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HANNAのファンタジー気分
『ホビットの冒険』の魅力
魔法使いガンダルフのご紹介
雑誌「児童文芸」2003年6・7月号特集「私の好きな登場人物たち」掲載→HPにジャンプします
家を飛び出し旅に出る春――
『ホビットの冒険』
など
パット・マーフィー
『ノービットの冒険』
「ゆきて帰りし物語」――『ホビットの冒険』の傑作パロディ!
家を飛び出し旅に出る春――
『ホビットの冒険』
(2009.4)
「帽子をかぶってきませんし、ハンケチも忘れました。お金も持ってこないのです。」
・・・おりから、五月になろうとするまえの日の、うらうらとはれわたった朝、荷物をどっさりつけた小馬にのって、ゆさゆさと、一同は、宿屋をはなれました。 ――トールキン
『ホビットの冒険』
瀬田禎二訳
主人公のビルボは、こんなふうにわけもわからず、心の準備もなく、家を飛び出して、ドワーフ小人たちとともに竜の宝を求めて出かけることになります。
以前に秋の旅立ちについてブログに書いたことがありましたが、それは内側から何かに追い立てられるような、こうしてはいられない気持ちになって、それでも色々心構えをして旅立つものでした
。 対して、春のこの旅立ちは、外から強力にひっぱるものが突然現れて、心地よいすみかをポンと飛び出し、気がついたら冒険に出ていたという類のものです。
同じような旅立ちは、ケネス・グレーアム
『たのしい川べ』
の冒頭にもあって、そこではうららかな春の明るさに惹かれたモグラが、古い住まいを捨てて出奔し、新しい、魅力的な川べの生活に入っていきます。そして夏が過ぎ冬が来るまで、古巣へ帰ろうなどとは思いもしないのでした。
『ホビットの冒険』の方は、ビルボは出かけたい気持ちも持っていたとはいえ、強引に旅に引っ張り出されたので、困難にたちむかうたんびに愛する古巣のことを思い出します。つまり家で平穏無事な暮らしをしていたらよかったのにと後悔し続けながら、冒険を続けていく。そこが何とも、人間くさいというか、親しみやすいのです。
・・・わが家のホビット穴のお気にいりの居間にいて、だんろの前でいすにかけ、そばのやかんがふつふつと歌をうたうありさまを、しみじみと思いだしました。でも、なつかしのわが家をしのぶのは、これがおわりではなかったのです! ――『ホビットの冒険』
それにしても、どちらの物語も、旅人はちゃんと古巣に帰ります。ホビットは宝を手に入れ詩人になって戻り、モグラは友人とともにわが家でクリスマスを祝います。それは安定した家を持ち、地に足の着いた生活をしていた作者の日常の姿がにじみ出ているのかもしれません。
時は5月。新しい生活にぽんと飛び出した人が、古巣をなつかしんだり、そんな暇もないほど充実していたりする季節なんでしょう。
そして、変わり映えのしない環境にいる人は、旅に出てみたり。
・・・昨今は、ハンケチは忘れても、マスクを持って行かなきゃいけないみたいですけど。
パット・マーフィー
『ノービットの冒険』
「ゆきて帰りし物語」――『ホビットの冒険』の傑作パロディ! (2005.6)
最近のSFはむずかしくてとても読めない私ですが、この本は
『ホビットの冒険』
のスペースオペラ版だというので買ってみたら、あまりに面白くて夜更かししてしまいました。
単なるパロディではなく、本歌取りの名句のように、『ホビット』の要所と魅力を踏まえつつ、まったく別の味を出しているのが、すごく小気味よいです。しかも、ルイス・キャロルの『スナーク狩り』をも本歌取りしている!(『スナーク狩り』未読なので、今度読んでみたいと思いました)
主人公のベイリー・ベルドンは、『ホビット』のビルボ・バギンズとほぼ同じ雰囲気や性格を持っているけど、他の登場人物たちは、「力の指輪」が「メビウスの環」になっているがごとく、ギュワッと一回ひねってあって、その発想の転換にびっくり。
たとえば「ドワーフたち」に当たるファール一族は全員、最初の一人マイラ・ファールという女性のクローンなのです。そういえば、『ホビット』のドワーフたちの主な一族は、デュリンの一族(不死で生まれ変わるデュリンを父祖とする)と言いましたっけ。
しかし、ファール一族のクローンたちの、一人一人の似て非なる性格、一族への忠誠、宇宙旅行をしては拠点ファール・ステーションへ戻るその帰属性、などを読んでいると、この女性ばかりの社会は、男性的なドワーフ社会の単なる裏返しとはまったく違う、独特の雰囲気をかもしだしていると感じました。
居心地のいいような悪いような、発展的(好戦的?)女性社会。何かに似ているなあ、としばらく考えたら、そう、まるで大きなハチの巣にそっくり! 女王バチがいて、その子どもである働きバチ(卵は産まないけれど全部メス)が営々と巣を築き、野山をとびまわっては集めた糧を持ち帰って繁栄している、ミツバチやスズメバチなどの大きな巣。
ほかにも、独創的な味を出している「’パタフィジックス」の哲学者ジャイロや、亜空間の声「図書館の司書」など、不思議な魅力を持つ登場人物がいっぱいで、サイボーグのなれの果てゴトリ(=ゴクリ。なるほど!)なんぞは、かすんでしまうほど。
そして、これもラストが私好みの円環なんですね。このスペースオペラでは、時間がぐるっと回ってもとへ戻るような筋書きになっていて、果てしない宇宙の探索を描きながら、物語世界は閉じた時空なのです。ほんとに不思議な、メビウスの環をぐるっと「ゆきて帰りし」物語!
このページの素材は、
アンの小箱
さまです。
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