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『火星年代記』 (2005.10)
今日(2005.10.30)は火星大接近の日だそうです。時々、大接近するたびに、火星に関するファンタジーをふくらませてみるのが好きです。
「SFの詩人」ブラッドベリがこの連作を出版したのは、1946年といいますから、すごい昔。目次を見ると、この架空の年代記は、1999年1月から始まり、2026年10月で終わっています。だからもはや、私たちの本当の「時」が、このSF架空年代記に追いつき、今はそのまっただ中(2005年)にいるわけです。
始まりは、期待に満ちたロケット。人々の夢を乗せて、火星へと飛ぶ。地球脱出の夢。だって核戦争が起こりそうな地球から逃げて、新天地へ行きたいから。
それから、火星人との遭遇、探検隊の地球人のとった行動。地球で失われたものが、火星にはあった…。そして、火星人の滅亡。
やがて、火星に「波となって打ち寄せる」移住者、入植者たち。
そして、2005年11月の年代記には、こうあります。
地球では、戦争が始まろうとしていたのだ。 ――『火星年代記』小笠原豊樹訳
それから、
暗い夜空で、地球の姿が変った。
ぽっと火に包まれた。
…それから、だんだん小さくなっていった。
「あれは何だ?」サムは、空に燃える緑の火を眺めた。
「地球よ」両手を握り合わせながら、エルマが言った。
「あれが地球のはずはない、地球じゃない! …――ああ、地球だったはずはない」 ――『火星年代記』
ただ、核戦争?は起こったが、地球はなくなりはしなかったようです。故郷を心配して、皆が地球へ戻ります。そのあと、年代記は2026年まで飛んでいます。その間、地球は、人類規模の戦争で緑に燃えつづけていました。
最後の年代記では、地球を脱出してきた1家族が、火星に住み着くくだりが語られます。パパはラジオに耳を当てますが、地球からの電波は消えてしまいます。ピクニック気分の子供たちは、火星人を見たがります。
「そうら、そこにいるよ」パパは、マイケルを肩の上に移して、真下の水面を指さした。…火星人はそこに――運河の中に――水面に映っていた。ティモシイと、マイケルと、ロバートと、ママと、パパと。 ――『火星年代記』
こうして地球が滅び、彼らが新しい火星人になるところで、黙示録的なこの年代記はそっと終わるのです。
2005年10月末、今宵の火星を眺めながら読むと、なんだか、地球について人類について、とっても考えさせられる本です。
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