天の王朝

2006/04/07(金)09:08

新聞記者の日常と憂鬱66

メディア(187)

▼富山の霊水 シリアスな話が続いたので、再びヒマネタの話。 新聞社は年末年始が近づくと、各支局、各部署に年末年始用ヒマネタを出すよう大号令をかける。官公庁が閉まり、ネタがなくなってしまうからだ。警察や検察も、年越しの捜査をしたくないので内偵事件に着手することは滅多にない。当然紙面は薄くなる。だが新聞社は、何もなくても紙面を埋めなくてはならない。ネタ枯れの時期には、冬眠前のリスのように、ネタをストックしなければならないわけだ。ただしこの時期は、新年を迎えるにふさわしく、肩の凝らない夢のある内容の原稿が求められる。 年末年始のヒマネタ出稿は、大事件の取材に追われていない、富山のような支局にとってはノルマになっている。私は一年目に、「穴の谷の霊水」をヒマネタに選んだ。 穴の谷の霊水は、北アルプスのふもと、富山県上市町にある霊水だ。江戸時代、美濃の国の白心という法師が修行していたこともあり穴の谷霊場とも呼ばれる。たしか富山では穴の谷を「あなんたん」と言う。 参道から階段を下った谷間に薬師観音堂があり、そこから湧き出る清水は古来、難病に効くといわれ、環境庁から「全国名水百選」にも選定された。実際に病気が治ったという人もいるそうで、わざわざ関東や関西から、この水を汲みに来る人もいる。しかもこの水の特徴は、長期間放置しておいても腐らないのだという。 ただ、これだけでは記事にならないので、私は万病に効くのはなぜか、そのメカニズムや清水の秘密に焦点を当てて原稿にした。結論を言うと、わからないというのが答えだが、原稿はそれでも構わないのである。私が紹介したのは、当時の北里大学教授によるゲルマニウムが含まれているからある種の病気に効くのではないかという説、富山県の水質を検査する試験場による不純物が極めて少ないから腐らないのではないかという説、民間に伝わる薬師如来の御利益説などだ。 私の原稿では、フランスにもルルドの水という万病に効くという霊水(やはりゲルマニウムが含まれていることが知られている)があることを挙げながら、苦労して山道を歩き清水までたどり着き、水を飲むという行為自体と信仰心に、穴の谷の霊水が健康によいという秘密があるのではないか、などと結んだように記憶している。 私も取材のついでに、10リットルのポリ容器に水を入れて持ち帰ったが、非常においしい水であった。飲料やご飯を炊くときなどにも使い、腐ることもなく長期間利用させてもらった。もっとも、富山の水は水道水でもおいしかった。富山の水を飲んでから、東京の水道水は飲めなくなった。 穴の谷の水は、以前は無料だったが、現在は維持管理の為に10リットル当たり50円徴収するのだという。

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