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カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
タイトルの「五月の鷹」とはグワルヒメイ、つまりガウェインのことです。アーサー王の甥で、円卓の騎士の中でもかなりメジャーな人物。
伝説ではアーサー王自身の探索(クエスト)が、この物語ではガウェインの探索として描かれていますが、よくある怪物や悪漢を退治するとか姫君の救出ではなく、「すべての女が最も望んでいることとはなにか?」という問いの答えを探すこと。なんとも地味なクエストです(結局は姫君の救出につながるのですが)。 ガウェインの性格もこの物語では生真面目で控えめなため、それほど魅力的ではありません。 けれど、私がこの物語で気に入っているところは、地味なガウェインが地味な探索で、ごく自然に何の呪文も仕掛けもなく、ふっと不思議な世界へ入りこむところなのです。 たとえば、 わだちがあるところを見ると、ふだん人々が使っている道なのだろうが、いったん、まだ淡い色の若葉の下に入ると、人間のたてる物音は一切きこえなかった。 --アン・ローレンス『五月の鷹』斎藤倫子訳 と、普通の道をたどっているはずが、いつの間にか果樹園の廃墟になり、わだちには昨年の落ち葉が積もっている。静けさの中に花の香りが充満し、そよとの風もなく、ガウェインは現実感が薄れ、空腹も感じず、…やがてかそけき声に気づくと、それは魔術師マーリンが自分を呼ぶ声だった… 現実世界とつながっている幻想世界。そこへ至るのに、特別な儀式は要らない。人里のすぐ隣にある大自然という異界。五月祭の前日には乙女たちが草地で輪になって踊ります。さすらうガウェインにとって、その音楽や歌は、まるで呪文のよう、すばやく消え去る姿はまるで幻のよう。 こういう感覚は、一昔前の日本人には結構おなじみだったりして、たとえば『となりのトトロ』はタイトルのとおり、自宅の庭から行けてしまうところにトトロが住んでいます。異界との境界はあいまい、というより、異界は現実世界に自然に混じりあっている。 急に話がとびますが、先ごろ『英国幻視の少年たち』の2巻目(ミッドサマー・イヴ)を読んでみたのですが、やっぱり私には英国っぽさも幻視っぽさもあまり感じられなかったです。妖精の輪が出てきたり、夏至に妖精界との通路が開いたりするのに、そこにとってつけたように--まるでゲームの画面にあらかじめ設定してあるアイコンのように--出てくるキノコの輪や坑道が、なんとなくわざとらしく感じられたりして。 ロウソクに反時計回りに火をつける、とか、いろいろ手順を踏むこと自体は面白いのですが、呪文をとなえるとスイッチを切り替えたように異界が現れるのでは、どうも雰囲気が・・・、「幻想」性がなさすぎる気がするのです。 トトロやネコバスが、一定の呪文や儀式で必ず現れたら、なんだかがっかりしませんか。 イギリスや日本の異界は地続きであってほしい、という私の理想は、『五月の鷹』に出てくるような、実際に隣にある異界のかもしだすかそけき気配を描いた作品を多く読んだり観たりしてきたせいだと思うのです。 もってまわった言い方になりましたが、つまりそういう異界を感じたい時に、おすすめの一冊『五月の鷹』なのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 14, 2018 12:30:22 AM
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