わたしのブログ by ドレミ・どれみ

2018/06/16(土)19:09

老いのささやかな怖れ

詩(100)

​​​  ​​  ​老いのささやかな怖れ       ​  老いると両足が地面から離れるのが怖い 若い時は楽しかったスキップ 縄跳び ゴム跳び ダンス 人は鳥になれた 歳を取ると電車とホームの僅かな隙間さえ怖い手すりをしっかり握りぐんと足を延ばして飛ぶように空間をまたぐ何と怖い瞬間昔はこうでなかったのについ愚痴を言いたくなる ある日 診療所を出ようとすると九〇歳くらいの女性が娘さんに手を引かれて出口の階段を降りようとしていたしっかり右手は娘さんの手を握りしめ右足は階段の下まで届いたが左足は一段前で止まったまま動かない「早く 早く 左足を一歩降ろして」娘さんは何度も叫んだがどうしても動けない 私はそのお年寄りの気持ちがわかった左足を動かすのが怖いのだ高い樹上から飛び降りるような気分なのだ と その人は震える左手を私の方へ差し出した 左手をしっかり握り「大丈夫ですよ」 私に支えられて左足を階段の下へ降ろすと 娘さんに連れられタクシーに乗っていった   「こんな私でも人の役に立つことが出来る」 いまにも降り出しそうな曇天に向かって ​何やら清​​々しい気分で ほっと息をついた    by ドレミ・どれみ        澪49号(千葉詩人会議発行)より

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る