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カテゴリ:これぞ名作!
![]() 「帽子をかぶってきませんし、ハンケチも忘れました。お金も持ってこないのです。」 ・・・おりから、五月になろうとするまえの日の、うらうらとはれわたった朝、荷物をどっさりつけた小馬にのって、ゆさゆさと、一同は、宿屋をはなれました。 ――トールキン『ホビットの冒険』瀬田禎二訳 主人公のビルボは、こんなふうにわけもわからず、心の準備もなく、家を飛び出して、ドワーフ小人たちとともに竜の宝を求めて出かけることになります。 以前に秋の旅立ちについてブログに書いたことがありましたが、それは内側から何かに追い立てられるような、こうしてはいられない気持ちになって、それでも色々心構えをして旅立つものでした。 対して、春のこの旅立ちは、外から強力にひっぱるものが突然現れて、心地よいすみかをポンと飛び出し、気がついたら冒険に出ていたという類のものです。 同じような旅立ちは、ケネス・グレーアム『たのしい川べ』の冒頭にもあって、そこではうららかな春の明るさに惹かれたモグラが、古い住まいを捨てて出奔し、新しい、魅力的な川べの生活に入っていきます。そして夏が過ぎ冬が来るまで、古巣へ帰ろうなどとは思いもしないのでした。 ![]() 『ホビットの冒険』の方は、ビルボは出かけたい気持ちも持っていたとはいえ、強引に旅に引っ張り出されたので、困難にたちむかうたんびに愛する古巣のことを思い出します。つまり家で平穏無事な暮らしをしていたらよかったのにと後悔し続けながら、冒険を続けていく。そこが何とも、人間くさいというか、親しみやすいのです。 ・・・わが家のホビット穴のお気にいりの居間にいて、だんろの前でいすにかけ、そばのやかんがふつふつと歌をうたうありさまを、しみじみと思いだしました。でも、なつかしのわが家をしのぶのは、これがおわりではなかったのです! ――『ホビットの冒険』 それにしても、どちらの物語も、旅人はちゃんと古巣に帰ります。ホビットは宝を手に入れ詩人になって戻り、モグラは友人とともにわが家でクリスマスを祝います。それは安定した家を持ち、地に足の着いた生活をしていた作者の日常の姿がにじみ出ているのかもしれません。 時は5月。新しい生活にぽんと飛び出した人が、古巣をなつかしんだり、そんな暇もないほど充実していたりする季節なんでしょう。 そして、変わり映えのしない環境にいる人は、旅に出てみたり。 ・・・昨今は、ハンケチは忘れても、マスクを持って行かなきゃいけないみたいですけど。
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