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HANNAのファンタジー気分

October 6, 2006
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テーマ:本日の1冊(3036)
 曇り空で、お月見はできないかな、と思っていましたが、8時ごろ庭へ出ますと、おお、強い風に流される雲間から、明るいお月さまがのぞいておりました。

 …仲秋の名月の夜、札幌で祖母と二人暮らしをしている若い高校教師まりは、祖母の手料理(里芋のきぬかつぎやつくね)を食べ、月見酒と称して日本酒を飲み、さて寝ようとすると、飼っている北海道犬セタがほえるので眠れません。
 セタは豊平川の岸辺で倒れていた人物のところへ、まりを連れてゆきます。それは時代劇から抜け出てきたようないでたちの若者で、

  「コ、コ、コ、ココハエズコジャ」
  「ミ、ミドモはあやしい者ではござらぬ」 ――原田康子『満月』

などと言いだすのです。
 男の名は杉坂小弥太、300年前の津軽藩のサムライで、北海道の探索に来てアイヌの族長のもとに身をよせるうち、アイヌの老婆の呪術によってあやまって現代にタイムスリップしてしまったのでした。
 驚き怪しむまりの家に押しかけてきてしまうサムライ。警察を呼ぼうとするまり。ところが、意外にも祖母は落ち着いたもんです。76歳このおばあちゃん、常にきりっとしていてあわてず騒がず、サムライを家にあげ、茶を点て、事情を聞きます。そして、現代ニッポンのことを何も知らないサムライは、まりと祖母の家に居候することになるのでした。

 筋立てはちょっとライトなタイム・ファンタジーですけれど、月夜に忽然と現れた杉坂小弥太をごく自然にもてなす明治生まれのおばあちゃんの所作が、とてもいいんです。西洋では旅人をよそおって訪ねてくる神さまの話(北欧のウォータンなど)があるし、日本の民話でも「鶴の恩返し」とか、夜に突然やってきて居つく不思議な人、というのがありますよね。
 この物語のサムライも、異世界からやってきた一種の超人的存在という感じで、それをもてなすおばあちゃんは、仲秋の名月に客人神をもてなす儀式をおこなっているかのよう。

 このあと、物語は恋愛小説になっていって、最初けぎらいしていたまりが次第に小弥太に惹かれ彼も彼女を愛すようになるのですが、タイム・ファンタジーのお約束として、小弥太は1年後にはもとの世界(300年前)に帰らなければなりません。
 しかも1年間は女性と契るのはタブー。破るとただちにもとの世界に帰ってしまうというのです(ここんとこはちょっとご都合主義な設定?)。
 だから二人の恋は初めから限定つきで、せつない。おまけに小弥太には津軽に若妻がいるし、もとの世界に帰ったら彼は記憶をなくしてしまい、アイヌの族長の娘と結婚させられるはめになるかも、などと予測され、ますますせつないまりさんでした。

 それでも心を通わせ合う二人のゆくすえを、この物語の連載当時、高校生だった私は胸キュンで読み進んでいました(私の父が購読していた「週刊朝日」に載っていたのです)。
 数年後、映画化された時には、ヒロイン(原田知世)とサムライ(時任三郎)が1年たたぬうちに愛を貫いて自分たちで別れを早めてしまうストーリーになったそうですが、もとの小説では、1年後の満月の夜に、せつないまま二人は引き裂かれるのでした。
 月下で別れをおしむ二人に、暴走バイクがつっこんできて、小弥太はまりをかばって倒れ、消え失せます。あっけない幕切れだと最初は思いました。でも、大人になってから読み返してみると、物語の最後に語られるまりの心境が、(かなわぬ恋の末路の悟りの境地、かもしれませんが)私にはじーんときたのでした;

  わたしは最後に、男女の愛を越えた大きな愛をかれから受けとったのです。かれがエゾ地でわたしをわすれているとしても、わたしに何の不足があるでしょう。 ――『満月』

 ファンタジックな月夜にせつない恋を昇華させるのは日本人の得意技、かもしれませんね。






Last updated  October 6, 2006 10:47:04 PM
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