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カテゴリ:近ごろのファンタジー
単行本だととっても分厚く重たい、文字通り大冊です。 作者がアラビアに旅行した時、偶然手に入れた、作者不詳の幻の書物の翻訳・・・ということになっています。本文中にも、「原書ではここが斜体になっていた」などとあちこちに訳注がついていて、読者はウッカリ本当に翻訳本だと信じそうになります。いや、読了しても、マコトシヤカでモットモラシイ後書きがついているので、これが(後書きも含めて)全部丸ごと創作だとは気づかない人も多いんじゃないかしら。 私も最初はだまされるところでした。でも、トールキンだって『指輪物語』の前書きで、物語の原典「西方の赤表紙本」の写本についてまことしやかにもっともらしく解説していますから、読み進むうちに、『アラビアの夜の種族』もその本自体の誕生の物語のところからすでに壮大な枠組みの創作なんだなと気づきました。 一言で言ってしまうと、これは「物語」というものの底知れぬ魅力(というか魔力)を語った作品です。ナポレオンの遠征軍が迫るカイロの町で、町を牛耳るアラブの富豪たちのひとりに、その右腕である奴隷の青年が、ナポレオン軍を打ち破る秘策を提案します。それは、読む者を破滅させるという「災厄の書」をナポレオンに献上しようという作戦。 読む者を物語に耽溺させ破滅に導く、という設定には独特の魔術のようなものを感じますが、実は目新しい仕掛けではありません。先日書きました川又千秋『幻詩狩り』も、シュールレアリズムの天才詩人の作品を読んだ人々が次々に魂を抜かれて変死するというお話でした。物語が別世界へ読者を吸引する力というのは、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』でも(これは肯定的に)描かれています。 『アラビアの夜の種族』では、同名の幻の書物の翻訳という外枠の中に、「災厄の書」でもってナポレオンを破滅させようという枠組みがあり、さらにその中に「夜の種族」の語り部が語る「災厄の書」の内容があります。その内容が長大な連作物語となっており、分厚い本の大部分を占めています。 夜ごと物語をつむぐ語り部はナゾの美女。主人公は魔術師。魔法、恋、戦、歴史・・・ともりだくさんなモチーフが数珠繋ぎにつながってゆく壮大なおとぎ話。そう、これはまるで「千夜一夜物語」です。 ただ、シェヘラザードが命を長らえるために毎晩語り、結果的に王の心をやわらげたという「千夜一夜物語」に対して、『アラビアの夜の種族』は、破滅をもたらすために毎晩語られ、しかもナポレオンを排除するという当初の目的は果たされずに終わります。 そういえばこの本の原題だとされる「The Arbian Nightbreeds」は、「アラビアンナイト」という言葉を含んでいますから、作者は意識的に“もう一つの千夜一夜物語”あるいは“千夜一夜物語の裏バージョン”を創ったということなのでしょうね。 その、めくるめくおとぎ話は長くても面白く読めました。で、いよいよ「災厄の書」が語り終えられてその呪いの力を発揮―――! というところで、実は私はちょっと(いや、だいぶ)肩すかしを食らってしまいました。 そこまでの盛り上げ方がすごかったので、この書がナポレオン侵攻に実際どうからんでくるのか、興味津々で期待していたのです。でも、何だか結末だけ小手先でくるくるっとトリッキーにかわされて、そのトリックに今までのもっともらしい語りをまぶして、お茶をにごされた感じ。 それとも、このように読者を煙にまくのが作者のねらいで、ここまで私は見事にだまされていたのかしら。 うーん、だますなら最後までもっと納得のいくように見事にだましてほしかったような。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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