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HANNAのファンタジー気分

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January 13, 2025
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 ジョン・コナリー『失われたものたちの本』は私の苦手な血みどろダークだったのに、なぜか懲りずに続編『失われたものたちの国』(タイトル似すぎ!)も読んでしまいました。相変わらず物理的に痛くてグロい場面が多いのですが、読者はぐんぐん引っぱられていく感じ…書き手の力量が半端ないのでしょうね。

 今回は舞台が現代に設定され、主人公もシングルマザーのセレス(32歳)。彼女は最愛の娘を突然失う(正確には失ってはいませんが、小学生の娘は交通事故で昏睡状態に陥っています)という精神的危機にあり、母を失った前作の主人公デイヴィッドと少し共通点があります。そして彼女も異界へトリップし木こりに助けられます。

 ただその後の展開は前作よりかなり複雑になっています(以下ネタバレあり)。善玉と悪玉の単純な対決ではなく、敵が複数で利害関係がややこしく、それも「絶対悪」とは言い切れないキャラクターばかりなのです。例えば、ペール・レディ・デスというラスボスが出てきますが、自然の摂理にのっとった死神ですから、「悪」というのとはちょっと違います。
 再登場の「ねじくれ男」も、そう、前作でデイヴィッドに滅ぼされてますので、魂というか残滓だけの存在ですが、最終盤に全ての物語=人生の書物をおさめた図書館を披露するあたり、あれ、何だか前作とはちょっと違う立ち位置のようにも思えます。

 ところで、どうも私の悪癖で、すべてをトールキンの『指輪物語』と比べてしまうのですが、ねじくれ男が亡霊となってなお悪を企むところ、なんだかサウロンを思い出しました。そしてドライアド(樹木の精霊)の最後の一人カーリオは、境遇はエントを思わせますが、主人公セレスを襲い、つけ回したり、彼女と奇妙な絆でつながり、最後に自爆テロ的にねじくれ男を滅ぼす所はゴクリ(ゴラム)を思い出させるのでした。
 ちなみにカーリオも一人称の代わりに「我々はカーリオだ」と言うので、最初これもゴクリ的だなと思いました。読み進むと、意味合いがだいぶ違うのが分かります;カーリオは個人というより種族全員の記憶を意識していて、最後の一人である彼には孤独とともに、種族全体の滅亡の痛苦が重く宿っているので、複数形なのです。悪役とはいえなかなか複雑で印象的なキャラクターです。

 さらにフェイという種族が出てきます。いわゆる妖精で、可愛い系ではなく、美しいが恐ろしい、異形で異質の自然霊たち。人間と敵対していますが、彼らには彼らなりの生き方と価値観があり、何より環境破壊を行う人間が許せない。
 その人間側の悪玉は冷徹な権力主義者ボルヴェインですが、彼は贅沢をするでなく権力に酔うでもなく、誰も信じず、妻子を殺した人狼を憎むばかりで、何のために独裁者を目指しているのか?と言いたくなるような、むなしい人物に思えました。
 こうしてみると、複雑な利害・敵対・だまし合い関係はどうも現実世界の縮図のようでもあります。滅びゆく自然、むなしい権力闘争、消えゆく古い叡智。そんな混乱の中で、主人公セレスは自分の道を追求していかねばなりません。

 作者は親という立場を経験したあとこの続編を書いたそうですが、なるほどジェンダーの問題や子どもを思う親の一途な心が繰り返し出てきます。セレスの旅の目的は(現実世界に帰るというほかに)、さらわれた(他人の)赤ちゃんを奪還することなのです。
 しかし西欧でなくニッポンのおばさんである私には、作者ちょっと頑張りすぎな感じもしました。前作は素直に自分の少年時代のあれこれを描いていたのが、今回は主人公を若い現代のシングル・マザーにしたので、その主人公セレスは過敏なほど男性社会を憎み、ことあるごとに男性というものに反発し失望しながら探索行を続けるのが特徴的になっています。
 そして、なぜだか私には分かりませんでしたが、異界では彼女は思春期の肉体に戻っていて精神は大人のまま、という設定です。

  「…二倍も歳を取ってからまた十六歳になるなんて嫌でたまらないのよ。思春期なんて、一回だけでもううんざり」…[中略]男の子に――そして女の子にも――気に入られるために可愛くて、スリムでいなくてはいけないプレッシャーもそうですし、世界に自分の居場所を確保していたいだけなのに、どうしても逃れられないあのストレス…

 …まるで自分の身体組織が混乱して自分に反乱を起こし、己の肉体に言うことを聞かせることもできなくなってしまったようなあの感じ。[中略]ホラー小説に夢中になったのも不思議ではありません。残忍であればあるほどのめりこんだのです。
           ―――ジョン・コナリー『失われたものたちの国』田内志文訳

 と、すごい鬱屈を吐露するセレスですが、どれも私自身の思春期の思い出には当てはまらないのです。他人に気に入られたい、自分の居場所を確保したい、などは思春期に限らずだと思うし、身体変化に翻弄されるというなら、思春期のあとも妊娠、出産(セレスはまだですが、更年期も!)など女性は男性に比べて大きな変化を続けるのです。
 おまけにこの鬱屈は物語が進み状況がそれどころではなくなるにつれて、いつの間にか語られなくなりそれっきりな感じです。どこに落とし所があるのか、何のためにセレスは16歳に戻ったのか、それで何を得たのか、私にはよく分かりませんでした。

 ともあれ、古くからの女性の叡智や自然との共存意識が滅びていくさまを悲しみ憤りつつ、物語は緊迫して進み、セレスは生への活力と愛情を取り戻して帰還します。物語を語り、人生をつむぎ、最後に奇蹟が…訪れたようです。





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Last updated  January 13, 2025 12:41:26 AM
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