000000 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

HANNAのファンタジー気分

November 28, 2006
XML
テーマ:お勧めの本(5273)
カテゴリ:これぞ名作!
The Last Unicorn ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーン』の続きです。

 年取った不老不死のユニコーンと、本物になれないままの魔術師、すさんだ生活に嫌気がさした女。彼らは、地上のすべてのユニコーンを追い立てて行ったという「赤い牡牛」を求めて、ハガード王の城にやって来ます。
 “ハガード”とは「やつれた、荒々しい、とげとげしい」という意味だそうで、不毛の地を治める王の城は、海辺の断崖の上にあり、ねじれゆがんだ塔のある恐ろしい所です。近づいてゆくと、古い血の色をした牡牛が現れて、ユニコーンに襲いかかろうとするので、魔術師シュメンドリックは奇跡的に本物の魔法をかけて、ユニコーンの姿を美しい乙女に変えます。

 ここで初めて、年の若いキャラクターが出てきました。ユニコーンから変身したアマルシア姫。そして、その相方として、ハガード王の養子リーア王子が出てきます。
 奇妙な取り合わせです。アマルシア姫は若いといってもこの世ならぬ美しさを持つユニコーンの化身だし、リーアときたら以前は、婚約者の別の王女のそばで雑誌を読んだりしていた、無気力で何にもできない甘ちゃんでした。
 しかし、廃墟のように物寂しいハガードの城で暮らすうち、二人は変わり始めます。リーア王子は姫を一途に愛するあまり、いきなり「英雄」になってしまうのです。竜を退治して首を彼女にささげたり、

  「ぼくは四つの川を泳いだ・・・七つの未踏峰を登り切ったし・・・十五人の騎士たちをぼくは、打ち負かした。・・・巨人たち、娘に化けた悪鬼たち、ガラスの丘、死の謎、おそるべき難題、魔法のリンゴ、指輪、ランプ、秘薬、剣、外套、靴、ネクタイ、ナイトキャップ・・・」
――『最後のユニコーン』鏡明訳

 彼を英雄たらしめたアイテムが、竜や未踏峰から、ネクタイ・ナイトキャップへと並んでいるのが、何だかおもしろいです。おもしろくて、何だかアワレをもよおすほど。本文中でも彼は何度となく「おろかな」と形容されています。
 英雄的行為ではアマルシア姫の心をつかむことができないので、彼は今度はつづりもおぼつかぬまま韻を踏んだ詩を作ろうとします。

  「小夜千鳥、さより、小百合、作用、小夜あらし・・・」
  「ずんぐりころころ、ずんぐりこ。どんぶりこ。ざんぶりこ。畜生」
  「あの処女作を、彼女の部屋の前に置いておこう」――『最後のユニコーン』鏡明訳

 善良で無垢なリーア王子の大まじめな求愛は、読者(と、年を食った魔術師やモリー)には滑稽に思えますが、じょじょに、善良で無垢なアマルシア姫の心をとらえていきます。姫はもはやユニコーンであったことを夢以外では思い出さなくなり、だんだん人間の乙女になってゆきます。

 このままでは、最後のユニコーンが地上から失われる。そう思った魔術師とモリーは、アマルシア姫を何とかもとのユニコーンの姿に戻そうとしますが、できません。それに、愛しあう王子と姫の未来の幸福を思うと、今さら彼女をユニコーンに戻すのはどうかとも思えてきます。
 そうして、最後の決断の時がやって来ます。
 とうとう、赤い牡牛と対峙した時、アマルシア姫をどうするか。姫はもう人間のままでいたいと頼み、魔術師もうなずきます。けれど、最後に反対するのは、姫を愛しているリーア王子自身でした。英雄となった彼は、姫を愛しながらも、この物語の正しい大団円のためには最後のユニコーンが必要だと、悟るのです。それは、相変わらず滑稽で、おろかな選択に思えます。しかし、「おろかな」英雄リーア王子のおかげで、姫はユニコーンに戻り、物語は先へ進むことになります。

 さらに、リーア王子の愚行は続きます。彼は、もはや愛する姫ではなくなったユニコーンをかばって赤い牡牛の前に身をさらし、斃れるのです・・・
 ここに至って、読者にも彼のおろかさが英雄的行為に見えてきます。彼の愛こそが、最後のユニコーンを救ったのですから。

 大団円は、お定まりの奇跡がいっせいに起こります。ユニコーンたちは救われ、不毛の地は生命を取り戻し、リーア王子も生き返ります。主人公のユニコーンももとの森に戻るのですが・・・、人間の乙女としての愛と喪失を知ったユニコーン。そして、愛と喪失を知って王になったリーア。若者たちはほろ苦い体験をして、大人になってゆきます。
 反対に、本当の生を知らぬまま年月を生きてきた魔術師とモリーは若返ります。
 死すべき者と不死の者、若者(子供)と老人(大人)、生命と不毛、などの対比が見事で、どの登場人物もどこか愛しくおろかしい、そんなステキな物語『The Last Unicorn』。わりに平易な英語なので、原書でもお薦めです。






Last updated  November 28, 2006 11:23:44 PM
コメント(2) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
別の画像を表示
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。


Re:おろかで愛おしい“英雄”――『最後のユニコーン』(11/28)   黒田 誠 さん
敬愛するピーターS. ビーグルの作品The Last Unicorn のことを取り上げて頂いて、とても嬉しく思っております。今年はこの名作の刊行50周年ということもあり、日本での理解をさらに深めるためのキャンペーンを実施する計画を立てております。手始めとして千葉県のユーカリが丘イオンタウンというところで、アニメThe Last Unicorn の展示会を開いておりますが、24日には原作との比較を語る講演会、25日には自由にこれらについて語り合う研究会を開催する予定です。8月にはこの企画の発展形として、一般の方達の参加を呼びかけて創造的記述と2時創作を通じてThe Last Unicorn に迫る、展示会を行うことが決定しています。よろしければご寄稿あるいはコメントを寄せて頂ければ有難いと思います。詳細については以下のブログとツィッターをご覧頂ければ、雰囲気が掴めると思います。突然で失礼かと思いましたが、この機会に日本でのビーグルに対する理解を深めたいと切に願っております次第です。

和洋女子大学 国際学類 黒田 誠

ツィッター:mackuro3

ブログ:Fantasy as Antifantasy Daily Lecture (February 18, 2018 01:23:50 PM)

ご訪問とコメントをありがとうございます。感激です!   yhanna さん
黒田 誠さま

つたないブログを、ファンタジー研究の専門家の先生に読んでいただけて、たいへん驚き嬉しく、恐縮しております。

数年前に黒田先生のサイトを初めて拝見して以来、ブログにもとり上げさせていただき、自分が若かったらぜひ先生のもとでビーグルやトールキンなどのファンタジー論を学びたかったなあと思っておりました。

このたびは記念イベントのお知らせ、ほんとうにありがとうございます。ワクワクしながらさっそくツイッター等、拝見しました。赤い牡牛の論文をはじめ、ビーグルさんのお手紙、アニメについてのお話や絵コンテ等、貴重な資料がいっぱいで、素晴らしいですね(私はアニメも大好きです)。

千葉までかけつけたい思いでいっぱいなのですが、私は大阪府在住で、家庭の事情などにより急にはそちらまで出向くことができません。ご盛況の様子を拝見するにつけ、なんとも残念です。

8月のイベントはもしかしたらうかがうことができるかもしれません。詳細が発表されるのを心待ちにしております! (February 18, 2018 11:21:45 PM)


Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.