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HANNAのファンタジー気分

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December 5, 2008
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 ラーマーヤナ再話三部作の第1部と第2部をやっと読み終えました(結局、第2部『聖都決戦』も買いました)。
 去年ちょっとご紹介した第1部『蒼の皇子』で華々しく登場したヒーロー、コーサラ国の皇子ラーマの探索行が続きます。人類最大の敵である魔王の大軍勢が破壊と殺戮を始める中、同胞を救うため次々と試練をくぐりぬける旅の一行・・・ と、ストーリーをこう書いてしまうと、これはエピック・ファンタジーの典型。『指輪物語』とおんなじです。

 つまりこの物語は、骨組みのところで神話やファンタジーの原型に忠実なので、何というか、安心して読めます。しかし、インドという独特の風土がたっぷり盛りこまれているのと、作者の筆力が確かで、スペクタクル映画のような大仕掛けな描写や盛り上げ方がすばらしく効果的なので、読者は退屈することなく心を奪われます。
 最後の勝利は分かっているんだけど、そこまでの過程で「えー、スゴイ。でも、大丈夫? どうやったらうまくいくの?」と、すごくドキドキさせられる。最高のエンターテイメントですね。

 物語のインド色はますます独特の世界を展開していきます。第1部では「ホーリーの祭」の日が描かれ、古代インドの人々の生活習慣が自然に読者に示されます。第2部ではそれに加え、ところどころでバラモン(僧)の語りという形でインドの有名な神話が挿入され、より深いところまで読者を「インド化」してくれます。

 深いところ、つまり精神的なものは、だんだん詳しく描きこまれていく登場人物にも現れてきます。
 第1部ではイケメンで強く賢く優しい、完璧なヒーローであるラーマが、もうじき王位を継ぐことが宣言され、聖仙ヴィシュワーミトラ(『指輪物語』におけるガンダルフ=典型的な“老賢者”)に梵天力(「スター・ウォーズ」におけるフォース=存在の源のパワー)を授けられて、ますます無敵になります。ちょっと出来すぎの彼の側には、同じようにすごいけれど彼よりは凡人に近い、お茶目な弟のラクシュマナがいて、人間離れしていく兄を温かく見守り、読者に親しいものにつなぎとめます。
 探索の過程で私をもっともハラハラさせたのは、この愛すべきラクシュマナが第1部後半で殺されて!しまう場面です。そう、阿修羅(『指輪物語』におけるオークですね)の怪物たちと戦って、ずたずたにされてしまうんです。ああ、何てこと!
 その直後、阿修羅の親玉(これがまた小山のような巨人の美女)が現れたとき、ラーマは、

  「これは阿修羅よりも女性に見えます。クシャトリヤ〔=武人〕としての名誉から、ぼくは女性を殺すことは禁じられております」  ――アショーカ・K・バンカー『蒼の皇子』大嶋豊訳

 と言って、最初は立ち向かおうとしません。しかし、ヴィシュワーミトラは彼に、ラクシュマナの無惨な遺骸を示し、「そなたの弟のために」この女の怪物を倒せとたたみかけます。
 初めて弟の死に気づいたラーマは遺骸を抱きしめて悲しみ、弟の命を死の神ヤマから取り戻す代償として、巨人女タータカーを弟の弓で倒します。
 ラクシュマナは元気に生き返ります。ああ、よかった。

 女性に武器を向けないラーマの態度には、騎士道とか武士道と同じ精神がありますが、そんな精神とは別に、物語には戦う女性も登場します。
 憎まれ役である第二王妃カイケーイーは、昔、“最終阿修羅戦争”でラーマの父王の命を救った女戦士でした。

 それから、第2部でデビューするラーマの結婚相手シータ皇女も、典型的な強いヒロインです。隣国の皇女である彼女は男装して城をぬけだし、山賊相手に戦おうとしているところで、偶然ラーマと出会います。それはもうありがちな場面ですが、読者にも最初うまく伏せられているので、読み進む途中で「あ、この黒衣の小男は、もしや男装したシータ?」と気づく、その楽しさがたまりません。

 そして、迫りくる阿修羅の大軍を、隣国の都ミティラーはどうやって防ぐのでしょう。それが第2部最大のドキドキです。非暴力と不戦を誓っている王はノンキにシータ皇女のお婿さん選びなぞやっています。大丈夫なのか!? と、ラーマたちと一緒にヤキモキする読者に、ヴィシュワーミトラは奥の手を示します。その名も“梵天兵器”。小さな巻物に記された呪文ですが、一発唱えるだけで敵を全滅させる最終兵器・・・これはまさに、『指輪物語』の「力の指輪」であり、「ナルニア国物語」のチャーンの都をほろぼした「ほろびの呪文」、または宮崎駿「天空の城ラピュタ」に出てくる「ほろびの言葉」です。
 この呪文は、行使する者に代償を強います。ゆえに、魂の救済を求め非暴力を誓った王は、この最終兵器の発動を拒み、ヴィシュワーミトラはため息をついて宣告します:

  「ならばわれらは敗北する。何となれば・・・この神聖武器は、私には禁じられている。・・・なぜなら、いかなる個人もそのような強大な力を持つべきではないからだ」  ――『聖都決戦』

 ああ、お定まりの絶体絶命。このピンチを救うのは、やはりラーマです。授けられた力を失っても、最終兵器の重みを一身に引き受けようとするのは、さすが超人的なヒーロー。
 ここで、また感動の場面。呪文の巻物をつかんだラーマの手を、弟ラクシュマナのこぶしが握るのです。

  「・・・一緒にやろう」ラクシュマナは叫んだ。「兵器を二人で使おう」  ――『聖都決戦』

 そういえば、“指輪保持者”フロドにも、最後まで忠実なサムがついて行き、フロドとともに重荷を担いました。超人的ヒーローであっても、持つべき者はよき理解者。ステキです、ラクシュマナ。

 何だかとても長くなったので、今宵はこのへんで。





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Last updated  December 5, 2008 11:30:15 PM
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