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カテゴリ:近ごろのファンタジー
Y新聞の人気連載、芥川賞作家の東大教授が書いた動物小説が、本になった! という書評を見て、さらに作者が「『ウォーターシップダウンのうさぎたち』が好きで、あんな話を書いてみたかった」と語ったというのを知って、買ってみました(図書館では何人も予約待ちが出ていたのでね)。 川辺に住むクマネズミのお父さんと二人の息子、タータ、チッチ。兄弟が夏の終わりの平和なひとときを過ごしていると、そばに看板が。「・・・この川の暗渠化工事が九月**日から始まります 東京都建設局」。 ・・・おーっと。これはまったく『ウォーターシップダウン』(リチャード・アダムズ)の始まりと同じパターンじゃありませんか。ウサギたちの平和な住みかに「最高級現代的レジデンス予定地。建築主****株式会社」という立て札が出現した、あの冒頭部分です。強いていえば、ウォーターシップダウンの方が、強い予知能力を持つウサギ、ファイバーがこの立て札に危険を感じ取るところが劇的に描かれていてインパクト大なのに対し、『川の光』ではネズミ兄弟はのんきなまんまで、そのうち近所のネズミ仲間たちが避難を始めるのだけれど、住みかから離れがたくてぎりぎりまで残っているあたり、何というか日本人的な腰の重さ、まず様子を見ながらなるべく現状で堪え忍ぼうみたいな(優柔不断とも言う?)性格のようです。 とうとう親子3匹は工事のない川の上流へ避難を始めますが、行く手には強権的なドブネズミ帝国のなわばりがドーンと立ちはだかっていて、彼らクマネズミは通してもらえない。 ・・・って、これはそう、ドブネズミvsクマネズミの戦いつまり『グリックの冒険』(斎藤惇夫)でガンバの仲間たちも参加していた歴史的な戦争、東京の町からクマネズミをすべて駆逐して、ドブネズミだけの王国を作ろうという、あれですね、あれ。(実は、『グリック』のこのエピソードにもさらに“原点”があって、それは『ニールスのふしぎな旅』(ラーゲルレーヴ)の「グリンミンゲ城――黒ネズミと灰色ネズミ」の章です。) 親子はナチスみたいなドブネズミたちから逃れて、偶然、図書館に隠棲している一風変わったドブネズミのグレンに助けられますが、彼はナチス・ドブネズミに対する革命をくわだてたリーダーだったのでした。 そのほか、飼い犬や、マグロ缶の好みのうるさいネコなど、本来は天敵なのに飼い慣らされ妙に友好的になっている都会の動物たちにも助けられます。犬も猫も本性を失っていない田舎が舞台の『ウォーターシップダウン』とも違うし、敵味方意識のはっきりしたガンバの話ともちがう、あいまいで都会的な動物どうしの関係。 ・・・と、ワタシ的にはちょっと期待はずれなところも多い本でしたが、物語自体は、ほのぼのした家族愛と連続する冒険、個性豊かな登場動物たちにいろどられて、楽しく読み進むことができます。 作者はいろんなジャンルのいろんなものを書いている大学の先生だということですが、たぶん家庭的で素朴な物語を書こうと肩の力を抜いて、楽しんで書いたのだと思われます。衝撃的だったりあっと驚く仕掛けはないけれど、そういう楽しさが伝わってくる、とてもオーソドックスでまっとうな物語でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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