
こんな編集者は、30年ほどでたったひとりだ。
僕はその編集者よりも、おそらく10数年以上長いキャリアなのだろうけど、 外部から、つまり、読者からの電話はまずめったにないこと。 ところが、その担当者のところにだけ、電話が頻繁に来るようだ。
ここの出版社を退職した元編集者によると、 「(辞めた会社に)記事について電話が来ることはほとんどないはず」と答える。
そりゃ、そうだろう。
僕の経験では、 かつて殺人をしたある作家を20数年前に取材したところ、 その記事を読んだ読者から 「なぜ、こんな奴を…」とお叱りの電話があっただけだ。
だから、 この編集者がメールに書いてくる「電話が…」には 返信をしなかった。理解できる範囲を超えているからだ。
だが、しつこいほどに繰り返された。
それよりも数年前に 新宿で観た精神障害者をテーマにした 映画みたいだった。
あの映画の登場人物(精神障害者に殺される人たち)に 近い思いになり、なんともいえぬ不気味さがしばらく残る。 (あの映画は、サイコーに怖かった。カナダ制作かな)
どーんと沈んだ気分にもなる。
それ以外にも、 「記事について社内でこういう声がある」とか、 「こんなことを(社内で)聞いた」とメールに書いて送ってくる。
様ざまなバリエーションがあるようなのだが、 僕はその1つずつに疑いを持っていた。
当初は興味津々でメールを読んでいたが、 怖くなってきたのか、 しだいに鳥肌がぞくぞくと立つようにもなってきた。
エンディングがない、のだ。
「社内の声」なるものが、何を意味しているのか、わからない。 そんなあいまいなもので、 記事の方向性や内容をころころと変えるのは、 報道機関では通常ありえない。
噂でも聞かない。
何のために 編集責任者(編責)や記事審査委員会、 デスクなどがいるのか。
何のために 編集局報や全国同一文書(全同文)的なものがあるのか。 デスク会や班会があるのか。
「この出版社は報道機関ではない」といえば それまでかもしれない。 純然たる記者はいないし、 デスクやキャップもいないのかもしれない。
だが、 一応は編集者なのだから、 (「記者」と名乗っていたけど、これも理解ができなかった。 記者ならば、記者らしくしないと…) さすがに「社内の声」をソンタクして…では マズイだろう。
おそらく、その「社内の声」なるものは 実在しないのだと思う。
だからこそ、 電話ではなく、メールにしていたのだろう。
そこまで僕が言い切るのは、 ここの現役の社員や前述の退職者から 当時、「そんな声があるわけない」とすでに聞いていたからだ。
では、 なぜ、実在すらあやふやな 社内の声なるものや、 社外からの電話などに必要以上に敏感になるのか。
そこが僕の疑念であり、 不気味な思いとして長く残っていた。
なにか、後味の悪さや だまされているような感覚になっていたからだ。
少なくとも1週間は、沈んだ気分になる。 (加害者であることを本人は意識していないようだったが、 被害者からすると、実に迷惑なメールだった)
今回、精神障害者の就労支援をする団体の ベテランの職員や精神衛生士などに 取材を終えた後、雑談をしている際に この一連の経験を話してみた。
彼ら4人の見立ては、限りなく一致していた。
「ほぼ間違いなく、その症状は精神面に何かの障害がある。 もしかすると、発達障害の疑いがある」という。
精神疾患とは診断されていない、 いわば「見えない障害者」なのかもしれないようだ。
最近は、こんな人が増えているという。
「一般的には、精神が病んでいる人は、 周りの人のことが気になり、仕方がない」のだという。
誰もが多少は気になるのだろうが、 その程度が相当に強いそうだ。
「ささいなこと、たとえば、自分がいないところで 数人で話し合っていても、 仲間外れにされ、おとしいれられる」と 受け止める場合もあるようだ。
だから、 この4人は、「ランチのときにその人だけを誘わないのは 後々、逆恨みをされたりするから、 避けたほうがいい」とも僕に助言をしていた。 (ランチに行きたい、とは思わないけど)
いずれにしろ、 「人の目を意識し、自分が悪く言われたり、否定されていると 思い込む傾向がある」らしい。
それで、 つい、そのような言動(メールの送信)を繰り返すのではないか、と 4人は説明していた。つまり、自分の身を守るために。
「周りの目を意識し、こういうことを感じているかもしれないと ソンタクし、それへの対応を先回りして、 メールにて書いてくるのではないか」とも指摘する。
そして、 「人にそのようなメールを送ることには配慮しないが、 自分が何かを言われたり、否定されると、 非常に敏感に反応する傾向がある」とも話す。
4人の説明を聞いていて、 あまりにも思い当たるものが多く、 不気味な気になる。
帰りの電車の中で、 しばし考え込んでしまった。
あの頃、 盛んに「社内でこういう声がする」「こんな電話があった」と メールを送ってきた編集者の言動の真意が 10年近くたって、ようやく見えてくるようだった。
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Last updated
2021年04月08日 23時06分34秒
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