2013/07/30(火)22:37
短編童話「おばけ雨雲アマグモン」後編
ちょっと忙しくしているうちに前回連載から日がたって、梅雨があけてしまいました。でも昨今のゲリラ豪雨などを思うと、やっぱりこの季節のお話でOKかなと思います。
ともあれ、ようやく今日で完結です。
* * *
おばけ雨雲アマグモン(3)
ぴゅーっ!
そのとき、下の方から、ほそい、青いロープがとんできました。
「たえちゃん、ママよ!」
ロープの上を、サーカスの人よりじょうずに、ママがつなわたりをしてきました。
ママは白いエプロンをひらひらさせながら、アマグモンの前へくると、
「いいかげんにしなさい!!」
と、すごい声でどなりつけました。
「なんだとお! 雨雲にしずめてやるぞお。」
「できるもんですかっ!」
ママは、ぐんと両うでをのばして、たえちゃんをひっぱりあげました。
「ママ!」
と、たえちゃんは、ロープにしがみつきます。それを見とどけると、ママはアマグモンに、むきなおりました。
「どうしてこんなに、よごしたの!」
はっ、とアマグモンは、どろどろ、ぶくぶくのからだを四角にしたようです。
「だってっ! こんなはい色のところしか、すむばしょがないんだもの!」
たえちゃんは、あれえ? とおもいました。
ママは、すこしやさしい声になって、
「だめねえ。こんなにひろいお空を、あなた、じぶんでよごしちゃったんでしょう。それに、まず、かおや手をきれいにしないとね。」
アマグモンはきゅうに元気なくしぼんで、どろどろの手でかおをかくしました。
そこで、ママはロープの上にぴーんと立つと、声をはりあげました。
「せんたく、はじめえ!!」
すると、まあ! そこらじゅうのはい色どろどろが、ぶおーっと、まわりだしたのです。
「せっけん、ようい、どん!」
ママがどなると、パララ! 雪のようなこながふってきて、ぷくぷく、あわだちます。
「な、なにをするんじゃーあ」
と、アマグモンは、なさけない声を出しました。あわあわの、半分ちぎれたひげをなびかせて、大うずまきの中、ぐるぐるまわっています。
「たすけて、うおーおーいいぃぃぃ。」
声といっしょに、アマグモンはきゅーっとちぢんで、ぷつぷつ、サワサワ、まっ白なあわにうもれてしまいました。
たえちゃんは、すこし心配になりました。
「ママ、アマグモン、だいじょうぶ?」
ママはにっこりして、号令をかけました。
「すすぎ、はじめえ!」
しゅーっとあわが下へしずんできえ、かわりに、とうめいな風がさーっとながれこみました。あたりはみるみる青く、あかるくなっていきます。青空です。それに、白い雲。
アマグモンは、どこへ行っちゃったのかな。
ママがさいごの号令をかけました。
「だっすい!」
すると、青空はくるくるまわり、白い雲が一つ、ふわっととんできました。おや、それはまっ白、ぴかぴかになったアマグモンです。
ママは、エプロンのポケットからせんたくばさみを出すと、しゃかしゃか、ぴん! アマグモンをロープにつるしてしまいました。
と、おもったら、それはまっ白なパパのシャツになっていました。
なあんだ! たえちゃんは、ほっとしてわらいました。
「さあ、おかいものに行きましょう。」
たえちゃんはママと手をつないで、ロープからぽんととびおりました。そこは、すっかりはれたベランダ。アマグモン、いえ、パパのシャツは、ぴかぴか光っていました。
お日さま出れば アマグモン
とってもいい子で まっ白よ
お空でゆれる パパのシャツ
たえちゃんは、うたいながらでかけました。
おわり。