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テーマ:本日の1冊(3685)
カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
ここ数日の暑さに我が家の庭はすっかり夏!で、カマキリの子やバッタの子、毛虫イモムシ、チョウチョにアブ、とにかく虫がいっぱいです。きのうなんか、クヌギの近くのトレリス(春にスイトピーをからませていたのを、そのまま放置していた)に、セミのぬけがらがついていました。
それで思い出したのが、ソ連の昆虫物語、『自然の教室』。子供の頃、福音館日曜日文庫というシリーズから出ていまして、『ファーブル昆虫記』で虫好きになった私が、とても楽しんで読みふけった本です。 後書きによると、ソ連ではロングセラー児童書だったそうで、当時(今も?)おとぎ話以外のソ連(ロシア)の児童書なんて、ほんとに珍しいものでした。しかも、学者先生と2人の子供がミクロサイズになって、昆虫の世界を冒険するという、SFみたいな大長編です。 表紙絵からして、リアルな虫で、苦手な人は退いてしまいそう。挿絵は日本の画家さんですが、主人公の子供は出さずに、図鑑なみにリアルな虫や植物のみを描いていて、これが虫好きにはたまらない。ヘタに原作のイメージを壊さず、かえって読者の想像力をふくらませてくれます。 ただ、タイトルが地味ですよね。自然の教室、なんてなんかお勉強くさい。現題は「カリークとワーリャの異常な冒険」で、この方がいいのに、と思います。 主人公の兄妹カリークとワーリャは、学者先生の新薬をいたずらで飲んで、体がミニサイズになってしまうんです。そして、トンボの背中に乗って池へ、さらにその周囲の丘へと連れてゆかれます。そこは、いろいろな昆虫たちがなまなましい生存競争を繰り広げる、ドラマチックなミクロワールドでした。 と書くと、夢のようなファンタジーみたいなんですが、いわゆるおとぎ話調のファンタジーとは違って、虫の世界に行ったからとて、この物語では虫がしゃべったりはしません。虫はあくまで虫らしく、餌をとったり巣をつくったりしています。それを小さな兄妹の視点からとことんリアルに描写しているところが、すごいです。 太陽の光を浴びると、トンボの胴体は、ふくれて強そうになり、つやつやしてきた。が、雲の冷たい陰がさすとすぐに、ちぢまってしわがより、古いいすの座席のようにゆるんできた。 ――ヤン・ラリー『自然の教室』八住利雄訳 これなんて、ほんとにトンボの背中に乗ったことがあるのかと思わせるような表現ですよね。 二人はトンボから落ちて池にはまり、アメンボに狙われ、ミズグモにつかまります。一方、学者先生も、子供たちを探し出して助けるために、自ら小さくなる薬を飲んで、ミクロワールドに乗りこんでいきます。タンポポの綿毛につかまって空を飛んだり、アリマキの蜜を飲んだり、マツヨイグサの花の中に閉じこめられたり、本当に想像を絶する大冒険が続きます。 二人は学者先生とめぐりあえるのか? そして三人はミクロワールドを乗り切って、先生が草地に置いた「元のサイズにもどる薬」のもとへたどりつけるのか? とにかく、ハラハラドキドキの連続です。 旅の間、学者先生は自然に関する知識でいろいろな困難を乗り切って行きます。最後の方ではナラの葉の船体に、ハエの羽の帆を張ったヨット「オサムシ号」を作ったりして、ちょっと船乗り気分です。図鑑か写真のような絵ばかりだった挿絵が、ここだけ、マニアックな船の図になっているのも嬉しい。 そして、470ページに及ぶ奇想天外な旅の末、彼らはめでたく家に帰ります。冒険の醍醐味と結末をしっかりおさえ、知的な驚きとユーモアと、学者先生と兄妹の人間味あふれた、これはなかなかの傑作だと思うのですが、今となっては絶版です。 やっぱり邦題が悪いんじゃないかしら。誰か、再評価してほしいです。ピクサーが映画化してくれたら、楽しいかも。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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