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テーマ:お勧めの本(7210)
カテゴリ:これぞ名作!
私の家の近くには古墳がいくつかあって、子供の通う小学校も古墳に隣接しています。小さいけれど前方後円墳で、てっぺん近くには復元された筒状のはにわが並んでいます(興味のある方はこちら)。
はにわには家、動物、船などいろんな形のものがありますが、人の姿をしたものはなかなかユーモラスで親しみやすい雰囲気がありますよね。うちの近所の和菓子屋さんの出している商品にも、郷土の風物を名前にしたのか、「おどるはにわ」なんていう名前のお菓子があります。 さて舟崎克彦の「ぽっぺん先生」シリーズの中でも、かなり異色なのが第4作『どろの王子』でしょう。第2作『帰らずの沼』で虫や魚に変身した主人公ぽっぺん先生が、今度はなんとハニワに変身するのです。 とある里山の桜の木の下で、先生はハニワを見つけます。それはニワトリを抱いた少年の姿で、左脚が欠けていました。次の瞬間、「マッテ!」と呼びとめるような声が。 まさかハニワの人形が声を出したのか? あらためてよく見ると、どろの人形であるはずのそのハニワ、何かもの言いたげな表情をしていたのです。このあたり、なかなかうつくしい描写です; 半月型に切りこまれた細い目、指さきでつまみ出したような鼻、その下にぽっかりとあいた小さな口。… …ときおり風がそよいで木もれ陽がゆれると、それを浴びた生気のない顔は心なしかはにかんで見えたり、おおらかに笑って見えたり、また悲しみにゆがんでいるように見えたりもするのです。そして、森の下かげにさまよいこんだ風のきれはしがハニワの欠けた足からからだの中をふきぬけて行くせつな、その口からことばのようなものがもれるのもたしかでした。 ――舟崎克彦『ぽっぺん先生とどろの王子』 その次の瞬間、先生は地崩れとともに地下の世界へ放りこまれ、気がつくと自分が、さきほど見つけたハニワの少年になっていました。ただし、欠けていた脚はちゃんと両方あります。 地上に住む人間にとって、地下とは異世界=死の世界につながるイメージがあります。古墳というのも地下(地中)のお墓ですし。けれどこの物語ではぽっぺん先生が変身した少年を始め、いろいろなハニワたちが、地下の闇の世界で魂を得て目ざめるのです。 老若男女さまざまな姿のハニワたちは、目ざめたあと、自分たちは何だろう、何をすればいいのだろう、と悩みます。 そこへ巫女のハニワが現れ、地下でねむる天子さまのためにそれぞれのつとめを果たすようにと教えます。百姓のハニワは畑をたがやし、泣き女のハニワは天子さまの魂のために泣き、役者のハニワは踊り、ハニワ作りのハニワはどろをこねます。ただ立派に武装した4人の武人のハニワだけは、あたりを見張る他にやることがありません。そして、先生が変身した少年のハニワはといえば、あろうことか、巫女に「イラクサ王子さま」と呼ばれて、その身分のしるしに水晶の玉を持たされ、地下世界の最高位にたてまつられてしまいます。 ハニワの姿をしていても、中身は地上の人間であるぽっぺん先生は、何とか地上へ脱出したいと思いますが、巫女にとめられます。 「ハニワは地上に出れば命を失うでしょう。ことばも心も夢も力も、すべてはすこしずつ消えてゆき、ただの土くれになってしまうのです。ハニワは土の中にいてこそ・・・よみがえることも自由なのです。・・・」 ――『ぽっぺん先生とどろの王子』 ここにも地上の人間との対比があります。人間から見ると死の世界である地下で魂を得たハニワにとっては、人間の生の世界である地上こそが「死」の世界なのです。表裏一体の生と死・・・ 一方、武将としての本性に目ざめた4人の武人たちは争いを始め、ハニワ作りに部下のハニワを作らせたりしてにらみあい、ハニワ王国は次第に血なまぐさい状況になってきます。4人とも、イラクサ王子を、そして彼の持つ水晶玉を奪おうとして戦いを始めてしまいます。 これはハニワの世界ではありますが、まさに古代・中世の人間の歴史そのものの物語だといえるでしょう。人間が自意識に目ざめ、共同生活をするうちにさまざまな職業や役割を分担し、身分の上下ができて巫女が神意(=天皇のことば)を伝え、やがて武士が現れて力で争う・・・ 4人の武将たちの権力争いの的となるイラクサ王子(=ぽっぺん先生)の姿は、たとえば平家にたてまつられ、壇ノ浦で海中に没した安徳天皇(まだ少年でした)などを彷彿とさせ、水晶の玉は「三種の神器」を思い起こさせます。 (次回へつづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 15, 2007 11:37:17 PM
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