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HANNAのファンタジー気分

March 30, 2017
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テーマ:本日の1冊(3262)
 「サイバーパンク」という言葉が、新しくて刺激的だった80年代--当時「仮想」されていた身の回りの新技術が当たり前になった今、その頃の作品を読み返すと、奇妙にデジャ・ヴュななつかしさがあります。
 難解でカッコイイ訳を苦労して読んだウイリアム・ギブソン『ニューロマンサー』には、ソニーや(今は亡き)サンヨーといった企業名が電子機器の代名詞として使われているほか、「高解像」(ハイ・レズ=現在のハイレゾ?)や、「小型遠隔機」(ドローン)も登場。
 音楽ではレゲエの世界--ダブとか、レゲエの根底にある宗教(?よく知らないのですが)予言者ガーヴィ、ザイオン、ジャー(神様)などが出てきて、今となってはノスタルジックな感じ。

 なぜなら、それらの最先端技術や景色や音楽は、現在ではごく当たり前になっていて、それなのに(それだから)、それらの持っていた反体制的なつまり「パンク」調の気配は、消え失せているからです。

 たとえば、幕開けの千葉シティの空は灰色で、それは

  空気はいつもより悪く、今夜は猛威をふるっているらしくて、通行人の半数は濾過マスクをつけている。  --ウイリアム・ギブソン『ニューロマンサー』黒丸尚訳

ほら、まるで最近のPM2.5に汚染された都市のようです。物語の中の千葉シティには近未来ディストピアの悪夢的色合いがあったのに、今や現実になってしまった汚染都市の空には幻想を抱く余地がありません。

 ちなみに、サイバーパンクを彩るテクノロジックだけど猥雑な街は、外国の人からみると東京なんかもそうらしいですが、日本人にとっては、香港とか上海、北京(佐藤史生『天界の城』に出てくる)も魅惑的。
 そういえば、日本語の広告板がいっぱいある近未来ロサンゼルスだった映画「ブレードランナー」(サイバーパンクの元祖的作品)は、時代設定が2019年でしたが、現実にあと2年後です。続編映画もできるということで、もしかするとこのジャンルは再びブームになるかもしれませんね。今度はどんな近未来(2049年らしいですが)の悪夢を描くのでしょう。

 初読のとき、近未来千葉シティのどぎつさや、スペースコロニー「フリーサイド」の作り物めいたシンプルさ、最終ステージ「ストレイライト」のパラノイアぶりよりも、いちばん印象的だったのは、寂しい海辺の夢の場面でした。
 難しいハードSFな部分を忘れてしまっても、波のつくる模様の残る砂浜、遠くに見える幻の街(なぜだか光瀬龍『百億の夜と千億の昼』の序章を思い出す)、少年が「ニューロマンサー」と名乗る波打ち際(これは飛浩隆『グラン・ヴァカンス』につながる)・・・これらのシーンはいつまでも覚えていました。

 私のファンタジーな趣味から、そうなったのでしょうが、ハードボイルド・ワンダーランドな現実を生きる主人公ケイスが、唯一「世界の終り」的な郷愁にひたって自分を見つめるのがこの場面ではないでしょうか。もちろん、海辺は架空世界の一角で、見える景色も、対話をかわす恋人(故人)リンダ・リーも、ホンモノではありません。
 その幻想性が、かえって心象世界を素直に映し出しているようで、それにしてもなぜ海辺なんだろう、人間が進化と生命の原点にたちかえる場所なのかなあ、などと思います。






Last updated  March 30, 2017 11:14:01 PM
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