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カテゴリ:これぞ名作!
先月の 『はてしない物語』37周年で思い出して、久しぶりにミヒャエル・エンデ『鏡の中の鏡-迷宮-』を読み返してみました。
1985年に出版され、それまでの「ジム・ボタン」シリーズや『モモ』『はてしない物語』とはうってかわって大人向けで難解、とされた作品。寓話ともとれる30の短編から成り、共通のイメージがいくつか出てくるけど、内容的には別の話。ただ30番目の話は、最初の話に内容がつながるみたい。という、ウロボロスの蛇的なあやしい物語迷宮なのです。 解釈が難しいとか、そもそも解釈などすべきでないとか、いろいろ意見がありますけど、エンデの示す個々のイメージ自体は、『はてしない物語』などと同様、オーソドックスで馴染みのある、根元的な原風景のように思われます。ただその散りばめ方がシュールだったり、ストーリーが断片的だったりで、一筋縄ではいかない。読者によって、また何度か読むごとに、千差万別の読み方・感じ方が出来る。そういう意味でも、読者の心の状態をうつす「鏡」みたいな作品です。 たとえば、冒頭にはエンデの父エトガーの描いた「牡牛と葡萄」の絵が掲げられ、そのあと第1話の迷宮の住人の話を読むと、ギリシャ・クレタ島のクノッソスの迷宮に閉じこめられた牛頭の怪物ミノタウルスが思い起こされます。でも、ギリシャ神話をあまり知らない人には、きっと別の読み方ができるでしょうし、それで構わないのだと思います。 なぜなら第1話に出てくる迷宮の孤独な住人は、牛頭だ、とは書いてありません。私には最初、妖怪か亡霊に思えました。彼が、過去の体験や思い出のからまったものを「長いドレスのすそのようにひきずっていく」とき、私はディケンズ『クリスマス・キャロル』に出てくるマアレイの亡霊を思い出したからです。 それからまた、彼は迷宮というファンタージエンに住む幼ごころの女王的な人格のようにも思えたり、時間そのものの擬人化のように感じられたりしますし、ホルHor(?)という名やささやき、こだま、などから、深層からの心の声(ドイツ語でhorenは確か、聞くという意味だったような)かな、などと、いろいろ想像すると飽きません。 けれどネットで検索すると、彼を少年だと思う人や、広大な情報空間をさまよう現代人のありさまを思う人など、私とは違う連想も知ることができて、興味深いです。 第2話は、閉ざされた迷宮を脱出しようと体に「翼」を生やす修行をした若者が、最後の試練で失敗してしまうストーリー。大勢の不幸な迷宮の住人たちが、翼を得た若者の幸運にあやかろうと、よってたかって自分の持ち物の一部を彼に託したため、若者は重みで飛べなくなった、という結末に読めます。 これも多くのイメージが連想されるお話でした。まず、第1話のつづきで、ギリシャ神話のダイダロスとイカロス父子の伝説。クノッソスの迷宮はダイダロスの作で、彼は自分で作った迷宮に息子ともども閉じこめられ、翼で脱出するも息子は死んでしまいます。 飛翔という行動は、もともと二次元移動しかできない我々にとって、次元を超え階層を突き破る、一発大逆転というか、位相転移であり解脱です。閉塞した現状からの脱出は人々の夢、ファンタジーの起点でもあります。しかし、この話のように危険な試みでもあり、それも他人に思いを掛けたばかりに失敗するなんて、納得いかない気もします。だって「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)では逆にすがってくる他人を蹴落としたばかりに脱出に失敗しますからね。 しかし、逆にいうと、脱出にはすべてを非情に捨て去る覚悟がいるわけで、恋人を訪ねてはいけないという戒めも、そういう意味だったのかも知れません。試練に合格しても、恋人を同行できるとは約束されていないのです。とすると、恋人との飛翔を夢見るこの心優しい若者には、始めから脱出は不可能だっと思われます。 ところで、主人公とちがって試練に合格した人たちは「海辺」に集合しています。迷宮都市には海辺もあるのです。そして、海/水は、もう一つの脱出口でもあります。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹)では閉鎖世界「世界の終り」の壁を越えていくのは、鳥(ユング心理学では魂の象徴)と、地下水です。飛翔よりも地味ですが、実際の脱出には水(ユングでは無意識の象徴)を越えて行く方法が使われるのかもしれません。 何だかすっかり興に乗ってきました。またこんど続きを書きたいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 12, 2016 11:47:45 PM
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