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HANNAのファンタジー気分

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September 18, 2020
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 映画館に行けず、家でDVDを観て、コミックスも読み返しました。思えば公開の年も確か受験生で映画館に行けなかったので、今回こそ観たかったなあ。

 『風の谷のナウシカ』を今年改めて観る/読むことには、深い考察以前に、すごく意味がありました。なぜって、マスクです! 突然、現実生活に欠かせなくなったマスク(もちろん以前からアレルギー等でマスク生活の人も居ると思いますが)。ナウシカたちが、腐海の出す瘴気のため防毒マスクをつけているのが、人ごととは思えないのです。

 マスクがないと生活できない。いつも空気のことを気にしなければならない。
 マスクの顔は(慣れないと)異様である。マスクをしていると相手がどんな人だか分からない。マスクの下で相手が何を感じているか、たくらんでいるか、わからない。
 マスクとは周囲と距離をとって分断するもの。人々は互いによそよそしく、疎外しあい、対立しあいます。
 服装と同じかそれ以上に、マスクによってどんな集団に属するか分かる--あなたは蟲使い? 3層不織布? 軍装一体型? ブランドロゴ入り? あるいはチククみたいな目出し帽形? それとも手作りガーゼ?

 ひとことで言うと、油断できない警戒の日々です。ふだんマスクの要らない風の谷でさえ、不用意に持ちこまれる小さな胞子(腐海の菌類)によって滅びる危険があります。私たちの行動域に不用意に持ちこまれる小さなウイルスの脅威と、なんと似ていることでしょう。

 鼻と口をおおう円形のフィルターを装着する医療用マスクが新しく開発された、と先日ニュースで見かけました。写真を見て、アスベルのマスクだ!と思いました。ナウシカとアスベルは1つのマスクのフィルター部分を半分に切って分け合います(コミックス版)が、2人とも息苦しくて危険でした。分断と対立の世界で、分け合うことの難しさと大切さを痛感させられるシーンです。

 映画版(全7巻のコミックス版の、第2巻半分まで)だけ観ていると、文明が衰退した世界のあんなマスクで瘴気を防げるって、設定に無理があるかも?と思います。作者も同じ疑問を持ったのでしょう、コミックス7巻で

  瘴気に肌を /さらしながら /わずかなマスクだけで /平気なのを /おかしいと感じ /なかったのかな?
                     ーー宮崎駿『風の谷のナウシカ』第7巻

という疑問とその答えを提示しています。それによると(ネタバレ→)ナウシカたちは現代の人類とは違い、汚染物質にある程度耐えられるよう作りかえられた未来人類であり、

  自然に生まれた /耐性ではなく /人間が自分の意志で /変えたのですね?

 つまり作り変えたのは、大破局(「火の七日間」)を引き起こした文明最盛期の旧人類(=私たち?)でした。ナウシカが描かれた80年代はバイオテクノロジーが大流行、その功罪を考えるSFとしてナウシカを読むこともできます。
 ナウシカ世界の旧人類は、自ら汚染した地球を浄化するために、バイオ技術を駆使して、腐海の菌類やその番人たる巨大昆虫(とくに王蟲)を作り、浄化が完了するまでのつなぎに、汚染に強い人類をも作った・・・
 ところが、バイテク人達は、そうやって作り上げた生物たちに後を託しただけではありませんでした。浄化後の地球に住むために、自分たち旧人類の生命装置と文明の記録を「墓所」に眠らせ、復活の時を待つような仕組みを作ったのです。自身の変化を拒み、今あるままの自己を保存しようとする試み・・・これはある種の「永遠の生命」に他なりません。

 永遠の生命を望む者、それはファンタジーでは悪役(ラスボス)に決まっています。「不死身のの族長に跡継ぎは無用であろうが」(あしべゆうほ『クリスタル・ドラゴン』の邪眼のバラー)。トールキン『指輪物語』では、呪われた指輪は持ち主を不死にします。めぐる季節のような死と再生という生命の受け渡しを拒む者は、どんなに善人ぶっても悪なのです(興味のある方は私のつたない古い卒論をご覧ください)。

 ところで、旧人類は、「墓所」に凍結保存した自分たちと、環境に順応するよう作り変えた子孫たちと、いったいどちらに未来を託すつもりだったのでしょう?

 同情的に推察するなら、自滅のふちで旧人類は、片方が失敗しても他方がうまくいけば良いというふうに、生存確率を少しでも上げようとして2つの方法を実行したのでしょう。

 けれど腹の底では彼らは、ナウシカ(=作者)が「墓所」で旧人類の影たちに向かって叫んでいるように、浄化後によみがえってナウシカたちを滅ぼすか奴隷にするつもりだったのかもしれません。

 ナウシカたちからすれば、そんなことはごめんで、誰に作り変えられたものにしろ、自分の力と意志だけで生き抜いていきたいと望みます。ぶざまでも、間違いをくり返しても、それがワタシなのよ! ということです。佐藤史生『ワン・ゼロ』で、自意識に目ざめたコンピューターの「マニアック」が言明するとおりです;

 覚醒シタ”ワタシ”ハ /モハヤ創造主ノ /ツクッタボクデハ /ナイ(中略)
 ”ワタシ”ハ /”ワタシ”ノ目的ヲ /モチマス〔それは〕
 ワタシ自身ヲ /守ルコトデス

 果てしなく長くなってきたので、続きはまた次回。





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Last updated  September 20, 2020 12:19:14 AM
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